第10話「復讐の槍」後編
それから、数十分後。誠人達はソフィアの案内で、とある空き地へ足を運んでいた。
「誠人さん、ほんとにあの女のこと、信用してるんですか?」
誠人の隣を歩きながら、ミナミが少し大き目な声で問いかけた。
「ミナミ、聞こえるって・・・」
「いいんですよ、聞こえるように言ってるんですから。私はあの女を信用して、これ以上ないくらい痛い目を見てるんですから。疑り深くもなりますよ」
「言ってくれるわね、ミナミ。・・・ま、確かに信用しろってのは無理があるかも」
「ソ・・・ソフィアさん・・・」
呆れたように声を上げる誠人を無視し、ソフィアはミナミの方へ振り返って鋭い視線を向けた。
「けどね、ここで私達が動かなければ、明日には大勢の人が死ぬ。それを防ぎたいんだったら、今この時だけでいいから、過去は水に流しなさい」
ミナミの目に、一瞬躊躇いのような色が浮かぶ。だが彼女はすぐに腹を決めると、ソフィアに再び視線を向けた。
「・・・分かりました。でも、あんたのことは絶対に許しませんから」
ミナミのその言葉を聞き、険しかったソフィアの表情がわずかにほころんだ。
「それでいいの。・・・さ、行きましょ」
それから再び、一同は空地を歩き始めた。そして背の高い草が生い茂る草叢に辿り着いた時、ソフィアはその足を止めた。
「ソフィアさん?どうしたんですか?」
ソフィアのすぐ後ろを歩いていたカグラが、不審に思って問いかける。ソフィアはそれに答えることなく、手にしたリモコンのような物のボタンを押した。
「・・・うわっ!な、何!?」
それから程なく、モーターが回るような爆音が鳴り響き、地面が激しく揺れ始めた。あまりに突然の事態に驚き、ミュウが叫び声と共に隣にいたキリアに思わず抱きつく。
そして草叢の地面の中から、一機の宇宙船がその姿を現した。その機体を見た瞬間、レイが思い出したように声を上げる。
「プロトタイプのGPウィング・・・2年前、行方不明になったはずの・・・」
「退職金代わりにもらったのよ。骨董品だけど、奴らの本拠に乗り込むには十分なはず。さあ、乗って」
ソフィアに促され、一同は宇宙船に乗り込んだ。ソフィアは操縦席に座ると、GPブレスに送られてきたデータを宇宙船のコンピューターに転送する。
「ギャラクシーコンツェルンの役員の一人が、通信を解析してゼロワールドの居場所を突き止めてくれた。彼のおかげで商品はまだ発送されてないけど、それももう長くはもたない。奴らが戦力を整える前に、こちらから攻め込んで殲滅する・・・いいわね?」
ソフィアの問いかけに、一同は緊張の面持ちと共にうなずいた。それを見て小さく笑うと、ソフィアは操縦桿を握り締めた。
「じゃあ、出発よ!・・・言っとくけど、ここで吐いたら許さないから!」
そう言うが早いか、ソフィアは操縦桿を一気に引いた。すると宇宙船が上昇を始め、十分な高度になったと見るや、ソフィアはディスプレイに表示されている座標を目指して船を全速力で飛ばし始める。
「うっ・・・はや、い・・・!」
その速さに思わずうめき声を上げると、誠人は近くにあった手すりに必死に掴まった。そんな彼の様子を見かね、隣に座るミナミがソフィアに叫びかける。
「ソフィア、もうちょっとスピード落としなさい!誠人さんは、こういうの初めてなんですから!」
「もうちょっとだけ我慢して!あと・・・少しで着くから!」
その言葉通り、程なくGPウィングの目の前に、一機の宇宙船が姿を現した。その船体には、ゼロワールドのマークが彫り込まれている。
「奴ら、こんなところにいたんだ・・・!」
カグラが驚きの声を上げたのと、ほぼ同時刻のこと。ゼロワールドの一員が、こちらに迫りくるGPウィングを発見した。
「クリム、こちらに何者かが近づいている!」
その報告を受け、クリムが窓から外に目を向ける。GPウィングの姿を見た瞬間、クリムはそこに乗っている者達の正体を悟った。
「ほう、向こうから攻めてきたか。なら、歓迎せねばな」
冷酷な笑みを浮かべると、クリムは部下達に指令を下した。
「攻撃開始!」
その声を合図に、宇宙船が光線やミサイルなどでGPウィングに攻撃を仕掛けてきた。その攻撃をかわしながら、ソフィアはGPウィングを加速させる。
「一気に突っ込むわよ!掴まってな・・・さい!」
