28.招かれざる客が来ました。
暴力表現があります。ご注意ください。
「お義父様」
声をかけて玄関ホールに出る。そこにはお義父様達だけではなく数人の使用人とお義兄様もいた。
真っ青な顔で腕をつかまれていたジョシュが弾かれたようにこちらを見て、下を向いて震えだした。
……ごめん。そうか、知られたくなかったよな……。
「アリア!……あっちは」
「一応大丈夫かと。あちらのスロットを持った物騒な方は?」
「私の、従兄のジェフリーだ……」
ぎりっと音がするくらい歯をくいしばりながら言うお義父様から、尋常でない程の怒りを感じる。
「なんだこの子、シャロンそっくりじゃないか……あぁ、そういうことか」
「ジェフリー!」
ジェフリーがにやりと嫌な笑みを浮かべたまま私を頭からつま先まで観察する。
前世で何度も向けられた視線だ。
……下衆が。私は7歳だぞ。
「アリア、後ろにいてくれ。……アイツどの面下げて……!」
お義兄様が前に立ってジェフリーからの視線を遮った。……先程からいつもの穏やかなお義兄様からは考えられないような顔をしながら睨みつけている。
シャロン様とはお義父様の奥様のことだろう。お義兄様とジョシュはシャロン様の実子だったはず。
「君が新しく養子に来たというアリアだね。殿下の友人の。僕はジョシュアの父親のジェフリー……」
「お前!もう喋るな!」
お義父様も憎しみをこれでもかと込めたような目でジェフリーを見て怒鳴りつけている。
「ジョシュアの父親はここにいるアイヴァン・イクスベリー伯爵ですが?」
とりあえず事実を告げる。だから早く帰れ。
「はは、よく見てごらん僕とジョシュはそっくりだろ?」
「それが?どの記録を見ても義父が父親です」
確かにそっくりだが、そんなことは関係がない。義父が父親だと公に認められている。
「記録上はそうかもしれないが、本当は」
「はぁ。まぁ貴方が義父の従兄なら似ることもあるかもしれませんね。父親?妄想ですか?医者に掛かった方がいいのでは?」
証拠も無いのに父親父親うるさいんだよ。
貴族の親子関係は書類上のものが全てなんだから黙ってろ。
「は?!馬鹿にしてるのか!どっからどう見たって父親だろうが!」
うるさいだけで話が通じないな……こいつ本当に貴族か?
「お義父様。”子供のすること”ですが、彼相手ならどこまでもみ消せますか?」
「……あいつ相手ならたとえ命を奪ったとしてももみ消せる。でも今は殿下がいるから……」
「大丈夫です。わかっています」
「は?何言ってるんだこっちにはジョシュアが……」
「警告します。大人しくスロットを手放しジョシュアを解放して下さい。でなければ痛い目に遭いますよ」
「はぁ?子供が何言ってんだよ?てかねぇ、悪いのは僕じゃなくてそこのアイヴァンだから。君のお義父様!僕を監禁して、家の者に監視するように指示して、社交界から追い出した!だから殿下にお願いして、コイツを懲らしめてもらって、社交界に戻してもらわないと!ほら、殿下連れてきて!そしたら離してやるよ」
だから何で王子殿下がわざわざ出向かなきゃならないんだよ馬鹿か?
それにしても確かにエリファレット様の訪問はお忍びというわけではないが、監禁されてたようなのになんで知ってるんだコイツ。
「……何故王子殿下がここにいると?」
「ザンがわざわざうちに来て教えてくれたんだ!いいやつだろ?」
ザン……?まさか視察を使ってうちに嫌がらせしにきたザン・イェーツか……!
あいつ……!
「シャロンと僕はただ愛し合っただけなのに……」
「ジェフリー!貴様……!」
「おっと、そんな危ないもの向けないでくれよ」
思わずといった様子でスロットを向けたお義父様にたいして、ジョシュを前に抱えて盾にする。
ちっ!父親を自称してるくせに子供を盾にするのか。クズが!
