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チーム・イリスの事件譚  作者: 髙橋貴一
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第10話「復讐の槍」前編

 学校での戦いから数時間後。意識を失っていた誠人の目が開き、見知らぬ天井がその視界に飛び込んできた。

「んっ・・・ここ、は・・・?」

 程なくして、誠人は自分がベッドの上に寝かされていることに気づいた。カーテンで仕切られたその部屋の様子からして、ここはどうやら病院のようだ。

「・・・そうですか。じゃあ、よろしくお願いします」

 するとすぐ近くから、聞き覚えのある声が聞こえた。程なくカーテンが開き、見知った顔が自分を見て驚きの表情を浮かべる。

「少年・・・!目が覚めたんだね!?良かった・・・」

「カグラさん・・・・・・ここ、病院ですよね?」

「ああ。特に怪我はないみたいだけど、念のため一日入院した方がいいってさ」

「そうですか・・・分かりました」

 カグラの言葉を受け、誠人は起こしかけていた体を再びベッドに沈めた。それを見て安堵のため息をつくと、カグラは近くにあったパイプ椅子に腰かけた。

「それにしても、大したことなくてよかったよ。・・・ミナミから聞いたよ。あのソフィアって女に、無理やり合体させられたんだろ?」

『ミナミ』。その名を聞いた瞬間、誠人は思い出したように声を上げた。

「そうだ、ミナミ・・・ミナミは、今どこに!?」

「・・・ミナミなら、今家だよ。あいつ、色々とショック受けてるみたいで・・・って、少年!?」

 カグラの言葉を最後まで聞くことなく、誠人はベッドから降りて病室の外に向かい始めた。

「駄目だよ!今日一日は入院って、さっきそう言っただろ!?」

「僕なら大丈夫です。それよりも、ミナミを放っておけません!」

「あいつにならレイがついてる。なんも心配いらないよ!」

「それでも!・・・僕はあいつに、どうしても謝らなきゃいけないことがあるんです!」

 そんなやり取りをしているうちに、いつしか二人は病院の入り口付近にまで来てしまっていた。するとそこに、大きなカバンを持った茜が姿を見せた。

「あら・・・誠人君!今日一日入院するって聞いたから、荷物持ってきたんだけど・・・」

「僕ならもう大丈夫。それより母さん、すぐ(うち)に行きたいんだけど」

 誠人の頼みを聞き入れると、茜はすぐにタクシーを手配し、彼と共に虹崎家に戻った。帰ってきた誠人の姿を見るなり、家にいたレイとキリアは目を丸くした。

「β・・・!」

「お兄ちゃん!大丈夫なの!?」

「うん、なんとか。それより、ミナミは?」

「・・・部屋で休んでる。今は、会わない方がいいかも・・・」

 レイが沈んだ表情で誠人に答えたが、彼はその言葉が終わらないうちにミナミの部屋に向かって歩き出した。

「β、待って!・・・今、あの子は自分を責めてる。ソフィアを止められなかったことを・・・そのせいで、あなたが病院送りになったことを・・・」

「だったら、なおさら彼女に会わないと。・・・それに、謝らなきゃいけないこともあるんです」

「β・・・!」

 なおも誠人を止めようとしたレイだったが、彼について虹崎家に来ていたカグラが、その腕を掴んで引き留めた。カグラが首を静かに横に振ると、レイはその意図を悟ってそれ以上誠人を止めようとはしなかった。

「ミナミ・・・入るぞ」

 ノックに返事はなかったが、誠人はミナミの部屋に入った。そこでは怪我をした右手に包帯を巻いたミナミが、体育座りをしながらうなだれていた。

「誠人さん・・・どうして?病院にいるはずじゃ・・・」

「僕なら大丈夫だ。それより・・・さっきは、本当にごめん」

 自分の姿を見て驚くミナミに、誠人は心からの謝罪の言葉を口にした。

「君に嘘をついた・・・・・・本当は、レイさんから全部聞いてたんだ。君の過去・・・二年前に起きた、君達とゼロワールドのことを・・・」

「そうでしたか・・・・・・だから、あの時ソフィアのことを知ってるような口ぶりを・・・」

 哀しそうな表情を浮かべたミナミの姿に、誠人はもういたたまれなくなった。彼はミナミの前で土下座すると、その目に涙を浮かべながら言った。

「もう何を言っても言い訳になっちゃうけど・・・君を傷つけるつもりはなかった。ただ・・・一つだけ知りたかった。君が・・・僕のことを好きと言ってくれていたのは、本当に本心からだったのか・・・・・・もしかしたら、君が過去に負った心の傷から逃れるために、無理にそう振舞ってるんじゃないかって・・・・・・そう考えたら、もう・・・自分を抑えられなくて・・・!」

