第9話「因縁の相手」後編
その頃。何も知らぬ誠人とミナミは、いつも通り学校に通っていた。
「それでですね、プールで私の水着姿を見た誠人さんったら、もうすっかり顔赤くしちゃって!」
「きゃあ、何それ!?やっぱ誠ちゃん、健全な男の子~♪」
ミナミはいつも通りの明るい表情で、先日の温泉旅館でのことを柚音達に話していた。普段なら話に割って入って止めるところなのだが、今日の誠人はそういう気分にはなれなかった。
(ミナミ・・・・・・その笑顔の裏で、君はどれだけ心を擦り減らしているんだ?・・・今でも君の中では、二年前の傷が疼いているのか・・・?)
昨晩レイの話を聞いてから、誠人の頭の中には同じような疑問がぐるぐると回り続けていた。今まで見せていた――今も見せている――その笑顔は、果たして本物なのだろうか。傷つき、ひび割れた心に無理やり蓋をして、偽りの笑顔を絞り出しているのではないか。・・・もしかしたら、自分のことを好きだと言っていたのも、本当は心の傷から逃れるための方便だったのではないか。
「な・・・なあ、ミナミ」
とうとう誠人は我慢できず、ミナミに問いかけようとした。・・・もしかしたら、レイとの約束を破ることになってしまうかもしれない。ミナミの心に触れるということは、必然的に過去の古傷を抉ることになってしまうからだ。
「ん?何ですか、誠人さん?」
それでも、訊かずにはいられない。それが自分勝手な欲望だということは分かっていても、誠人にはもう、自分を押さえられる自信はなかった。
「君は・・・・・・その・・・」
「はーい、皆授業の時間よ。席について―」
勇気を振り絞って発せられた誠人の声は、教室に入ってきた担任の神奈子の声にかき消された。慌てて席に戻る生徒達と同じく、誠人とミナミも自分の席に戻る。
(やっぱり・・・訊いちゃまずいよな。うん、これは訊いちゃだめだ・・・)
むしろほっとするような安堵感を覚え、誠人は小さくため息をついた。だが安堵するあまり、彼は気づいていなかった。そんな自分の様子から、ミナミが何かを感じ取ったことに。そしてミナミの表情が、わずかだが不安げに歪んだことに。
「・・・よし。今のところ、βとミナミに異常はなし・・・」
一方。その誠人とミナミの様子を、レイは学園に送ったアクアドルフィンからの視点で見守っていた。神奈子の授業を受ける二人を見て安堵すると、彼女はGPブレスに浮かび上がる映像を消す。
「じゃあつまり、そのゼロワールドって連中は、ミナミにとって因縁の相手ってわけね」
レイからゼロワールドについて聞いたカグラが、確かめるようにレイに声をかけた。彼女達は今、昨晩の不審死事件の現場に向かって歩みを進めている。
「そういうこと。・・・これは、奴らの特徴の一つなんだけど、自分達の名誉を傷つけた者は、絶対にただでは済まさない。どれだけ時間がかかっても、必ず見つけ出して報復する。だから、奴らの次の狙いは、確実にミナミなの」
「うーん・・・それ、ちょっと違うんじゃない?」
レイの考えに待ったをかけるように、キリアが口を開いた。
「違うって、何が?」
「だって、ゼロワールドに攻撃を仕掛けたのはソフィアって人なんでしょ?だったら、報復するならミナミじゃなくて、そのソフィアって人にするんじゃない?」
「考えが甘いわ、キリア。連中は最初、ミナミを含めた研修生全員を、人質にするつもりだったの。でも、ミナミは運よくそれから逃れた。逃がした魚を放っておくほど、連中は甘い組織じゃない」
「そんなに執念深いんですか?そのゼロワールドって」
「ええ。いずれにせよ、ミナミの身に危険が迫っている。その火の粉を払いのけられるのは、仲間である私達だけ」
そんな会話を交わしているうちに、一同は事件現場に辿り着いた。現場は未だ非常線が張られており、マスコミを含めた野次馬の姿もいくつか見える。
「さて、こっからはキリアの出番だね」
「うん。ゴールデンホークが、犯人の痕跡を見つけてくれればいいんだけど・・・」
