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34.誘拐を止めました。

暴力表現があります。それと間接的ですが残酷な描写があります。ご注意下さい。

『痛い目にあいたくないなら大人しくしてろ!』


 先程の助けを呼ぶ声の周りから聞こえてきた、大人しくさせる為だろう不穏な声を追う。

 こちらは、さっき魔法が展開して来た方向だ。

 近くが騒がしいが、そちらは助けに入っている声が聞こえるから大丈夫だろう。

 今はこちらの声に集中しなければ見失うかもしれない。

 そうして声を頼りに辿りついた先で、路地から出てきた大きくて重そうな袋を持った2人の男達が馬車に乗り込もうとしていた。


「そこの袋を持った二人、止まってください!」


「何だこのガキ」


「おい、いいから行こうぜ」


 その場にとどめようとする私の言葉は当然のごとく取り合われなかった。

 別に構わない。ここに着くまでの会話を聴いていた限り、こいつらは常習犯だから遠慮することはないのだ。


「私はアリア・イクスベリー。イクスベリー家の者です。その荷物、中身を拝見させて下さい」


 今の私は貴族だ。少々の無茶を言っても通るので、ここは強引に行かせてもらう。

 この為に私はお義父様の手を取ったのだから。


「は?イクスベリー?何で」


「理由は言えません。ほら、早」

「助けて!」


 静かだった袋が動いて助けを求めてくる。

 この声……やはりさっきの声の主はその袋の中か。


「ちっ!暴れんなっ!このっ……!」


 男の一人が、明らかに人が入っているであろう袋を落として蹴ろうとする。

 やらせるか!

 小さな体を活かして男と袋の間に入り込み、袋を抱えながら片手で蹴りをガードする。

 あえて勢いを殺さないことで、少しだけ距離を取った。……が、相手がどうも素人だったので、威力が無さ過ぎて距離が稼げなかった。

 間合いの外に袋の子を置いておきたかったのに……。


「な……!」


 仕方がないので袋を抱えたまま、とりあえず逃さないように男の足を蹴って折っておく。


「うあああああ……!!」


「ひっ……!」


 見ていたもう一人の男と馬車が逃げようとしたけれど、袋の子を置いて追いかける訳には行かない。


「《ワインド》」


「ぐっ!うわあ……!」


 初級拘束魔法で拘束すると、どちらもそのまま地面と御者台に転がった。

 馬車も拘束魔法で無理矢理止める。ついでに足を折った男にも拘束魔法をかけておいた。

 相手が素人で良かった。

 訓練を受けていたら絶対にこんな魔法では捕まえられない。

 基本対人戦で魔法はテレフォンパンチだからな。

 ゴッ!ゴッ!


「あああああ……!」


 近付いて残りの二人の足も折っておく。これで何かあってもすぐには逃げられない。

 馬車はそのままにして、逃げた二人を引きずりながら元の場所に戻った。


「ぐっ……う、あぁ……」


 後ろ暗い事をやってきた人間だからか、流石にクズよりうるさく無かったので、防御壁は張らずにそのままにした。

 何が目的か確認したいしな。

 袋を開けると、私の少し上くらいの女の子が出てきた。

 お義兄様と同じくらいか?顔は涙で濡れているし、体は震えている。

 こんな小さな子が……怖かっただろう……。


「大丈夫?怪我はない?」


 女の子がポカンとした顔をしてこちらを見つめる。


「え?あなたが助けてくれたの……?」


「ええ。私は魔法が使えるから。……この人達に見覚えはあるかしら?」


「え、ううん。見たことない。ただ……」


「ただ?」


「実はお兄ちゃんが帰ってこないの。誘拐かもって言われてて……私も連れて行かれそうになったし、関係、あるのかな……?」


「お兄さんが……」


「喧嘩して、大嫌いって言っちゃったの。戻ってくるよね?仲直り、出来るよね……?」


 目にいっぱい涙をためながら話す少女を見つめる。

 かける言葉が見つからず、無言で頭を撫でた。

 流石にこの状況で絶対大丈夫とは言えなかった。


「アリア様!」


「サー・デューイ」


「何やってんですか……って聞くまでも無いですね。さっきはご協力ありがとうございました」


「いえ、他にも連れ去られた人が?」


 聞くまでもないと言う事は、他でも似たような事が起こったんだろう。

 さっき聞こえてきた近くで起こっていた騒ぎの方だろうか。

 ……探索魔法の展開と誘拐が同時に起こったのは偶然ではないのか。


「ええ。アリア様の指した方に向かったら、明らか堅気じゃない奴らがいましてね。職質してたら一本先の路地で誘拐が始まったんですよ。そっちを対処してたら怪しい奴らには逃げられました。証拠もないのに拘束出来ませんから。とりあえず今、部下に跡をつけさせてます」


