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35/46

35.お見舞いに行きました。

今回長い上に暗いので、ちょっとな……って方は中盤は流し読みして下さい。

最期だけ読んでれば話通じると思います(たぶん)。

 しばらくすると、血相を変えたお義父様が病院へやってきた。


「アリア!急に飛び出していくなんて!何考えてるんだ!」


「すみません、助けを呼ぶ声が聞こえて……伯爵家の令嬢が取る態度ではありませんでした。申し訳ございません」


 イクスベリー家の当主からの当然の叱責を受け、私は頭を下げて謝罪した。


「そうじゃなくて!…………後悔はしてないって顔してるね」


 ……さすがはお義父様。私の気持ちなどお見通しだな。


「……はい。お義父様には大変申し訳ないのですが、私は、もし同じ様な場面に遭遇したとしても、何度でも同じ行動をとるでしょう」


 どれだけ伯爵家の令嬢として相応しくない行動だったとしても、私の選択は絶対に変わらないだろう。何があっても。


「…………はぁ。そうだね。君は出会ったときからずっとそういう子だったよね」


「……申し訳ありません」


 諦めたように話すお義父様に対して少し申し訳なくなるが、こればかりはどうしようもない。

 助けを求める民の声を無視することは私には出来ない。


「大体の話は聞いたよ。確かにこれは早急に何とかしなければいけない問題だ。君からも話を聞かせてもらいたい。ここには人を残していくから、領府へ移ろう」


 ここでお義父様は何かに気付いた顔をした後薄く笑った。

 何だろう、この笑顔。何とも言えない感じがする。


「ちなみに領府にはランバートとジョシュアもいるからね。彼らは私ほど物分りが良くないだろうし、純粋に心配してる。きっとアリアは困ると思うな」


 言われてからお義兄様とジョシュに心配され、責められる自分を想像する。

 純粋に心配……確かに困りそうだ。


「…………そ、うですね」


 二人に何と言えばいいだろうか……。思わず返事に詰まってしまう。

 その様子を見たお義父様は笑っていた顔をまた真剣なものに戻した。


「君が困ってしまう程、純粋に心配してくれる家族がいるんだ。もう少し自分を大切にして欲しい。……全ての荒事に対処出来るほど、アリアは強くない。分かってるね」


「……はい」


 私は訓練を始めてまだ日が浅いので、単純に力や技術が足りていない。

 訓練の度にサー・デューイに秒で沈められているので自覚はある。

 ひたすら逃げる事は出来ても、訓練を受けた者を制圧する事はできない。殺し合いなら可能性があるくらいのレベルでしかない。


「君の気質が変えられないのなら、鍛錬を積んで結果が保証出来るようになりなさい。でないと自分も周りも傷付けることになる。剣を扱う事はもう反対はしないけれど、中途半端が一番危ないからそれは絶対に許さないよ。いいね?」


「はい」


 お義父様の言うとおり、今の私は中途半端だ。

 その結果何かや誰かを傷付けたとしても、何の言い訳にもならない。

 そしてその責任を問われるのは、7歳の私ではなく、保護者であるお義父様だ。


「君はまだ未熟で、今のアリアの力量では手に負えないことに手を出したから怒られている。それだけは心に刻んでおいて。……そしたら2人にはちゃんとフォローしてあげるから」


「はい……申し訳ありませんでした……」


 お義父様は優しい。

 そして私はわかった上で、自分の意思を通す為にそれに甘え続けるのだろう。……見守っていてくれていると知っているから。

 お義父様が私の肩にそっと手を置いた。


「私の領民を助けてくれてありがとう。あの時あの場所で、アリア以外に助けられる人はいなかった。だから本当はあんまり怒れないんだよね……。どんな立場でも変わらない君の気質は、後々きっと大きな力になるよ」


