出会い
こんにちは。よろしくお願いします。
少し長くなってしまいましたが最後までよろしくお願いします
近場の公園でボートしていた。ただそれだけだった。見るもの全てが輝いて見えた。何も持たない僕がのうのうと生きているのがなんのためか分からない。
そんなことを考えていた。
雪が太陽の光に照らされ眩しくて目を細める、と同時に後ろから声がした。
「こんにちは」
1度聞けば忘れることは難しいと思わせるような鈴のように澄んだ声だった。
その言葉に僕は後ろを振り返り「こんにちは」と聞こえるか聞こえないかの音量で返した。
そこに居たのは雪の景色が良く似合うダッフルコートを羽織った同い年くらいの女の子が笑顔で白い息を吐きながら佇んでいた。
僕は無邪気な子供が雪だるま作りにはしゃぐのを見ながら手の平いっぱいに雪をかき集めた。その雪は冷たく手の神経をつねっているような感じすらもした。
掌にある雪をおにぎりを作るように丸めて固くする。手に着いた雪が溶けるのを見ながら白い息を虚空に放り出した。
手に持った小さな雪玉を意味もなく僕が座っているベンチの隣に置く
「少しいいですか?」
僕が意味もなく雪玉を作っているのを不思議そうに見ていた彼女が声をかけたことによって解由実に戻される感覚になった。
僕は見知らぬ人に話しかけられて少し戸惑っているようだ。人見知りの僕が辟易するのには十分な可愛さと美しさを彼女は放っていた。
「どなたですか」
無愛想にもそう返した。
彼女は未だ面白いものを見るかのような子お付きで僕を見据える。
高校1年の冬。僕は冬休みを利用して家から1番近い公園にお汁粉を買いに来た。お汁粉は僕が好きなドリンクのひとつだった。寒い日にはお汁粉に限る。
そのあと適当に時間を潰していたところを見知らぬ人に声をかけられたという事だ。
目をぱちぱちしながら不思議なものを見るかのような顔で僕を見ている。途端、雪が降り始めた。大粒の雪が朝方降った雪の上に重なる。
夕方になっても溶けないあたり今日は相当冷え込むのだろう。朝のニュースを見ずに暖かい格好をしなかった数時間前の僕を殴ってやりたくなった。
「……雪、ですね」
彼女がぽつりと言った。独り言なのか、それとも僕に行っているのか、僕はその言葉に無言で頷いた。
「隣、いいですか?」
「…………どうぞ」
隣に座られるのは多少嫌だが四人掛けの椅子に1人だけ座っているのも罪悪感がある。椅子の真ん中に腰掛けていた僕は隣にずれる。すると彼女は、椅子の後ろからとてとてと回ってきて僕の隣に座る。
僕が作った雪おにぎりは彼女が座った際に潰されてしまった。
隣に座る彼女との距離は手の拳1つ分ぐらいだろう。近い。
僕は人一人分横にずれる。それに対抗するように彼女は「むっ」と言ってからさらに体を寄せてきた。
「すみません………どちら様ですか?」
ここまで見知らぬ女の人と慣れ合うのは他人として少しどうかと思った。なので僕は尋ねた。彼女が誰であろうと何も無いのだが。
しばらくの沈黙、僕は下を向き目線をそらす。それに何を思ったのか横目に見る彼女は少し嬉しそうだったので僕は改めて尋ねた。
「あの、何か用ですか?」
「いえ、ちょっと、尋ねたいことがあって」
尋ねたいことがあったのは彼女の方だったらしい、僕は方と息を吐く。
「なんですか?」
「私の事、覚えてますか」
彼女は真剣そのもので問うてきた。僕はこんな綺麗な人一目見たら忘れないだろう。しかし僕はこの人を見たことがなかった。なにか勘違をしているのかもしれない。
「ごめんなさい………ちょっと覚えてないですね」
そう言うととてもガッカリしたように俯き悲しそうな表情を浮かべた。
「そうですか」
僕は少し申し訳なく思った。もしかしたらどこかで出会っていたのかもしれない。街の中で見かけた、とか、実は親戚とか、名前を聞けば思い出すかもしれない、そう思った。
「あの、名前はなんて言うんですか?」
聞くと彼女は嬉しそうに俯いていた顔を上げてニコッと苦笑するように笑ってから、
「西畑咲雪」
と言った。
にしはたさゆき、やっぱり思い出せない。
僕は少しの間考えた、必死に頭の中の記憶の引き出しを開けてこの人をどこかで見たのか思い出そうとする。しかしやはり思い出せない。
「ごめんなさい、やっぱり思い出せないです」
そう言うとやはり悲しそうな表情になった。両手を小さめく横に振る。
「いや、いいんですよ。私も、もしかしたらって思っただけですから」
そう言うと彼女は空を見上げた。先程降っていた大きめの雪より小さめの雪がポツポツと降っていた。