「それ以上、シャロンを侮辱することは許さない……!ジョシュアを離せ……!」
「侮辱なんてしてないよ。僕はシャロンを愛してたんだ。この世は愛こそ全てだろ?何で僕がこんな仕打ち受けなきゃならないんだ」
真実の愛を示す者はこの世界を司る女神の加護が受けられる。
それはこの世界の理だ。
しかしそれは本当に『真実の愛』で無ければならない。
「女神様のご加護が受けられ無かったなら……真実の愛ではなかったんでしょう」
「は!子供に何がわかる!」
お前がクズだってことはわかる。反吐が出そうだ。会話の流れと皆の雰囲気から……
「シャロン様のご意思では、無かったのね……」
……なんてことだ。何かあるとは思っていたが、想像より酷い。
ぽつりと小さな声でこぼれた言葉だったが、近くにいたお義父様が反応した。
「……あぁ、当然だ!あいつが……!」
お義父様はそれ以上の言葉を飲み込んだ。皆、特にジョシュの前で言うのははばかられる話だ。
「愛があれば何でも許される筈だろ?僕はシャロンを愛してたし、シャロンも」
「だから!愛じゃなかったんだろうが……!警告はしました」
もう黙れゲス野郎。
身体強化を使って間合いを一瞬で詰めてジョシュを抱える手の手首を握る。
「な!《ファ》」
ゴキッ
「うあああああ!」
そのまま握って手首を折り、ジョシュを解放させる。詠唱なんかさせるわけ無いだろうが。
ゴッ ゴキュッ
逃げられると面倒なので足も折る。もう片方の足は膝を砕いておいた。
「ああぁぁ……!う、ああ、あああ……!」
「《オールディフェンスウォール》」
クズの叫び声が響くので、クズの周りに全てを遮る防御壁を作って音声を遮断した。
ジョシュからクズの姿も隠せるので丁度いい。
あの様子なら魔法は使えないだろうし、万が一使えたとしても上級魔法を抜くのは困難だろう。
障壁術式のソフト入りのスロットを持ち歩いていて良かった。
「ジョシュ、大丈夫?」
「ジョシュア!……あぁ、良かった。怪我はないようだ……」
「ジョシュ、怖かっただろ……」
「……」
尻もちをついて下を向くジョシュに、私たちは一斉に駆け寄った。
話しかけるが、ショックのせいか反応がない。
「ちょ、止まって下さい!殿下!」
「アリア!」
騒がしい足音と共にレイモンド様とエリファレット様の声がする。何でここに来るんだよ……。
「……部屋で待機していて下さいと」
「無事、かぁ。良かったぁ」
はぁ、とため息をついてエリファレット様がしゃがみ込む。いや、それよりも。
「魔法の気配がすると護衛が言うから、心配で見に来ちゃった」
見に来ちゃったって……王子殿下が何言ってるんだよ。
魔法の気配をこの距離で探知……さすが第一王子、優秀な護衛が付いているようだ。
「……とりあえず、部屋に戻っていただいても?」
友人の気持ちは有難いが、今ここにいられると困る。
イクスベリー家としては今回のことは無かったことにしておきたいのだ。
「わかったよ。お願い聞かなくてごめんね。あ、トレヴァーとユリシーズは置いてきたし口裏合わせは可能だから、その辺は心配しないでね」
「殿下。申し訳ございません……。部屋までお送りいたします」
お義父様がそう声を掛けるが、エリファレット様は首を横に振った。
「いや、アリアに送ってもらうよ。イクスベリー卿はジョシュア殿に付いていてあげて」
「しかし……いえ、ありがとうございます。アリア、頼めるかな」
「はい、わかりました。あ、これを」
魔法を解除する術式も入っているので、持っていたスロットをお義父様に渡して玄関ホールを後にする。
……たぶん、私はここにいない方がいい。
一旦私の部屋に戻って、留め置かれてるであろう側近候補を回収してからエリファレット様を部屋へ送ろう。
しかし、部屋に付く前にこの第一王位継承者に少し注意しておかないと。
「友人として言わせていただきますが、危険があるかもしれないところに第一王子が来てはいけません。安全が確認出来てから」
「ごめん。でも勝手に体が動いてた。アリアに何かあるかと思ったら……恐くて」
「エリファレット様……」
いつも余裕のある態度を崩さない彼が、本当に弱ったように笑いながら目線を下に向けて話しているのを見て足を止める。
「私は自分で言うのもなんですが、危害を加えるのは相当難しい類の人間ですよ。……そんなに心配しないで下さい」
「うん、そうだね。……出来ればもっと鍛えて強くなってよ」
「……初めて言われましたね。止められることはよくありましたが」
レイモンド様が何言ってんだコイツという目でエリファレット様を見ている。口には出さないようだが。
「アリア。絶対に死なないで」
「……善処します」
とても真剣に言われたので、否定することが出来なかった。
しかし私よりも王族としてご自分の身の安全を……そういえば昔にもそう思ったことがあった。
まだクリスフォードと上手くやれていると思っていた頃の話だ。
昔も今も、変わらない。
今回もまた、ジョシュと一方的に上手くやれていると思っていたが、実際は違った。
私は……成長していないんだな……。
少し自分に落ち込みながら、エリファレット様の部屋まで付き添った。
「ジョシュア殿のことだけど」
別れ際に耳元で普通の人間には聞き取れないような声で囁かれた。周りに配慮してくれたようだ。
「感情がぐちゃぐちゃで張り詰めた風船みたいになってる。ガス抜きが出来ればいいんだけど……たぶん今の彼には難しいかもしれない」
感情が読めるエリファレット様のアドバイスは有難い。
ガス抜きか……。お義父様に相談してみよう。
次の日、バタバタしながらエリファレット様を送り出し、諸々の処理が終わっていち段落ついて、夕食になってから皆異変に気付いた。
ジョシュが部屋から出てこない。
次の日も、その次の日もそれは続いた。
アリアが張った防御壁は空気も通さないので、ずっとそのままにしておくとクズは死んでました。
それでも良かった気もしますけど、アリアは主人公ですから……。
膝砕いたので普通に歩けなくなりますがね。この世界の治癒魔法じゃ治りません。