『Start Up、Golden Hawk』
カグラの言葉にうなずくと、キリアはGPブレスでゴールデンホークを召還した。ゴールデンホークは現場に残された足跡を解析し、そのうちの一つに狙いを絞って後を追い始める。
「見つけてくれたみたいですね、ゴールデンホーク君」
「うん。じゃあ、後を追ってみましょう」
レイの言葉に従い、一同はゴールデンホークの後を追って歩き始めた。程なくして一行は、人気のない路地裏に辿り着く。
「なんか不気味・・・まだ昼前なのに、こんなに人気がない場所あるの・・・?」
あまりの静けさに、キリアが不安そうに周囲を見渡した。そんな彼女を励ますように、ミュウがその肩を抱く。
「大丈夫だよ、キリアちゃん。もしもの時は、皆がついてるから」
「う、うん・・・」
ゴールデンホークの後を追い、一行はさらに歩き続ける。やがて袋小路に差し掛かった時、ゴールデンホークは追跡を止めた。
「え、ここで終わり?嘘でしょ?だってここ行き止まり・・・」
「上よ!」
その時、キリアの言葉を遮るように、どこからか女の声が響いた。一同が上に視線を向けた次の瞬間、数発の光線が一同に向けて放たれた。
「くっ・・・散開!」
カグラの指示で、刑事達がぱっと近くの物陰に身を潜める。そして周囲に視線を向けると、何もない空間から次々と光線が飛んでくる。
「まさか、ステルス機能・・・?くっ・・・GPブレスに、映らない・・・!」
レイはGPブレスの暗視機能で周囲を見渡したが、対策を施されているのか周囲には自分達以外の存在は検知されなかった。そうこうしている間にも、敵の攻撃は雨あられと降り注いでくる。
「このままじゃジリ貧・・・だったら!」
執拗な攻撃に耐えかねたキリアが、せめて一矢報いようと光線の飛んでくる方へ高速移動で向かおうとする。だがその時、何もないはずの空間でキリアの頭が何かにぶつかり、その場に尻餅をついた。
「痛っ!」
「キリアちゃん!」
それを見たミュウが、光線の飛んでくる方へGPブレスの光線を放ちながら、キリアのもとに駆け寄って近くの物陰に共に飛び込んだ。
「どうしたの?急に尻餅ついて・・・」
「分かんない・・・でも、あそこで何かにぶつかったの!」
キリアが倒れこんだ場所に目を向けたミュウだったが、やはりそこには何もなかった。彼女が困惑の表情を浮かべたまさにその時、その足元に黄色い蛇のようなロボットが現れた。
「あれ?・・・これ、プラモデロイド?」
ミュウが声を上げた瞬間、その蛇の目が赤く輝き、周囲を照らし出した。すると先ほどキリアが倒れこんだ場所やレイ達の近くにある壁に、複数の人間の死体が埋め込まれているのが明らかとなった。
「うっ・・・キリアがぶつかったのって、まさか・・・死体!?」
「そうみたいね。それに、あれ・・・!」
思わず声を上げたカグラに、レイは上空を指さしながら言葉をかける。そこには蛇の目から放たれる光に照らされ、ジェットパックを背中に装備した複数の戦士の姿があった。
「あいつら・・・間違いなくゼロワールドの一味よ!」
こちらに光線銃を構える敵の戦闘スーツには、いずれも左肩の辺りにゼロワールドの紋章がつけられていた。それを確認したレイに、カグラが苦い表情で問いかける。
「なるほど・・・訊くまでもないと思うけど、あいつらの手配レベルって・・・」
「レッドよ!全員、応戦開始!」
レイの指示が飛ぶや否や、四人のGPブレスから一斉に光線が放たれた。奇襲が失敗したと見た敵はその攻撃をかわしながら、空を飛んで撤退した。
「逃げた・・・でも、あいつらまたきっと襲ってくるよ」
「そうだね、キリアちゃん。・・・それにしても、これ・・・いくらなんでもひどすぎるよ・・・!」
壁に埋め込まれた複数の死体を見て、ミュウが思わず言葉を詰まらせた。キリアが慰めるようにその肩を抱いた、その時であった。
「これが奴らのやり方なのよ。あなた達、生きのびることができただけ幸運に思いなさい」