「雪、やみませんね」
「そうですね」
いつの間にか雪だるまを作る子供たちもいなくなっていた。
4時半のチャイムがなった。この時間はこの地域では下校時間と重なって4時半にチャイムがなるのだが、学校がない冬休みでも毎日なり続ける。
彼女は驚いた顔をして「あっ! もうこんな時間」と言って立ち上がった。
「それじゃあ、今日はごめんなさい、また今度」
そう言って手を振りながらザクザクと新雪を踏みながら公園を出ていった。
僕はそれを見ながらほうと息を吐く。
また今度があるのだろうか?名前と顔しか知らない人だ、今度はもうないだろう、そう思って僕も家に帰ることにした。
両手を見れば指先が淡く朱色に染っていた。
歩く度に寒さが服の間から皮膚に突き刺さるような痛み。鼻頭がつんと痛む。
僕は公園をあとにして新しい足跡を残しながら帰路につく。
****
翌日。冬休み3日目。今日は本屋さんへ向かう予定だ。
黒いダッフルコートを着てマフラーを首に巻いた。かなりの厚着だ。今日もかなり寒くなるらしい。
外に出れば予想以上に寒かった。
僕はアパートを借り一人暮らしをしている。
僕の隣の部屋には子供を連れた親子が住んでいたが、つい先日引越しをしてしまった。隣の部屋は寂しくなってしまった。子供のはしゃぎ声はうるさくなく僕には平和の象徴のように思っていたのでそれほど迷惑はしていなかった。
温厚な人達で一人暮らしの僕によくおすそ分けをしてくれた。
隣の部屋の名前が空白になっているのを見ながら僕は階段を降りて自転車置き場に向かった。
自転車を走らせると寒さが倍になって僕の体にぶつかってくる。
顔が冷たい。
昨日降った雪が微妙に溶けて氷が張っているところもあった。雪の白さが太陽によってさらに輝いて見える。
道路は朝方ということでお年寄りが若者の分まで雪かきをしていてくれた。そのおかげで僕は自転車を走らせることが出来る。
「おはようございます」
「おう、行ってらっしゃい」
気の良さそうなおじいさんが挨拶を返してくれた。
僕は珍しく自分から挨拶をした。それは雪かきに対する礼儀だとも思ったから。意外と朝からの挨拶は気持ちがいい。
僕はマフラーを頬まで上げて本屋へ向かった。
****
「君は小説家になりたいの」
誰かが言った。
毎日机に座ってトイレ以外は席を立たずに本と睨めっこをしていた中一のある日クラスメイトにそう言われた。
「なりたいんじゃなくて、なるんだよ」
何を根拠に言ったかは覚えてない。でも僕の将来は小説家で決まっているように思えていた。
僕は将来小説を書いて生活したいと思っていた。人との馴れ合いが苦手な僕はきっと大勢でこなす仕事が苦手だと思う。
というか苦手だ。
中学校の頃同じ生徒会の人と仕事をしたがコミュニケーション不足で何もうまくいかなかった。僕と喋れば苦笑いを浮かべられるのがとてつもなく嫌だ。なので喋ることを拒んだ。
僕は小説家になりたいと思っている。きっと簡単ではないだろう。しっかりと今のうちにたくさん小説を読んで30歳位で小説家として食っていけるように、なれるといいなと思っている。勿論今もたまに書いたりしているが知的な表現もできず幼稚な文章になってしまう。
最近は他の作家のあとがきを見て回っている。最近だと若い作家さんもいてすごいと思っている。
僕もこんなふうになれたらどんなにいい事か。
あとがきと最初の1ページを見て高校生の手持ちの金でたくさん買えないのでどの本を買うか迷っていると、後ろから声が聞こえた。
「こんにちは」
見知った声では無いけどつい先日聞いた聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。とても元気でハキハキした声だ。
本当にまた会った。そう思い、僕はため息をついて本を閉じて元あった場所に戻す。後ろを振り返ってその見知った顔を確認する。強い眼光で彼女を射抜く勢いで振り返ると彼女は意外と近くにいた。それに一瞬戸惑い驚いてしまう。
「ひっ!」
「わっ! びっくりした」
情けない声を出してしまった。
僕は咄嗟に一歩後ろに足を出した。彼女は、わはははと笑って、それからはにかんだように笑って、優しい眼差しで僕を見つめた。
恥ずかしくなった僕は目をそらす。すると逸らそうとした僕の目を見ながら彼女は僕に合わせてずっと顔を見ながらしゃがんだ。
「照れてやんの」
「照れてねーよ」
正直に言うとこの時の僕はとても照れていた。
