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選ばれるのは髑髏でした

 学校をサボってエレシィとおでかけ。

 エレシィは昨日倒れていたときと同じ服を着ようとしたので、わたしの服を貸していた。似たような服を着ている二人が並んでいる姿は姉妹みたいだ。

「エレシィって兄弟姉妹いるの?」

「お姉ちゃんがいるよ!」

「案内人やってるの?」

「お姉ちゃんは案内人というか仕分け人かな? 天国行きか地獄行きかを審査する感じ」

「それってめっちゃ偉いんじゃ?」

 閻魔大王じゃん。

「そうだよー! お姉ちゃんくらいの若さでそんな役職に就けるなんて滅多にないんだよ!」

 若さには突っ込まない。

 何歳であろうともエレシィより上ということは、桁外れなのはわかっている。


「じゃあいつかはエレシィも偉くなるんだ」

「んー。私は無理かなあ」

「どうして?」

「だって、こんなだよ?」

 たしかにいまの姿を見てもその出世を想像することはできない。二百年生きていても見た目はかなり若いし、あと何百年経てば威厳のある風格を得られるんだろう。

 一生無理なような……。

 いつまでもこの緩い感じを保ってそう。

「いま失礼なこと考えてるでしょー」

「カンガエテマセンヨ?」


 平日の通勤通学時間帯を終えているため住宅街の人通りは少ない。天気が良く、人気の少ない住宅街の雰囲気がなんとなく好きだ。日常にある非日常感的な。

 まあいまは非日常の中にいるんだけど。

 しばらく歩いたし、もしかしたらと思って訊く。

「どう? 仲間いる?」

 エレシィは首を横に振った。

「そう簡単には出てこないよ。もっとこう草をかき分ける感じで捜さないと」

 そんな希少生物みたいに。

 いや希少っぽいけども。

「そんなんでよく顔合わせられたね。親睦会みたいなのがあったとか?」

「少しだけあったけど……」

「ん?」

「『よろ』で終わった……」

「二文字……」

 コミュ障ってレベルじゃない。大丈夫かい、死神界。


 ニ十分ほど歩いて、一番近くの大型ショッピングセンターに着いた。だいたいの買い物はここで済むためよく利用している。少し遠いのもいい運動になっていい。

「なに買うの?」

「エレシィの分の食器とかかな」

「え、いいの? 私、お金ないよ」

「百均でちょろっと買うだけだし大丈夫だよ。布団は実家から送ってもらえるけど、届くまでは我慢してね?」

「ずっと一緒でも平気だよ!」

 わたしが平気じゃないんです。

 昨晩のことを思い返す。

 エレシィの寝相が悪いわけじゃない。ただわたしを抱き枕のように扱い、コアラのようにしがみついてくる。数日なら耐えらそうだけどずっととなると正直つらい。

 お姉さんがいるって言っていたし、甘えん坊気質なのかもしれない。


 エスカレーターで二階に行き、その傍にある百均に入る。どうしてだか百均という店は何時であろうとも混雑している。

 人の波を掻い潜って、まずは食器コナーに向かった。

「どれにする?」

「えっとねー」

 こんな感じで各コーナーをあらかた回り終えたあと、改めて買い物かごの中を眺める。

 黒地にドクロばっか……!

 なんでこんなにドクロがあるの……。選ぶ方も選ぶ方だけど、仕入れる方も仕入れる方よ。


「死神はこういうのが好きなの?」

「なんか親しみやすくってー」

 照れたように頭をかくエレシィ。

 食器類はともかく服を選ばさせるのもやめよう。男子小学生みたいなドクロの服ばかり選びそうだし。せっかく可愛いのにもったいない。

 会計を済ませて、次の店に移動する。一式揃えるとそれなりに重たいと思ったけど、最近のは結構軽くなったみたいだ。

「あ! あれいいな!」

「どれ?」

 振り向いてみると、そこは雑貨屋だった。店頭はネオンで煌びやかに装飾され、いかにも入りがたい雰囲気だ。

 そしてその店頭に、こっちを睨むように髑髏があった。

 エメラルド色に輝く髑髏のカップだった。

「だめです」


「ここはどんなお店なの?」

 少し肩を落としてからエレシィが訊いてきた。

「サブカルチャー系――なんか若者が好きそうな感じのものが売ってるところ、かな」

 雰囲気と臭いが苦手で入ったことはないから詳しくないけど、たしかそんな感じだったと思う。

「へえ……」

 興味津々のご様子。子供のように目が輝いている。

 一応言っておこうかな。

「本物じゃないよ?」

「わかってるよ!」


「もしかして死神がみんな髑髏が好きだと思ってない?」

「違うの? だって仮面が髑髏じゃん」

「その理屈だと、天使は輪っか好きで、悪魔は角好きってことになるでしょ?」

 なるかな?

 死神の証が髑髏の仮面であるように、天使や悪魔にも証があるんだ。仮面とは違って免許証ってよりは種族の特徴っぽいけど。

「じゃあ普段は髑髏柄とか選ばないんだ?」

「うっ…………選ぶけど」

「やっぱり私服も髑髏なんだ」

 エレシィは静かに首を横に振り、どこか遠くを見つめる。

「それもお母さんに止められてるんだ」

「おぉ……」

 料理の件もそうだけど、お母さんたち頑張ってるなあ。


「しのかはおしゃれだよね! この服とか女の子らしくて可愛い!」

「わたしはマネキン買いしてるからねー。わたしがおしゃれなわけじゃないよ」

「マネキン買いって?」

「んとね」

 ちょうど服屋が近くにあったため、あんな感じ、と指さす。フルコーデされたマネキンが三体あった。

「ああ! 人体模型に服着せてるやつね!」

「やだよ、服取ったら内臓とか見えてるの」

 誰も買わなくなるよ。


「あれはお店の人が見本として飾ってるんだよ。参考にしてねって」

「なるほど。つまりしのかの服はプロが選んでるってことね!」

 お、なんかモデルとか芸能人っぽくていい表現。

 今度から使お。

 そんなことを考えていると、エレシィがマネキンにそそくさと近づいて行った。それからジロジロとそれらを眺める。人に興味を持った犬みたいだ。

 そして案の定、服をめくった。シャツを裾をめくり、スカートとスラックスの中を見る。

「なにもないね」

「そこまで再現しないよ……」

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