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チーム・イリスの事件譚  作者: 髙橋貴一
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第9話「因縁の相手」前編

「二年前?ミナミの?」

 その夜。誠人はミナミやキリアが寝静まったのを確認すると、レイを庭に呼び出してあることを尋ねていた。

「はい。・・・実はさっき、ミナミがここからそう遠くない廃墟に行って、GPブレスで作ったお墓みたいな物に手を合わせてるところ、見ちゃったんです。・・・その時、あいつ言ってました。『あれから、もう二年が経つ』って」

 誠人の言葉を聞くうちに、レイの表情が曇っていった。そして同時に、何かを迷っているような、躊躇っているような、そんな様子の顔つきになる。

「変なことを訊いてすみません。でも、どうしても気になっちゃって。・・・あの時のミナミ、なんだかいつもとは別人のような感じがして、とても本人に訊く気にはなれないんです。・・・僕よりあいつとの付き合いが長いレイさんなら、何か分かるかな・・・って・・・」

 誠人とレイの間に、重苦しい沈黙が流れる。これはさすがに無理かと誠人があきらめかけた、その時であった。

「・・・私から聞いたって、ミナミには絶対に言わないで。それを約束してくれるなら、答えてあげる」

 そう口にしたレイの表情は、いつになく硬いものであった。それを見て思わず唾をごくりと飲み込みながら、誠人はやっとの思いで言葉を返す。

「は、はい・・・約束します・・・」

 レイはその言葉を聞くと、満天の星空を見上げながら語り始めた。

「薄々察してるとは思うけど、ミナミがこの星に来たのは、今回が初めてじゃないの。・・・今から二年前、まだ銀河警察の研修生だった頃、ミナミは実戦体験のためにこの星を訪れた。四人のチームメイトと、教官のソフィアという女と共に」

「四人?・・・!もしかして、あのGPブレスって・・・!」

 何かを察したように声を上げた誠人を、レイは冷たい目で睨み据えた。余計なことを言うな、と言わんばかりに。

「す、すいません・・・」

「ちょうどその頃、この星にはゼロワールドという、他星間テロ組織が潜んでいた。彼女達に課せられた任務は、ゼロワールドについての情報を収集し、テロ計画の証拠を得ること。比較的安全な任務だから、実戦体験にはうってつけだった。・・・けど、ミナミのチームメイトの一人が奴らに捕まり、拷問を受けて仲間の居場所を吐いてしまった。その結果、ミナミ以外のメンバーが捕まってしまい、ゼロワールドは銀河警察に身代金を要求した。その額は、この星・・・この国の金額に換算すると、およそ10兆円」

「じゅ・・・10兆!?」

 途方もない金額に、誠人は思わず素っ頓狂な声を上げた。

「もちろん、銀河警察がそんな大金をテロ組織に払うわけにはいかない。でも、だからといって研修生の命を捨てることもできない。上層部は何とか交渉で決着をつけようとしたけど、その時ある事件が起きた。教官のソフィアが上層部に無断で、単身でゼロワールドを攻撃したの」

 誠人の胸に、ある嫌な予感がした。そしてその予感は、レイの口から出た言葉で確信に変わった。

「その結果、ゼロワールドはテラから逃げていった。だけどソフィアの攻撃を受けて、連中は人質に取っていた四人を皆殺しにした。それを知ったミナミ、烈火のごとくソフィアに怒ってね・・・・・・」



 その時のことを、レイは今でも覚えている。それは四人の死が明らかになり、彼女達の遺体がギャラクシーガーディアンに運び込まれた、その直後のことであった。

「あ・・・ああ・・・・・・」

 変わり果てた同期達の姿に、ミナミは言葉を失ってその場に頽れた。放心状態の彼女の横をすり抜け、教官のソフィアがジョージの前に進み出る。

「ソフィア・・・自分が何をしたか分かっているのか?」

 いつもの温和な表情から一変して、厳しい視線をソフィアに向けるジョージ。だがそれを見ても、ソフィアはどこ吹く風で言い放った。

「私はただ、自分がするべきことをしただけよ。・・・分かってないのはそっちでしょ、ジョージ?交渉なんて馬鹿げたことに、どれだけの労力と時間を無駄にしたのやら」

「・・・!君は・・・!」

 さすがのジョージが顔色を変えた、その時であった。頽れていたミナミが突然立ち上がると、怒りのまなざしでソフィアに詰め寄った。

「あんたが!あんたが攻撃を仕掛けなければ、皆は死なずに済んだんですよ!」

「ミナミ、駄目!」

 当時新任の刑事であったレイが、ミナミの体を背後から掴んで引きはがした。ミナミはレイの腕の中でもがいたが、自分を掴むレイの腕はびくともしない。

「は、放しなさい!・・・ソフィア、私は絶対、あんたを許しませんからね。もし・・・今後もあんたがのうのうと刑事の座に居座るというのなら、私はこんな組織辞めてやる!」



「あのミナミが、そこまで・・・」

「結局、ソフィアは責任を取って銀河警察を辞職して、今じゃどこにいるのか行方も知れない。・・・ここまで聞けばもう分かるわよね?その廃墟はゼロワールドが隠れ場所として使用し、二年前の今日、ミナミのチームメイト四人が殺された、忌まわしき場所。ミナミは今も、その記憶に囚われ続けているの。どれだけ明るく振舞っていようと、彼女の心に刻まれた傷は、絶対に癒えることはない。・・・あなたも見たことがあるんじゃない?あの子がふとした拍子に見せる、すごく哀しそうな表情を」

