21.訓練に参加しました。
年末年始、ちょっと忙しくて更新できませんでした。すみません。
やわらかい日差しが差し込む部屋は、酷く懐かしいものだった。
まだ私がアレクシア・エイスグレイス公爵令嬢だった時に使っていた趣味の部屋だ。
『転生者』であるお母様の影響か、貴族の令嬢にしては”変わり者”であるとの評価をうけていた。
その最大の理由は、普通は魔法師に任せる、この術式記録媒体であるソフトに入れる魔法術式を組むという趣味のせいだ。
『姉さん!ついに完成したね!』
『やりましたね、アレクシア様』
『ええ、文句なしの出来栄えだわ!ありがとうリーン、ウィリアム』
弟のリーンハルトと魔法師のウィリアムと共に新しい魔法術式の完成を喜ぶ。
思えばこの頃が一番幸せだった。お母様もまだ生きていらして、私はのびのびと子供をやっていたように思う。
この後、私の魔法術式を軍事利用するために皇太子の婚約者に据えられることになる。
魔物災害が起きるまでは、帝国は軍拡主義だった。
ふっと周りが暗くなり、横からの視線を感じる。
そこには最期の時に私を護衛していたダイアンがいた。
じっと黙ってこちらを見ている。
『……お久しぶりです』
声を掛けても何の返りもない。
『……言いたいことがあるんですか?』
こちらを見る目に、何か言いたいことがあるのかと思い問いかけるが、表情すら動かない。
『魔法を扱うことが気に入りませんか?貴族には必須のものです』
『剣術も扱うつもりです』
『もしもまた魔物災害が起きた時は私も戦いますので』
彼は変わらず何も言わない。
『…………私が何をしようと許せませんよね』
ただ見つめてくる目に責められているようだった。
瞼を上げると部屋が真っ暗だった。
寝巻がぐっしょりと濡れていて酷く不快だ。
ふっと自嘲が漏れる。
「お義父様を説得しないとな」
今まで剣術や体術を教える者が来なかったのは偶然ではないだろう。
優しいお義父様は素晴らしい。
しかし、甘やかす必要はないのだ。それは守ることとは違う。
水差しから水を飲むため、私はベッドから立ち上がった。
やはり剣術や武術の指南役の手配をしていなかったお義父様を2週間かけて説き伏せ、本日、やっと指導を受けさせてもらえることになった。
そんなわけで私は領軍基地に来ている。
精密身体強化が使えるのは上位騎士がほとんどだ。つまり最低でも準貴族だし、軍の中枢にいる彼らは忙しい。
同じ魔法が使える人に指導してもらう方がいいだろうということで、家ではなく基地でご指導いただくことになった。
「初めまして。アリア・イクスベリーと申します。本日はよろしくお願い致します」
「……ここの責任者のデューイ・ドルシです。半日指導するようイクスベリー卿から仰せつかってますよ」
訓練場の端で自己紹介する。外に出ているのか他の兵士達は見当たらなかった。
「こんなちっこい貴族の嬢ちゃんが剣術……ね」
お遊びで来たと思われたのか、ジロリと睨まれた。
普通貴族の子女は戦闘技術など学ばないので、まぁ正常な反応か。
「身体強化魔法が使えるとか言ってるらしいですね?」
「はい。使えます」
そう答えるといきなり威圧された。
殺気に似たようなものを感じて、思わずじりっと後退してしまう。
「ハッ!そんな一朝一夕で出来るようなもんじゃねぇんだよ」
「……ですが事実です」
嘘を言って馬鹿にしてると思われたようだ。木剣を向けられる。
「じゃあ、まぁテストってことで、今からこの剣で攻撃するので避けて下さい」
「……わかりました。よろしくお願いします」
10分程避け続けたところで攻撃が止んだ。
「ふーん。嘘じゃないみたいですね。これは失礼しました」
「いえ、そう思われるのも無理はないので、お気になさららず」
サー・デューイに上から下までじーっと見られる。なんだろう。
「じゃあ今外で基礎訓練やってるんで、混ざってもらいます」
外へと歩き出したので付いていこうとすると、彼は足を止めて振り返りにやりと笑った。
「あ、身体強化魔法は使わないで下さいね」
「……わかりました」
魔法無しか……。7歳児の体でついていけるだろうか……。
基礎訓練では走り込みや筋力トレーニングが行われていた。
兵士達に紹介してもらった後に参加したそれは……正直全く付いていけなかった。
他の兵士の10分の1もこなせず、2時間後には極度の疲労により端の方でボロ雑巾のようになっていた。
自分から頼んでおいて情けないが、これ以上体が動いてくれなかった。
「アリア様生きてますかー?こんなところで寝られても困るんですけど」
