45.石を見付けました。
すみません大変お待たせしております。
話し忘れた方は前回の前書きに置いてあるあらすじを読んでいただければと思います。
↓以下、前の話のあらすじ
事件の元凶が処されました。
今回は主人公のアリア視点です。
誘拐殺人事件から一週間がたった。
今日は仕事が終わると領府から家までサー・デューイに送られる事になっている。
実は忠誠を誓われてからずっと、仕事帰りは私の騎士達が交代で送ってくれていた。
もう作戦は終わったので子供のお守りなど辞めてもらっても構わないと言ったのだが、皆自ら志願した上で正式に誓ったのだからと、私の騎士を辞めることを頑なに拒んだ。
イクスベリー領軍には律儀な人が多い。
領府ではいつも時間になると仕事を切り上げるよう言われる為、彼らのスケジュールが狂わないのは良かったと思う。
そう、そこだけは良かったと思うのだが……本当はもっと、忙しそうな領府の事後処理を手伝いたい。けれどもそれはお義父様からきつく止められている。
子供の限界というやつだった。
「アリア様、イェーツ達のこと聞かれましたか?」
馬車へ向かうまでの道中、サー・デューイに話しかけられた。
「ええ。聞きました」
イェーツ子爵は非道な所業が明るみに出て爵位を取り上げられた後、家族と共に行方不明になったらしい。
……逃げられたか。ほとぼりが冷めるまで雲隠れするのは貴族の常套手段だ。
期間を置いたあと、また社交界に戻ってくるつもりかもしれない……。
たくさんの子供たちが犠牲になったというのに、事件の元凶たちは金の力でどこかで今までと大して変わらぬ生活を送っているのだろうか……。
それを思うと残念でならないが、これ以上裁くことは出来ない。
しかしそれでもイェーツからすると、爵位を取り上げられることは相当の屈辱だろう。
「戻ってきた時の対策を考えておいた方がいいかもしれませんね……」
「多分大丈夫ですよ」
今回他領のことに相当介入したので、何らかの報復措置を取ってくるかもしれないと思い呟くと、確信を持ったようにサー・デューイに否定された。
「……?なぜそう思うのですか?」
「前職での経験をもとにした勘です」
「前職……王都の軍ですか」
確かサー・デューイは以前は王都で騎士をやっていて、お義父さまの人柄に惹かれてこの領にやってきたと聞いていた。
「いえ、王都の軍を辞めた後、少しの間王都周辺でごろつきをやっていまして」
「…………」
ごろつき……騎士爵持ちなのにそんな過去が?
「アリア様、今回の誘拐事件ご尽力いただきまして、ありがとうございました。貴族が関わる事件でこんなに早期解決することは普通はありません。さっき会って来たんですが、カーター氏も感謝していましたよ。……貴女のような貴族に出会えるなんて、彼は本当に幸運だった」
貴方も今、私と会って話しているじゃないか、とか、そういうことではないんだろう。
サー・デューイは初めからこの事件にとても詳しかったし、関わっている間常にない態度だった。
私は足を止めてサー・デューイの方へ顔を向けた。
「……違っていたらすみません。もしかして、あなたも親しい方を……?」
「……ええ。俺の息子もね……石にされました。きっと今でも障壁の一部にされていて、女神の元に還れてはいないでしょう」
人が死ねばその魔石は、家族や親戚が葬送の儀を行って女神様の所に送る。しかし儀式を行わないと、ずっと地上に残ることになる。
「息子を見つけて空に還す。それが、俺が貴族が嫌いなのに准貴族でい続けている理由です。普通の平民とでは得られる情報の質も量も段違いですから」
「そうだったのですか……」
そんな事情があったのか……。
……なるほど。
………………。
「気にしないでください。アリア様には関係のないことですから。俺が勝手に彼らに感情移入して、貴女に、……?アリア様?どうしたんですか?」
