40.強制休暇を取らされました。
すみません。お待たせしました。
サー・デューイ曰くまとめ役っぽい奴の応急処置を彼に任せ、通信が繋がったままの向こう側に話しかける。
「初めまして、イェーツ卿。馬車の中での人さらい達の会話で、てっきり貴方の所へ連れて行かれるのかと思ってしまいました。別の場所だったのですね」
屋敷の周りに張った防御壁の絶対位置指定は完全にこの場所で展開する事を想定してのものだったし、そんなことは全く思っていなかったが、作戦上重要なスタンスなのでこれで押し通す。
『君は……誰かな?我が領にアリア嬢がいるはずがない』
……ああ、なるほど。実に腐った貴族らしい。
「私を消すつもりですか。……やれるものならやってみればいい」
『ハッ!調子に乗るなよ?若造共が。ふっ。アハハハハハハ……は?』
「?気でもふれましたか?」
いきなり笑い出した後に困惑したような声を出したイェーツ卿に、こちらの方が困惑する。
『何か魔道具っぽいのを動かしてたよ。でも動かなかったみたい』
「ああ。魔道具ですか。もしかして屋敷の真ん中くらいに置いてあった物ですか?それならさっき見かけて周りに防御壁を作っておいたので、普通の魔法信号なら通りませんよ。何の魔道具かは知りませんが、防御壁が消えるまで起動しないと思います」
不審な魔道具を見付けたので、誘拐犯たちに下手な動きをされると面倒だと思ってとりあえず対処しておいたが、まさかイェーツ卿の手元に遠隔操作用の魔道具があるとは。
いざとなったら全員始末して切り捨てる気だったんだな。用意周到なことだ。
『魔道具取り出されたから一瞬焦ったけど、全然大丈夫だったね。という訳でイェーツ卿、娘が見つかったので私はこれで引き上げますね。……ここから先は私の仕事ではない』
『こんな……こんな……ありえない……!うああああ!』
ドカッ!
「お義父様?!」
イェーツ卿の錯乱したような声と何かぶつけた様な大きな音が聞こえてきて、焦って大きな声で呼びかける。
音声だけでは向こうの様子がわからない。
『大丈夫だよ、アリア。ちゃんと迎えに行くから待っててね。それじゃあ』
魔道具の近くに立ったからか、先ほどよりも大きく鮮明なお義父様の声が聞こえて通信が切れた。
あの声の様子からだと大丈夫そうだが、心配だ。
やはりサー・デューイにはお義父様についていて欲しかったな……。
ちらりと隣に目をやると、にっこり笑われた。
「大丈夫ですよ。あっちには上級までは行かなくても、中級程度の身体強化を使うやつだっているし、イクスベリー卿だって強いんですよ。多分模擬戦すればアリア様の方が負けると思いますね」
私の不安を読まれたらしい。
そうか、お義父様はそんなにお強いのか。
てっきり貴族として最低限の剣術だけ扱うインドア派かと思っていた。
というかまぁ私が弱いだけかもしれないが。
直近で身体強化魔法と刃を潰した剣を使った模擬戦を行った際には、サー・デューイに瞬殺されたしな……。
「貴女は貴女の安全の事だけ考えて下さい。いずれ王家に加わるお方なのですから」
……第一王子の婚約者を守ろうとこちらに来たのか。
その必要は無いというのに。
「……貴方には伝えておきましょう。この婚約は半年ほどで解消される予定です。王族にとって私との婚約にメリットなどありませんからね」
「へぇ。そうなんですか」
結構重要な事を伝えたのに、驚いた風でもなく、軽い相槌が返ってくる。
ちゃんと聞いていたんだろうか?
