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29.スロットが消えました。

すみません仕事が繁忙期で更新できませんでした。また再開します。

 人払いがされた書斎には、お義父様と私の2人だけがソファに座っている。


「シャロンについて今までアリアに話した事は無かったね」


 お義父様は足の上で組んだ手を見ながら話し出した。


「彼女については、色々とあって、まぁ、もうそれは分かってると思うけれど、だから話すことが出来なかった」


 辛そうに話すお義父様の顔を見つめ 黙ったまま続きを促す。


「こんな形で教えることになるとはね……。あ、今回の事についてはきちんと処理したから、君に何かを強いることはないよ」


「……ありがとうございます。お手数をおかけいたしました」


「むしろこちらこそありがとう。おかげで迅速かつ穏便に片付けることができたよ。ジェフリーは軟禁ではなく牢屋に繋ぐことになった。もう二度と外に出てくることはないよ」


 どうやら大人の間で上手くまとめてくれたらしい。牢屋の管理についてはお義父様のことだから、きちんとしてくれるよう段取りを組んでくれているのだろう。


「そうですか。ではもう大丈夫ですね」


「あぁ。これでもうジョシュアにちょっかいをかけたり出来ない」


「……ジョシュはまだ部屋から出てこないですね」


 あの日以来、ジョシュアは自分の部屋にこもってメイド以外と接触することを避けている。

 お義父様やお義兄様が部屋の外から呼びかけているが、中に入れようとしないし一向に部屋から出てこない。…… 私も声をかけてみたが結果は言わずもがなである。

 ジョシュアの気持ちを考えると無理やり 押し入ることもはばかられて、屋敷の者は皆現状に心を痛めている。


「やはり、傷付けてしまったか……もう少し彼が大きくなって、理解出来るようになってからちゃんと話そうと思っていたんだが……」


 ……先日の視察の時の様子だと、ジョシュはおそらくわかっていただろう。詳しくは知らなくても、父親が誰かは知っていたと思う。

 エリファレット様もきっと周りから色々と言われているはずだと言っていた。

 お義父様がそれに気付いていなかっただけだ。

 子供は多分、大人が思っているより、もっとずっと色々なことを考えている。

 お義父様が鈍いんじゃない。きっとそうジョシュが見せかけていた。

 わからないふりをして、子供らしく。弟らしく。そう見えるように。

 今、彼がそれを保てなくなっているのは、おそらく――私のせい、だな。


「シャロンはとても素敵な人でね。ジョシュアを愛そうと頑張っていたんだ。ただどうしても心がついていかなくて、だんだん衰弱していった……。幼い彼女に完全に背負いきれるものではなかったんだろう……」


 何かを耐えるような沈黙の後、少し迷うような表情になったお義父様は、一瞬グッと目をつむり再び口を開いた。


「シャロンは、自分の代わりにあの子を愛してくれと遺していったんだ。色々な想いはあったけれど、最初僕らがジョシュアを受け止められたのは、シャロンのおかげだと思う。彼女の願いだったから……。もちろん今はジョシュアのことを家族として当然愛しているよ」


 お義父様たちの葛藤は人間として当然のものだが、それを正しくつないだのがシャロン様だったのか。

 ……シャロン様はとても強い人だったんだな。自分が一番傷ついていただろうに、普通そんなことは出来ない。

 イクスベリー家当主の妻として、母親として、正しくあろうとしたのだろうか。

 ……似てるな。


「ジョシュはシャロン様に似ているのですね」


 どんなに私が気に入らなくても、イクスベリー家の者として、弟として、正しくあろうと笑顔で迎え入れてくれた。

 彼が成長した大人だったらきっと気持ちを隠し切っただろう。

 そう考えるとまだ6歳でよかった。ジョシュをシャロン様と同じ結末に向かわせるわけにはいかない。


「似てる?ジョシュアとシャロンが?」


「ええ。話を聞いた印象ではかなり似てると思いますね」


 お義父様がぽかんとした顔で見てくる。そんなに変なことを言ったか?


