友達
冬休み5日目。今日は西畑咲雪がうちに来る日だ。
僕は机に突っ伏して項垂れる。卓上の時計を見ると朝の9時。彼女が来るまであと1時間。
部屋を見渡す。汚くはないが多少掃除をした。
僕は緊張しているようだ。初めて母以外の女の人を部屋に招き入れる。ゲーム機がなければあるのは本だけ。しかし彼女は本が好きなようには見えなかつた。
つまらないだろうな。
僕は残りの時間を寝て過ごすことにした。
ピンポーン。
家のチャイムがなった。僕はベットから起きあがり玄関まで行く。
重たいドアを開ける。
「おはよ」
「おはよう」
彼女は今日もオシャレな格好で来た。僕は少し視線をそらした。
その流れで中にまねきいれる。僕の部屋に案内してお茶を用意する。
「ありがとう」
「………で、今日は何しに?」
「遊びに」
それを言うと彼女は部屋を見渡す。少し驚いたように目を見開く。
「本だらけ」
「好きだから」
「なにする?」
「…………僕は本を読んでいるから、適当に本読んでいいから」
「つまんな」
咲雪はうへぇ、というようなことを言いそうな顔で僕を見る。
「もっと違うことしようよ」
「例えば?」
「ゲーム」
「ない」
「…………」
「………あっ、百人一首がある」
「つまんね」
と、言いながらも咲雪はめぼしい本があったのか本棚によって一冊の本を引き抜く。
その流れで僕も本を開いた。
「…………」
「…………」
そのまま1時間か過ぎた頃。家のチャイムがなった。
「誰か来たよ」
「彼女かもしれない………今日一緒に遊ぶ約束をしていたんだ。断わるとヒステリックになるから」
「嘘つけ」
咲雪は唇をとんがらせてブーブー言う。
僕はそれを無視して玄関に向かった。
扉を開けると、そこに居たのは冬にしては寒いんじゃないかと思うようなラフな格好をした、チャライケメンの僕の友達。
戸田輝秋。
前髪が長いのか後ろでとめている。茶髪が目立つ。
輝秋はポリポリと頬を掻きながらにヘラっと笑う。
「悪いな突然。しゅくだいみーせーて」
手に持っているカバンを片手に楽しそうに言ってきた。
「全然やってない」
そう言うと目を見開いて、
「うそっ! 計画的なお前がやってないなんてことないだろ!」
嘘ではない。今年の冬休みも計画的に宿題をやる予定だったが、西畑咲雪と毎日遊んでいるおかげでノート5ページ程しかやっていない。
「くそっ、俺の冬休みが終わっちまう」
「まだ5日しか経ってないだろ」
「5日も経っちまった。もう終わる」
「僕が宿題やってたとしても見せないからな」
「なんでっ! 俺たち友達だろ?」
「だからこそだよ」
口をとんがらせてブーブー言う。
そう言えば咲雪がいることをすっかり忘れていた。僕は玄関にある咲雪のスニーカーを見た。それを見て輝秋もその女性物のスニーカーを見てさらに驚いた声を出した。
「お前っ! 彼女か?! そうなのか?」
僕の肩をガシッと掴んで前後に振り回す。痛い。
「違う違う」
僕の肩を離して真剣な表情で問うてくる。
「じゃあ何なんだ?」
何なんだろう?
友達?定義が分からない。
彼女?それは無い。
何なんだろうと、悩んでいたらその沈黙をなんと感じ取ったのか、
「やっぱり………お前に彼女が………出来たのか?」
言うや否や靴を脱ぎ「お邪魔しマース」と言って部屋に上がる。
半ば諦めて僕は玄関の扉を閉め靴を脱ぎゆっくりと階段を上る。お茶は用意してやらない。
部屋の扉が開いていた。中に入ると、
「こんにちはっ! オレ戸田輝秋と言います」
「こんにちは、西畑咲雪です。よろしく」
「こちらこそ」
ガシッと握手をする2人。僕はそれを見ながら部屋の扉を閉めベットに座る。
2人は放ってほいて栞の挟まっているページを開いて本の続きを読む。
じっーと視線を感じる。2人を見ると僕の方を見ていた。何なんだろう。そのまま数秒見つめ合っていると、輝秋が先に口を開いた。
「やっぱり彼女?」
「違う」
「違くないよ」
「違う」
「ああそっか」と言って沙雪がポンと手を叩く。
「私が好きなの」
「なにっ!」
輝秋は、僕のお茶を啜ってから一息付いて咲雪の方を見る。
「こいつのどこが良かったのですか」
「ん~、どこだろう?」
首をかしげて悩む咲雪に僕は付け足してやった。
「そんな嘘つくなよ」
「はいはい」
それを聞いて輝秋が更に食いつく。
「ほんとに冗談か?」
「んーまぁそうかな」
「僕は彼女ができるほど顔はかっこよくないし、性格だってまずまずだ」
そう言うと2人して僕の顔をマジマジと見る。気恥しい。
「イケメンではないよな」
「かっこ悪くは無いけどね。微妙だよね」
「モブキャラにいそうな顔」
「輝秋、お前だって顔はかっこいいけど性格は微妙だからな。残念イケメン」
そう言うと残念イケメンは、ムッとなったのかビシッと僕を指さす。
「お前だって性格たまに微妙だぞ」
「知ってる」
そう言うと輝秋は、ニコッと笑って今までの会話がなかったように全然違う話題に変えてきた。
「あっ、宿題持ってきたから一緒にやろ」
「…………えらっ」
と、咲雪が驚いたようにみせ、輝秋がビシッと親指を立てる。
「チャラいくせに真面目なところあるよな」
呆れるように僕は言ってから付け足す。
「まぁ、こんな奴でも僕にとっては恩人さんだからな」
輝秋は神妙なかおで、「もう忘れてくれて構わない」とだけ言った。
しばらく輝秋が宿題をする姿を僕と咲雪が見ている。意外とスラスラと解いていく。僕は本を読んでいてそれを尻目に見ているとペンが止まった。どうやら分からなくなってしまったようだ。
僕は本に栞を挟み閉じる。
「なぁ、輝春ココわかんない。教えて」
久しぶりに僕の名前を呼んでくれた気がした。僕は少し嬉しくて口角を少し上げ、
「見せてみ」
と言って咲雪の遊びは輝秋の勉強会に変わってしまった。