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20.魔法を学びました。

全消ししたので更新遅くなりました……。すみません……。

 夕食の準備ができたとの知らせが来たので、私達は話を切り上げ、食堂へ向った。

 その道中、お茶会前に詰め込んだ貴族たちのデータの中から、お義父様が懸想していたというレイモンド様のお母様についての記憶を呼び起こす。

 ステラ・ルートレッジ夫人。私の前世のお母様と同じ『転生者』。確か神々の国の武術を使う方だった筈。

 そして貴族の女性では珍しく、治療師免許を持っている。

 可愛いものが好きで……言われてみれば彼女のデータだけやたら詳しかった気がする。

 ただお義父様と親しい後輩だからかと思っていたが、まさか好きだったから詳しく知っていたとは。


「好き……か」


 つぶやいた言葉を拾ったであろうエリファレット様がこちらを見た。


「どうしたの?アリア」


「いえ……何でもありません」


 前世のクリスフォードやブリジットを思い出す。

 恋愛劇を繰り広げ、教養や人格を考えるとどう考えても正妃に向かない伯爵令嬢を囲った皇太子は、あの国の民を顧みるようになっただろうか。

 国外の情勢など、伯爵家の養女の耳に自然に入るものではないので現状はわからない。

 しかし最後の彼らの理性を振り切った言動を思い出すと――正直理解できないな。

 恋愛感情など、完全に他人事だ。


 考えている内容まではわからないだろうが、ネガティブなことを考えていることは分かったようで、エリファレット様がじっと見ている。

 私は彼に再び何も無いと伝えるために笑いかけ、視察最後の晩餐へ向かった。




 翌朝、視察に来た方々を見送る為にイクスベリー家全員で家の外に出た。


「イクスベリー卿、そしてイクスベリー家の皆、3日間世話になったね」


 来た時のようにエリファレット様が私たちに声を掛ける。


「殿下方をお迎え出来て光栄でございました。お帰りの道中お気を付け下さい」


「うん、ありがとう」


 お義父様とエリファレット様のやり取りを見て、3日のわりにえらく長く感じた視察も終わったんだなとぼんやり考えた。

 来ると聞いた時はどうなることかと思ったが、無事に終わってしまえば普段関わることのない同年代の者たちと過ごす時間は、なかなか有意義だったように思う。


 馬車に乗り込む前にエリファレット様がおもむろに近づいて来て、何かと思って見上げた私の頬にキスをした。


「結果は直接聞きに来るね」


 第一王子なのに気やす過ぎないかと思ったが、小声で囁かれた言葉で、なるほどこれを伝えたかったのかと納得した。しかしもっと他の時に言って欲しい。伝え忘れたのか?


「手紙書いてね。また来るから」


 少し離れて、今度は皆に聞こえる声で伝えてきた。

 エリファレット様への手紙は必ず中を確認されるだろうし、私が書くのが自然だろうからそれは書くけれども、周りの視線が凄い。


「はい、お待ちしております」


 そんなに私のことを見たって、エリファレット様の好感度は上がらないぞと視線の主たちに思いながら、笑って返事をした。

 とりあえず鬱陶しいから全員早くまとめて帰ってほしい。

 そんな本音とは真逆の笑顔できちんと彼らを送り出した。





 さて、今日は流石に教師は来ないし、お義父様と領府の調査の私が関わる部分の基本方針を話し合った後は、午後まで中途半端に時間が空いてしまった。

 勉学の予習をしてもいいが、自分に課したノルマは終わっているんだよな。あまり進むのもどうかと思うし……ふむ。折角なので少しだけ私の趣味に時間を使わせていただこうかな。