「ありがとうございます。精進いたします。……しかし私はまだ、助けられていません」


 まだ何も解決していない。元凶を見つけて、潰して、あの子のお兄さんを連れて帰らなければ。


「……そうか。そうだね。じゃあ私達が出来る精一杯の事をしに行こう」


「……はい」


 すでに話を聞いているお義父様も多分わかっている。

 ……せめて売られる前に保護して、葬送の儀は家族の手で。


 そしてこれ以上、理不尽な悲しみを増やさない為にも、絶対に――――




「な……それは……本当なのですか……?」


 領府に移ってから予想通りの反応を見せたお義兄様とジョシュを、お義父様のフォローに助けられながら何とかなだめた後、残虐な事件解決するべく続報を待っていた私達の元に信じられない知らせが届いた。


「ああ。彼らは……隣の領に逃げ込み、イェーツの所有する屋敷の一つに入って行ったそうだ……」


 先に知らせを聞いたお義父様が、悔しさのにじむ表情でそう説明した。


「そんな……そんな、ことって……!」


 この国の貴族の領地に関して、基本貴族同士の間では爵位に関係なく不可侵である。

 領主の許可なく立ち入ることなどあり得ない。無理矢理押し入ったとしたら、古参派の貴族がこれ幸いと攻撃してくるだろう。

 今、あいつらは隣の領主イェーツの庇護下にある。

 無断で行方不明者の捜索なんてできるはずが無い。


 そう、それは――事実上捜索の打ち切りを意味していた。






 領府で一晩明かした翌日、誘拐を阻止した後ショックを受けて倒れてしまった少女の事を気にしていたら、サー・デューイと一緒に様子を見に行くことになった。

 事件の処理であの後結局病院に行けていなかったらしい。

 どうやら彼は徹夜で仕事を片付けたようで、ひどい顔をしている。

 通常騎士や兵士は1日2日の徹夜くらい何ともない筈なので、恐らく精神面が影響しているのだろう。

 少し休んではと言ってみたが、どうせ眠れないので構わないとそのまま向かう事になった。……大丈夫だろうか。


 病室は個室に移されていて、ご両親が付き添っているとのことだった。

 彼女の名前はシンディ・カーターといい、いわゆる中流階級、庶民から見れば富裕層と呼ばれる家の子供だった。


「この度は娘を助けてくださって本当にありがとうございました……!あの子までいなくなっていたらと考えたら……!本当に本当にありがとうございます!」


 病室の前で待っていてくれたシンディさんの父親であるカーター氏が、頭を下げて感謝の言葉を述べてくれた。

 しかし息子のアントンさんの捜索が滞っている為、素直に受け取るのは気が引けた。


「あの、シンディさんの体調はいかがですか?怪我などは……」


「…………それが……」




 シンディさんの父親のカーター氏に連れられて、私たちは個室の病室に入った。

 シンディさんの母親であろう人がすぐにこちらに気が付いて、シンディさんのそばから離れて挨拶に来ようとしたが、片手を上げて首を振りそれを押しとどめる。

 その場で無言でペコリと会釈した彼女に、カーター氏が先に渡していたお見舞いの花束を持って行ってくれた。


「シンディ見てみて。お花きれいねぇ?アリア様が持ってきて下さったのよ」


 シンディさんの母親がベッドに座る彼女の膝の上に花束をのせる。


「シンディの好きなピンクのバラも入っているわ。とってもいい匂いねぇ」


 花束の上にシンディさんの手を乗せるが、力なくベッドに滑り落ちた。


「シンディ……」


 母親の言葉に全く反応せず、ただぼんやりと前を見つめる彼女の目には、何も写ってないように見えた。


「……目が覚めてからずっとこの様子なんです……。医者は強いショックとストレスのせいだろうと……」


 カーター氏がシンディさんに目線を合わせ、そっと手を取る。


「シンディ、アリア様がお見舞いに来てくださったよ……ほら、お前を助けてくれた方だ」


 その言葉に反応したのか、シンディさんが少し顔を上げた。


「助けて、くれた……アリア様……」


「……!ああ!そうだよ!助けてくれたアリア様だ!」


「シンディさ……っ!」


 目があったので言葉を返そうとしたら、彼女の両目からたくさんの涙が溢れ出してきて、思わず言葉に詰まってしまう。


「……こ…………た……」


「……え?」


「怖、かった……真っ暗なところに……閉じ込められて、怒鳴られて、殴られて、とっても、とっても怖かったの……お兄ちゃんも、怖い思いをしてるかも……痛い思いをしてるかも……」


