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チーム・イリスの事件譚  作者: 髙橋貴一
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第4話「水火の交わり」前編

 数分後。誠人は家の近くにある小さな公園に、ミナミを連れ出していた。

「何です、話って?・・・もしかして、ついに私の愛を受け入れてくださる気になったのですか!?」

「レイさんとカグラさんのことなんだけどさ」

 ミナミの言葉を華麗にスルーすると、誠人はずっと訊きたかったことをミナミに尋ねた。

「どうしてあんなに仲が悪いのか、君は知ってるのか?・・・ほら、ほんとはすぐに訊ければよかったんだけど、カグラさんが来てすぐ君は入院しちゃったし、あの二人に直接訊くわけにもいかないから・・・」

「ああ、それなら簡単な話です」

 淡い期待を打ち砕かれて露骨に不機嫌な表情を浮かべると、ミナミは二人の不仲のわけを語り始めた。

「レイの生まれ故郷である惑星オケアノスと、カグラの故郷(ふるさと)である惑星フラマーは、何百年もの間戦争を続けてきた、いわば宿敵の関係なんです。その仲の悪さは筋金入りで、今から7、8年前に銀河警察の仲介が入って、ようやく停戦したくらいなんです。・・・まあぶっちゃけた話、二人の仲が悪いのは、種族的な問題ってことになりますね」

「じゃあ、お互い人として嫌い、というわけじゃなくて・・・」

「まあそれもあるかもしれませんけど、大方の理由は相手が敵の星の人間だから、だと思いますよ。でも、そこに必要以上に深入りしたって何の利益もありません。私もたまにはさっきみたいに口を出すこともありますけど、もうほとんど諦めてます、あの二人に関しては」

「そっか・・・・・・でも、どうにかできないものかな・・・」

 考え込むような誠人の口ぶりに、ミナミは何か嫌な予感がした。

「・・・もしかして誠人さん、あの二人を仲良くさせようとか、そんなこと考えてるんじゃないでしょうね?だとしたらやめておいた方がいいですよ。下手したら、両方から嫌われることになりかねませんし」

「でも、あの二人は同じ任務のためにこの星にやって来た、いわばチームメイトじゃないか。そのチームメイトがいがみ合ってるところなんて見たくないし、不仲のままだと任務に支障を来すことだってある。ミナミ、それはあの二人との付き合いが僕より長い、君の方がよく分かってるんじゃないのか?」

「だからこそ言ってるんです。あの二人が仲良くなるなんて、天地がひっくり返ったってあり得ない話なんですから。・・・とにかく、無理にあの二人を仲良くさせようなんて馬鹿なこと、二度と考えないでくださいね。これは、誠人さんのためを思って言ってるんですよ」

 ミナミはそう言ってその話題を打ち切ると、大股で虹崎家に戻り始めた。誠人は小さくため息をつくと、その後を追って歩き出すのだった。


☆☆☆


 その夜。かつて遊園地だった廃墟に、三人組の若者が足を踏み入れていた。

「お・・・おい、ほんとに入る気かよ?」

「おい、今更何ビビってんだよ?都市伝説が本当かどうか確かめて、その映像を動画にしてアップするっつったのお前だろ?」

「そ・・・そりゃあそうだけどさ・・・」

「いいからさっさと確かめようぜ。どうせ都市伝説なんて、9割方嘘なんだからよ」

「そうそう。ほら、行くぞ」

 仲間二人に促され、怖気づいた最後の一人がようやくその足を進め始める。三人が入っていったのは、かつてお化け屋敷であった古びた建物だった。

「『このお化け屋敷跡に足を踏み入れた人間は、そこに棲みついた本物のお化けに閉じ込められて、死ぬまで出ることは叶わない』・・・なんて話、今時小学生だって信じやしねえよな」