黄色い蛇のロボットの口から、女の声が一同に向けて投げかけられた。その声は、先ほど敵の襲撃を告げた女の声と同じものであった。
「その声・・・まさか、あなたは・・・!」
「ふふっ。相変わらず勘がいいのね、レイ。・・・でも、この襲撃の裏を見抜けないようなら、あなたもまだ未熟者ということ」
「裏・・・?」
戸惑うレイの目の前で、蛇は壁から上半身が突き出ている女性の遺体の方へ向かった。その遺体に目を向けた瞬間、レイは驚愕の表情を浮かべた。
「この人・・・βとミナミの学校の担任だわ!」
レイの眼前にある死体。それは誠人とレイのクラス担任である、屋潟神奈子の変わり果てた姿であった。
「え!?本当ですか、レイ先輩!?」
「間違いない・・・さっき、アクアドルフィンからの映像に映ってた・・・っ!じゃあ、今学校にいるのは・・・?」
「ご明察。でも、そっちの心配ならいらないわよ」
「・・・どういう意味だい?」
相手の意図を掴みかねて尋ねたカグラに、手にしたブレスレットで蛇の視界を見ていた女がふっと笑いながら答えた。
「さあ、どういう意味かしらね。ま、近いうちに分かると思うけど?」
その言葉が終わった瞬間、蛇の口から白い煙が放たれた。レイ達がその煙を払いのける頃には、蛇の姿はなくなっていた。
(あの蛇・・・それにあの声・・・・・・まさか、本当にあの女が・・・?)
レイがある可能性に行き当たったのと、ほぼ同時刻のこと。風に黄色い髪をなびかせていた女のもとに、先ほどレイ達の前に現れたのと同じ黄色い蛇が現れた。
「ご苦労様。・・・さて、私も動くとしますか」
けだるそうにつぶやくと、女はそのグレーの瞳である建物に目を向けた。その建物こそ、誠人とミナミが今まさに通っている、私立神宮学園高校であった。
☆☆☆
「何だ、話って?」
数十分後。昼休みの神宮学園の屋上に、ミナミが誠人を連れ出していた。
「あの・・・さっき、私に何か訊こうとしてましたよね?・・・何を訊こうとしてたんですか?」
ミナミの言葉に、誠人は思わずぎくりとした。それでも、彼は平静を装って答える。
「べ、別に・・・何も、訊こうとなんて・・・」
「そんな!私達の仲じゃないですか!隠し事は無しですよ、誠人さん!」
その動揺を見抜いたかのように、ミナミは誠人に詰め寄った。もう隠しきれないと悟り、誠人はミナミに問いかける。
「じゃあ・・・君は、本当に僕のことが好きなのか?・・・もしかして、無理にそう言ってたり・・・してないよな?」
誠人の問いかけに、ミナミは不思議そうな表情を浮かべた。
「あの・・・何を仰るんです?誠人さん。あなたのことが好きって気持ちは、紛れもなく本物ですよ?」
「そうか・・・なら、それでいいんだ」
「もしかして・・・とうとう私の愛を受け入れてくださるつもりになったとか!?きゃっ、どうしましょう!」
「あ、いや、そういうわけじゃ・・・・・・でも、その気持ちが本物って分かって、良かったよ」
どこか煮え切らない誠人の様子に、一人騒いでいたミナミが表情を少し硬くした。
「じゃあ、もう一つ質問を。・・・私の過去について、レイか誰かから何か聞きました?」
その問いかけに、誠人は心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。それでも彼は自分を励まし、なんとか言葉を返す。
「い、いや・・・君の過去についてなんて、特別何も・・・」
「嘘ですね」
ミナミの射抜くような視線が、誠人の胸を痛くした。彼女は誠人に歩み寄ると、その肩を両手で掴んだ。
「私が本当のことを言ったんですから、誠人さんだって本当のことを話してください!誠人さんだけ嘘をつくなんて、ずるいですよ!」
「ぼ・・・僕は何も聞いてない!・・・放してくれ、ミナミ!」
「あっ・・・!」
ミナミの手をほどこうとするあまり、誠人は少し腕に力を入れすぎた。ミナミは彼に突き飛ばされたような形となり、その場に勢いよく尻餅をついた。
「あ、ごめん・・・僕、そんなつもりじゃ・・・!」