 ボタボタとシーツに落ちる涙を気にも留めずに、私の目をじっと見て震える声で語り続ける。


「アリア様、お願い……お兄ちゃんを助けて……。私を助けてくれたみたいに、お兄ちゃんを助けて……」


 傷ついた少女の心からの真摯な願いに、私は何も言葉を返すことができなかった。




 シンディさんは私に話しかけた後すぐに眠ってしまったので、私たちも病室を後にすることにした。

 カーター氏が廊下まで見送りに出てくれた。


「今日は娘のお見舞いに来て下さってありがとうございました。あの子が起きてから反応を見せてくれたのは初めてでした……」


「いえ、その……現場での混乱でシンディさんに配慮する事が出来ず、本当に申し訳ございませんでした……」


 私は後悔の念でいっぱいになりながら頭を下げて謝罪した。あんな話、幼い彼女に聞かせるべきではなかったのに……


「いえ、アリア様のせいではなく自分のせいです……。申し訳ございませんでした……!」


 サー・デューイも隣で頭を下げた。


「……頭を上げてください」


 その言葉に顔を上げるとカーター氏は静かな顔で私たちを見ていた。


「あなた方は娘を助けてくれました。責めることなんてできるはずがない……責められるべき人間はもっと他にいるはずだ」


 責められるべき人間……そうなのかもしれない……しかし……。


「息子が……魔石にされて売られたと言うのは、本当、ですか……?」


「……」


 伝わってるか……それはそうだよな。

 詳しく聞きたいだろうが、捜査上話してもいい情報かわからないのでサー・デューイの方を伺い見る。


「……断定は出来ませんが、おそらく」


「犯人は捕まったのですか……?」


「……いえ。貴族に保護されているので、このままだと捕まらないでしょう」


 いきなり重要情報を話し始めたのでギョッとする。


「……貴族、に」


「はい。隣の領主のイェーツ子爵ですよ」


「サー・デューイ……!」


 小声だが強めに名前を呼んで止める。

 そんな話、漏らしても大丈夫なのか?捜索の妨げになるのでは?


「問題ありませんよ。子爵が自領で保護する限り、イクスベリー卿にだって手が出せないんだから、どうすることも出来ない。……言っても言わなくても変わらないなら、せめて家族に説明はするべきでしょう」