「哀しそうな・・・?・・・!」

『仕事の中にも楽しみがないと、やってけないじゃないですか・・・・・・』

『ただでさえ、刑事なんて仕事してるんですから・・・・・・』

 その時、誠人は出会ったばかりの頃のミナミが見せた、どこか哀しげな表情を思い出した。あの時は分からなかったが、今思えばきっとその時も、二年前の心の傷が疼いていたのだろう。

「心当たり、あるみたいね」

「え、ええ・・・でも、まさかあいつが、そんな過去を背負っていたなんて・・・」

「ともかく、私が話せるのはここまで。・・・約束は守ってね、β」

 念を押すように言い含めると、レイは足早に去っていった。残された誠人は気持ちの整理が追い付かず、しばらくその場に立ち尽くしていた。


☆☆☆


 奇怪な事件が起きたのは、それから程なくのことであった。

「ワン、ツー、スリー、フォー」

 大都会の一角で、数人の若い女性がダンスの練習に励んでいた。すると近くの物陰から、銀の装甲に身を纏った一人の男が姿を現す。

「・・・誰?」

 気配に気づいた女性の一人が、男の姿を見て問いかける。すると男は片手を女性達に向けて突き出し、念を込めるように指を動かし始めた。

「うっ・・・あっ・・・」

「何これ・・・?痛い・・・痛い・・・!」

 女性達は全身を締め付けられているような感覚に襲われ、苦悶の声を上げた。男が腕をわずかに上げると、彼女達の体がオレンジ色の光に包まれ、そして宙へと浮遊した。

「フン!」

 そして男が勢い良く手を開くと、女性達の体は近くにあった壁に飲み込まれていき、やがて上半身や下半身が壁から生えているような奇妙な状態となって絶命した。男はそれを見て冷酷な笑みを浮かべると、背に負っている装置から伸びるホースのような物を壁に向け、スイッチを入れてそこから熱光線を放った。

「ふ、ふふ・・・ふはははは・・・!」

 低い笑い声を上げながら、男はホースを上下左右へと操っていく。そこから放たれる熱光線の痕が壁に残り、いつしかそれは絵のようなものへと変わっていった。



「うっ・・・これはひどい・・・」

 翌朝。多くの警官と野次馬が集まる事件現場で、カグラが顔をしかめながら呟いた。

「人が壁にめり込んでるなんて・・・どう考えても、普通の事件じゃないですよね?」

「ああ。それに、あの悪趣味なマーク・・・」

 ミュウに言葉を返しながら、カグラは死体のすぐそばに刻まれた焼き印のようなものに視線を向けた。高い塔が稲妻によって崩壊する様子を描いたかのような、不吉な絵。そのすぐ近くの壁は焼け焦げており、相当強い熱で刻み込まれたことをうかがわせる。

「とにかく、まずはレイ達に報告だ。これがエイリアン絡みの事件だとしたら、厄介なことになる」

「あ、はい!」

 大股で虹崎家に歩き出したカグラの後を、ミュウが慌てて追いかける。そんな彼女達の姿、そして壁に刻まれた焼き印を、遠くから一人の女が見つめていた。

「あのマーク・・・さては、奴らがまた動き出した・・・のかもしれないわね」

 そう口にした女の肩に、機械仕掛けの黄色い蛇のような物がうごめいていた。女は背中まで伸びた黄色い髪をいじりながら、事件現場を後にするのだった。



「・・・ってわけで、これが例の事件現場に残されてた、死体と焼き印さ」

 数十分後。ミュウと共に虹崎家を訪れたカグラが、一同にGPブレスで撮影した事件現場の様子を見せていた。

「うわ、ひっどい・・・どう考えてもテラ人の仕業じゃないよ、これ」

「キリアちゃんもそう思う?それにこの焼き印・・・何かのシンボルマークみたいな感じがしない?」

「どれ、見せてみて・・・ッ!これ・・・!」

 そのマークを見た瞬間、レイの表情が一変した。カグラ達にお茶を持ってきた茜が、それに気づいて声をかける。

「どうしたの、レイさん?」

「これ・・・ある他星間テロ組織が使うシンボルマークと、同じものなんです。奴らの名は・・・・・・ゼロワールド」

「ゼロワールド・・・?どんな奴らなんだい、そいつらは?」

「マズい・・・こいつらが動き出したってことは、きっとその狙いは・・・!」

「レイ・・・?」

 カグラの問いかけに答えることなく、レイは一人声を震わせながら呟いた。キリアが思わずその名を呼ぶと、レイは我に返ったかのように一同に告げた。

「いい?皆。このことは、βとミナミには一切話さないで。この事件の犯人は、私達だけで捕まえましょう」

「ま・・・待ちなよ、レイ。どうしたんだい、さっきから?」

 カグラがその真意を掴みかねて尋ねたが、レイはそれに答えずに茜に視線を向けた。

「茜さんも、この件はあの二人には内密にお願いします。・・・いいですね?」

「え、ええ・・・分かったわ・・・」

「ありがとうございます。じゃあ行くわよ、皆」

「あ、レイ!」

「レイ先輩!」

 一人家から飛び出したレイの後を、カグラとミュウが慌てて追った。キリアも突然の事態に戸惑いながら、三人を追って家を後にする。

(ミナミ・・・きっと、奴らの狙いはあなた。・・・だけど安心して。私が奴らを、あなたに触れさせはしない・・・!)

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