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4.領主様と会いました。

「これは何の騒ぎかな?」


 入口から落ち着いた男性の声が聞こえてきた。

 目を向けるとそこには身なりのいい貴族であろう3、40歳くらいの男が立っていた。

 彼を見た責任者の男が真っ青になっている。


「イクスベリー卿!な、なぜ……視察は明日じゃ……」


「いや、ちょっとその子に用があってね。1日早く来たんだ。家ではなくこちらに来ているとのことだったので寄らせてもらった」


 貴族の男は私を見てにっこりと笑った。

 ……私に用?イクスベリー卿ということは領主か?……何の用だろうか。


「……で、これは一体何があったのかな?」


 そうだ、急に登場した人物に意識を逸らしてしまったが、今はそれどころではない。

 なぜいるのかはわからないが、とりあえず領主に訴えてこの問題を収めてもらおう。


「あの、領主様、実は……っ!」


 急に喉と口が圧迫され、声が出なくなり途切れてしまった。

 役人の男が唇を歪めてこちらを見ている。これは……警備用拘束魔法じゃないか。

 どこまで腐ってるんだこいつは……!


「いえ、もう問題は解決しまして、彼らはもう家に帰るところなんですよ」


「そうなのかい」


「えぇ、実はこの子は両親が事故で亡くなったショックで声が出なくなったようで、同じ事故の他の遺族たちにも同じような症状があるようで、医者にかかるよう勧めていたのですよ」


 ――ふざけるなよ。

 この程度の負荷、振り払ってやる。


 身体強化魔法を使うべく、私は魔力を練り上げ――ようとしたところで肩に手を置かれた。

 いつの間にか領主が近くまで来ていたようで、視線が絡む。ひどく落ち着いた目だった。


「そうか。ところで役場内では魔法は原則使用禁止のはずだし、今は警備用拘束魔法を使うような非常時でもないよね。今すぐ彼女たちにかけた魔法を解きなさい」


 静かだが力強い言葉に役場がしんと静まり返った。

 役場の責任者の男は傍から見ても明らかに動揺していた。


「い、いったい何のことで……」


「私も一応土地を任されるくらいの地位にいるんだ。魔法は得意な方でね。見ればすぐにわかる。……早く解きなさい。」


「……わかりました」


 苦虫を噛みつぶしたような顔をした責任者の男が返事をした瞬間、体の拘束が解けた。

 余計なことを話すなとばかりにこっちを睨みつけているが、知ったことではない。


「改めて聞くけれど、何があったんだい?」


「……私やここにいる人たちの家族が街道を通行中に魔物に追われ、川へ転落して亡くなったんです。補償金の請求手続きに来たのですが、事故扱いになるから出せないと言われて……規定にも書いてあるのに、ほとんどの人間が読めないから、書いていないと嘘を」

