3.役場へ行きました。
翌日、私はフィナさんと共に役場へ来た。
泣きすぎて頭が痛かったが、やらなければならないことをやっているほうが気がまぎれる。
とりあえずカウンターに……
「納得できません!」
男性による大きな声に反応し、そちらを見る。カウンターの前にいる10人ほどの団体から声が上がったようだ。
「魔物に襲われているのに補償金が下りないなんて……どういうことですか!」
「そんな……これからどうすればいいの……?」
「だから、昨日も言ったけど、補償金は下りない。魔物から逃げている途中で川に転落しているからただの事故扱いで、補償の対象外なんだよ」
「!」
それは私の両親の事故と同じ状況だった。
もしかして同じ一団で移動していて魔物に襲われた人たちだろうか。
「イネス区では補償金が下りているんです。……責任者の方と話をさせてください」
カウンターにいた男性が嫌そうに奥に歩いて行った。
責任者とやらを呼びに行ってくれたのだろうか。
私は抗議していた団体の近くへ寄って一番外側にいた人に声をかけた。
詳しく聞いてみれば、やはり両親と同じ魔物に襲われた人たちの遺族が集まって訴えているようだった。
昨日補償金が下りないといわれて一度諦めたが、隣の区画の役所で手続した、魔物に襲われたことが直接の死因になっている人たちの遺族には補償金が下りることを聞いて、再びやってきたらしい。
「わざわざ呼ばれてきてみれば……事故扱いになるから補償金は下りない。窓口の者が同じ説明をしていただろう」
奥から出てきた責任者であろう町役場の役人に皆で訴えたが、面倒そうな顔で変わらぬ内容の言葉を返された。
こちらとしては生活が懸かっているというのに……もう少し親身になってくれてもいいのではないだろうか。
「窓口の子では話にならないから、責任者である貴方を呼んでもらったんです」
「はぁ。誰が聞いたって変わらない。補償金は下りない。さぁ帰った帰った!」
補償金が下りない……?前の私の国ではこのケースでも、額は小さくても必ず出るように規定されていたが……ガレリア王国では違うのだろうか?
「そんな……夫がいない状態で補償金も下りず、これからこの子達を抱えてどうやって行けば……」
「知らない。どんな状態だろうが、とりあえず下りないもんは下りない」
「そんな……そんなことって……」
「おかあさん……」
母親が子供2人を連れ、途方に暮れたようになっていた。
両親と同じ一団にいたということは、ここにいる人はおそらくみんな商売をしていたか、雇われていた人たちのはずだ。
彼女の夫が事業主であったなら……補償金が下りないと本当に困ったことになるだろう。
私はおそらく何とかなる……というか何とかしてみせるが、この親子は……顔色を見るに厳しそうだ。……何とかならないのだろうか。
「該当する箇所の規定を見せていただけませんか?」
「ア、アリア」
フィナさんが焦ったように声をかけてくるが、視線で問題ないと伝える。
「は?なんだこの子供は」
「私の両親も同じ事故で亡くなっています。補償金が下りないと厳しい。ですので魔物に襲われた際の補償金に関する規定を見せていただけますか?」
「はぁ?なんでわざわざ……いや、見せれば大人しく帰ると言うならいいだろう」
役人がにやりと笑った。なんだか嫌な笑みだ。
「……皆さん、いいでしょうか?」
私は他の遺族たちを見て、同意するかどうか尋ねた。
なんだかぽかんとした顔をしている。急に現れて話し出したから驚いたのだろうか。
「あ、あぁ」
「まぁ……このまま何もしないよりは……」
「待ってろ。今持ってくる」
責任者の男は一旦奥へ行き、数分後には分厚い書物を持ってきた。
まず遺族の男性が規定と思われる本を見て……それから固まってしまった。
横から覗いた人たちも固まっている。
どうしたんだろう。やはり何も書いていなかったのだろうか。
「どうした?何か言いたいことはあるか?」
責任者の男がニヤついた顔で男性を見ている。……私の位置からでは読めないな。
「見せていただいても?」
