2.生まれ変わりました。
気が付けば見たことのない場所にいた。
自分がアレクシアであることだけはわかったので、なるほどここが死後の世界かと思った。
人がいるがとても大きい。というか全体的に大きく、現実感がない。
「あらアリア。目が覚めたのね~」
巨人がふんわりと喋ったのは、我が国の言葉ではなかった。
これは……ガレリア王国の言葉か?アリアという言葉だけがわからなかったが、他は大丈夫だ。
言語は皇妃教育の基礎なので、大陸内の国の言葉なら私は大抵話せる。
助かった。これでコミュニケーションが取れる。
「う~あ、あ~」
は、話せない?あと動けない!なんてこと!
死後の世界は厳しいところのようだ。
まぁそうか。私は何も出来ないまま民に恨まれて死んだのだし、厳しい環境に置かれるのも当然か。……もしかしてこの巨人に潰されたりするのだろうか。
と思ったが、そんなこともなく、むしろ甲斐甲斐しくお世話を焼いてくれた。
なんだかとても安心して、そしてとても眠かったので、とりあえず寝た。
確かにここは死後の世界ではあったのだが、天国や地獄などというものではなく、ただ自分が生まれ変わったのだと気付いたのは、少し後で動けるようになってからだった。
私はどうやらアリアという平民の子に生まれ変わったらしい。
大陸一の領土を誇るガレリア王国の平民街で育ち、7歳になった。
なぜ記憶を引き継いでいるのかは謎だが……実はこれは神が与えた罰なのかもしれないと思っている。
前の生で貴族だった私が、私たち貴族の行いに振り回されていた平民になることで、今度はお前も振り回されてみろと言われているような気がしているのだ。
ただ本当に一般庶民という感じで、父親も母親もとても良い人だったし、これが罰だとしたら……優しいなと感じてしまう。
皇妃教育も受けなくていいし、のんびりと子供らしく過ごしている。
「アリア~ちょっと手伝って~」
「はーい、今行く!」
7年も平民として生きてきたので、言葉使いもすっかり平民のそれになった。
私はここで、普通の町娘として生きていこうと決めていた。
今日も元気に母のお手伝いに励むとしよう。
「これを運んで欲しいのだけど……」
玄関に行くとワインの入った樽がいくつか置かれていた。
両親は酒屋を営んでいるので、こういうことはよくあった。
「倉庫に持っていけばいい?」
「ええ、お願い」
普通の7歳児にこんなもの持たせたらただの虐待だが、幸い私は魔法が使えた。
平民でも魔法が使えるものは多いが、王侯貴族のほうが強力な魔法が使えることが多く、その差は明らかであった。
貴族の魔法は自分と同じかそれ以上の大きさの炎や水を操るなど大規模なものであるの普通だが、平民は魔法はちょっとした火種が起こせたり、顔を洗うくらいの水が出せるくらいだ。
しかも魔法を発生させるためにはスロットと呼ばれる高価な魔法発動補助機械を使用するため、費用対効果を考えたら平民は大体魔法は使わない。
だが私の魔力は並の貴族よりも大きかった。
「よっと」
身体強化魔法を発動させ、樽を持ち上げて倉庫へ運んでいく。
実はこの魔法は前世で魔力の少ない私が使えた数少ない実用的な魔法だった。
ちなみにこの魔法はあまり一般的ではない。というか生物の体に作用する魔法は基本一般的ではない。
生き物の体はとても複雑で、たとえば回復魔法を他人に使う時などは治療師免許が必要になる。
しかも身体強化は魔法発動補助機械を使わないため回復魔法とは比較にならないほど制御が難しいのだ。
職人技のようなもので、簡単なものが使えるようになるまで少なくても3年はかかるし、その後も何十年単位で技術を磨いていくもので、終着点はない。
主に上位騎士が使う技術だが、精密な身体強化ができるのは一握りの人間だけである。
前世での私は魔力が少なかった為、制御の才能があると周りに認めさせるため精密身体強化を必死で習得したのだ。
しかし平民になった今の方が魔力が高いとは……皮肉なものだな。
「あ、アリアだ」
「あんな歳で魔法を、しかも身体強化を使えるなんて天才だな」
樽を運んでいる私を見たご近所さんの声が聞こえる。
基本的に子供が魔法を使うのは危ないので、貴族でも平民でも12歳頃から使い方を教える。
そのため7歳で、教えてもいないのに魔法を使える私は少し目立っていた。
