第7話「その森ガール、刑事につき」後編
「へえ・・・あたしに無断で遊びに出て、その上バレないようにGPブレスの通信も切ってたと?どういう神経してるんだい、あんたら?」
数分後。誠人を捜して森の中に踏み入ったミナミ達に、ようやく事情を理解したカグラが怒りの声を上げた。
「ご、ごめん・・・まさか、こんなことになるとは思わなくて・・・」
「ごめんで済む問題じゃないよ、レイ。・・・ったく、他の二人だけならともかく、あんたまで遊び惚けてどうすんのさ?」
「カグラ、その辺にしてあげて。お説教なら、後でいくらでも聞くからさ・・・」
「そうですよ。今は何より、誠人さんを見つけないと・・・」
痛みに悲鳴を上げる体に鞭打ち、ミナミは誠人を捜し続けた。一方その誠人の姿は、森の中にある小さな洞窟の中にあった。
「んっ・・・ここは・・・?」
額に洞窟の屋根からの水滴が落ち、その冷たい感覚に誠人は目を覚ました。しばらく虚ろな目で周囲を見回していた彼だったが、やがてあるとんでもない事実を悟る。
「うわっ!・・・なんで、裸・・・?」
どういうわけか、彼の上半身の服は脱がされ文字通りの半裸になっていた。同時に左腕に鋭い痛みが走り、痛んだ場所を押さえようとした彼は、そこに包帯が巻かれていることに気が付いた。
「これは・・・?」
「・・・あ、目が覚めたんだ」
その時、洞窟の入り口から声が聞こえ、程なく一人の少女が姿を見せた。小柄な体にショートカットにした緑色の髪、そして髪と同じく緑色の瞳が印象的な、不思議な少女であった。
「君は・・・・・・もしかして、君が助けてくれたのか?」
「うん、まあね。その左腕、怪我して血が出てたから、よく効く薬草の汁を塗っておいた。この森、薬草が豊富で助かったよ」
そう答えた少女の左腕には、GPブレスがはめられていた。それを見て、誠人は確かめるように問いかける。
「あの・・・訊くまでもないことだとは思うんだけど・・・・・・君も、銀河警察の・・・?」
「うん。ボクはミュウ、銀河警察太陽系支部の、新米刑事です」
GPブレスに自分のデータを浮かび上がらせると、ミュウは自らの名を名乗った。
「やっぱり・・・初めまして、僕は虹崎誠人。ミュウ刑事、君の任務ってもしかして・・・」
「うん、あなたの護衛役。・・・正確には、あなたを護衛するミナミ先輩達を手伝うのが、この星におけるボクの任務。銀河警察の刑事としては、初仕事なんだ、これが」
「そっか・・・・・・じゃあ、今後ともよろしく、ミュウ刑事」
「うん、こちらこそ。・・・でも、なんか大変な状況みたいだね」
先ほどの誠人の様子を思い出し、ミュウが怪訝そうに声を上げた。
「そうなんだ。実は今、ユナイトハンターに狙われてて・・・ん?」
事情を説明しようとしたその時、誠人がある異変に気付いた。周囲から、どことなく焦げ臭いような、煙のような臭いが漂ってきたのだ。
「この臭い・・・まさか!」
同じく異変に気付いたミュウが、嫌な予感と共に洞窟から顔を出す。やがて洞窟の入り口から、彼女の金切り声が聞こえてきた。
「大変だ!木が・・・燃えてる!」
「何!?」
痛む左腕を押さえながら、誠人も洞窟から顔を出す。すると遠く前方に立つ木々の一部が、真っ赤な炎に包まれて燃えていた。
「よし、もっと燃やせ!この炎でいぶり出してやるんだ!」
程なく遠くの方から、ソルジャーロイドを従えたコモン・グリーバスが姿を現した。彼の命を受けたソルジャーロイド達がさらに周辺の木々に火を放ち、火勢を拡大させてゆく。
「ああ・・・あああ・・・・・・」
その炎を見たミュウの脳裏に、ある光景がよぎってきた。――辺り一面火の海に包まれる、美しかった森林地帯。風に煽られて勢いを増した炎が、やがて山々を、田畑を、そして家々を包み込んでいく。まだ幼かった彼女は、それをただ立ち尽くして見ていることしかできず・・・・・・
「・・・ミュウ刑事?」
ただ事ではない様子のミュウを心配して声をかけた誠人だったが、彼女はそれに答えることなく小さく声を上げた。
「やめろ・・・」
「・・・え?」
先ほどのミュウとは別人のような、低く鋭い声。それを聞いて驚く誠人を尻目に、ミュウは怒りに満ちた眼差しでソルジャーロイド達を睨み付けた。
「これ以上・・・森を傷つけるな!」
そう叫ぶや否やミュウは洞窟を飛び出し、GPブレスから光線を放ってソルジャーロイド達を破壊していった。彼女はまだ火が放たれていない木々を素早く飛び移り、相手の視界の外から攻撃を放って敵を翻弄する。
「ちっ、何だ今度は・・・?うざってえ!」
次々とソルジャーロイドが破壊される光景に苛立ちを募らせながら、コモンは手にした剣にオーラを纏わせ、それを振り払ってミュウが降り立った木に向けて放った。その一撃で木は真っ二つとなり、ミュウが地面に着地して難を逃れると同時に、伐られた木が地面に落ちて轟音を上げる。
