31.いい弟で。
更新滞っててすみません。しかも話暗いです。
辛かったら流し読みするか、飛ばしてください。次の話の前書きにあらすじ書いておきます。
ジョシュは2日間寝込んだ後、無事回復した。
医者が言うには外傷は打ち身のみで、スロットの最大値の魔法を使おうとした事によって魔力切れ寸前までいった為の昏睡状態だったそうだ。
魔力逆流はしていなかったが、あのまま行くと危なかったそうで、間に合って本当に良かった。
午前中は私が、午後はお義兄様がジョシュに付いていて、夜は仕事から帰ったお義父様が遅くまで起きて横で仕事をしながら様子を見ていた。
意識が戻った時に家族の誰かがついていた方がいいだろうと、持ち回りでジョシュの側にいたが、ちょうどお義兄様とお義父様が交代する時間に目を覚ました。
メイドからの知らせを聞いてジョシュの部屋を訪れると、お義父様に抱きしめられているジョシュがいた。
「心配した……」
「ごめんなさい……」
お義父様は体を離して腕を掴み、ジョシュの顔を見て険しい顔を作る。
「どうしてスロットを持ち出して使おうとしたの?危ないじゃないか!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ジョシュは青い顔をして、焦点があっていないような目でじっと一点を見つめている。
あの顔は――届いてない。
お義父様が心配して言っている言葉のすべてが届いてない。
「ジョシュア……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
自分の感情でいっぱいいっぱいという様子のジョシュを見て、お義父様もそれ以上何も言えなくなってしまったようだ。
その様子を部屋の隅でじっと見つめる。
ジョシュは今自分の殻に閉じこもっている。
閉じこもってしまうのは何故か。
怖いから。相手に嫌われたくないから。好かれたいから。
ちょうど良かったな。
私が相手なら、それは当てはまらないでしょう?
******
それはずっと自分に向けられていた。
はっきりとしない悪意。
客人の嘲笑、使用人の態度、そして――そっと逸らされる母の視線。
幼いながらに感じるそれらはとても息苦しく、かといって原因はわからなかった。
とりあえずいい子にしていないと。
これ以上、嫌われないようにしないと。
『本当にそっくりだ……』
ある日家に来ていた親戚だという歳のいった男が僕にそう言った。
『な、なに……?』
いきなり声をかけられたことにも驚いたし、何より二人しかいないところで大人に詰め寄られるようにされるのはなんだか恐ろしかった。
『あぁ、ジョシュアからもアイヴァン様にお願いしてくれないか。お父様を許してあげてって。邸から出してあげてって』
何を言われているのかわからなかった。お父様がお父様を許すの?
『アイヴァン、おとうさまは おでかけ してるよ?』
『違うそっちじゃなくて、本当の、血のつながったお父様だよ』
『え……なに?』
え、本当のお父様?お父様はお父様ではないの?
『何をしてるんだ!』
僕らを見つけたお父様が走ってきた。とても怖い顔をしている。どうしよう、怒られる?
『ジョシュアに近寄るんじゃない!絶対に余計なことは言うな!』
バタバタと走って行く音を聞きながら、お父様は僕の腕をぎゅっと掴んだ。痛い。
『今のおじさんは何か言っていた?』
お父様は変わらず怖い顔のままだ。
痛い。痛い。怖い。どうしよう。どうしよう。
今聞いたのは、悪いことなんだ。
『な、にか?なにも きいてないよ』
『そうか、良かった……』
僕の答えを聞いて、お父様は腕から力を抜いて笑ってくれた。
良かった。合ってた。これでいいんだ。
僕は何も知らない。
お父様がお父様じゃないなんて知らないんだ。
まるで大きな石を飲み込んだかのように胸が苦しく感じることにも、気付かないふりをした。
それから僕は、今までよりも悪意に敏感になってしまった。
原因がわかったから。
僕が、お父様の子じゃないから。
どうやら、僕は、望まれて生まれてきたわけではないようだ。
何も知らない。何も知らない。
いい子でいよう。いい弟でいよう。
そうしたら、いつか、僕を……。
『ごめんなさい……ジョシュア……』
そっと逸らされる母の視線は、最期まで変わらなかった。
『……心労……ジョシュア様……顔……』
何も知らない。何も知らない。
いい子で。いい弟で。
そうしたら、そうしたら、きっと――
『彼女が話していたアリアだ。今日からランバートの妹で、ジョシュアの姉だよ』
『アリアです。よろしくお願い致します』
新しく姉だと紹介された彼女を見て驚いた。
お母様に、そっくりだ……。
他人のはずなのに?