ミナミを助け起こそうと、誠人は彼女に手を伸ばした。だがミナミは拒絶するように、その手を叩いて払いのけた。
「ミナミ・・・」
「誠人さん・・・私、あなたが好きって気持ちは本当です。でも・・・・・・今の誠人さんは、少し・・・嫌いです」
ミナミは自分の手で立ち上がると、誠人の横を通り過ぎて屋上を去ろうとした。と、その時――
「あらあら。喧嘩は駄目よ、二人とも」
屋上の入り口から、二人に声をかけた者がいた。それは二人のクラス担任である、屋潟神奈子であった。
「先生・・・」
「虹崎君、女の子を弄ぶようなことはしちゃだめよ。あなたまだ子供なんだし、それに・・・」
神奈子は二人に歩み寄ると、ミナミの肩に手を置いて言った。
「この子の気持ちが離れたら、作戦が台無しじゃない」
「作戦・・・?」
誠人が疑問に思って呟いた、次の瞬間。神奈子は左腕でミナミの首を絞めると、右手から光弾を放って誠人を襲った。
「うわっ!・・・お前、誰だ!?屋潟先生じゃないな!?」
「ふふっ、ご名答。私の名はレミィ・スターク」
神奈子に化けていた女が、左腕に装備されていたブレスレットを操作してその真の姿を現す。黒い戦闘用スーツに身を纏った、紫の長髪の女。それが、彼女の正体であった。
「この子に復讐するためにやってきた、ゼロワールドの尖兵よ」
「・・・!ゼロ・・・ワールド・・・!」
その名を聞いた瞬間、ミナミの表情が一変した。彼女は必死に肘打ちを放ってレミィの腹に直撃させ、ひるんだところでその手から逃れる。
「いずれ・・・来るとは思ってましたよ。でも・・・作戦って、どういうことですか!?」
「我々ゼロワールドは、ミナミ・ガイア、そしてソフィア・ルン・ブラーンに対し、組織の全てをかけて報復すると誓った。二年前にお前達が奪った我が同志の命の数だけ、お前達の大切な者の命を奪わせてもらう。・・・その上で、お前達を殺してやる」
「だから誠人さんを・・・ッ!まさか、本物の屋潟先生は・・・!?」
「ええ、もう死んでるわ。でも、お前にとってはそれほど大切な人でもないでしょう?だから、目の前では殺さなかった」
ミナミにそう言い放つと、レミィは右手に緑色に輝く光線剣を握り締めた。
「お前達が二年前殺した同胞の数は、六人。それを贖う最初の一人に、この坊やの命をいただくわ!」
そう言うが早いか、レミィは手にした剣で誠人に襲い掛かった。必死にその攻撃をかわす誠人だったが、レミィは執拗に追撃を仕掛けてくる。
「やめなさい!・・・誠人さん、合体です!」
「あ、ああ!頼むぞ、ミナミ!」
誠人はイリスバックルを装着すると、レミィの攻撃の合間を縫ってホルダーからカードを引き抜き、バックルを待機モードにした。
「はああああっ!」
繰り出されたレミィの剣をかわすと、誠人は一瞬の隙をついて左手を伸ばし、剣を持つレミィの手を掴んだ。そして右手に持ったカードを、バックルの認証部分にかざす。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.震える大地!グランドアーマー!』
ミナミと合体してイリスに変身すると、誠人は掴んでいた相手の手を離して体勢を崩し、ローキックをお見舞いして後退させた。イリスはプラモデラッシャーを握りしめると、レミィに向かって突っ込んでいった。
「お兄ちゃん、ミナミ、応答して!」
同時刻。カグラとレイはイリスピーダーを呼び出し、それぞれミュウとキリアを後部座席に乗せて神宮学園に急いでいた。
「・・・駄目!二人のGPブレスに、全然繋がらない!」
いきり立つキリアの叫びに、カグラとレイは表情を硬くした。
「くっ・・・さては、また妨害電波か何か!?」
「だとしたら余計急がなきゃ。キリア、しっかり掴まってて!」
「う・・・うん!」
「ミュウもしっかり掴まってな!安全運転は・・・保証できないからね!」
「は・・・はい!」
アクセルを全開にして走り出したカグラに続き、レイもバイクの速度を上げた。手遅れになる前に、ミナミと誠人を助けなくては。その思いだけが、今の彼女を突き動かしていた。