 私の考えを読んだように語る声は、どこか投げやりに感じられた。


「……断定は出来ないと、言っていたではないですか」


 まだアントンさんが誘拐されたとは限らないのだ。もし違っていたらただ不必要に不安を煽ったことになる。


「アリア様が捕らえた男達のうちの一人が覚えていました。シンディさんに似た少年を攫った、と」


「……!」


 それは……限りなく確定に近い証言だ……。


「……そう、ですか……では、アントンは、もう……」


「もし写真をお持ちでしたら貸してください。……確認に使わせていただきます」


「……はい……わかり、ました……」


 沈黙が落ちる。カーター氏の顔色が土のような色になっている。

 ……私達はもう帰ったほうがいいな……。


「それでは私たちはこれで……奥様とシンディさんによろしくお伝えください」


「あのっ!……せめてアントンの石だけでも取り戻せないでしょうか!資金が必要なら、私達にできる限りのことはさせていただきます!どうか……どうか……」


 カーター氏が必死に訴えてくる。……けれど……。


「……難しいかもしれませんが、全力を尽くします」


 今の状況では出来るとは言えなかった。

 ……なんて不甲斐ないんだろう、私は……。






 サー・デューイに付き添ってもう一人の被害者も見舞った後、私達は報告と仕事の為領府に戻った。

 お義父様の執務室へ向かうために廊下を歩いているが、先程からサー・デューイの歩く速度が速くて、歩幅の小さい私は遅れがちになっている。

 言葉の端々から貴族が好きではなさそうに感じるのに、何だかんだいつもは配慮してくれていたようだ。

 今はそんな場合では無いんだろうし、私としてもどうでもいい。


「サー・デューイ、お疲れ様です」


 廊下の進行方向から、昨日病院まで付き添ってくれたサー・デューイの部下が歩いて来て、声をかけてきた。


「あぁ、お疲れ様。……本当に疲れてるみたいだな」


「お互い様でしょう。今回の事件、こんな結果になるなんて……」


 そう話す彼はとても気落ちしているように見えた


「今日は向こうに様子見に行ってくれてたんだったな」


「えぇ、監視の交代要員で。……あいつら、昼から飲み屋に行って、子供達のこといい金づるだって笑って騒いでるんですよ!?……ほんと……やりきれねぇよ……」


 金……づる……?


「あ、アリア様!?すみません気が付かず……」


「金づるって言ってたんですか?笑って?」


「えぇ……すみません、こんな話……」


「……そ、う、ですか……」


 家族を助けくれと縋る声を、せめて魔石をと願う声を思い出す。

 子供を連れ去り、尊厳を踏みにじるような形で命を奪っておいて……

 あまつさえ、金づるだと……?

 そんな奴らを野放しにしておかないといけないなんて……!

 腹の底から湧き上がる怒りと悔しさでどうにかなりそうだ……!

 奥歯を噛み締め拳を握りながらなんとか耐えてお義父さまのもとへ報告に向かった。




 病院で見た被害者やその家族の様子をサー・デューイとともに報告すると、一通り聞いたお義父様が難しい顔をした。


「そうか……向こうに乗り込めない限り、石を取り返すのは難しいだろうね。次の被害が出ないように対策するくらいしか、できることが無い。抗議は入れてるけど、知らぬ存ぜぬで押し通されるだろう」


「そう、ですか……」


「対策って、見回り強化ですか?領土全部を見張るってことですか?それは、流石に……」


「わかってるよ……!でも、やらないよりマシだろう?監視も続けるし……。殿下の滞在も危険だからという事で見送ってもらおうかなぁ……」


「……殿下」


 あ。

 そういえば、来ると言っていた。

 この国の、第一王子が。


 ……なんてタイミングだろう。女神様の采配か。


「……アリア?わかってると思うけど、今の殿下にこの問題をどうにかする事は出来ないからね。ていうか多分たとえ国王陛下でもペナルティゼロで処理するのは無理だよ」


 私が考え込んでいたことがわかったのか、お義父様が釘を刺してくる。


「ええ。そうでしょうね。わかっていますよ」


 ……その事はね。


 エリファレット第一王子殿下。

 彼は王族だ。現在どれだけ本人に権力が無かろうと、この国を遍く支配する正当性を持つ存在。


 正攻法で、駄目なら。

 どんな手を使ってでも誘拐殺人犯達は絶対に潰す。

 そして被害にあった子供達の魔石を回収する。


「予定通り、殿下をお迎えしましょう。お友達に相談したい事ができました」


 そう、土下座でも裸踊りでも彼の望むことを何でもしようじゃないか。

 私はできる手は全て尽くしてみせると決めたのだから。






自分の領地は自分が管理してる!みたいな自負があるので、国王と言えど正当な理由もなくずかずか入り込んでいったら「あ?なんだよ。ここうちの土地だし」て思われて反感買います。派閥とかもあるから、他で無理難題吹っ掛けられたりとか地味な嫌がらせされたりします。大人って面倒くせぇ。

もちろん無視してごり押すこともできますけど、軋轢は生まれるよねっていう。それがお義父様の言うペナルティです。

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