ソフィアの言葉に、誠人やミナミ達は手すりにつかまって衝撃に備える。ソフィアは一気に宇宙船に接近すると、GPウィングに備え付けられた光線砲を発射して船の装甲を破壊し、開いた大穴から一気に船内に突入した。
「ふう・・・二年ぶりの操縦だったけど、腕は鈍っていないものね」
自らの操縦を自画自賛しながら、ソフィアはGPウィングを着地させた。そして誠人達と船から下りると、GPブレスに船内の地図を表示させる。
「さて・・・ボスの居場所はどこかしら?」
だがその言葉が終わるより早く、異変を察知したゼロワールドの兵士達が駆けつけ、光線銃で誠人達に攻撃を仕掛けてきた。急いで物陰に身を隠すと、刑事達もGPブレスの光線で応戦する。
「えっと・・・ミュウ、だったかしら?確かあなたのプラモデロイド、隠密行動が可能だったわね!?」
GPブレスの光線で敵を倒しながら、ソフィアがミュウに叫びかけた。
「え?・・・あ、はい、できますけど!?」
「なら、すぐに起動させて!ボスの居場所を突き止めるのよ!」
「わ・・・分かりました!」
『Start Up、Green Beetle』
ミュウが召還したグリーンビートルが、姿を保護色で隠して船内を飛び回る。そしてクリムの居場所を特定すると、グリーンビートルはその情報を刑事達のGPブレスに送信した。
「よし・・・お嬢さん達、ここは任せたわよ!坊や、私と一緒に来て!」
「え?・・・うわあああああああっ!」
ソフィアが誠人に向けて左腕を伸ばすと、誠人の体がソフィアの方へ引き寄せられていく。ソフィアは片腕で誠人を抱きながら走り出し、GPブレスの光線で敵を牽制しながらクリムの居場所へ向かう。
「あ、待ちなさいソフィア!くっ・・・あの女、今度は誠人さんを巻き込んで・・・!」
怒りの声を上げるミナミであったが、敵のあまりに激しい攻撃にその場を動くことができなかった。彼女が切歯扼腕する彼女の前には、さらに多くの敵がその姿を現していた。
一方。ソフィアは誠人と共に立ちはだかる敵を倒していき、とうとうクリムのもとへと辿り着いた。
「クリム!」
クリムの護衛として彼の両脇に控える二人の兵士を、誠人とソフィアはGPブレスからの光線で撃ち倒した。目の前で部下の命が奪われても、クリムは眉一つ上げずに言った。
「ほう、来たか・・・他の仲間はどうした?」
誠人しか連れていないソフィアの姿に、クリムが疑問を投げかけた。
「あの子達は・・・この場にいない方がいいわ。特に・・・ミナミはね」
「ソフィアさん・・・?」
ソフィアの低く、どこか震えているような声に、誠人は思わず声を上げた。
「・・・あなたの顔を見てると、殺意が抑えきれないのよ。昼間はミナミがいたから我慢したけど、もうその我慢も限界。・・・クリム・レギオン、私の可愛い教え子達を殺した罪、その命で償ってもらうわよ!」
そう叫ぶや否や、ソフィアはGPブレスから光線を発射してクリムを狙った。だがクリムはそれをかわすと、右手を上げて重力を操ってソフィアの体の自由を奪い、その体を重力で圧迫する。
「うっ・・・あっ・・・!」
「ふふふ。怒ると冷静な判断ができなくなるのは、二年前と変わらんな」
「ソフィアさん!くっ・・・彼女を放せ!」
誠人がGPブレスから光線を放つが、クリムが身に纏う鎧には通用しなかった。クリムが左腕を誠人に向けて突き出すと、波動のような攻撃が誠人を襲う。
「くっ・・・なら!」
『Start UP、Land Tiger』
波動をかわした誠人は物陰に隠れ、ランドタイガーを召還した。ランドタイガーはクリムの腕に攻撃をお見舞いし、その弾みでソフィアの重力の拘束が解かれる。
「はあっ、はあっ・・・!」
「ソフィアさん!」
ようやく解放されたソフィアが、くずおれて荒い息をつく。彼女のもとに誠人が駆け寄ったのと、クリムがランドタイガーを払いのけたのが、ほぼ同時のことであった。
「クリム・・・あんただけは、絶対に許さない!・・・ジョージが必死に救おうとした四人の命を・・・あんたは無残にも奪い去った!」
「え?・・・ちょっと待ってください。ミナミのチームメイト達が殺されたのは、ソフィアさんが攻撃を仕掛けたからじゃ・・・」
「ええ、そういうことにしたのよ。・・・そうするか、ないと思ったから・・・」
「・・・どういう意味です?」
