第8話「勇気の矢」前編
「あーあ、退屈。なんかやることないのかなあ・・・」
数日後。停職中のため何もすることがないキリアが、虹崎家で大の字になりながら物憂げに声を上げた。
「ねえミナミ、レイ、なんか面白いことないの?」
「知りませんよそんなの。今はこっちで手一杯なんです・・・!」
キリアに面倒くさそうに答えながら、ミナミは虹崎家のリビングにあるテレビを食い入るように見つめていた。彼女とレイは今、誠人が持っている家庭用ゲームの対戦プレイに興じており、相手より多くのポイントを稼ごうと必死にコントローラーを操作していた。
「ふふっ。ミナミ、私の勝ち」
「んなっ!?・・・キリア、あんたが余計な声かけするから負けちゃったじゃないですか!」
「・・・つくづく駄目な先輩。もういいや、カグラのとこにでも行ってこようっと」
自分に八つ当たりしてくるミナミの姿にため息をつくと、キリアは家の玄関に向かった。
「キリア、停職期間はまだ三日ある。下手な外出はしない方が身のため」
「だって、あんまりにも退屈なんだもん。それに、仕事に関わるようなことしなけりゃセーフなんでしょ?というわけで、行ってきまーす!」
「あ、キリ・・・」
レイの制止を無視するように、キリアは金色の残光と共に姿を消した。その一瞬の出来事になすすべもなく、レイは小さくため息をつく。
「ふぅ・・・何事もなければいいんだけど・・・」
『Start Up、Magma Scorpion』
その頃。カグラが借りている家の庭で、彼女のプラモデロイドであるマグマスコーピオンが召喚された。
「プラモデロイド。あたし達銀河警察の一員が持つことを許されている、動物型のサポートロボット。あんたも出せるんでしょ、ミュウ?」
「は、はい!確か・・・このカードで・・・!」
ミュウはズボンのポケットをあれこれといじると、中にあった一枚のカードを取り出して自身のGPブレスにスキャンさせた。
『Start Up、Green Beetle』
電子音声が鳴り響くと同時に、ブレスレットから現れたプラモデルパーツが一瞬で合体し、緑色のカブトムシのようなロボットとなった。
「へえ、カブトムシか」
「はい、この子はグリーンビートル君。保護色で姿を消すことができるので、隠密活動に最適なんです」
しばらくミュウの周りを飛び回っていたグリーンビートルだったが、突然家から遠く離れた場所へ飛び始めた。
「でも、まだデビューしたてで、あまり知能は高くないんです・・・おーい、待ってよー!」
グリーンビートルを追って駆けだした後輩の姿に、カグラは思わず苦笑いしながらため息をつく。一方のミュウは必死にグリーンビートルを追っていたが、やがてその姿はいずこともなく消えてしまった。
「どうしよう・・・あれすごく高いから、失くしたら始末書ものだよ・・・」
思い浮かべた最悪の可能性に思わず身震いしながらも、ミュウはグリーンビートルを捜し続けた。
「おーい!出てきてよ、グリーンビートルくーん!」
「ミュウ!」
その時、ミュウの死角から声がかけられた。彼女が振り向くと、そこにはキリアの姿があった。
「あ、キリアちゃん!」
「どうしたの、大声出して。もしかして・・・この子捜してた?」
キリアが自分の頭上を指さすと、そこには彼女の周りを旋回するグリーンビートルの姿があった。ようやく見つけることができた自分のプラモデロイドの姿に、ミュウは安堵のため息をつくのだった。
「ふーん。プラモデロイドのことについて、カグラから教わってたんだ?」
数分後。キリアはミュウと共に、カグラの家に向かっていた。
「うん!何せ、ボクはまだ刑事としては新米だから。カグラ先輩からなら、色々と教われると思って」
「いいなあ、頼れる先輩が同居人で。うちなんてひどいよ、ほんとに」
ゲームに夢中になっていたミナミとレイの姿を思い出し、思わずキリアはため息をついた。
「ひどいって・・・ミナミ先輩とレイ先輩が?」
