25.弟の話を聞きました。
「やっぱりユリシーズの方が来たか」
「さっきも一緒に聞きたそうにチラチラ見てましたもんね。殿下の指示通り追い出しましたけど」
一晩明けて、エリファレット様に報告したいことがあると伝えると部屋へ呼ばれたので、昨晩アップソンが探りに来たことを話した。
部屋にはエリファレット様とレイモンド様だけが待っていたのだが、どうやら後の側近候補2人は追い出されたらしい。もはや完全に側近候補ではない。
「ユリシーズと話してみてどうだった?」
エリファレット様が聞いてきたので、感じた事を思い出しながら話す。アップソンの印象は思ってたより悪くなかった。
「アップソン様の動きはアップソン家の意向ではないみたいですよ。彼の独断でエリファレット様の動向を探ってるみたいです。貴方が動き出したのを見て、状況を見極めようとしているみたいです。ちゃんと周りを見て自分で考える事ができるみたいですね。色々動きが雑なのは彼の年齢を考えると、まぁ普通あんなものでしょうし、悪くない人材だと思いますよ」
「ユリシーズさんかなり年上なのに、すげぇ上からの評価出たな」
「え、すみません。出来るだけ客観的に評価した方がいいかと思いまして……」
結構褒めたつもりだったけれど、どうやらわかりやすいように、客観的に、と気をつけたことで偉そうになってしまったようだ。そんなつもりはなかったんだけれども……。
「アリアは他人への評価は割と甘いよね」
「え?今のがですか?俺には驚きの辛口評価に聞こえたんですけど」
「だってユリシーズはそもそも聞く相手を間違ってるから。アリアはまだ7歳だよ。普通なら話なんてろくにわからないから覚えてないだろうし、『わかりません』って言ってればこっちの情報は伏せて相手の情報だけを引き出すことが出来る。実際彼はやられてるし。聞くなら”普通じゃない”俺か、イクスベリー卿じゃないと。絶対アリア自身のことならこんな甘い評価しないよ。自分なら10点の言動でも、世間一般で70点くらいならそう評価するんだよ。自分と他人の評価基準が違いすぎる」
いや、確かに思ったけど、まだ16歳のただの普通の貴族にそこまで求めるほど鬼じゃない。自分で考えようとしてるだけで偉いと思う。
私は2度目の人生だし、前世では課されていた責任が違いすぎるから比較しても仕方ないだろう。
「なるほどそういうことでしたかヤベェ。アリアもヤベェけどそれがわかる殿下もヤベェ」
「いえ、別にそんなことはありません。自分の事も他人の事も普通に評価してます」
ただ前世の事が説明できないだけだ。
「はは、せっかく高評価みたいだし、弟の所に行って活躍してもらおうかな」
普通に笑って流された。まぁ話を広げられても困るけどな。ん?何故弟の所?
「フレデリック第二王子殿下の所にですか?」
「何故わざわざ?あんまり仲良くないですよね?」
レイモンド様が聞きにくい事をさらっと聞いた。すごいな……。
エリファレット様の様子を伺うと目が合い、にっこり笑いかけられた。問題ないようだ。
「うん。ほぼ話さないんだけど、このまま行くとちょっと危なそうだからさ」
「何が危ないんですか?」
「フレデリックの命が」
「え」
「むしろエリファレット様にとっては好都合ではないのですか?」
「え?」
「うーん、母親が同じスペアはいてくれた方が都合がいいかなぁ」
「ええぇ……?ちょ、衝撃の発言続き過ぎだろ……」
”王族”である第二王子殿下について語るエリファレット様と私の話にレイモンド様が戸惑っている。
そうだった。彼はまだ10歳で、貴族や王族の世界に慣れてない。普通にこんな話が出来るエリファレット様が異質すぎるだけだ。
「あ、ごめんね。今は感情抜きの話をしてたから、レイモンドには恐く感じちゃったかも」
「俺限定……。えっとフレデリック殿下はまだ7歳でしょ……?」
一人間としてはレイモンド様の価値観は間違ってないし、お義父様もそういうだろう。しかし彼らは……エリファレット様は王族なので、考え方が違う。
「確かに個人的にはまだ小さいし、ちょっと酷かなと思うんだけど、王族だからさぁ」