「ミュウ!」
ミュウの後を追ってきた誠人が、彼女のもとまで追いついた。それを見たコモンが、にやりと下卑た笑みを浮かべる。
「やっと見つけたぜ。さあ、大人しく俺の手に落ちろ」
「あんた・・・・・・この人を捕まえるためだけに、こんなひどいことしたの?」
炎に包まれる木々に心を痛めながら、ミュウがコモンを睨んで問い詰めた。
「はっ!それがどうした!?そいつは金の卵を産む鳥だ、そいつさえ手に入りゃ、こんな森がどうなろうが知ったことか!」
平然と言い放ったコモンに、ついにミュウの怒りは頂点に達した。
「ふざけるな!お前なんかのために、これ以上この森を壊させてなるもんか!」
「待て、ミュウ!」
今にもコモンに突っ込まんとするミュウを、誠人は何とか制止した。
「あいつはかなりの剣豪だ、君一人が挑んでどうにかなる相手じゃない。・・・でも、僕とならもしかしたら・・・!」
「・・・それって、もしかして・・・」
真意を確かめるようなミュウの問いかけに、誠人は力強くうなずいてみせた。それを見て彼の決意を悟ると、ミュウは懐からブランクカードを取り出す。
「分かった。少しだけ待ってて・・・!」
『Authentication start、please wait a moment.』
ミュウは手にしたブランクカードを、自らのGPブレスにかざした。だがそれを、コモンがただ見ているはずもない。
「へっ、何突っ立ってやがるんだ!?」
いきり立って叫びながら、コモンが剣を手に誠人達に突っ込む。その攻撃をかわしながら、誠人は二枚のカードをGPブレスにスキャンさせた。
『Start UP、Land Tiger』
『Start Up、Aqua Dolphin』
誠人が実体化させた二体のプラモデロイドが、コモンを攻撃して時間を稼ぐ。そしてついに、待ち望んでいた瞬間が訪れる。
『Authentication complete.Allow combat as Iris.』
「よし・・・!誠人さん!」
ミュウは変化したカードを手に、誠人のもとに駆け寄った。彼女が差し出した緑色のカードには、『FOREST』と刻まれていた。
「・・・あ!いました、あそこです!」
それと同時に、炎を見て駆けつけたミナミ達が、誠人達を発見した。彼の隣に立つ見知らぬ少女の姿に、キリアが思わず声を上げる。
「あの子・・・だあれ?」
「あんたら通信を切ってたから気づかなかっただろうけど、長官から連絡があったんだよ。新米刑事を一人送るから、そっちでいろいろ教えてやってくれ、ってね」
「じゃあ、あの子は・・・!」
悟ったように声を上げるレイにうなずくと、カグラはミュウと誠人に視線を戻した。
「さあ、見せてもらおうじゃないか。あたし達同様イリスとして戦う、五人目の刑事の力を・・・!」
そう口にしたカグラの視線の先で、誠人は腰に装着したイリスバックルを待機モードにした。そして受け取った新たなカードを、バックルの認証部分にかざす。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete』
電子音声が響き渡ると同時に、ミュウの体が緑色の鎧となって、誠人が姿を変えたイリスの強化スーツの上に装着されていった。そして完全に合体が完了すると、複眼が黄色い輝きを放った。
『怒れる大自然!フォレストアーマー!』
新たな姿になったイリスに、コモンが剣を握り直す。それを見たイリスも、ベルトからプラモデラッシャーを召還する。
『プラモデラッシャー!・・・それと、新しいパーツ!』
イリスが拡張パーツをプラモデルに投げ込むと、プラモデラッシャーは弓のような形状・アローモードになってイリスの手に収まった。襲い掛かるコモンの一撃をかわして近くの木の枝に飛び乗ると、イリスは右手で弦を引く構えを取って緑色の光の矢を形成し、弓を持つ左手でトリガーを引くと同時に右手を離して矢を放った。
「うっ!くっそ・・・!」
剣の達人であるコモンは矢の攻撃を弾き飛ばすが、次から次へと放たれる矢の連撃を受け止めきることができず、ついにその攻撃がヒットし始めた。イリスは身軽に木から木へと飛び移って矢を放ち続け、戦いを有利に進める。
「カグラ、あのユナイトハンターについて調べて。私はこれから、火を消すから」
レイはカグラに敵の調査を託すと、両手を燃える木にかざして念じるように目を閉じた。すると空気中の水分が大量の水へと変化し、レイの両手に蓄えられていく。
「はっ!」
レイが目を開けて短く掛け声を放つと同時に、蓄えられた水が木を燃やす火に向かって放たれた。その水流は木々を包む火をかき消していき、物の数秒で全ての木々の消火が完了した。