「ま、まあな・・・でもさ、ここ何ヶ月かの間、マジでここに入った人達が行方不明になってるんだろ?」

「だから、それを含めて全部都市伝説なんだって。今から、それがただの言い伝えだってことを証明するんだよ」

 と、その時であった。一番後ろでカメラを回していた男性の背後で、何かがすっと動いた。

「な、何だ!?」

 慌ててカメラを向ける男性だが、そこには何もなかった。その声を聞いて、残る二人も後ろを振り返る。

「お、おい、何か見たのか?」

「いや・・・動いた。何かが動いたんだよ」

「馬鹿言うなって。俺には何も聞こえなかった・・・」

 と、次の瞬間。今度は先頭を歩いていた男性の背後で、何かが風を切るような音を立てた。慌てて振り向く男性だが、そこには特段変わった物はない。

「なあ、もう出ようぜ。気味悪いって、ここ・・・」

「だ、だな・・・撮影中止だ。さっさと出よう」

「お、おい!待てって!」

 だが、もう遅かった。出口に向かおうとする三人の周囲を、無数の火の玉のような物がぐるぐると取り囲んだ。恐怖におびえる三人の目の前に、黄色く光る不気味な目が現れた。

「うわああああああああああああっ!!」

 男性達の叫び声が、廃墟の中にこだまする。だがその声は、外の誰にも届くことはなかった。


☆☆☆


「連続失踪?」

 数日後。ミナミを居間に呼び出した誠人が、ネットで見かけた気になるニュースについて説明を始めた。

「ああ。このサイトの情報が正しければ、ここ二ヶ月で30人近い人が行方不明になってる。しかもその人達は決まって、ある場所に肝試しに行くと言ってたらしい。その場所が・・・ここだ」

 テーブルの上に広げたノートパソコンを操作すると、誠人はある場所の情報を画面に映し出した。

「『旧わくわくカントリーランド』・・・?何ですか、ここ?」

「10年くらい前まで、遊園地だった場所だ。でも不況で経営が立ち行かなくなって、支配人が多額の借金を抱えて自己破産。お化け屋敷だった建物で首をつって自殺したって言われてる。・・・問題はそのお化け屋敷。実は、この遊園地跡を訪れて、何事もなく帰ってきてる人達も結構いるらしい。だけどその人達は決まって、お化け屋敷だった建物には、足を踏み入れていないそうなんだ」