一方。神宮学園の屋上では、イリスとレミィの戦いが続いていた。
「はっ!」
『ううっ・・・うわああああああっ!』
突き出されたレミィの剣が直撃し、イリスが大きく後退する。だがミナミの戦意は衰えることなく、雄たけびと共に敵に突っ込んでいく。
『あんたらが・・・あんたらさえいなければ!』
気迫のこもったイリスの一撃が、レミィの姿勢を崩した。すかさずイリスは剣を振るい、相手の体を立て続けに切り裂いていく。
『皆が・・・私の大切な友達が、死ぬことはなかったのに!』
「ミ・・・ミナミ、落ち着け!」
明らかにいつもとは違う、怒りに満ちたミナミの声。それを聞いた誠人はミナミを制止しようとしたが、もはや彼女の耳にその言葉は届いていなかった。
「ふふ・・・私を殺して、それで終わりになるとでも?我らは受けた痛みを絶対に忘れない。私を殺せば、お前が目の前で失う命が、もう一つ増えるだけ・・・!」
『くっ・・・黙りな・・・さい!』
跪きながら自身の攻撃を剣で防ぐレミィを、ミナミは誠人の足を使って容赦なく蹴飛ばした。そして相手の体を掴むと、屋上から投げ落として15メートルほど下の地面に激突させた。
「な・・・何だ!?」
「うわああああっ!逃げろ!」
たまたま学校の外にいた生徒達が、突如降ってきたレミィを見て悲鳴を上げて逃げ惑う。ミナミはそれを冷徹な瞳で見据えると、剣を投げ捨ててバックルを再度待機モードにし、フィニッシュカードを読み込ませた。
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
イリスの足元に、大地のエネルギーが溜まってゆく。レミィが叩き落されながらもよろよろと立ち上がった次の瞬間、イリスの指がバックルのボタンを押した。
『グランドフィニッシュ!』
『うわあああああああああああああっ!!』
怒りや悲しみ、憎悪といった様々な感情が入り混じった叫びと共に、ミナミは大きくジャンプして地面のレミィに向けて急降下し、跳び蹴りをお見舞いした。その一撃にレミィの体は大きく吹き飛び、断末魔の叫びと共に爆散した。
『はあっ、はあっ・・・!』
荒い息をつきながら、イリスは立ち上がった。誠人は自分の左手が、ミナミによって強く握られていることに気づく。
「ミナミ・・・」
と、その時であった。突如としてイリスの体が、オレンジ色の光と共に宙に浮かび上がった。
「うあっ!・・・何だ、これ・・・!?」
『か・・・体が、動かせ・・・ません・・・!』
突然の事態に困惑するイリスを、銀の装甲を身に纏った一人の男が見つめていた。彼が手を振り払うと、イリスの体は勢いよく地面に叩きつけられ、その弾みに誠人とミナミの合体が解除される。
「ようやく我らの手に落ちたな、ミナミ・ガイア」
銀色の装甲の男が、大勢の白い戦闘スーツを纏った配下を引き連れ、倒れこむミナミに声をかけた。その装甲にも、ゼロワールドの紋章が刻まれている。
「あんたは・・・確か、ゼロワールドの・・・」
「左様。私はゼロワールドの長、クリム・レギオン。お前とソフィア・ルン・ブラーンに報復するため、二年ぶりにこの星にやってきた」
そうミナミに言い放つと、クリムと名乗った男は倒れこむ誠人を見て冷酷に笑った。
「ちょうどいい。その小僧はお前にとって、この上なく大切な存在なのであろう?ならばその命を目の前で奪い、スタークを殺したお前の罪の贖いとしてやる」
クリムが右手を誠人に向けて伸ばし、念を込める。すると誠人の体がオレンジの光に包まれ、宙へと浮かんでいく。
「やめなさい!誠人さんを・・・放しなさい!」
ミナミが必死にGPブレスから光線を発射するが、クリムの纏う鎧はその光線を弾いた。彼が手に力を込めると、誠人は首が何かに絞められているような感覚に襲われた。
「うっ・・・がっ・・・」
「さて、どうしてくれよう?今朝方殺した者達のように、壁にでも埋めてやるか?」