どうして会って2日の奴とこんな会話しなければいけないのだろう。
僕は今度こそ目を逸らして考えた。視界の端っこでニヤニヤしている彼女がとてつもなく鬱陶しい。
****
本屋で本を買い僕達は昨日の公園にいた。彼女の提案でまたここがいいと言う。
僕達は自動販売機の前で何を買うか迷っていた。暖かいのが飲みたいとのことで彼女がここまで僕を連れてきた。ちなみに僕はお汁粉一択だ。迷っているのは彼女だけ。
迷った末彼女が買ったのはエナジードリンクだった。
暖かいのが飲みたかったのでは?と思ったが声には出さなかった。
ドリンクを取り出し口から取り出しお釣りをチャラチャラ鳴らしながらこちらに振り返る。
「お汁粉でいい?」
彼女が白い息を吐きながらそう言った。
何故僕がお汁粉を飲みたいことを知っていたのか、おしるこを飲みたそうな顔をしていたのかもしれない。僕は驚きながらも1人勝手に納得し「お願いします」と小さく答えた。
「はい、お金」
そう言って僕は取り出し口からお汁粉を取り出す彼女に向かって110円を差し出す。
彼女は小さくわはははと笑って「いらないよ」と言って手を胸の前で横に振る。
「そうはいかない、奢られる筋合いもないし見知らぬ人に奢ってもらうなんて」
「見知らぬ人じゃないでしょ………別にいいよこれくらいお姉さんが奢ってあげる」
僕はなおも断った。ついには彼女のポケットに勝手にお金を入れた。ポケットの中は外の温度がシャットアウトされていて、暖かかった。
彼女は「いいのに」と言って諦めたように一息つく。
昨日座っていた四人掛けのベンチまで来て上にかぶさっていた雪を手でぱっぱっと払ってから座る。
そこでさっきの会話から僕はひとつの疑問が浮かび上がった。
「お姉さん? 君はお姉さんなの?」
年を越して2月がきたら17歳で今は高校一年で16歳。
彼女はむふふと胸をはってドヤ顔で腰に手を当てていた。
「来年で17、今年16」
「同い年じゃないか」
「意味的には家族に妹いるもん」
彼女はなおもドヤ顔で胸を張っていた。
「それから君って言うのやめてよ」
「何故?」
「なんか親近感ないんだよな~」
「親近感も何もまだあって2日でしょ」
「これから毎日会う仲じゃないか」
そんな毎日会ってたまるか。
僕は手で温めていたお汁粉をパカッと開ける。そして一気に飲み干した。最後のところでお汁粉の粉が喉をくすぶって咳き込んでしまった。
「げほっげほっ」
「大丈夫? 私のエナドリあげるよ」
そう言ってまだ封を開けてないペットボトルを差し出す。
「ありがとう」
そう言って僕は彼女からエナドリことエナジードリンクを貰った。素早くキャップを開けちょびっと喉を潤す程度に飲んだ。そしたら彼女が脇をくすぐってきた。
「ブッッ」
口に含んでいたエナジードリンクをあとすこしの所で吹き出すところだった。
彼女は嬉しそうにわはははと大きな声で笑っていた。僕はポケットからティッシュを取り出し口元を拭う。
「私と君の仲がさらに深まった瞬間だね」
「…………」
にこやかにそう答えた彼女に僕は無言で首を横に振った。
この人やだ。
キーンコーンカーン。
4時半のチャイムが鳴った。
彼女はまたしても急いだように「あっ。こんな時間」と言って立ち上がった。門限が厳しいのかもしれないと思った。僕の家はかなりフリーな方だと思う、夜7時に帰っても夕ご飯できたよ、ぐらいしか言われない。
「あと全部飲んどいて。またね」
大きく手を振りながら早足に立ち去っていく。
「おいっ。持って帰れよ」
なんて言葉は彼女には届かなかった。
「どうすんだよこれ」
僕はこの後、口をつけずにエナジードリンクを飲むという難題をやってのけた。
****
家に帰って僕は直ぐに風呂に入った。お湯をかければ、指先が火傷するように熱くなり、体から冷えをとっていった。
10分ぐらいお湯に浸かりお風呂から出ると携帯がなっていた。メールのようだ。僕にはメールをする相手がいない。ラインをする友達が2人いるぐらいだ。話のできる友人が3人もいる。
服を着て頭を拭きながらメールを開くと。
『やっ。私西畑咲雪だよっ!明日。日曜だよね暇?暇だよね。映画見に行こ。11時シネマの前ね。よろしく!』
僕は事件性を感じた。
彼女にメールアドレスを教えただろうか?というか彼女が僕の明日は暇前提で話をしているのがたまらなくいらつく。暇だけど。明日はバックレよう。そう思った時。
『やっぱり君の家に行くね』
逃げられないかもしれないと、思った。
読んでくれてありがとうございました。