「……すみま、せん。移動、するため、に、魔法を、使っても……?」
「自己回復は使わないでください。訓練の意味がなくなる」
回復魔法は自己治癒力を促進させるが、筋肥大しない。その為訓練等では回復魔法を使わないというのは常識である。
「いえ、身体、強化の、方です」
「別にいいですけど、その状態で使ったらすげぇ痛いはずですよ」
身体強化は、小さい力で大きな力を出す魔法だ。痛みがある状態で動かすと、普通に痛い。
「かまい、ません……つっ!」
限界まで訓練したために、少し動かすだけで全身に激痛が走る。
その様子を見たサー・デューイがため息をつく。
「今日はもう帰っていいですよ。体は毎日動かすようにしてくださいね」
「はい、すみません……ありがとう、ございました」
「まぁ今日はもうゆっくり休んで下さい」
「いえ、午後は領府で、仕事なので……。馬車の中で、休みますね」
仕事に行くまでまだ時間がある。
指導してもらう立場でこれ以上邪魔になるわけにはいかないので、馬車の中で休もう。
「は?」
「不甲斐ない、結果に、なってしまい、申し訳ありません。次は、もっと、付いていけるように、したいと、思います。それでは、失礼します」
あぁ、これは本当に痛い……。
指示に従わなかったからか、サー・デューイは呆けた顔になっていたが、とりあえず少し休みたい。
「おい!」
「……!」
後ろから肩を捕まれ、強引に振り向かされた。
突然の痛みに顔をしかめる。痛い!何なんだ!
「ほら、そんな状態で何言ってんだ。今日は休んどけ」
「……仕事は、そんなに、簡単に、休むものでは、ないでしょう」
今日はもともと剣の指導の後は仕事の予定だったんだ。病気でもないのに休むなどありえない。
いいから離してくれ。痛い……
「子供の手伝いなんて無くたって構わんだろうが」
「……雑務でも、仕事は仕事、です。……離して、下さい」
新人だから休めないんだ。教えてもらってる立場なんだから。
ただでさえ未熟なせいで半日しか働けないのに。
一日も早く仕事を覚えないと。
「いいから、とりあえず医務室へ」
しつこい。痛いんだよ。早く離してくれ。
「……離しなさい」
「……!」
睨んで口調を強くすると少し距離を取ってくれた。しかしまだ手は離してくれない。
「私は、貴族です。義務を、果たさない、など、許されない」
「……許されない?誰に」
「もちろん、民に……」
「……」
手から力が抜けたので、この隙に距離を取った。
……気遣ってくれているのはわかるが、遊びに行くわけでは無いのだから、理解して欲しい。
「では、失礼、します」
「……今日は回復魔法、使っていいですよ」
その言葉に私は笑みだけ返して領軍基地を後にした。
******
俺の手を拒んで基地から出ていく小さな背中を見送る。
「サー・デューイ」
領軍の隊長格の騎士が声を掛けてきた。
「エスコートしなくてよかったんですか?というか何だったんです?彼女」
周りの兵士がチラチラ見てくる視線を感じる。
どう見ても異質な彼女のことが気になり、代表で質問に来たらしい。
「イクスベリー卿が最近養女にした子だ。剣術と徒手格闘技を教わりたいと……」
「それはさっきご説明されていたのでわかりますが、あんなになるまでしごいて……本気なんですか?」
貴族の男子は基本幼い頃から剣を教わるが、騎士の家系でない限りそれは礼儀的なものであることが多いし、普通の貴族の女子なら簡単な護身術以上の戦闘技術を教わることなどほぼない。
気まぐれのお遊びかと思ったが……
「精密身体強化魔法が使えんだよ」
「は?……え、は?あんな小さな子が?冗談でしょう?」
冗談じゃない。さっき子供の筋力では初歩の身体強化を使っても避けられない攻撃を出したが、全部避けていた。
イクスベリー卿が身体強化魔法が使えると言って来た時は絶対嘘だと思ったし、万が一使えて初歩のものだと思った思ったのに、あっさり覆された。
「さっき確かめたから間違いねぇ。ホントにいるんだな、天才ってやつが」
質問してきた奴が口をあんぐりと開けてこちらを見ている。気持ちはわかるが。
「ほら、訓練の続きするぞ」
肩に手を置いてそう促しながら、最後のやり取りを思い出す。
少し前まで平民だったくせに、貴族としての矜持を示してきた。
それはなかなか普通の貴族には見ないもので、イクスベリー卿が娘にするだけあるなと思った。
どんな風に成長するのか……ちょっと面白れぇな。
また騎士キャラ増えました。皆様が混乱されないか心配です。