「王族の方は常に公人です。私達とは違います。年齢は関係ありません」
王族とそれ以外では立場や責任が違いすぎる。
自覚するしないに関わらず、彼らの命は彼らのものではないのだ。7歳だろうと例外ではない。……感情は別とするなら、だ。
「マジかよ。超厳しいな……」
「人から敬われるにはそれ相応の理由があるものですから」
「一応助ける予定だけど、結果論だしね……恐いかな?」
エリファレット様が笑って訊いているが、少し寂しそうに見えた。
「……俺は、まぁ、割といつも殿下のことは恐いんで、大丈夫ですよ」
「……ふふ。そっか。ありがとう」
レイモンド様がふいっとそらした顔が少し赤い。
さっきからエリファレット様の一人称も素になっているし、いい友情を育めているようで何よりだ。
「とりあえず、ユリシーズが時流を見極めて王妃から距離をとるように示してくれれば大丈夫だと思うよ。それにもし俺が助けなくても、アリアがイクスベリー卿を巻き込んで手を打つだろうし」
「……さぁ、どうでしょうね。まぁ私はお義父様を尊敬していますから、報告はするかもしれませんね」
王族と貴族では価値観が違う。……だからといって別に、彼らの価値観に合わせる必要も、無いしな。
くすくすと笑うエリファレット様は機嫌が良さそうに見える。
母の愛情を独り占めにしている弟に対して思うところは無いのだろうか。……強いな。
「でもアップソン様は貴方への嫌がらせの為に王妃様に付けられてるんでしょう?配置換えなんて可能なんですか?」
「あぁ、うん。俺が重用しようとしてるって噂を流せば動かすんじゃないかな。あの人は噂話を使って嫌がらせする傾向があるから常にアンテナを張ってるだろうし、敏感に反応するはずだよ」
それだけで動いてくれるのは楽だが、噂話って、王妃がそれでいいのか?
「王妃様はフレデリック殿下を守ってくれないんですか」
「うーん……確かにホントはあの人が守ればいいんだけど……狂ってるからなぁ」
実の母に対してその評価……諦めているんだな……。でも確か……
「王妃様は第二王子殿下に王位に就いて欲しいのですよね?」
「ああ、そうだね。正確には俺以外の者に就いて欲しいんだよ」
「殿下、以外?」
「フレデリックが死んでも側妃の産んだ第三王子がいるから、そっちを推すんじゃない?」
ゾッとした。なんだそれ……。
実の子以外を推してでも、なんて……そこまでエリファレット様を王にしたくないのか?
「な、んでそこまで」
「うん……もう故人なんだけれど、俺の伯父、あの人にとっての実の兄に俺がそっくりだからだよ。顔も、能力もね。だから憎まれてるんだ――殺したいほどに」
表情が抜け落ちた状態で淡々と語ったエリファレット様の顔を見ながら、私達は何も答えることが出来なかった。
そんな私達を見て、エリファレット様は苦笑した。
「大丈夫。俺は死なないよ」
それは、大丈夫じゃない……。
なんとも言えない気持ちでエリファレット様の部屋を後にすると、少し離れたところからジョシュがこちらを見ていた。
「ジョシュ?こんなところでどうしたの?」
安全対策のためにエリファレット様の近くの部屋は閉め切ってあるし、廊下は護衛が固めている。呼ばれてもいないのに近づくのはあまりよろしくない。
移動を促そうとジョシュの方に向かうと、いつもと雰囲気が違った。
「姉様は凄いね。お父様の仕事を手伝って、殿下とも仲が良くて、こんな短期間で皆に必要とされて……どうやったらそんな風になれるの?」
いつもの人懐っこい雰囲気ではなく、暗い顔をしながらジョシュが言う。
「昨日、部屋から出てきた姉様はお父様ととっても信頼し合ってるように見えた。なんで……」
「あ、ジョシュ!」
踵を返して走っていってしまった。
聞こえないように言ったつもりなんだろうけど……私には聞こえてしまった。
『なんで後から来たあんたが、家族面してるんだよ』
「ジョシュ……」
嫌悪してるようなセリフを、なんて悲しい顔で言うんだ。
恋愛カテゴリーなのに恋愛どこ行った。
いや、これから……これからなんです……。