「うん。あの二人、停職中だからって遊んでばっかりなの。お兄ちゃんはお母さんとお買い物に出かけちゃうし、もう退屈で退屈で」
「なるほどね。そういうことならいつでも来てくれていいよ、キリアちゃん。ボクでよければ、いくらでも話し相手になるから」
どこかのほほんとした雰囲気のミュウのことを、キリアは初めて会った時から気に入っていた。何事にもせっかちな自分とは対照的だが、却ってそこがいいのかもしれない。
「ねえミュウ、一つ訊いていい?」
だがそれ故に、彼女は一つ、どうしても気になっていることがあった。この際それを確かめようと、キリアはミュウに問いかけた。
「うん、何?」
「ミュウはさ、どうして銀河警察に入ったの?・・・ほら、この仕事ってすごく危なくて物騒じゃん?なんか、その・・・言い方は悪いけど、あまりミュウには合ってないような気がして・・・」
その言葉を聞いた時、明るかったミュウの表情が少し曇った。それを見て、慌ててキリアが口を開く。
「あ、ごめんね。キリア変なこと訊いちゃった。忘れて」
「ううん、いいの。・・・確かに、自分でもこの仕事合ってないかも、って思う時はあるからさ」
そう言って苦笑いしながらも、ミュウは確かな決意と共に再び口を開いた。
「でも、この仕事を選んだことは後悔してないよ。ボクは絶対、強くて優しい刑事になる。・・・あんなのを目にするのは、もう二度と御免だから」
「『あんなの』?」
キリアが問いかけると、ミュウは小さくうなずいて言葉を発した。
「今から7年前、ボクの故郷は・・・」
と、その時であった。二人の頭上を、一隻の宇宙船が猛スピードで通り過ぎていった。
「あれ・・・宇宙船だよね!?」
「どうしてこんなところに・・・行ってみよう、ミュウ!」
「うん!」
宇宙船の後を追って走り出す二人。一方の宇宙船はそれから程なくして、とあるショッピングモールの玄関付近に降り立った。
「ゼネラル・デモス、実験場に到着いたしました」
「うむ、ご苦労。それでは早速、実験開始」
何事かと集まる野次馬が見つめる中、宇宙船のハッチが開いた。そしてその中から眼帯をつけたデモスと呼ばれる男が現れ、彼の部下であるガスマスクのようなヘルメットをかぶった男達が、巨大な檻を船から降ろしていく。
「あんたら、何してるんですか!?他のお客さんの迷惑です、すぐにどきな・・・うわっ!」
ショッピングモールの警備員が男達に詰め寄ったが、デモスが放った光線銃がその体に命中し、一瞬で消滅させた。それを目にした野次馬達が一瞬沈黙し、やがて悲鳴を上げてわっと四方に逃げ散った。
「ふん、では・・・ブラックローグ、解放!」
「解放!!」
デモスの号令を合図に、檻の鍵が一斉に開いた。そしてその中から、黒く艶光りする皮膚を持った四足歩行の怪物・ブラックローグが現れた。
「う・・・うわあああああああああっ!」
「逃げろおおおおおっ!!」
ブラックローグを目にした人々が、悲鳴と共に逃げ惑う。その怪物達には目鼻がなく、それがあるべき場所には一本の太い横線が走っていた。怪物達は鋭い牙がびっしりと生えた口を開け、獣のような咆哮を上げた。
「突入!!」
デモスが光線銃を一発天に向けて発射すると、それを合図にしたかのようにブラックローグの群れがショッピングモールに雪崩れ込んだ。そして手近な人間に襲い掛かると、その体にのしかかって口の鋭い牙を突き立て、獲物の体を貪り始める。
「ふふ・・・さて、奴らの狩りをじっくり見物するか」
☆☆☆
「じゃーん!この服なんてどうかしら、誠人君!?」
一方。誠人は茜に連れてこられた洋服屋で、彼女の買い物を手伝わされていた。
「うん・・・いいんじゃない?それ買っちゃえば?」
「もう、塩対応ね誠人君。もっとこう、具体的な感想言ってくれないと分かんないわ」
「そんなこと言われたって、実際買うのは母さんだろ?僕があれこれ言ったところで・・・ん?」
その時、誠人は左腕のGPブレスから着信音が鳴っていることに気づいた。