 ミナミを傷つけてしまった自分の愚かさを恥じ、誠人は泣きながら言葉を絞り出した。するとミナミが静かに笑みを浮かべ、誠人の肩をそっと抱いた。

「分かりました。許します、誠人さんを」

「ミナミ・・・」

 涙に濡れた顔を上げた誠人に、ミナミは優しく笑いかけながら言った。

「でも、一つだけ約束してください。もう・・・私の気持ちを疑わない、って。・・・さっきも言いましたけど、私は・・・心から、あなたのことが好きなんです。それだけは、絶対に疑わないでくださいね」

 恥ずかしさに頬を赤らめながら、ミナミが誠人に念を押した。それを見た誠人は涙を拭い、ミナミに微笑みかけながら答えた。

「ああ・・・約束する」

「じゃあ、指切りしてください。この星にも、指切りの風習はあるでしょう?」

「ええっ?・・・分かった。指切りな」

 誠人は気恥ずかしさに頬を赤らめたが、素直にミナミに小指を差し出した。ミナミも少し気恥ずかしそうにしながらも、自らの小指を誠人の指に絡める。

「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます。指切った」」

 約束を交わして指を放すと、二人は互いに小さく笑った。

「これで・・・満足か?」

「はい・・・本当に、約束は守ってくださいね」

「ああ。約束は守る。絶対に」

 そんな二人のやり取りを、ドアの隙間からレイとカグラが見つめていた。一時は不安そうに様子を見守っていたレイだったが、笑みを向け合う誠人とミナミの姿を見てカグラが肩をポンと叩くと、それに応えるようにうなずきかけてその場を去るのだった。


☆☆☆


「おのれ・・・ミナミ・ガイア、そしてソフィア・ルン・ブラーン・・・・・・」

 一方。東京上空にステルス状態で停止しているゼロワールドの宇宙船の中で、首領であるクリムが怪我を負った右手を押さえながら忌々しそうに声を上げた。

「あの二人のために、我が同胞の半数の命が奪われた。もはや・・・奪われた仲間と同じ数では満足できん。それ以上の命を、奴らの目の前で奪ってやらねば・・・」

 そう口にした時、クリムの頭の中である恐ろしい企みが芽生え始めた。彼は小さく笑みを浮かべると、自ら通信機械を操作してある企業に連絡を取った。

「ギャラクシーコンツェルンのエージェント君か。大至急、これから言う品を届けてほしい。・・・ああ、大至急だ。銀河警察に、また一泡吹かせてやりたくなってね・・・」


☆☆☆


「じゃあ、レイ達は確かに、屋潟先生の死体を確認したわけですね?」

 その夜。虹崎家ではレイ達が、誠人とミナミに昼間の出来事を報告していた。

「はい。遺体の指紋やDNAを解析した結果、あの死体は、確かにミナミ先輩達の通う学校の教師だって・・・」

「しっかし、ひどいことする連中だよ。あのダンスグループといい、路地裏で遺体となって見つかった近隣住民達といい、どうして銀河警察とは縁もゆかりもない人達を・・・」

「奴らのやり方を考えれば、恐らく最初の事件は私達四人・・・私とカグラ、そしてミュウとキリアを誘き出すための、罠と見ていいと思う」

 憤るカグラとは対照的に、レイが冷静な口調で言った。キリアが問いかける。

「どういうこと、レイ?」

「あの事件現場に刻まれた、ゼロワールドのシンボルマーク。あれを見れば、二年前の一件を知ってる私は必ずゼロワールドの仕業と気づく。そしてミナミに内緒で奴らの尻尾を掴もうと、仲間と共に動き出す・・・きっと、奴らはそこまで読んでいたのよ」

「じゃあ、あの時ゴールデンホーク君に痕跡を辿らせ、ボク達をあの路地裏におびき寄せたのも・・・」

「奴らの計画通りだった、ってこと。あの狭い空間は、姿を消して空から攻撃するには格好の場所。その時戦闘の邪魔にならないように、近隣住民を殺したんだと思う」

「その近隣住民の中に、屋潟先生も・・・?」

「うん・・・調べてみたらその女の人の住所、あの路地裏のすぐ近くだったの。・・・きっと、学校に向かってる最中に、殺されちゃったんだね・・・」

 誠人に答えたキリアの声は、重く沈んだものだった。誠人も一瞬表情を歪めたものの、すぐに頭を切り替えて口を開く。

「あの時のレミィって女の物言いからして、ゼロワールドは、レイさん達をミナミの目の前で殺すつもりだったんだと思います。本来ならその路地裏で、みんなを捕まえるつもりだったんでしょう」