「つまり・・・このお化け屋敷跡に入った人達だけが、不可解な失踪を遂げていると?」

「そういうことなんだと思う。・・・なあミナミ、この遊園地跡、少し調べてみないか?・・・なんか、嫌な予感がするんだ」

「・・・その嫌な予感って、異星人絡みな感じですか?」

「ああ。こういうときほど当たるんだ、僕の勘は。・・・ミナミ、退院早々すまないけど、君の力を借りられるか?」

 誠人の問いかけに、ミナミは表情を輝かせてうなずいた。

「もっちろんです!もしこの失踪が異星人絡みだったら、銀河警察として放ってはおけません!誠人さん、明日にでも調査に向かいましょう。何なら今すぐにでも!」

「そっか、ありがとう。・・・なら、レイさんとカグラさんにも、一緒に来てもらおう」

「え?あの二人にもですか?」

 誠人の言葉に、ミナミは思わず素っ頓狂な声を上げた。

「ああ。だって、あの二人も銀河警察の刑事だ。退院したばっかのミナミ一人を付き合わせるわけにもいかないし、あの二人の力も借りる方がいいと思う」

「いや、あの二人を同じ現場に向かわせるのはいかがなものかと・・・せめて、どちらか一人にするべきじゃ・・・」

「それじゃ何かが起こった時、十分な対応が取れない可能性がある。万一のことを考えると、人手は多いに越したことはない。だろ?」

「そ・・・それはそうですが・・・」

「とにかく、あの二人には僕から声をかけておく。調査開始は明日の夜、頼んだぞミナミ」

「あ、誠人さ・・・」

 ミナミの反論を受け付けないかのように、誠人はパソコンを閉じて居間を後にした。この先の展開を予想すると、ミナミは一人ため息をつくのだった。


☆☆☆


 そして、次の日の夜。誠人とミナミ、そしてレイとカグラの四人組が、旧わくわくカントリーランドまでやってきていた。

「ここなの?例の遊園地跡って」

「そうです。ネットの情報を勘案すると、やはりお化け屋敷跡に入った人達だけが失踪しているようなんです。僕らの手で、この連続失踪の真相を掴みましょう」

 カグラにそう答えると、誠人は先頭になってお化け屋敷跡を目指し始めた。その途中、レイとカグラはちらちらとけん制するようにお互いを睨んでいたが、ついにレイが限界に達して誠人に声をかける。

「ねえβ、やっぱり四人も必要ないんじゃない?・・・出来たら私、この場から失礼したいんだけど・・・」

「駄目です。もし本当に異星人絡みの事件だとしたら、何が起こるか分かったもんじゃありません。ここは、銀河警察の刑事である三人の力が必要なんですよ」

「ま、少年がそう言うならしょうがないけどさ・・・・・・でも、もし怖いっていうなら帰ってもいいんだよ、レイ?」

 煽るようなカグラの言葉に、レイは珍しく顔を真っ赤にして反論した。

「べ、別に怖いなんて誰も言ってない!・・・こうなったら、意地でも私が一連の失踪の謎を暴いてやる!」

 叫ぶように口にすると、レイは誠人を追い抜いて先に進み始めた。それを見て不安そうな表情を浮かべるミナミとは対照的に、誠人は含みのある笑みを浮かべる。

 やがて、四人はお化け屋敷であった建物へと辿り着いた。建物の玄関は長年雨風に晒されたことで腐食しており、風が吹くたびに取れかけた飾りがカラカラと不気味な音を立てた。

「こ、ここですか・・・なんか、見るからに不気味ですね・・・」

 元々通行人の興味を引くためにあえて怖いデザインを施されたお化け屋敷の外観は、雨風に晒され腐食したことで別の意味での恐ろしさを見る者に感じさせた。ミナミは声を震わせると、思わず隣にいた誠人の腕にしがみついた。

「おいミナミ、こんな状況だからってくっつくなって」

「そ、そういうのじゃないんです・・・・・・あの、割とマジで怖いんですけど・・・・・・」

「ふん、所詮は子供だまし。こんなの、銀河警察の養成所時代に体験した、恐怖訓練に比べればなんてことはない・・・!」

 先ほどカグラに煽られてむきになっているレイが、真っ先に建物の中に足を踏み入れた。

「へえ、オケアノス人にしては度胸あるじゃん。・・・んじゃ、あたしも・・・!」

 レイに負けじと、カグラも建物の中に踏み入る。誠人は怯えるミナミを引きずるように、二人の後に続いて建物の中に入った。

「うーん・・・見た感じは、普通の廃墟ってところですけどね・・・・・・」

 数分後。建物の中をGPブレスのライトで照らしながら、誠人は周囲を見渡して声を上げた。

「と・・・ととと、とにかく早く出ましょうよ、誠人さん。やっぱり、ただの都市伝説だったんですって・・・!」

「おい、恐怖訓練とやらはどうしたんだ、ミナミ」

 そんな二人のやり取りを尻目に、レイとカグラの二人は徐々に建物の奥へと進んでいった。GPブレスのライトで周囲を警戒していたカグラが、ふと思いついたように声を上げる。