「確かに……言動とか、言われてみれば、似てるかも……?はは!気づかなかった!」


 何か吹っ切れたように笑ったお義父様は、そのままくつくつと楽しそうにしばらく笑い続けた。


「あーせっかく気付いたのにジョシュアに話したくても話せないね。残念」


「エリファレット様はガス抜きが出来ればいいと……」


「ガス抜きか……愚痴とか聞いてみようかな」


「ジョシュが言いますかね……」


 エリファレット様に言われたアドバイスを話してみたが、いい息子、いい弟であろうとするジョシュがお義父様やお義兄様に愚痴なんて言いそうにない。私とはそもそも話してくれそうにない。

 二人で考えているとノックの音が響き、執事長のケネスが入室許可を求めた。


「どうした」


「申し訳ございません。……スロットが一つ消えました」


 報告をするケネスの硬い表情が不測の事態であることを告げていた。スロットは高価なものなので、執事が管理している。担当は確かケネスではなかったが、部下の報告を受けて来たのだろう。


「何!?……心当たりは?」


「それが……メンテナンス中に消えたようだということしかわからないようです。使用人の持ち物も調べ、部屋も探しましたが見つかりませんでした」


「もしかして窃盗目的の侵入者か?…………アリア、スロットは持ってる?」


「はい」


 お義父様が少し迷ったあと、私に聞いてきた。戦力としてカウントしてもらえたらしい。


「何もないことが確認出来るまで、防御壁を張ってランバートとジョシュアと一緒にいてほしい。通信系の魔法は?」


「すみません、まだ……。完全防御壁はやめておきます」


 クズに使った全てを通さない完全防御壁は、何かと誤魔化すのに便利そうだった為あの後改造してしまったので、基本の解除術式では解除出来なくなっている。

 第三者に解除されないためのものなので、対侵入者用としてはむしろ改造してて良かったんだが、空気も音も光も通さない防御壁は外との意思疎通が出来ない。

 普通は通信系の魔法でその欠点を補うが、色んな種類の防御壁の改造を行っていた為、そこまで手が回っていない。


「いや、いざとなったら張って。片付いた後は壁の端の方を全力で抜くから。……じゃあよろしく頼むよ」


「わかりました」


 慌ただしく駆けていくお義父様を見送り、私もジョシュアの部屋へ向かう。


「ノエル。ランバートお義兄様にジョシュアの部屋に来るように伝えて下さい。必ず護衛を同行させて。その後は、貴方も一時避難を」


 廊下を行きながら私付きのメイドのノエルに指示を出す。


「かしこまりました。アリア様は……」


「私はスロットがあるので問題ありません。頼みましたよ」


 ノエルと別れてスピードをあげる。とりあえずジョシュとお義兄様と合流しないと。


「何もないといいのだけれど……」


 ジョシュの部屋に着くと、メイドが扉をたたいてジョシュを呼んでいた。


「ジョシュア様!ジョシュア様!お返事願います!」


「返事がないのですか?鍵は?」


「借りてありますが、私の一存では開けられません」


 彼女はただのメイドなので、自分の判断で勝手に部屋を開けるわけにはいかない。


「鍵を貸して。ここは私に任せて、貴方は一時避難してください。ジョシュ!誰かが侵入したかもしれないから、お義父様が一緒にいろって言ってるわ!扉開けるわよ!」


 メイドを避難させ、問答無用でジョシュアの部屋を開けた。

 しかしそこにいるはずのジョシュアの姿がなかった。


「な……!いない……!」


「アリア!」


 護衛を連れたお義兄様が走り寄ってくる。とりあえずお義兄様の無事を確認できてホッとしたが、ジョシュの方は部屋から全く気配が感じられない。


「お義兄様!ジョシュがいません……!」


「は……?!なんで……」


「わかりませんが、とりあえずお義父様にお知らせします。お義兄様は」


「僕も行く」


 お義兄様が強い意思を込めて見てくるが、その希望は聞けない。

 彼はまだ9歳の、イクスベリー家の跡取りだ。


「……いえ、ジョシュが帰って来るかもしれないので、ここで待っていてください」


 お義兄様の周りに耐物理防御壁と対魔法防御壁を重ねてかける。

 お義兄様が防御壁を叩くが、もちろんびくともしない。


「……!アリア!」


「勝手にすみません……。後で叱って下さい。……お義兄様と、もし戻って来たらジョシュを頼みます」


 護衛に指示を出し、急いでお義父様のもとへ向かう。

 避難中の使用人に声をかけ、お義父様の居場所を聞き、スロット庫へ向かった。






前の話でクズは「監禁されてた!」と主張してますが実際は軟禁でした。だからイェーツの接触できたという。ただクズにとっては監禁だった模様。

スロットはとっても高価なものなので、無いってなるとザワつきます。使用人の一時避難は窃盗犯から守る為と、使用人が犯人だった場合の確認や逃亡阻止の為でもあります。

賊と闘うのは使用人の仕事じゃないので、可能な限り守ります。

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