私の考え込む様子に、サー・デューイが訝しげに問いかけてくる。
「場所の目処はついているのですか」
「え?えぇまぁこれでも長く調べてはいるんで、大体ここだろうというくらいは。……わかってるんです。見つけるのは難しいって。無謀だって。それでもどうしても諦められなくてね……」
サー・デューイは私が生まれる前から騎士なので、旧式スロットが使える。今はまだ調整中だけれど……。
「もう少し待っていてください。今は詳しく言えませんが……」
「?」
ご子息の石を届けるのは、彼が一番目になりそうだ。
「これが……」
「はい。ご子息の魔石です」
サー・デューイは王都近くの都への主要道の、魔石が埋め込まれた魔物除けの結界柵に手を触れた。
こんなところに人の魔石が使われていたなんて……。
あれから3ヶ月後、私は何とか親子関係を調べる魔法を形にすることができた。
途中エリファレット様と神殿で誓いを行った関係で、思ったよりも時間がかかってしまった。
この魔法に関する情報はなるべく伏せておきたいので、今日は私と、護衛を兼ねた被害者であるサー・デューイの、二人だけで来ている。
事前に彼が調べをつけていた魔石がある場所までは、馬車ではなく馬に乗って移動した。
サー・デューイは魔石を見たままじっと動かない。
色々思うことがあるのだろう。
それを横目に見ながら、私は自分の近くにあった魔石に鑑定魔法をかけた。結果は……
「これも人間か……」
どうもこの辺りの結界柵に使われてる魔石は、人間のものが多く混じっているようだ。
皆、今回のように魔力登録前の子供なのだろうか……。
国によって年齢に差があるが、ここガレリア王国では12歳になった子供は全員魔力の検査を行う義務があり、一定以上の魔法が使える資質のある者は登録されることになる。
魔法の資質の高いものは優遇されているので、誘拐殺人犯が言うには、狙うと足が付きやすくなるらしい。
でも登録前なら――
やはり狙われるのは必ず、弱い者なのだ……。
「ここは王都に続く街道の中で最も被害の出た場所でした」
私の独り言を拾ったのか、サー・デューイが魔石を見ながら話し出した。
「主要道のひとつですからね。頻繁に魔物が襲ってくる中、安全に物資を通すために最速で修繕されて行きました。魔石が足りなくなり急激に需要が高まって価格が高騰し、王都でも今回と同様に登録前の子供を狙った誘拐殺人事件が起こったんです。復讐しても息子は当然戻らなくて……大切な家族が物として消費されるのが、どうしても耐えられなくて……必死で探して探して……まさか見つかるなんて思わなかった……」
最後の方の彼の話し方はほぼ独り言に近く、少しぼんやりとした様子で呟いていた。
「人の魔石は女神様のところに還さなければいけません。鑑定すればすぐにわかることですし、お義父様を通じて柵を改修してもらえるよう頼みま、しょう…………私は馬と向こうに行っていますので……」
言葉を切った私を見て、サー・デューイは目に浮かんでいた涙を片手で拭って苦笑いした。
「いえ大丈夫です。一人しかいない護衛がそばを離れるなんて、ありえませんよ。……アリア様、息子を見つけていただいて、ありがとうございました……」
「いえ、旧式スロットが使える方はあまり多くないので、こちらとしても助かりました」
頭を下げたサー・デューイに気にしないで欲しいと言葉をかける。
実際この件に関しては本当に助かっていた。魔法の使用実験を行おうにも、動物相手の、それも剥き出しの魔石からの情報を使っての魔法しか試すことが出来なかったのだ。
理論上はそれでも問題は無い筈だったが、やはり被害者遺族の方々に使ってもらう前に一度くらいちゃんと試してみたかった。
しかし人間の魔石は割とすぐに葬送の儀で送ってしまうし、旧式スロットが使えて、秘密を守ってくれて、かつ親か子の魔石が残っている人間なんてまずいない。