……もしお母様も含めた家族の肖像画を並べれば、どう見たって他人なのは――
違う。
何も知らない、いい弟としてなら、ここは、笑って、
『ジョシュアです。お姉様ができるなんて嬉しいな!よろしくね』
姉様も家族。お父様がそう決めた。
それなら彼女にとっても、いい弟にならないと。
彼女はどうやらとても凄い人だったらしく、勉強では兄様も敵わないようだ。
それどころか大人に混じって仕事をして、魔法まで使うらしい。
お父様に書斎によく呼ばれているし、殿下とまで仲が良い。
お父様達と話している内容を聞いてみても、難しすぎてなんの話だか全くわからない。
彼女とお父様が話しているところを見かけたが、僕や兄様と話している時とは違う、互いへの信頼のようなものが見えた。
……この家に来て少ししか経っていないのにいつの間に?
お父様と血が繋がってないのは同じなのだ。どちらが、必要か、なんて……
――後から来たくせに
違う。
――入ってくるなよ
知らない。考えるな。
――姉なんかじゃない。家族面するな!
知らない!知らない!知らない!
彼女相手に上手く笑えなくなってきた。
感情がこぼれ落ちる。
どうしよう。
ちゃんとしないと。いい弟にならないと。
家の庭を歩いていると、突然腕を掴まれた。
『あぁ!ジョシュアか!はは、本当に僕にそっくりだな』
『だ、誰?』
『お前の本当のお父様だ。会えて嬉しいだろう?ジョシュア?』
にたりと笑う気持ちが悪いその顔は、鏡で見る自分とそっくりだった。
こいつが、僕の。
『あ……ぁ……』
――見ないふりをしてきた絶望が、人の形をしてやってきたように思えた。
あぁ。もうだめだ。
自分の父親は最低な人間だったようだ。
お父様や兄様は恐ろしいほど憎しみのこもった目であいつを見ていた。
あの目は……本当は僕にも向けられるものではなかったのだろうか?二人が優しいから我慢していただけで、心の中ではずっと、そういう風に見ていたのでは……?
僕はやっぱりいらないんじゃ……。
二人と話すのが怖くて、僕は部屋から出られなくなってしまった。
『ジョシュ……?アリアだけれど、あの、お兄様も一緒にお茶でもどうかしら?……みんな心配しているわ』
部屋の外からお父様や兄様が代わる代わる声をかけてくれていたが、その日は姉様に声をかけられた。
『ごめんなさい……気分じゃないんだ……』
『そう……』
そもそも外に出たりはしないが、今この家でうまくやっている彼女を見たら、何を言ってしまうかわからない。いい弟が出来る気がしない。会いたくない。
お父様と血がつながっていないのは同じなのに……同じ?
もし、もし僕も彼女のようにすごかったら、受け入れてもらえるだろうか?
この家に必要だって言ってもらえるだろうか?
そうだ。勉強は無理でも魔法なら……もし彼女より年下の僕が使うことが出来たなら……。
周りに人がいないことを確認して、僕はそっと部屋を出た。
「けっきょく、失敗した……」
騒ぎをおこしただけで、みんなに迷惑をかけただけで終わった。
お父様はがっかりしただろうか。兄様はあきれただろうか。
自分の部屋の天井を見ながら考える。
この家には、僕なんて……
部屋にノックの音が響いて、誰かが入ってきた。
「おはようジョシュ。起きているなら少し話せるかしら?」
入ってきたのは、今一番会いたくない人だった。
嫌だ。今は嫌だ。なんとか出て行ってもらって……
「ごめんなさい、今は」
「今避けたところで、後からだって上手くなんて話せないと思うわよ?大丈夫。上手くやろうとしなくても。私になら、どう思われようと問題ないでしょう」
「え?」
言われたことに頭が追いつかない。今、何を……?
「だって、ジョシュ。あなた私のこと嫌いでしょう?」
隠していた本音を言い当てられて、僕は頭が真っ白になった。
ジョシュア視点だとお母様優しくないですけど、これでも頑張ったんです。目を逸らすだけで態度は割と普通でしたし、周りにも配慮を求めてる。彼女は頑張った!
この夫婦の歳の差は6歳で、17歳の時にランバートを生んでます。ジョシュは20の時の子です。