「はい、虹崎です」
「虹崎君か?良かった、至急伝えなければならないことがある」
ブレスレットの画面に映し出されたジョージが、切羽詰まったような様子で誠人に話しかけた。
「現在そちら・・・危険なテロリ・・・せいぶ・・・兵器・・・大至急、捜索を・・・」
画面に映るジョージの顔にノイズが走り、音声も途切れ途切れになる。やがて画面が真っ暗になり、ブレスレットの通信機能は完全にダウンしてしまった。
「ジョ、ジョージさん!?・・・何だこれ、どっか壊れたのか?」
と、その時。突如として天井に穴が開き、そこから数匹の不気味な怪物が目の前に降り立った。
「な・・・何だ、こいつら!?」
驚く誠人の目の前で、怪物達は洋服屋の店員や利用客に襲い掛かり、その体を喰らってゆく。その怪物達こそ、デモスが解き放ったブラックローグであり、誠人達が訪れている洋服店は、デモス達が実験場に選んだショッピングモールの中に建てられていた。
「いやあああっ!来ないでえええええっ!!」
茜に狙いを定めた一匹のブラックローグが、彼女を壁際に追い詰めていた。誠人はGPブレスを戦闘モードにして光線を発射し、ブラックローグの頭部に命中させてひるませることに成功した。
「母さん、今だ!」
誠人は茜の手を引いて走り出すと、混乱する店内を駆け抜けて近くにあったトイレに逃げ込んだ。
「な・・・何なの、あれ!?」
「分かんないよ!とにかく、カグラさんに連絡を取るから!」
急いでGPブレスを通信モードにしようとした誠人だったが、通信はダウンしたままだった。ボタンをあれこれ押してみても、画面はまったく反応を見せない。
「くそっ、こんな時に・・・・・・一体、何がどうなってるんだ・・・?」
「あそこだよ、ミュウ!」
誠人がGPブレスの不調に困惑したのと、ほぼ同時刻のこと。宇宙船を追ってきたキリアとミュウが、ショッピングモールの入り口に到着した。
「何だお前ら?ここは我々の実験場だ、すぐに立ち去れ!」
デモス配下の兵士達が、光線銃をキリア達に向けて威嚇した。
「実験場・・・?あなた達、ここで何をしているの!?」
「うるさい!今から三つ数える間に立ち去らなければ、射殺する!」
ミュウの問いに答えることなく、兵士達が銃を二人に突き付けた。
「一つ、二つ、み・・・うぐっ!」
兵士が数を数え始めたその時、キリアが高速移動して近くの兵士達にタックルし、吹き飛ばして壁に叩きつけた。叩きつけられた兵士達は、無様にも気を失ってその場に倒れこむ。
「ふう。こういうのめんどくさいから、これでいいよね?」
「キ、キリアちゃん・・・仮にも停職中なんだから、こういうことはやめた方が・・・」
「だーいじょうぶ!正当防衛って言っときゃ、なんとかなるでしょ。じゃ、行こう!」
「あ、キリアちゃん!」
キリアに手を引かれ、ミュウはショッピングモールの中へと入った。だが次の瞬間、視界に飛び込んできた惨状に二人の表情は歪むこととなった。
「うっ・・・何、これ・・・?」
思わず声を上げたキリアの目の前には、血まみれの遺体が無数に点在していた。そのほとんどが手足や頭など、一部が欠損した状態になっている。
「ひどい・・・一体、何があったんだろう・・・?」
「分かんない・・・でも、あいつら『実験場』って言ってた。・・・もしかして、ここで何かの実験が?」
キリアが思い出したように言ったその時、遠くの方から光線が発射されるような音が聞こえてきた。それと同時に、獣が吠えるような音も聞こえてくる。
「あの音・・・もしかして、GPブレス!?」
「行ってみよう、キリアちゃん!」
二人はすぐに、音の聞こえた方へ走り出した。するとそこには、茜を背にかばいながら一匹のブラックローグとGPブレスで戦っている、誠人の姿があった。
「お兄ちゃん!」
「誠人君!」
「・・・!ミュウに・・・キリア!?なんでここに!?」
二人の姿に気を取られた誠人に、ブラックローグが襲い掛かる。だが次の瞬間キリアが高速移動で怪物に突っ込み、手にした手斧でその体を切り裂いた。