というか十中八九サー・デューイくらいしかいない。
もちろんご子息の魔石を見付けてから、探索魔法と組み合わせる前の昔の術式できちんと調べ直したが、間違いなくご子息の石を探せていた。術式は問題なく作動している。
サー・デューイに協力してもらえて正直かなり有難かったので、あまり頭を下げられるとこちらとしては少し心苦しい。
これで自信を持って、事件の被害者遺族の方々に話すことができるのだから。
「イクスベリー卿に初めて会った時も変わった貴族だなと思いましたが、アリア様はそれ以上ですね」
「まぁ元平民ですから」
「……そういえばそうでしたね。でもあなたは特権階級にいる方が合ってると思いますよ。……ははっ。俺が貴族にこんなことを言う日が来るなんて」
言われたことが少し意外でサー・デューイを見た。
貴族が嫌いな彼にとって、これは最大級の褒め言葉ではないだろうか。
「……今のところ貴族を辞める予定はありませんので大丈夫かと」
「そうでないと困ります。貴女に剣を捧げた騎士だってたくさんいるのに」
「まぁ、どうもエリファレット殿下の婚約者という立場は続投のようですしね」
「それはどっちでもいいんですけどね」
「……?」
どっちでも良くはないだろう。それ以外に後継ぎがいる伯爵家の元平民の養女の騎士になるメリットが、何かあるというのか?
「あー、そうですね、そういうことでいいです。……それにしても、誘拐殺人事件を自ら囮になってまで力技で解決しただけでなく、まさかこんな魔法まで作って下さるなんて……ははっ本当に信じられないな」
「出来ることをやっただけです。石を取り戻してくれと願われた時に、全力を尽くすと言いましたから」
「! ……ああ。ええ、確かに俺も隣で聞いてました。そうか……あの時は、できないと明言することから逃げただけかと……。今から思えば、あんなに心強い言葉はなかったんですね」
少し驚いたように目を見開いた後、見たことないような穏やかな顔で笑うサー・デューイを見て、彼の今後が気になった。
「……これからどうするんですか?騎士を辞めて爵位を返納するのですか?」
サー・デューイは一流の腕を持つ騎士だ。部下にも慕われているし、出来れば現職務を続けてほしいけれど、本人の思いを考えると仕方が無い気がする。
今、全部終わったような雰囲気の顔で笑ってるしな……。
「…………そうですね。いつかそうしたくなったら返します。それまで私は貴女の騎士です。ま、貴女が使いたいように使って下さいよ」
少し考える素振りを見せた後、サー・デューイはいつもの軽い調子に戻って答えた。
「そうですか。ではまた引き続き、剣と格闘の指南をして頂けるとありがたいです」
「はい、承知いたしました。我が主」
主……。
彼の経歴を考えると、領主ではない個人の貴族に剣を捧げ続けるのは気持ち的に大丈夫なのかと一瞬思ったが、そういえばサー・デューイも私の騎士を降りることはやんわり拒否していたことを思い出した。
彼も自ら誓ったからすぐには辞めづらいんだろうか。
まぁ本人が言うように、やめたくなったらやめるだろう。
うちの領軍の者たちは、本当にみんな律儀なんだなと思った。
サー・デューイの過去からもわかるかもしれませんが、彼はお義父様よりも年上です。話し方や性格で若い方を想像していた方はすみません。そしてそんなわけで彼は恋愛カテゴリー的な動きは全く見せませんすみません。騎士って響きがなぁ……攻略対象っぽいんですよねぇ……。
葬送の儀では魔物や他の生き物の魔石も送れます。あんまりやらないだけで。人間だけが特別とかは無いです。ただの魔石消滅システムですが、世界の理ですし、一応女神の力が働いていると言えなくもないので、そこに人間が勝手に意味付けして宗教に組み込んでます。この世界ではそれがスタンダードです。




