映画
カーテンを開け太陽の光を体いっぱいに浴びて僕の一日が始まった。
時計を見ると朝の10時。約束の時間までまだ1時間もある。
僕はゆっくりと階段を降り1階のリビングに行き朝ごはんを食べた。テレビをつけニュースを見れば最近起きた殺人事件のテロップがでて、強盗の事件、野球、政治、という流れで見ていた。
最近は物騒な事件が多い。外を出歩くだけでも少し恐怖を感じてしまうのは僕だけだろうか。
ニュース番組の左端の時計を見ると11時10分前になっていた。
僕は外に出て西畑咲雪が来るのを待つ。
僕の家を知っているのは何故だろう?この近くに住んでいるからなのだろうか。そんなことを考えながら腕を組み身震いする体を抱き上げる。
しばらくするとその姿が見えた。かなりのオシャレではないだろうか。赤いロングスカートがよく似合っていた。冬なのに寒くないのだろうか?
「待った?」
それに手を挙げながら答え、
「集合場所が僕の家だから日をまたいで待っていたよ」
と言うとなぜだか少し嬉しそうに微笑む。
「さっ、行こっか」
そう言うと僕の1歩前を歩く。僕もそれに渋々ついていく。
心の中でため息をつく。家にいたい。
インドアの僕は休みの日と言ったら本屋へ行くか本を読むか、その2択だ。映画館へ行くなどほとんどない。
しばらく取り留めのないことを話しながら歩いているとシネマに着いた。15分くらい雪の中を歩いたのでそこそこ体が冷えている。
ショッピングモールと合併しているシネマの中はとても暖かかった。外から連れ込んだ冬の寒さを自動ドアが遮っているような感じがして心の中で深くお辞儀。
僕は一息つく。こういう場所にお門違いな格好をしているのではないかと少し焦る。パーカーはファション的にオシャレなのか?
「結構混んでるね」
と、咲雪が少しドキドキしながら言うので僕も少しドキドキしてしまう。
「あぁ、目が回りそうだ」
「それは重症だよ」
「僕にとっては普通なんだよ」
僕は肩を少し竦めて言う。咲雪は呆れるように掌を両方上に向けて嬉しそうに笑っていた。
ポップコーンと飲み物を買って咲雪があらかじめ用意していてくれたチケットを貰う。貰うといかにも恋愛もの、というような題名だった。買ったばかりのチュロスをかじる咲雪に僕は尋ねた。
「恋愛もの?」
「そだよ。そういうの嫌い?」
男子はこういうの嫌い?と言いそうな目で僕を見る。
「いや、嫌いではないけど……まぁ………嫌いではないかな」
僕達は映画を見るまでの少しの時間、椅子に座りながら話をしていた。
正直恋愛ものの映画は見た事がないが小説を書く題材や見本みたいな感じで小説では色んな恋愛ものを読んだことがある。
時間になりアナウンスがはいる。僕達は3番スクリーンまで移動した。
****
「泣ける……これは泣ける」
ぐすぐすっと鼻を啜りながらティッシュで鼻をかむ。
「涙枯れたんじゃない?」
「ドライ! 涙でないの?ドライすぎるよ! アサヒスゥパァァァー」
「ドゥ…………じゃなくて」
ハンバーガーをかじりながら僕達は向かい合って座る。
映画が終わりショピングモール内にあるファストフード店でお昼ご飯を食べていた。映画の始まりが12時半なので僕は家で適当にお菓子を食べたがそこそこお腹がすいていた。
「信じられないな」
「君自身涙が出ないことに?」
「違うよ」
僕は呆れてハンバーガーをかじる。
もぐもぐ30回噛むで飲み込む。口の中に残った後味をコーラで流し込む。
「会って3日の女の人と映画を見ること、こんなこともう二度とないだろう」
呆れるように言う僕に咲雪は、
「よかったね」
と嬉しそうに微笑みながらチューと炭酸飲料を飲む。
「明日はどこいく」
「家で待機」
「それいいね! 明日君の家に行くね」
「えっ? ちょっと待って、そういう意味じゃないんだ」
「決定。これは覆らない事実となります」
僕は諦めた。もう何を言っても喜んでいる咲雪を見れば無理だと悟ったからだ。
しばらく無言の空間を気まずいと思っていると先に咲雪が口を開いた。
「買い物、付き合ってよ」
その言葉に僕は、
帰りたい。「帰りたい」
と思ってしまったが声に出た。
「…………」
「……………声にでてた」
と、また心の中で呟いた言葉が口から放り出された。
「だだ漏れだね」
僕は申し訳なさそうに胸の前で両手を合わせた。
「わかったよ、今日は帰ろう……残念」
しょぼんと咲雪は項垂れる。今までの嬉しそうな顔とは打って変わって悲しい表情になっていた。僕はさらに申し訳なく思い、つい、
「今度。また今度一緒に行こう」
と、言ってしまった。そしたら、
「現地取ったからね!」
と、パァーと明るい表情になっていた。
――はめられた。
今日は解散することになりそのまま家に返った。