「ふう・・・危なかったね、お兄ちゃん」
「ああ、ありがと・・・」
「助かったわ、二人とも。でも、どうして二人がここに?」
「ボク達、たまたま宇宙船のような物を見つけたんです。その後を追いかけてきたら・・・こんなことになってて・・・・・・」
ブラックローグの死体をおぞましそうに見つめながら、ミュウが茜と誠人に事情を説明した。
「そうか・・・僕達も、何が何だか全然分かんないんだ。突然こいつらが襲ってくるし、どういうわけだかGPブレスは繋がらないし・・・」
「それはそうだ。なぜなら我々が、ここの通信環境を完全に制圧したからね」
その時、一同の近くから声が聞こえてきた。声のした方に視線を向けると、そこには入り口にいた兵士達と同じ格好の者達を護衛に従えた、青と黒の肌の隻眼の男の姿があった。
「誰だ、お前は!?」
誠人が威嚇のために戦闘モードにしたGPブレスを突き付けるが、男は不敵な笑みを崩さず言った。
「ほう。そのブレスレットは、銀河警察か」
「お兄ちゃん、あいつ見覚えがある。確か・・・レッドレベルで指名手配をかけられてる、危険なテロリストだよ!」
テロリスト、というキリアの言葉に、男が一瞬不快そうに眉を上げた。
「テロリストとは心外な。まあいい、わしの名はデモス。我が故郷・惑星ドゥレンテに真の自由をもたらすために戦っている、反政府組織のトップだ」
「その反政府組織のトップが、何の用でこの星に来た!?」
「ふむ、威勢のいい少年だな。我が故郷ドゥレンテでは、民主政治などという馬鹿げた妄想を唱える者達が、ここ100年ほど政治の実権を握っていてな。かつて政治を担っていた我ら軍部の一族は、奴らから覇権を取り戻すべく、長年戦い続けてきた。そして今、この戦いに勝利するために開発していた最強の生物兵器が、ついに完成を目前にしている。その最終実験を行うために、我らはこの星に降り立ったというわけだ」
「生物兵器・・・実験・・・まさか、こいつらが・・・?」
足元のブラックローグの死体を見て、ミュウがおぞましそうに声を上げた。
「その通り。ブラックローグはヒューマノイドの肉が好物でな、制御用のブレスレットを装備していない者には貪欲に襲い掛かる。その実験結果が・・・これだ」
デモスが指をパチンと鳴らすと、兵士の一人が腕の機械のような物を操作した。するとこのショッピングモールで行われた実験の記録映像が空中に浮かび上がり、そこには本能のままに人々を襲っては喰らってゆく、ブラックローグ達の姿が克明に記録されていた。
「素晴らしい・・・この映像を見ただけで、臆病者の政府の役人どもは震えあがるであろうな。そしてこの兵器が実際に使われれば・・・ふふふ、100年以上続く戦いが、ついに終わる時が来るのだ・・・!」
「ひどいわ・・・この星の人達を、一体何だと思っているのよ!?」
その映像のあまりの凄惨さに、茜が怒りの言葉をデモスにぶつけた。
「まあ悪く思わないでくれ。全ては、我が故郷を救うためなのだ。彼らには、その名誉ある犠牲になってもらった。そして・・・君達もその仲間入りだ」
デモスが再び指をパチンと弾くと、近くにいたブラックローグ達が一斉に彼のもとに集まり、誠人達を見て唸り声を上げた。
「さあ、あそこにもまだ獲物があるぞ。行け、ブラックローグ達よ!」
その言葉を合図に、ブラックローグ達が一斉に誠人達に襲い掛かった。誠人達はGPブレスから光線を放って怪物達に命中させるが、それを気にすることなく怪物達は襲ってくる。
「お兄ちゃん、キリアと合体して!そうすれば・・・」
「無理だよ!今、君とミナミとレイさんのカード、使用不可能になってるの忘れたか!?」
誠人の言葉通り、停職中の三人のカードはジョージの権限で使用が停止されており、イリスバックルにスキャンできないようになっていた。使えるカードはフレイムとフォレストのみ、この状況で戦力を減らすべきではないと判断した誠人は、カグラとの合体を選んでバックルを装着し、フレイムのカードを手に取った。