「す・・・すごい・・・」
一部始終を見ていたキリアが、呆気にとられたようにつぶやく。レイは肩で大きく息をつきながら、その場に膝をついた。
「レイ!大丈夫ですか!?」
「・・・これかなり疲れるから、あまりやりたくなかったけど・・・・・・カグラ、あいつの身元は分かった?」
「あ、ああ・・・スラブ星人コモン・グリーバス、32件の違法な人身売買、さらに複数の殺人、放火、器物損壊の罪で、レッドレベルの手配がかけられてる」
「なら容赦は無用ってことですね?誠人さん、そのまま決めちゃってください!」
「ああ、分かった!」
プラモデラッシャーから矢を放ちながら、誠人はミナミに叫び返した。コモンは剣にオーラを纏わせて衝撃波を放ったが、イリスはその攻撃をかわして空中から矢を連続で発射し、コモンの体に直撃させて吹き飛ばす。
「ミュウ、決めるぞ!」
『うん!』
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
イリスはベルトのホルダーからフィニッシュカードを引き抜き、プラモデラッシャーの認証部分にスキャンして再び弓を引き絞る動作を取った。すると周囲の自然の力がプラモデラッシャーに充填されてゆき、緑色に輝く巨大な光の矢が生成される。
「野郎・・・おりゃああああああああああっ!!」
ダメージの連続で半ばグロッキーになりながらも、コモンは最大級のオーラを剣に纏わせ、振り払って衝撃波をイリスに向けて飛ばす。それを見たイリスもプラモデラッシャーのトリガーを引き、つがえていた光の矢を放った。
『フォレストインパクト!』
放たれた光の矢はコモンの放った青い衝撃波を吸収し、さらに威力を増して一気にコモンに迫り、その体を貫いた。貫かれたコモンは断末魔の叫びを上げながら内側から爆発し、跡形もなく消滅するのだった。
☆☆☆
「・・・!誠人君・・・!」
数分後。ミナミ達と共にようやくホテルに帰ってきた誠人を、玄関ロビーで待っていた茜が出迎えた。
「ただいま。・・・ごめん、ずっと待たせて」
「ううん、いいのよ。・・・あら、その子は?」
初めてミュウの姿を見た茜が、不思議そうな顔で誠人に問いかけた。するとミュウがお辞儀をしながら、茜に自らの名を名乗る。
「初めまして、虹崎茜さん。ボクはミュウ、新しくこの星に来た銀河警察の新人刑事です」
「彼女が、僕を助けてくれたんだ。母さん、この子も、僕達の仲間として認めてくれないかな?」
「もちろん!誠人君を助けてくれた以上、この子も立派な刑事の一人。・・・ミュウちゃん、誠人のこと、これからもどうかよろしくね」
「はい、こちらこそ!・・・ねえ誠人さん、一つお願いがあるんだけど・・・」
少し気恥ずかしそうな表情で、ミュウが誠人に相談を持ち掛けた。
「ん?何だい、ミュウ?」
「その・・・あなたのこと、今後は『誠人君』って呼んでいい?・・・なんかそっちの方が、親近感がわく気がして・・・」
何事かと軽く身構えていた誠人だったが、ミュウの言葉を聞いて思わず笑みを浮かべた。
「ああ。僕のことは、好きに呼んで」
「本当!?・・・ありがとう、誠人君!」
誠人の計らいに、ミュウは安堵したような笑みと共に礼を述べた。それを微笑ましく見つめる茜やレイ達とは対照的に、ミナミだけが一人、敵視するようなまなざしをミュウに向ける。
「くぅっ・・・また一人、面倒なのが増えましたね・・・!」
「大丈夫。きっとあの子、お兄ちゃんとはそういう関係にならないから」
「私も同感。その気もない年下の後輩にやきもち焼くなんて、ミナミはなんて自意識過剰な子」
「な・・・何を―!?」
キリアとレイに冷静にツッコまれ、ミナミが思わず大声を上げる。だがその時、三人のGPブレスに同時に通信が入った。
「げっ・・・うちのボスからです・・・」
「どうしよう・・・通信切ってたってバレたら、キリア達大目玉だよ・・・」
「お・・・落ち着いて二人とも。こ、ここは、とりあえず適当な言い訳を・・・」
「させるわけがないでしょうが、この馬鹿チンども!」
カグラの怒声が、ロビー中に響き渡った。その様子を見て、事情を知らないミュウが無邪気に誠人に問いかける。
「ねえ誠人君、あの三人何をやらかしたの?」
「あ、あはは・・・それはまあ、色々ね・・・」
誠人は苦笑いを浮かべながら、三人が嫌々ジョージからの通信に応じるのを見つめていた。そして大方の予想通り、彼女達はこっぴどくジョージに絞られることになるのだった。
第7話、いかがだったでしょうか。
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