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分けたのは能力でした

 今日の夕食は余っていた野菜を使った焼うどん。鰹節と醤油の香ばしい匂いが好きでよく作る。それに簡単だし。他人に食べさせたことはなかったけど、エルシィも気に入ってくれたようで箸が進んでいた。

 もはや飲んでいたようにさえ見えて少し怖かったのは秘密だ。


 お互いの皿が空いたところで話題を戻した。

「死神としての能力ちからはなにが残ってるんだろうね」

「さっきの感じだと物を出したりする力はちょっとは残ってるみたい」

 エレシィは自分の手を眺めた。開いたり閉じたりするだけで、さっきみたいにノートを出したりはしていない。

「でも、しのかが見つけることができたってことは他の人にも私の姿は見えるだろうし、物を出す力も不完全ってことは仕事道具も使えないし……。ええとつまり……詰んだ? 死神として詰んだ!?」

 頭を抱えて悶えるエレシィ。

 わたしと違って感情表現が豊かな子だ。


「でも、その能力は便利だよね」

 荷物が減るのはありがたいし、仕様はわからないけど無限に出し入れができるなら忘れ物もなくせる。生きていく上で手荷物が減るというのは意外と助かるものね。

 わたしもグーとパーを交互にやってみる。物を出すというのはどんな感覚なんだろう。見た印象だとやっぱり手品だ。こう、鳩をぽんと出すみたいな。


 ぽん。


 そんな音がして、手の中に紙の切れ端が落ちてきた。

 わたしもエレシィも目を丸くした。

「しのかって死神だったの……?」

「違うけど……。え、なにこれ」

 見間違いだと思って、今度は消してみる。またぽんと音がして切れ端が消えた。

 おお……。自分が思っていたことができている……。

 懐かしい感覚。


「手品?」

「そんな特技はないよ。んー、もしかしてあれかな」

「どれ?」

「エレシィが寝てる間に仮面で遊んだんだよね。こう、ポーズを取ったりして」

 刀がなかったのは残念だった。あればもっとポーズにバリエーションを持たせられたのだけど。


「それで死神の力が移ったってこと? ありえるのかなあ」

「でもほら、仮面って死神としての免許証? なんでしょ? 一時的とはいえ付けたら死神の力が使えるようになっても不思議じゃなくない?」

「たしかに!」

 凄い納得されてしまった。

 自分では納得できないけど、その他にこうして力が宿る原因は思いつかない。死神にとって重要な仮面だからそれくらい起きても不思議ではない気はする。


「そういえば、仮面が剥がれかけって言ってたし、それで能力がなくなりかけてたのかも!」

 正解を導き出して喜んでいる。

 いいの、それで。

 死神の力が戻るわけじゃないのに。

「仮面を付ければ元通りに!」

「ならないよ?」

「どうして!?」

「さっきダメだったじゃん。付け直そうとしたの忘れた? 涙のごとくぽとりと落ちたよ?」

「ショックすぎて忘れてた……」


「新しい仮面をもらうしかないんじゃないかな。再発行手続きはできないの?」

「できると思うけど、再発行には時間かかるかなあ。それに私から連絡ができないからまずは誰かに私を見つけてもらうしかないかも」

「見つけてもらう……」

 単純に考えて、一番の近道はこれしかない。

「誰かに死んでもらうっきゃないね」

「ひどすぎる! そんなこと言うもんじゃありません! みんな精いっぱい生きてるんだよ!」

 怒られた。

 お母さんに怒られたみたいだった。


「そもそもの疑問があるんだけど」

「なに?」

「死神ってこの街にどれくらいいるの?」

「常駐してるのは三人かな。大きな事故が起きたときは救援に来てもらえるよ」

「この街って大きくないけど、三人のうちのひとりが減るのは結構な痛手だからすぐに見つけてもらえそうだね」

「でも、この仕事に就いてる人ってあんまり他の人と関わろうとしない人多いんだよー。魂とは話せるけど死神同士は嫌だって」

「死神版コミュ障かい」

「コミュ障?」


「いやでも対人スキルド底辺死神だとしても、同僚がいなくなるのは気がかりになるものじゃないのかな」

「ここ三十年喋ってないとしても?」

「…………」

 そんな喋らないことあるー?

 死神の尺度が全然つかめない。三十五年喋らないってどんな冷え切ったカップルでも夫婦でもないと思うけど。


「じゃあ仕事が追い付かなくなることを祈るとか。地縛霊いっぱいカーニバルが始まれば、さすがに無視できないでしょ」

「いやいや。そんな恐ろしいことにはならないよ」

 手振りをつけて否定された。

「どうして?」

「魂の案内をしてるのは死神だけじゃないの。天使とか悪魔もこの仕事をしてるんだよ」

「結構競争激しいんだね」

 その中ならぜひ天使にご厄介になりたい。悪魔も死神もちょっと天国に連れて行ってくれる気はしない。


「……もしかして、見えないだけでこの部屋に天使とかいるの?」

「いないよ。私としのかだけ!」

「それはわかるんだ」

「感覚自体はなくなってないみたい。ちょっと集中すればわかるよ!」

 ということは見つけてもらうだけじゃなくて、こっちから見つけることもできるというわけだ。

 そう考えるとあまり深刻な問題じゃない。何十年かかるかはわからないけど、あるいはあっという間の時間で解決しそう。


「それじゃあ、いろいろと用意しないとだね」

「用意?」

「死神の力が戻るまではうちに住むでしょ?」

 わたしは一人暮らしだから、その分しか実家から持ってきていない。歯ブラシなんかは予備があるけど、布団なんかはひとつしかない。そのあたりは揃えないと。

 エレシィはぽかんと口を開けていた。

 なにか変なこと言ったっけ。


「お世話になっていいの?」

「なんか面白……あ、困ってる人がいたら助けないとね!」

 危うく本音がこぼれるところだった。

 気づいてない……気づいてないよね?

 ちょっと訝し気な表情してるかな?

「……うん! ありがと!」

 とりあえず今日は同じベッドかな。

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