第34話「故郷と友情のはざまで」アバン
第34話です!今回は、以前よりレイに連絡を取っていた人物が、ついに表舞台に登場します。サブタイトル通り、故郷と友情の間で揺れ動くレイの姿にご注目ください!
「昨晩、オケアノス星人民軍のトップが会見を開き、同惑星の実権を掌握したと表明しました。事実上のクーデターと見られています」
それは、あまりにも唐突な報せであった。ジョージから送られてきたニュース映像を目にし、誠人達、特にレイは言葉を詰まらせた。
「一週間前、我が星の無人衛星が、何者かの攻撃を受けて撃墜されました。我々は様々な状況証拠から、フラマー軍による攻撃の可能性が極めて高いと判断。同惑星への対応に及び腰な政府を追放し、暫定的ではありますが、新たな政権を発足することとなりました」
「はあ!?なんでフラマーが衛星を撃墜する必要がある!?フラマーとオケアノスは、平和的に停戦協定を結んだじゃないか!」
「カ、カグラ先輩、落ち着いて・・・」
ニュースに映る上等な制服を着た軍人の言葉に、ミュウと共に虹崎家を訪れていたカグラが怒りの声を上げた。ミュウは必死に彼女をなだめようとしたが、その努力を踏みにじるように男の言葉は続いた。
「我がオケアノスはこれ以上、フラマーの卑劣な協定違反を黙認することはできません。そこで不本意ではありますが、フラマーとの協定を正式に破棄し、同惑星に宣戦を布告します」
「宣戦・・・布告・・・!」
男の言葉に、誠人は目を丸くしながら小さくうめいた。一方のカグラは拳を握り締めると、近くにあったテーブルに勢いよく振り下ろした。
「くそっ、オケアノスが・・・・・・卑劣なのはどっちだ、くそったれ!」
怒りの感情を抑えきれず、カグラは再びテーブルを叩きつけた。しばらく荒い呼吸をついていた彼女だったが、視界に複雑な表情でうつむくレイを捉え、その怒りは徐々に収まっていった。
「ごめん・・・つい、頭に血が上って・・・」
「ううん、いいの。むしろ、謝らなきゃいけないのは私」
レイは心から申し訳なさそうに、カグラに謝罪の言葉を述べた。
「私の母星が、あなたの故郷に攻撃を仕掛けようとしてる。だけど、私はそれをどうすることもできない。だから・・・こめんなさい、カグラ」
「何言ってんだよ・・・あんたは何も悪くないよ」
レイの肩を抱きながら、カグラが慰めるように言った。
「オケアノスはオケアノス、あんたはあんたじゃないか。あんたは今回のことには何の関係もない。あんたが謝る必要なんて、これっぽっちもありゃしないんだよ」
「カグラ・・・・・・」
レイは顔を上げると、どこか哀しそうな笑みをカグラに向けた。
「ありがとう、そう言ってくれて」
「現在、オケアノス軍の証言の真否を確かめるため、検証チームを派遣したところだ。軍がすんなりと証拠を出すかは分からないが、とにかく、我々も平和的解決を望んでいる」
「そうでしたか・・・なら、安心でございますね」
ジョージの言葉に、シルフィがほっと安堵の言葉を漏らす。だが、それが何の意味も持たないことを、レイはただ一人理解していた。
(平和的解決なんて無理・・・・・・だって、軍の狙いは・・・・・・)
「フラマーを・・・攻撃する・・・?」
「そうだ。フラマーは我がオケアノスの、数百年来の仇敵。血を流して死んでいった我が祖先、同胞達に報いるには、フラマーという病原菌を根絶せねばならぬ。例え、銀河警察の意向に背き、銀河中の全ての星を相手にすることになってもだ」
それは、昨日の晩のこと。レイにいきなり連絡を取ってきたオケアノス軍の将軍が、断固とした口調で言った。
「まさか・・・そのためだけに、クーデターを・・・?」
「そうだ。銀河警察の顔色ばかりをうかがう弱腰の政府には、もはやフラマーを倒す力はない。力を持つ我らが政権を握ってこそ、打倒フラマーという数百年来の悲願が果たせる」
どこか酔いしれたように言うと、将軍はふと思い出したように言葉を発した。
「そういえば、君の同僚にフラマー出身の者がいたな?名前は、確か・・・カグラ・カルメシー」
カグラ・カルメシー。その名を聞いた瞬間、レイは心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。
「将軍・・・まさか、チャンスって・・・」
「360号、3日の猶予を与えよう。我がオケアノスへの忠義の証として、フラマー人の首、見事挙げてみせよ・・・!」
その命令を最後に、将軍は通信を打ち切った。あまりに突然の出来事に、レイはただただ震えることしかできなかった。
「そんな・・・・・・カグラを、殺せだなんて・・・・・・!」
「レイ、これだけは覚えといて。たとえこの先、フラマーとオケアノスの間に何があろうとも・・・・・・あたしとあんたは、ずっと仲間だ」
レイの目をまっすぐ見つめながら、カグラはそう言い切った。レイはそれに小さくうなずきながら、声を震わせて言葉を返した。
「うん・・・そうね・・・・・・私とあなたは、ずっと仲間・・・」
声だけでなく、体も小刻みに震えるのをレイは感じていた。彼女はそんな自分を励ますように、手をぎゅっと握り締めながら言った。
「そう・・・ずっと、仲間・・・・・・」