 イクスベリー家に迎えられてからずっと仕事と勉学に時間を割いてきたので、前世からの実益を兼ねた趣味は封印していたのだ。

 仕事に行くまでの時間だけ……と、私は管理している執事に声を掛け、本が保管されている部屋へ向かった。


「こちらでございますお嬢様。どのような本を御覧になりたいですか?」


「では、魔法術式に関する本を」


 一瞬固まったように見えたが表情は変わらず、「かしこまりました」と取りに行ってくれた。

 実は私は前世では魔法術式を構築するのが趣味だった。

 魔力が少なかったので私自身は大した魔法は使えなかったが、魔法師に頼んだり、とても大きな魔力を持った弟がいたので彼に使ってもらっていた。

 トライ&エラーを繰り返しながら複雑な術式を作り上げた後のあの感動はたまらないものがある。

 前世の家であるエイスグレイス公爵家お抱えの魔法師と、可愛がっていた弟と3人で魔法術式を作る時間が私はとても好きだった。

 最後の方は皇妃教育と国の仕事でなかなか時間を取ることが出来ず、術式を一緒に作ることが出来なくなってしまい、弟にはさみしい思いをさせてしまった。

 しかも罪を着せられた上に護送中に死んでしまったし……前世の家族は元気だろうか。ブリジットが正妃になっているのなら、きっと肩身の狭い思いをしているだろう。


 ……帝国の様子を尋ねるくらいなら、許されるだろうか。

 いや、やめておこう。

 自然に情報がもたらされるまでは聞かない。

 前の生は終わり、私は罪を贖う為に生きている。

 家族のことは……女神様のご加護だけ祈っておこう。お父様も弟もしっかりしているからきっと大丈夫だ。


「お待たせいたしました。こちらへ」


 どうやら読書の為に別室を用意してくれたようだ。有難く付いていき、9年ぶりの魔法術式の本を読むことにした。




「何……これ……」


 本を読んだ私は、とてつもない衝撃を受けていた。

 そこに書かれていたのは、想像もしていなかったような術式だった。

 9年でこんなにスロットが進化しているなんて……!

 魔法言語は変わらないが、前世では全パターン入力していた位置指定と威力指定が、任意で入力出来るようになっている。

 耳飾りや髪飾りを模した入力装置からのイメージ情報を読み取り、魔法名を読み上げることで音声入力による発動トリガーを引く仕組みのようだ。


「イメージしただけで……!?音声入力……!?イメージとずれていれば発動しない……これが安全装置の役割りをしているの……!?」


 なんだこれ……まるで奇跡じゃないか!凄い!凄い!凄い!

 前世よりも進んだ機能の仕組みが知りたくて、私は夢中になって本を読んだ。

 ノックの音ではっと我に返る。


「お嬢様、そろそろお時間です」


「はい、今行きます」


 昼食の時間のようだ。とりあえず読書を中断して食事をし、仕事に向かわなければ。

 前世では、魔法と言えば、どれだけ魔力があるかということと、どれだけ術式に合った魔力をスロットに流せるかくらいでしか資質が決まらなかったが……。

 これは魔法の授業がとても楽しみになってきたな。






 待ちに待った魔法学の授業がやってきた。どれくらい待ったかと言えば毎日魔法術式の本を読んで言われてもいないのに予習したくらいには待っていた。

 とりあえず私は初めに言おうと決めていたことがある。


「実は私、魔法学の基礎は母に教わっていたのです」


 もちろん真っ赤な嘘である。

 スロットもない家庭で魔法など学ぶはずがない。

 しかし基礎が終わらないと実践魔法に進めないので仕方がない。私は早く、あの奇跡のような魔法に触れてみたかった。

 魔法の技術が上がるのは、貴族として悪いことではないしな。


「はい、伯爵からお聞きしております。ではどこまで理解しておられるかテストをしますね」


 とりあえず問題の書かれた紙を見る。もちろん全部わかる。

 しかしこれ……どこまでが基礎なんだろうか?どこまで解いたら実践魔法を教えてもらえるんだ?

 前世では実践=身体強化魔法の訓練だったので、勝手が違いすぎてどのラインまででいいのかが全然わからない。

 うーん……もう全部解こう。

 全部基礎にしか見えないし。

 高度な術式について触れなければ問題ないだろう。……というか術式の問題が出てないなこれ。




「全問正解です。……聞いてはおりましたが、本当に、信じられない程優秀ですね」


 採点を終えた先生にそう言われ、一瞬やりすぎたかと思ったが、それよりも気になることを尋ねた。


「いかがでしょう?実践魔法に進んでも問題ないでしょうか?」


「……本当は年齢の面から、教えるのはどうかと思っていたのですが、魔法学もきちんと学んでいるようですし、何よりもうすでに使っているのですよね?」


「はい。身体強化魔法を使っております」


「……最高難度の魔法が使えるのなら、他もまぁ、問題ないでしょう」


 先生の許可が下りた。よし、これで趣味と実益を兼ねた術式作成ができる。

 何の趣味もなく全く遊ばない子供というのも不自然なのでちょうどよかった。


「ありがとうございます。ところで先生この本を見ていただけますか?ここの術式なのですが、この部分の言語の指定範囲が――」


「え!あ、いえ、術式のことは専門家ではないので私にはちょっと……術式師でないと……お役に立てず申し訳ありません」


 予習したところで疑問に思ったことを聞こうとしたら、魔法師の先生ではわからないと言われてしまった。

 まさか分業がすすんでいたとは思っていなかった。

 今まであまり実感がなかったが、9年経つというのは色々と変わるものなんだなとしみじみと思った。






アレクシアの弟は年子でシスコンです。あとゲームではブリジットの攻略対象者です。

そしてアレクシアは魔法術式オタクです。

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