言葉の意図を掴みかね、誠人がソフィアに問いかける。すると返ってきたのは、全く予想外の言葉であった。
「あの日・・・私はミナミを捜していたゼロワールドの一員を捕まえて、捕らえられた教え子達の居場所を吐かせようとした。あわよくばそいつを交渉の道具にして、四人を助けだせるかも、って思ったのよ。・・・だけど、その考え自体が甘すぎた。そいつは私に笑いながら言ったわ・・・『その四人なら、もうとっくにボスが殺した』って。『今も交渉を続けているのは、その四人が生きていることにして、なるべく高い身代金をせしめるためだ』って・・・・・・私は真実を確かめるために、そいつが吐いたゼロワールドの隠れ家に向かった。そこで見たのは・・・・・・私の可愛い教え子達の、変わり果てた姿だったのよ!」
血を吐くように叫ぶと、ソフィアは怒りに満ちたまなざしでクリムを睨み据えた。一方のクリムはその目を見て、意地汚い笑みを浮かべている。
「じゃあ・・・ソフィアさんが、ゼロワールドを攻撃したのは・・・」
「教え子達の無念を晴らすため・・・でも、あの時の私は怒りに我を忘れ、冷静な戦いができなかった結果、クリムを取り逃がしてしまった。・・・だけど、これを銀河警察の失敗にするわけにはいかないと思ったの。これ以上銀河警察の威信が揺らげば、これを好機とばかりに各地の犯罪者が動き出す。だから私は・・・ジョージに嘘の報告をした。『交渉なんか期待できないから、一人で攻撃を仕掛けた』って。そうすれば、全部私一人の責任になる。『銀河警察の方針に背いた刑事が、独断で暴走した』・・・これなら、銀河警察が受けるダメージは最小限に抑えられる。そう思ったのよ」
そこで一旦言葉を切ると、ソフィアは自嘲するようにふっと笑った。
「まあ、ミナミには恨まれることになったけど、それでもよかったと私は思ってる。誰かを恨むことで、あの子の気持ちが少しでも軽くなるのなら、いくらでも恨まれてやるわよ、私は」
「そんな・・・それじゃ、ミナミはいつまでもあなたのことを・・・」
「いいのよ別に。許されたいなんて考えちゃいない。・・・いいえ、許されるなんてあってはならないのよ」
ソフィアは立ち上がると、クリムを睨み据えて続けた。
「私の甘い判断のために、あの子達の命は奪われた。私にできるのは・・・この男を倒して、せめてもの供養とすることだけ!」
「それはこちらも同じことだ。お前とミナミ・ガイア、そしてその仲間達の命をもって、我が同胞達への供養とさせてもらう」
そう言うが早いか、クリムは両手を突き出して二人に波動を浴びせかけた。その攻撃をかわすと、誠人はイリスバックルを装着する。
「ソフィアさん・・・一人で全部背負おうなんて、思わないでください。・・・僕も、一緒に戦います!」
誠人が手にしたのは、ソフィアが生み出したムーンライトのカードであった。それを見て小さく笑うと、ソフィアは誠人に言葉を返す。
「物好きな子ね。・・・いいわ、一緒に戦いましょう」
誠人は力強くうなずくと、バックルのボタンを押して待機モードにした。それを見たクリムが再び波動による攻撃を仕掛けるが、誠人はそれを紙一重でかわしてバックルにカードをかざす。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.神秘なる月光!ムーンライトアーマー!』
ソフィアの体が黄色い鎧と化し、誠人の身を包むイリススーツに装着されてゆく。合体は物の数秒で完了し、複眼が一瞬紫色に輝いた。
『行くわよ、坊や』
「はい・・・!」
イリスはランスモードのプラモデラッシャーを握り締めると、猛然とクリムに挑みかかる。クリムは重力を操ってイリスの動きを封じようとしたが、イリスが左手を突き出すとその重力操作は無力化され、逆にクリムがオレンジ色に光る重力に囚われて宙に浮かび上がる。
「な・・・何だ、これは・・・」
『ふふっ。秘技・鏡返し。私達への攻撃は、そっくりそのままあんたに返ってくる』
イリスが左手を上げると、クリムの体は勢いよく上昇してゆき、屋根に激突した。さらにイリスが手を下に降ろすと、今度はクリムの体が急降下して床に叩きつけられた。
「おのれ・・・うおおおおおおおおおおおっ!」
能力を封じられたクリムは腰に提げていた剣を抜き、雄たけびと共にイリスに挑みかかった。それを見たイリスが左手で槍をそっと撫でると、一瞬黄色く輝いた槍が鞭のようにしなやかになり、イリスが振り払うと同時に本来のリーチを上回る長さに伸びてクリムに襲い掛かった。