クリムが右手を動かすと、誠人の体が校門の壁に向かってゆく。誠人は必死に抵抗を試みるが、今や首だけではなく全身が締め付けられているような感覚に襲われ、身動き一つとれない。
「やめなさい!・・・やめて!」
ミナミの悲痛な叫びも虚しく、誠人の体は壁へと近づいていく。そしてその頭が、壁に触れるかと思われたその時――
「グウッ!」
突然、クリムが苦痛の声を上げ、突き出していた右手を左手で押さえた。それと同時に誠人は解放され、その体が地面に落ちる。
「・・・!あれは・・・」
ミナミが目にしたのは、クリムの右腕に噛みつく黄色い蛇のようなロボットだった。クリムが腕を振り回してそれを払いのけると、蛇は校門から姿を見せた一人の女の手に収まった。
「見てられないわね、ミナミ」
女は背中まで伸ばした黄色い髪をいじりながら、グレーの瞳をミナミに向けた。その顔を見た瞬間、ミナミの表情が一変した。
「あんたは・・・ソフィア!」
「ソフィア・・・?じゃあ、あの人が・・・!?」
昨晩レイから聞いた話が、誠人の脳裏に蘇る。二年前単独でゼロワールドを攻撃し、ミナミの仲間を死なせた責めを負って、銀河警察を去った女。その女が、今目と鼻の先にいる。
「おお、まさかもう一匹の魚にも出会えるとは。これは我らにとって、またとない幸運よ」
「さて、どうかしらね?二年前は逃がしたけど、今回は逃がさない・・・!」
ソフィアは歓喜の声を上げるクリムを睨み据えると、懐からブランクカードを取り出した。そしてそのカードを、左腕に付けたGPブレスに読み込ませる。
『Authentication start、please wait a moment.』
「GPブレス・・・なんであんたが、それを持ってるんですか!?」
「ふふっ。ちょろいわよねえ、銀河警察って。私が反省するふりして偽物のGPブレスを差し出したら、ろくに調べもせずにそれを受け入れたんだもの。ほーんと・・・間抜けな組織」
『Authentication complete.Allow combat as Iris.』
ミナミとそんな会話を交わすうちに、ソフィアのカードの認証は完了した。彼女は『MOONLIGHT』と刻まれた黄色いカードを手にすると、座りこんだままの誠人のもとに歩み寄り、イリスバックルのボタンを押して待機モードにした。
「ソフィア・・・あんた、何をする気ですか!?」
「決まってるでしょ?この子の体、少し借りるのよ」
「え・・・?あ、ちょっと!」
誠人の制止も聞かず、ソフィアは左手を彼に突き出した。すると誠人の体が吊られているように宙へと浮かび上がり、同時にソフィアは右手に持ったカードをイリスバックルの認証部分に近づける。
「やめなさい!・・・やめろおおおおおおおおおおっ!!」
ミナミの叫びが、辺り一帯に響き渡る。だが、もはや手遅れであった。
『Read Complete』
電子音声が響くと同時に、ソフィアの体が黄色い鎧となって、誠人の身を包むイリススーツの上から装着されてゆく。しかし、誠人の意思に反する合体は普段のそれとは違い、強烈な激痛を誠人の体に齎した。
「うっ・・・うわああああっ!うああああああああああああああああああっ!!」
「誠人さん!」
これまで体験したことのない苦痛に、誠人はイリスの仮面の下で絶叫を上げた。だがそれもほんのつかの間のこと、ソフィアが姿を変えた鎧は完全にイリスと合体し、宙に浮いていたその体が地面に着地した。
『神秘なる月光!ムーンライトアーマー!』
バックルから電子音声が鳴り響き、新たな姿となったイリスの複眼が紫色に輝いた。全く新しい姿となったイリスに、敵のクリムだけでなくミナミも息を飲む。
『プラモデラッシャー』
バックルから現れた巨大なプラモデルに、イリスが新たな拡張パーツを投げ込む。するとプラモデルは一瞬で、槍のような武器に合体した。
『さあ・・・ゲームの始まりね』
第9話、いかがだったでしょうか。もしよろしければ、ご意見やご感想をいただけると幸いです。