「連れ去られそうになった人は無事なんですか?」


「はい。もちろん」


「そうですか。良かった……」


 助けに入る声が聞こえていはいたが、気になっていたのだ。無事なようで良かった。

 サー・デューイが「失礼します」と言って手をかざした顔を耳元に寄せてくる。


「……あの急な魔法の気配、なんだったんでしょう?わかりますか?」


 周りに気を遣ったのか耳打ちで聞いてきたので、こちらも耳打ちで返す。


「おそらく探索魔法だと思います」


「探索魔法?……それ、本当ですか?」


 私の返答を聞いて、サー・デューイの顔色が変わる。


「ええ、たぶんそうだと……どうされました……?」


 急に殺気とも呼べる雰囲気を身に纏い、訓練中には見たことも無いような恐ろしい顔をしながら、彼は私が拘束した男達に近付いて行った。

 一人の男の髪を掴んで睨みつける。


「おい、最近子供達が行方不明になっているのはお前等のせいか?攫った子供達どうした」


「ハッ!言うわけ無いだろ……」バキッ「っぁぁあああ!」


 質問に対して反抗的な態度を取る男の右の小指を容赦なく折った。


「攫った子供達どうした?」


「…………」バキッ「あああああ!!」


 次は薬指。中指、人差し指、と淡々とした調子で同じ質問をしながら機械の様に折っていく。

 ……答えるまで折る気か。


「攫った子供達どうした?」


「あ……あ……」グッ「ひっ!言う!言うよ言うから、言うから……もうやめてくれぇ……!うぅ……痛い……痛い……」


 続けざまに与えられる痛みによって脂汗をかきながら、震える声で訴える。


「早く言え」


「ま、魔石に……変えて、売ってる……」


「は?」


 魔石に変えて、売る……?

 耳に入った言葉がありえなさすぎて、一瞬思考が止まる。


「やはりそうか……クソ共が」


 サー・デューイが静かに、けれど凄まじい怒りを滲ませながら呟いた。


「売る?人間の石を?正気か……?!」


 確かに生き物全ての体内に魔石があるし、魔法の素質が高い者は魔物と同じくらいの大きさの魔石を持っていたりする。

 しかし火葬したあとに残るそれは、葬送の儀を行い女神の元に返して弔う。

 それが普通だ。

 それを、儀式を行わずに魔石として売るだと?

 狂ってる……!

 教会の教えでも禁止しているし、そもそも鑑定すれば人間のものである事はすぐにわかるから、普通は買い取らない。

 それなのに……!


「今は、どれだけ魔石を……売っても値がさがらねぇし……どんな石にだって……買い手が付く……はぁ……いつ現れるか……わからない魔物を討伐するより……ぐ……魔法の素養の高い平民のガキを……攫ったほうが簡単」


「え……じゃあもしかしてお兄ちゃんも……?」


 しまった!この子の前で聞いていい話じゃ無かった!

あまりの衝撃的な話に気を取られてしまった!

 彼女の言葉を聞いてそのまま人でも殺しそうな、明らかに尋常ではないサー・デューイの雰囲気が霧散した。


「ああ……この辺りで最近ならごふっ!」


「もういい。黙ってろ!」


 余計なことを言い出す男をサー・デューイか殴って止める。

 が、少女の顔はみるみる青褪めていく。


「え、え?嘘、嘘だよね?そんな、お兄ちゃん……」


 地面に座り込んでいた彼女の上体がフラッと傾いたので、慌てて抱きついて支えたが、腕の中で完全に力が抜けているのを感じた。

 どうやら気を失ってしまったようだ。

 衝撃的な話と誘拐された疲労で、許容範囲を超えてしまったんだろう……。


「すみません……俺の配慮が足りませんでした……。可哀想な事をしてしまった……。頭に血が昇ってしまって、この子に知らなくていい事を聞かせてしまった……」


 後悔のにじむ声でサー・デューイが謝罪した。

 しかし……配慮が足りなかったのは私も同じだ。話に気を取られ過ぎた……。

 サー・デューイは彼女のお兄さんの事は聞いていなかったのだから、私が気付いて止めるべきだった……。


「いえ、私も気付くべきでした。すみません……。……とりあえず、病院まで行きましょうか。あ、サー・デューイは現場に残りますか?」


「そうですね……。では、部下を付けます。後で様子を見に行きますので……」


 まだ幼い少女の顔にかかった髪を払いながら、痛ましいものを見るような眼差しを、私の腕の中の彼女に向けた。


「彼女を頼みます」


「……はい。任せてください」


 サー・デューイの様子はどう見ても普通ではないが、今はそれどころではない。

 彼は現場の指揮を取らなければいけないし、私は病院へ行かなくてはいけない。

 腕の中の顔色を失った少女を見て、憤りから奥歯を噛み締める。

 なぜ、こんな酷い事が出来るのだろうか?

 人を魔石に変えて利用するなど、あまりにも非人道的過ぎる。

 命だけではなく、魔石にされた本人や、その人の大切な家族、沢山の人の尊厳を踏みにじる行為だ。

 彼女のお兄さんは…………いや。無事な可能性が低くても、できるだけ早く保護しないと。

 そもそもまだ連れ去られたとは限らないのだ。

 とりあえず、こんな事態を引き起こしている元凶を見つけ出して潰さなければいけない。

 私に何が出来るか分からないが、できる手は全て尽くしてみせる。

 そう決意した私は、サー・デューイの部下と共に病院へ向かった。




話が重くてツラい……ってなった方は、アリアに対して「足折る系ヒロインかよ!」ってツッコんで心を強く持っていただけると有難いです。


ちなみに訓練を受けてない雑魚しか相手にして無いだけで、アリアは言うほど強くないです。逃げ足だけは凄く速いです。魔法のおかげで。



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