「うわあっ!ぐあああっ!!」
イリスは金属の鞭と化したプラモデラッシャーを連続で振るい、クリムを打ち据え吹き飛ばした。そして相手との距離が開くと、イリスは槍を元の形状に戻す。
『決めるわよ、坊や』
「はい!」
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
イリスはベルトのホルダーからフィニッシュカードを取り出し、プラモデラッシャーの認証部分にスキャンさせた。月の力を凝縮した黄色いオーラに包まれるプラモデラッシャーを振り回すと、イリスは大きくジャンプしてクリムに飛び掛かり、トリガーを押して槍を突き出した。
『ムーンライトスタッブ!』
『はああああああああああああああっ!!』
ソフィアの叫びと共に繰り出された槍が、クリムの胸を深々と貫いた。イリスは手に力を込め、槍に宿っていた黄色いオーラを一気に穂先に収束させる。
『あの子達の仇、討たせてもらうわ!』
ソフィアがそう宣言すると同時に、穂先に集中していたオーラが一気にクリムの体に流れ込んだ。イリスが槍を引き抜くとクリムは断末魔の声を上げ、倒れこんだその体が大爆発を起こして消滅する。
「あ、あそこ!」
その時、キリアの叫び声と共に、ようやく敵を殲滅したミナミ達が現場に駆け付けた。イリスの姿を見て全てを悟ったミナミの前で、イリスは合体を解除して誠人とソフィアの姿に戻るのだった。
☆☆☆
数時間後。登り始めた朝陽が地上を照らし出す頃に、誠人達は虹崎家に帰還した。
「これで・・・許したなんて思わないでくださいね。あんたの罪は、一生消えることはないんですから」
自分を睨みながらそう口にしたミナミに、ソフィアは小さく笑いながら答えた。
「はいはい、恨みたければどうぞご自由に」
「ソフィアさん・・・」
何か言いかけた誠人の目を、ソフィアは一瞬直視して黙らせた。誠人の脳裏に、先ほどソフィアからかけられた言葉が蘇る。
『いい?坊や。さっき話したことは、絶対にミナミには言わないで』
それは、一同が地球に戻るためにGPウィングに乗り込もうとした、まさにその時のこと。ミナミが船に乗ったのを確認したソフィアが、彼女の後に続こうとする誠人を引き留め、そう言葉をかけたのだった。
『・・・いいんですか?本当にそれで』
『ええ。これは、私が選んだ道。どんなにあの子から恨まれようと・・・私は、自分の選択を後悔したくないの』
そのやり取りが脳裏をよぎり、誠人は口に出しかけた言葉を飲み込んだ。今ここで真実を口にしたら、ソフィアが歩んできたこれまでの二年間が、全て台無しになってしまうだろう。
「じゃあ、またね皆。何かあったら、いつでも連絡してちょうだい」
そう言い残すと、ソフィアはいずこともなく去っていった。その後ろ姿を睨みつけるミナミを見て、誠人は複雑な気持ちになるのだった。
(約束だから、言うわけにはいかない・・・・・・でも、本当にこれでいいのかな・・・・・・?)
それから、数時間後。先日ミナミが花を供えた廃墟の入り口に、ソフィアが姿を見せていた。
「マリー、ナタル、シレーヌ、リタ・・・皆の仇、確かに討ったわ・・・・・・」
ソフィアはミナミが供えた花の隣に、新しく持ってきた花束を供えた。ドッグタグを片手に祈りを捧げる彼女の目から、一筋の涙が伝い落ちる。
「ごめんなさいね、皆・・・・・・私が・・・私が不甲斐ないばかりに・・・・・・」
溢れる涙を抑えきれず、ソフィアはその場にうずくまった。彼女は手の中のドッグタグを、素肌に食い込むほど強く握りしめる。
――やがて気が済むまで泣くと、彼女は涙を拭って立ち上がった。そしてドッグタグをズボンのポケットにしまい、廃墟を後にする。
「・・・!あなたは・・・!」
と、その時であった。偶然近くを歩いていた一人の女性が、ソフィアを見て声を上げた。
「・・・?どうか、したの?」
「間違いない・・・あなた、20年前私を助けてくれた、あの刑事さんでしょ!?」
ソフィアを見て驚きながらも、そう口にした女性。彼女は誠人の母親である、虹崎茜であった。
第10話、いかがだったでしょうか。もしよろしければ、評価や感想をよろしくお願いいたします。