「でも、ソフィアが乱入したことで、それは失敗した・・・・・・けど、連中がそれで大人しくなるとは思えません。きっとまた、すぐに行動を起こしてきますよ」

 ミナミの言葉に、一同は表情を硬くした。彼女に言われるまでもなく、ゼロワールドが再び報復してくるであろうことは、ほぼ全員が理解している。

「さっき、ガイルトン支部長に昼間の件を伝えました。ゼロワールドは危険なテロ組織、一刻も早く壊滅させるようにって、そう言ってました」

「ありがとう、ミュウ。しかし、あたし達だけでどうにかなるもんかな・・・」

「やれるだけのことをやるしかない。ただ、少なくとも茜さんには、しばらくこの家に留まっていてもらわないと。奴ら、きっと茜さんも狙ってくるわ」

「それに関しては、先ほど僕からも母さんに伝えました。ゼロワールドの一件が片付くまでは、外出はしないそうです」

「ただ、念のため誰かが茜さんを守った方がいいだろうね。キリア、茜さんの護衛を任せていいかい?」

「もちろん!お母さんはキリアが守るから、安心してね、お兄ちゃん!」

「ありがと。・・・そうだ、明日学校に行った時、連中が逃げた場所でゴールデンホークを使おうと思うんです」

「いい考えね、β。もしかしたら、奴らの足取りが辿れるかもしれない」

 一同の話し合いは、深夜まで続いた。そんな彼らの様子を、家の外からソフィアがじっと見つめていた。




 数時間後。話し合いを終えて眠りについていた誠人のもとに、思わぬ珍客がやってきた。

「んっ・・・何だ・・・?」

 熟睡していた誠人の顔に、赤い光が照射される。その眩しさに目を覚ました誠人は、窓の近くにある物を見つけた。

「あれは・・・あの時のプラモデロイド!」

 彼が窓の近くで目にしたのは、ソフィアのプラモデロイドである黄色い蛇・ルナスネークであった。ルナスネークは誠人が起きたと見るや、彼を誘うように窓から外に出る。

 誠人は手早く着替えを済ませると、ルナスネークの後を追った。そして家の庭に辿り着いた時、ルナスネークを回収するソフィアの姿が目に入った。

「ソ・・・ソフィアさん・・・!」

「どうも。さっきは体を使わせてくれてありがとう、坊や」

「ぼ・・・坊やって・・・」

 初めて呼ばれる二人称に、誠人が思わず困惑する。そんな彼の姿を見て小さく笑うと、ソフィアはミナミの部屋の窓に視線を向けた。

「ミナミの奴、随分私を目の敵にしてくれちゃって。あれじゃあいつまで経ったところで、一人前の刑事になんかなれやしないわね」

「他人事みたいに言ってますけど、その原因はあなたなんじゃないですか?」

 誠人が厳しい視線をソフィアに向けながら、強い口調で問い詰めた。

「レイさんから聞きました。あなたがゼロワールドに攻撃を仕掛けてなければ、ミナミの同期達は・・・」

「甘いわね、あなた達」

 それまでの軽い口調から一転して、ソフィアが鋭く低い声で誠人の言葉を遮った。

「そんなんだから、奴らに対して後れを取るのよ。あなたも、ミナミも、レイも、奴らの恐ろしさを全然分かってない。・・・やっぱり、忠告に来て正解だった」

「・・・どういう意味です?」

 相手の発言の意図を掴みかねて尋ねた誠人だったが、返ってきたのは予想の斜め上を行く答えだった。

「あれだけの仲間がやられて、連中がミナミや私の仲間を殺すだけで済ませると思う?・・・さっき、懇意にしてるある軍事企業の役員から、私に連絡が入った。奴らがその会社の戦闘用ドロイドを100機ほどと、爆撃用のドローンを数十機発注した、って」

「それって・・・もしかして・・・」

「ええ。奴らは私達がいるこの街を攻撃して、人々が死ぬところを見せつけたいのよ。『お前達のせいで何の罪もない人々が死ぬことになった』、とでも言うつもりかしら」

「そんな・・・そんなこと、絶対に許せない!」

「だったら、こんなところで寝てる場合じゃないでしょ?やるべきことはただ一つ。奴らのもとに商品が届く前に、こっちから戦いを挑むのよ」

 そう口にしたソフィアの瞳が、先ほどよりも活き活きと輝いているように誠人には見えた。否が応でも見せつけられた彼女の好戦的な一面に、誠人は思わず眉をひそめる。

「でも・・・今勝負を挑んで、勝てるんですか?」

「・・・私は二年前、銀河警察の上層部の交渉に期待して、その結果高い代償を払うことになった。もう二度と、あんな過ちは犯さない。勝ちの目が少しでも見えたなら、すぐにでも動くべきなのよ」

 ズボンのポケットから宇宙文字が刻まれたドッグタグを取り出すと、ソフィアはそれを強く握りしめて言った。

「代償・・・過ち・・・?それ、どういう意味で・・・」

「さ、無駄話はおしまい。坊や、今すぐ刑事達を叩き起こして。今度こそ、連中の息の根を止めるわよ」

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