「あ、そうだ。万一のために、こいつ出しとこ・・・」

『Start Up、Magma Scorpion』

 カグラが呼び出したプラモデロイド・マグマスコーピオンが、彼女の周囲を警戒する。それを見て、少し先を歩いていたレイが嘲笑うように声を上げた。

「あら、あなたこそ怖気づいてるんじゃなくって?こんな子供だましも同然の場所に、プラモデロイドを呼び出すなんて」

「う・・・うるさいな!いついかなる時も警戒を怠らないのが、刑事としての基本でしょ!?」

「・・・誠人さん。やっぱりあの二人を一緒に参加させるの、失敗だったんじゃないですか?」

 前方から聞こえてくる二人の口論に顔をしかめながら、ミナミが誠人に苦言を呈した。

「いや、これでいいんだ。あの二人には、一つの共通の目的のために力を合わせる機会が必要なんだと思う。これなんか、まさにうってつけだろ?」

「・・・まさか誠人さん、まだあの二人を仲良くさせようとか考えてたんですか?私、やめといた方がいいって言いましたよね?」

 少し怒ったような表情で、ミナミが誠人に詰め寄った。だが誠人も、決して自分の考えを曲げようとはしない。

「でも、いつまでも犬猿の仲、っていうわけにはいかないだろ?人として嫌い合ってるのなら仕方ないけど、そうじゃないんだったらきっと・・・」

 と、その時であった。二人の先を進んでいたレイが、ある物を発見した。

「この壁・・・作りが他と違って新しい・・・」

 レイはGPブレスを戦闘モードに切り替えると、壁に向かって光線を発射した。その一撃で壁が崩れ、その中に隠されていたものが露わとなる。

「・・・!皆、こっちに来て!」

 レイの声に、カグラや誠人達が一斉に彼女のもとに集う。そこで彼らが目にしたのは、不気味な光を放つ数十台のカプセルと、その中に閉じ込められた人々の姿であった。

「な・・・何だ、これ・・・?」

「・・・コールドスリープ用のカプセルね。大丈夫、中の人達は死んでない」

 思わぬ光景に声を上げた誠人だったが、レイの言葉に少しだけ安堵した。

「でも、これが何かよからぬ目的で使われてるってことは確かなようね。ほら、見てこれ」

 そう言うと、カグラはカプセルに閉じ込められた人々の頭を指さした。彼らの頭にはカプセル内部から伸びるチューブのような物がはめられており、そこから不気味に光る何かを吸い上げていた。

「ほんとだ・・・一体、何を・・・?」

「ふふふ。気づいてしまったね、銀河警察の諸君」

 誠人が再び声を上げたその時、建物中に男の声がこだました。同時に四人の周囲を、黄色く光る無数の目が取り囲む。

「だ・・・だだだ、誰ですかあんた!?おおお大人しく出てきなさい!」

「ふむ、そこの怖がりの女の子は、ガイア星人かな?まあいい、私はブラック星雲第二惑星からやってきた、『恐怖喰い』のガラ。私はヒューマノイドの恐怖の感情が大好きでね、そこの連中には今、とびっきりの恐怖体験を味わってもらっている。夢の中の世界でね」

『夢の中の世界』。そう聞いた瞬間、カグラはある可能性に思い至った。

「夢の中・・・?まさか、この機械が吸い上げてるのって・・・!」

「そう、夢の中で恐怖の感情を覚えた時、カプセルはその感情を吸い上げる。そして吸い上げられた恐怖は、私にとって極上の餌となる。幸いにも、この星には馬鹿なヒューマノイドがたくさんいる。何人も行方不明になってる場所だというのに、新たな獲物が興味本位でやって来るのだからね」

「御託はもう結構。そろそろ正体を見せたらどう?」

 レイはそう言い放つと、GPブレスを無数の目に突き付けた。

「君達銀河警察に用はない・・・と言いたいところだが、君達はここの秘密を知ってしまった。気づかなければ手を出さず帰してやろうとも思ったが、もうそういうわけにはいかない。君達には彼らと同じように、恐怖を提供するドナーの仲間入りをしてもらおう」

 その言葉が終わった瞬間、四人の足元の床が突然横に開いた。四人は短い叫びを上げながら、落とし穴の中へと消えていった。

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