……まぁいい。きちんと伝えたし、作戦が終ってしばらくすれば婚約も捧げられた剣も元通りになるのだから。
「では、騎士達を手伝いに行きましょうか。……その前に子供達の様子も見ておきたいですね」
部屋から出た私たちは、子供達と話をした後、お義父様が迎えに来るまで他の騎士たちと共に誘拐犯たちの応急処置に当たった。
「よく頑張ってくれたねアリア。ありがとう。後のことは私に任せておいて。騎士のみんなも、よくアリアを守ってくれたね」
約束通りこちらに来てくれたお義父様が、そう言って私達を労ってくれた。
「もしまた何か私の協力が必要な時は仰ってください」
「ありがとう。その時は申し訳ないけれどお願いするね」
「はい。お任せ下さい。ところでお義父様、実は私の他にも捕らえられていた子が二人いたのですが、どうもあの子達は貴族の兄妹のようで……」
諜報員の報告では貴族の子供は狙わないとのことだったのだが、詳しく聞いてみるとどうやらノールズ子爵家の子供達だったようた。
古参派の者が新興派の出世株の子供達を攫うとか、対立が深まる未来しか見えない……。
「貴族の子が巻き込まれてたの?情報と違うなぁ……」
「おそらく私と同じように格好だけで判断されたんだと思います。馬車も使っていなかったようですし」
二人の格好は貴族には見えなかったので、平民と間違えられたのだろう。
襲われた時に母親も一緒にいたようだが、平民だと思われていたなら無事かどうか……。
「そうか……それは不運だったね……。わかった。親御さんに連絡を取ってみるよ。怪我はしてる?どんな様子かな」
「大きな怪我はありません。今は疲れて二人とも眠っています」
お義父様が通信を切った後、子供達からあらかた話を聞いて、身元もわかったしご両親と連絡を取れるようにする、もう大丈夫だと伝えたら、安心したのか少し目を離した隙にぐっすりと眠っていた。
二人はそのままイクスベリー領の病院に運ばれ、検査を受けることになった。
とても怖い思いをしたはずなので、ゆっくり休んで欲しいと思う。
他の子達は助けられなかったけれど、せめて彼らが無事で良かった。
お義父様と共に領府に戻り、今回の報告を行った。その後仮眠を取ってから事後処理を手伝っていたら、休めとお義父様に怒られた。
なんと今日と明日は強制的に休みにされて、仕事はせず身体を休めるようにと厳命されてしまった。
勉学や領軍基地に行く事まで禁止されたので、とりあえず寝て起きたら、いつもの訓練とジョシュとの紅茶を入れる練習の時間以外は、術式を組む事しかやることが無い。
術式の改良は行おうと思っていたから時間が取れるのは嬉しいが、今の領府は仕事が山積みで大変なことになっているし、まずそちらを手伝いたいのだけれど……お義父様のご命令だから仕方ないか。
そうと決まれば集中して取り組まなければ。
実は魔石を分析してみると、親から引き継いだ特徴があり、それは魔石が成長と共に大きくなろうが変わることがない。
魔石を見つけ出す探索魔法を作成する時、魔石についても当然調べていて、それを偶然発見した。
そして親子関係を調べる魔法を作り出したのだが、“貴族界に大きな混乱を招く”として、エイスグレイス公爵であるお父様の判断でお蔵入りにしていた。
この魔法を使えば、被害者達の魔石をご両親の元に返す事が出来るはずだ。
公爵家のお抱え魔法師だったウィリアムは、私と作った魔法をどこまで公開したのだろう。
……そういえば、中級以上の攻撃魔法の具体的な術式が載ってる本が皆無だな。
見てみたかったけれども、まぁ仕方が無いか。危険だものな。学園に入れば教えてもらえるのだろうか?
……というか、今の第一王子の婚約者という立場ならもしかして、王城で管理しているものも見せてもらえるんじゃ……いや、流石に厚かましすぎて無いな。
自重しよう。集中集中。
夕方になると子供たちが目を覚ましたとの報告が入ったので、様子を見に行くことにした。
お義父様が強いのは好きな娘が強かったからです。
一緒に魔物倒したりとかしてましたが、後のルートレッジ夫婦が強すぎてあまり活躍は出来ませんでした。でもある程度強いです。




