知り合い
ゲームセンターをあとにした僕達3人は学校に向かった。朝の早い時間から校長の長い話を聞くのは憂鬱だったので思い足取りを無理やり軽くしようとしたがなかなか難しい。
雪は降っていないが残雪をザクザク踏みながら歩くのは妙に気持ちがいい。
途中に霜柱ができているところを発見した。今朝は気温が低いのか天気予報で言っていた気温より随分低かった。
その霜柱を楽しそうにザクザク踏む子供のような輝秋の姿を見て大きな大人が小さいものをふん漬けている図に少し虚しくなった。
クラスに行くと見知った顔が沢山ある。みんな席を離れ友達のいる所で話をしているのでポツポツとグループができていた。そのほとんどが僕と話したことが少ない。
先生が来て朝のホームルームが始まり、転入生が来たことをしった。
先生が転入生を呼びに行っている間少し教室がざわつき来はじめる。
「女の子?」
「さっき見たけど可愛かったぜ」
「どんな子なんだろう?」
しばらくすると先生が教室に戻ってきた。入学生は廊下に居るようで教室の中から扉に写る人影が目に入った。
先生が「はーい静かに」と言って教室がしんと静まる。
「入ってきて、西畑さん」
そう言うと転入生の子がガラガラとドアを開けて入ってきた。
西畑咲雪がそこにいた。
凛とした姿でちっとも楽しそうな感じはなくつまらなそうに焦点が合わない目でクラス中を見る。
冬休みに見た西畑咲雪とは全然雰囲気が違った。
その姿は髪が短く肩まで届くぐらいの長さだった。カリカリと黒板に名前を書く。
「初めまして、西畑咲雪と言います。よろしくお願いします」
短い挨拶にクラス内がざわざわとなる。
「あれっ、沙雪ちゃんじゃん」
「あぁ、そうだね」
後ろに座る輝秋が嬉しそうに言ってきた。面識のある輝秋がひそひそ話で僕の耳元で囁いた。
僕も少し嬉しくて、この後なんて喋ろうか考えていた。なんで冬休みの間連絡が取れなかったの、とか、髪切ったんだね、とか。
でも、どこを見ているのかわからない咲雪の表情を見てだんだ心配になっていった。
「西畑さんの紹介は後日行います。今日は先生ちょっと忙しくて………それでは西畑さん。前の空いてる席に座ってください」
「はい」
そう言って咲雪は一番前の教壇の前の空席に座った。
「はーいそれではホームルーム始めます」
担任の名越先生がよく通る声で言った。
「まず初めに、西畑さんの学校案内してくれる人いますか?」
するとクラスの、主に女子が手を挙げた、男子も彼女に興味があるのか数人手を挙げた。
後ろからよく響く声で輝秋が話し始める。
「はいはーい、オレたち咲雪ちゃんと知り合いなので学校案内しまーす」
「あら、そう、なら学校案内は戸田くんと仁科くんに任せます。西畑さんも知り合いの方が心強いものね」
「………はぁ」
****
朝のホームルームが終わりこれから始業式だ。俺達は次々に体育館に移動する。
その時少し休憩時間があるので咲雪と少し話そうと僕と輝秋は前の席に座る咲雪のところまで早足に移動した。
「おはよ咲雪ちゃん」
「おはようございます」
何故か敬語の咲雪に対して考えていた言葉を発する。
「髪………切ったんだね」
「………もともとこの長さですが」
咲雪は未だ僕達と目を合わせてくれずただ机とにらめっこしている。
「何言ってるんだよ、冬休み中はもう少し長かっただろ? 腰くらいまであったよな」
僕は輝秋に同意を求めようと目線を輝秋のいる方に移した。
「あぁ、どうしたんだよ咲雪ちゃん。なんか変だぜ」
「すみません……………私、戸田さんと、仁科さんとは会ったことはありませんよ……………今日が初めてです」
そう言われた瞬間僕と輝秋は目を合わせた。輝秋は驚いている表情をしている。僕もそうだろう。
「どうしたんだよ……………あぁ、そっか、冗談だろ。君はそういうやつだもんな。また僕をからかって楽しんでるんだろ? もうそろそろ種明かししていいぞ」
「あぁ、そういうことか。 なんだ咲雪ちゃん。別に髪切ったこと照れなくてもいいぞ」
咲雪はやっと僕らの方を見た。しかしその表情は困惑と怯えのものだった。
「あの、本当に2人とは今日が初めてですが? 勘違いされているのでは?」
僕はどうしていいのかわからなかった。ここまで言っているのに咲雪は全然僕をからかうことをやめなかった。僕達のことは知らない、そう言い張る咲雪。しかしその顔は見たことがあり人違いなんてことは無いだろう。
あぁ、もしかしたら咲雪の妹かもしれない。妹がいると言っていたのを僕は覚えている。双子の姉妹で姉の咲雪が………いや、でも先生は西畑咲雪と言っていた。ということは姉妹ということもないだろう。なら、何故僕達をからかうんだ?
だんだん僕は腹が立ってきた。
「おいっ、なんで嘘つくんだよっ」
「おい、輝春、落ち着けって」
「最初僕に話しかけたのは君じゃないか! なんでそんなことするんだよ。僕に話しかけたと思えば今度は知らないふりか? どこまで僕を振り回せば気が済むんだよ!」
完全に言い切ってしまった。僕は堪忍袋の緒が切れやすいのかもしれない。言い切ってから反省した。
見れば教室中から視線を集めていた。当然咲雪も驚いている。
「だから、あなたのことは知りません」
「……………………………」
「お、おい、に、仁科くん。そろそろ始業式始まるよ」
話しかけたのはよく名前も知らないクラスメイトの男子だった。
「ごめん」
それだけを言い残して僕はひとり体育館に向かった。後ろから足音が聞こえるので多分輝秋も着いてきているのだろう。
無言で僕に話しかけてこないところがまた少しの優しさなのかもしれない。
やっぱり校長の話は長くその日は僕は1人で家に帰った。