男性は困ったような顔でしぶしぶといった体で見せてきた。
中身をざっと確認すると……。
「……規定されているじゃないですか」
魔物災害の補償規定の最後の方に、魔物に追われたことが原因での事故も補償対象に含む旨が書かれていた。
よし。これで先ほどの親子も当面はなんとかなるだろうし、私の今後の生活も余裕が生まれるだろう。
「え!?」
「本当に書いてあるのか!?」
周りから驚いたような声が聞こえる。
……?なんだろう。どうみても書いてあるじゃないか。
「え?はい。ここに……」
「書いてない!……でたらめを言うな。これだからガキは……!」
書かれている場所を示そうとすると、責任者の男が遮ってきた。
なんだこの男。
これだけはっきり書かれているのをこれだけの人数に確認されているのに認めないなんて……
「どう見ても書いてありますよね?」
隣にいた男性に声をかけてみると、気まずそうに目を逸らされた。
「わからない……」
「え?」
「読めないんだ……見たことない単語ばかりで……」
「……!」
そうか……役場の規定なんて専門用語ばかりだから一般人は読めないのか。
日常に使う分くらいの文字は読める人が多かったから、まさか読めないと思わなかった。
「大人でも読めないような文章を、こんな子供が読めるわけないだろう!補償金が欲しいからと適当なことを言うな!この悪ガキめ!どこをどう見ても書いてない!ほら、約束通りさっさと帰れ!」
こいつ、規定の補償金を払わないつもりか!
なんとかしてくれないかと周りの他の役人を見ても、さっと目を逸らされる。
……こいつらみんな、わかってて黙ってるのか。
「書いてあります!どう見たって……」
「はっ!さっきから書いてあると言っているのはお前だけじゃないか。話にならないな。……もういいだろう。私は忙しいんだ」
そう言って役人の男は踵を返した。
その時口が動いているのが見えて、有利な情報が得られないかと、とっさに身体強化魔法で聴力を上げて独り言だろう言葉を聞いた。
『……そ……とに予算を使うわけないだろうが。全くギリギリこっちの区画で落ちやがって。魔物の討伐とほとんどの遺族補償は向こうに押し付けられたが……。討伐を遅らせたから顛末書を書いて報告までさせられたんだ。絶対に補償金など払わん』
――あまりの内容に耳を疑った。
な……んだ……それは……。
討伐を遅らせた?意図的に?
魔物が人を襲っていると知らされていたのにということか?
じゃあお父さんとお母さんは助かったかもしれなかったのか……?
こいつの……こいつらのせいで彼らは死んだのか……!
怒りで手足の感覚がなくなる。
聴力強化のせいか、感情が高ぶりすぎたからか、激しいめまいがする。
「待ちなさい!」
「おい、誰かあいつらを追い出せ」
警備の者たちに腕をつかまれ、出口の方へ引きずられる。
「こんな小さい子に乱暴はやめてください……!」
フィナさんが警備の者に追いすがるが、彼女まで拘束されてしまった。
まずい、フィナさんを巻き込んでしまった……!
「明日も来られては困るから、外で説得してこい……念入りにな」
「……!暴力で脅すつもりか……!」
腐ってる……!
なんでこんな奴が存在してるんだ……!
役場の責任者?何の罪もない人々を殺した、ただの罪人じゃないか!
「やめてください!」
「私たちはただ話を……!」
他の遺族たちが叫ぶが、周りの役人たちは変わらずこちらを見ようともしない。
こいつら……!こんな奴らが為政に関わるなんて……!
怒りと悔しさで視界がにじんだ。
「やめなさい……!」
罰されてもいい。
こいつらを止める。
私は身体強化魔法を発動させようとした。その瞬間、
「これは――何の騒ぎかな?」
入口から、落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
小説内で魔物魔物言ってるのでRPG並みにめっちゃ発生してるみたいに感じますが、そんなことないです。災害と言っているように、地震や台風のような感じです。