「そんなことは言っていない!この子は何か勘違いをしているんです。説明に行き違いがあったようで、もちろん最初から補償金は払うつもりでした」


「嘘です。補償金は出ないから帰れと言われ」

「いいえ!違います!」


「そうだね嘘だね。聞いていたから知ってるよ」


「え……な…………」


 男が絶句して領主を見ている。


「いや、様子も見ずに仲裁に入るわけないじゃないか。途中からだけど状況が分かるくらいにはちゃんと聞いてたよ。君は……どうもここの責任者には向いていないみたいだね」


「そんな、待ってください!」


「うーん、役場の業務に差し障りそうだな……別の場所で話を聞くから、拘束しといてくれる?」


 責任者……だった男は、先ほど私たちを引きずっていた警備のものに拘束される。

 ……それが彼らの仕事だということはわかっているけれど、なんとなく釈然としないものを感じる。


「君がアリア・スミスかな?」


「はい、そうです。助けていただいてありがとうございました、領主様」


 領主に話しかけられたので役場の男への強い怒りを抑えて笑って返事をする。

 生まれ変わってから貴族に話しかけられたことなんてなかったので、自分の感情を伏せて笑うのも久しぶりだなと感じた。

 私に何の用だろう。……私は貴族ではないからその用とやらを交渉に使うのは難しそうだな。


「……君は……いや、ここは私の領地だからね。当然のことだよ。……!床に血が!手に怪我を?」


 本気で心配してくれている様子に少し驚いた。

 貴族が一平民を本気で気に掛けるなど、私が知る限りでは無かった。お母様以外では。

 この人は――イクスベリー卿はいい人なのかもしれないな。

 なんとなくそう思った。


「問題ありません。それより領主様、お話ししておきたいことがございます。護衛の方と共に場所を移していただけませんか?」


 怒りのために強く握りすぎて、爪が食い込み出血しているようだが、放っておいても平気だし今はどうでもいい。

 私があいつから聞き取ったことを伝えよう……この人に。


「いいよ。とりあえずこれを当てておきなさい。ちょっと奥の部屋を使わせてもらうね。……こっちだよ」


 イクスベリー卿は私に白い高級そうなハンカチを渡した後、役場の人間に声をかけ、護衛を連れて奥の応接室のような部屋に入っていった。

 役場の奴らがどうしていいのかとオロオロしているのを横目で見ながら、フィナさんに問題ないよと笑いかけ、私は領主のいる部屋へ入った。

 勧められるままに椅子に腰かけ、部屋の外に人の気配がなさそうなことを確認した後、責任者だった男がつぶやいた独り言の内容をできるだけ小さな声で伝える。


「そうか……では君のご両親は……」


「はい、あの男と、あの男を野放しにして見て見ぬふりを決め込んだ役場の奴らに殺されたようなものです」


 貸してもらったハンカチからグッと音がした。力を込めすぎたようだ。


「すまない……申し訳なかった。領地の責任者として謝らせてほしい」


「いえ、領主様が悪いわけではないので……」


 イクスベリー卿についての噂は色々聞いていた。

 平民の間で語られるそれはいいものばかりだ。

 公明正大。清廉潔白。領地は民の為の施策が多く、実際この領は治安も良く、活気があって、民達も明るく住みやすい場所だった。

 今回のことだって私たちの味方をしてくれた。今だって平民の小娘相手に謝ってくれている。

 ……この方が悪いわけではない。


「別室で話をしてくれたのは、領政の評判を気にしてくれたのかな?」


「はい、私が騒ぎ立てることで、領民の不安を煽ることはできません。ここはいい領地です。住んでいると実感できます。あいつのことは許せませんが、あいつのせいで貴方と貴方の治める土地に少しでも影響が出てはもっと許せませんから」


 あいつやあいつを止めなかった周りのことは絶対に許さないが。

 こんな自分勝手に領民の命を奪うような判断をするなどありえない。

 たとえ末端だとしても、為政に関わるのならば相応の責任と義務がある。


「ありがとう。本当にすまない。彼らのことはきちんと調査して、しかるべき処分を行う。私を信じてもらえるだろうか」


「はい。私はイクスベリー領の人間です。領主様にすべてをお任せします」


 この人は多分……信じられる。

 色々な貴族を見てきた私の勘が、彼を信じてもいいと言っている。

 まあそれに任せていた結果が前世でのクリスフォードとの婚約破棄だったわけだが……いや、子供相手だと微妙なだけで、成熟した大人相手ならちゃんと働くはずなんだ私の勘は。

 イクスベリー卿はきちんとした大人だから大丈夫だ。たぶん。


 それにそもそも信じようと信じまいと私に彼の決定を覆すような力はない。

 貴族ではない私には何もできないのだ。

 そうだ、それが罰だったな……。

 己の罪と罰について考え少し気分が落ちる。


「君は……これからどうするのかな?」


 イクスベリー卿が心配そうに聞いてきた。

 とりあえず両親の店を畳むこと、その後は親戚の家か孤児院に身を寄せようと思っていることを話した。


「そうか……私が君を訪ねてきたのだということは覚えているかな?」


「はい。聞きそびれてしまって申し訳ございません。……私にどういった御用でございましょう」


「……君と話していると、子供、それも一般家庭の7歳の子と話している気にはならないな。大人の貴族と話しているようだ」


「……そうでしょうか?確かに領主様とお話ししているので普段と話し方は違いますが……内容については子供の範囲では?」


 確かに前世の記憶があるので7歳ではないかもしれないが、私が死んだのは16歳の時だ。

 足したところで目の前の彼の年齢を越していないし、まだまだ未熟なはず。


「あのさ、君さえよければなんだけど、うちの子にならない?」


「え?」


 ぽかんとした顔をしてイクスベリー卿を見つめる。

 今、うちの子にって……聞き間違いか?







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