「グオオオオオオッ!」
だが次の瞬間、死角から襲い掛かってきたブラックローグの直撃を避けきれず、誠人は手に持っていたカードを取り落としてしまった。
「ッ!しまった!」
なんとかカードを拾おうとするものの、ブラックローグ達の足がカードにぶつかり、徐々に誠人から遠ざけていく。そして事態は悪い方向へと進んでいき、デモス配下の兵士がカードを拾い上げ、それをデモスに手渡してしまった。
「これは・・・ほう、こんなもので一体何ができるというのだ?」
「くっ・・・こうなったら・・・!」
誠人は茜を伴って物陰に隠れると、必死に戦うミュウに叫びかけた。
「ミュウ、いけるか!?」
「う、うん!頑張るよ、誠人君!」
誠人はイリスバックルを再度待機モードにすると、ホルダーからフォレストのカードを引き抜いた。その瞬間物陰にブラックローグが一匹飛び込み、誠人に襲い掛かる。
「くっ・・・ユナイト・オン!」
『Read Complete.怒れる大自然!フォレストアーマー!』
ミュウの体が緑の鎧と化し、誠人と合体してその身をイリスへと変身させる。イリスはプラモデラッシャーでブラックローグの突進を受け止め、武器を押し出して相手の体勢を崩し、そこから放つ光の矢で相手の息の根を止めた。
「キリア、母さんを頼んだ!」
「うん!お母さん、こっち!」
キリアは敵の隙をついて茜に駆け寄ると、その肩を抱いて高速移動し、彼女を入り口まで避難させた。一方のイリスはブラックローグに立ち向かうが、ミュウの脳裏には先ほどデモスに見せられたおぞましい映像がちらつき、戦闘に集中できない状態になっていた。
『あっ・・・!』
集中力を欠いた状態で放たれた矢が外れ、ブラックローグの突進を受けてイリスは吹き飛ばされた。押しかかってきた怪物を蹴飛ばしてなんとか体勢を立て直そうとしたその時、近くから何かを咀嚼するような音が聞こえてきた。
『あ・・・ああっ・・・!』
視線を向けたイリスが目にしたのは、かっと目を見開いて絶命した、店のスタッフと思しき若い女性の死体。そしてその死体に群がって死肉に貪りつく、数匹のブラックローグの姿であった。
『ああ・・・あああ・・・!』
血まみれの怪物達の口元を見た瞬間、ミュウを激しい恐怖と嫌悪感が襲った。まるで全身を無数の虫が這いずり回っているかのような、何とも言えない気持ち悪さが彼女の体を駆け巡る。
「ミュウ・・・?大丈夫か、ミュウ!?」
異変に気付いて問いかけた誠人の言葉は、ミュウには届いていなかった。先ほど見せられた映像、そして店内に点在していた無数の死体の姿を思い出し、ミュウの心はついに限界を迎えてしまった。
『あ・・・ああ・・・うわあああああああああああああっ!!』
「ミュウ!?」
ミュウが恐怖に絶叫を上げた瞬間、彼女が姿を変えた鎧がイリススーツから離れ、元の姿に戻ってその場に尻餅をついた。イリスも合体者がいなくなったことで、強制的にブランクフォームへと戻ってしまう。
「お待たせ、お兄ちゃん!・・・って、え?ミュウ?」
茜を避難させて戻ってきたキリアが、ブランクフォームになったイリスとミュウの姿を見て困惑の声を上げる。完全に戦意を喪失してへたり込むミュウに、その恐怖心を嗅ぎつけたのか数匹のブラックローグが迫る。
「嫌だ・・・嫌だ・・・嫌だああああああああああああああああっ!!」
ミュウはなんとか立ち上がると、ブラックローグに背を向けて逃げ出し始めた。その後を追おうとするブラックローグ達を、キリアが高速移動しながら武器で切りつける。
「お兄ちゃん、ミュウどうしちゃったの!?」
「分からないんだ!急に様子がおかしくなったと思ったら、合体が解除されて・・・!」
なんとか事情を説明しようとするイリスに、数匹のブラックローグが襲い掛かる。その攻撃を必死に避けるイリスを見て、デモスが冷酷な笑みを浮かべるのだった。