親を手伝いたかったために一番地味な身体操作魔法を使ったつもりだったのだが、普通に人の目を集めてしまったようだ。
……いや、実は平民の間ではもっと身体強化魔法が一般的だと思っていたのだ。
だからそこまで目立たないだろうと……。
なにせ便利だし、スロットだっていらない。
この魔法は魔力自体は少なくていいし、得意な魔法属性傾向も全く考慮しなくていい。
つまり使おうと思えば大抵の人が使えるのだ。
ただ自分が考えているよりも習得に努力が必要で、この技術は全く広まっていなかった。
そんなわけで図らずも注目を集めてしまってる。
「やっぱり王宮に働きにいくのかな」
「そりゃそうだろ。あんだけ才能があるんだからな。」
強い魔法の才能があるものは王宮や王都で働くのが主流であり、とても優遇される。
魔法の才能を見込まれて貴族と結婚したり、準貴族になったりする者もいる。
貴族の魔法の強さを保つためと、有能な戦力を国内に囲い込むためだ。
私も大きくなったら王都へ行くと思われているのだろう……しかし私にその気はなかった。
この生は償いだ。
私は普通の平民として生きていくべきだし、ましてや王宮でまた政に関わる資格などあるはずがないのだ。
前世の愚かな自分が民を救えなかったという後悔を胸に、ただ生きていくべきなのだ。
そう、このまま穏やかな時間の中で、前生を後悔しながら過ごしていくのだとぼんやりと考えていた。
……馬鹿みたいだ。この生は私に与えられた罰なのだと……思っていたはずなのに……。
本当に「はず」なだけだった。
ガシャッ
持っていたコップに入った水が落ちてこぼれる音がした。
しかしそんなことには全く意識が向かなかった。
「え……お父さんとお母さんが……?」
その知らせは突然やってきた。
仕入れに出ていた両親が魔物に襲われ……命を落としたと。
え?え?二人が……本当に?なんで?そんな、どうして……混乱して頭がうまく働かない。
「アリア……」
知らせに来てくれた町の人達が痛ましげな顔をしていた。その表情が真実起きたことだと語っていた。
「嘘……どうして……そんな……」
どうして?知っていただろう。
私の中に残っていた冷静な部分が語る。
これは、罰なのだ、と。
私は立っていられなくなりその場に崩れ落ちた。
両親には会わせてもらえなかった。
遺体の損傷が激しすぎて、子供には見せられなかったようだ。遺品だけもらって、家に帰された。
「アリア、少し休みなよ……ひどい顔色だよ……」
「フィナさん……」
話を聞いて様子を見に来てくれた隣の家のフィナさんが、心配そうに声をかけてくれた。
「店はとりあえず休みにして、手続きなんかは明日役場まで付き合ってあげるからさ」
「店……手続き……」
そうだ、店のことも考えないといけなかった。7歳が一人でやっていくのは難しいだろう。
在庫と店を売って運転資金の借入金を返済しないと……。魔物に襲われたのなら補償金が下りるはずだから、その手続きをして……足りるだろうか……?支払期限までには間に合わないだろうし……雇ってた人の給金も……
「アリア!」
「!」
肩をつかまれ名前を呼ばれたことで考え込んでいた意識が浮上する。
目の前でフィナさんがなんとも言えない顔をしていた。
「ややこしいこと言っちまって悪かったね。今は……まずは一旦休みな……」
「でも……」
「いいから。店番の奴には言っておくし、簡単なもの作っとくから起きたら食べな。……眠れなくてもいいから、ゆっくりする時間が必要だろ?」
「ごめんなさい……ありがとう……」
私はフィナさんの言葉に甘えることにした。
混乱しすぎて何を考えて何をすればいいのかわからない。
頭が重い……
「あんな小さい子残して……」
扉を閉めた後に聞こえてきた声をぼんやりとした頭で聞いた。
部屋に戻りカーテンは閉め切ったままでベッドに座る。
カチャリと音がする。
音の方に目をやると、ペンダントとライター……お母さんとお父さんの遺品だった。
『アリア』
二人の声が聞こえたみたいで、もう駄目だった。
「う……うぅ……ふ……ぅ…………」
7年間大切にしてもらった。
私も二人が大切だった。
思い出が呼び起こされ涙が止まらなかった。
私の罪ならば私が背負うべきなのに……。なんで……なんで私でなく、彼らが……
「せ……かいを……恨んではいけない……。私は……世界に……生かされ……ふ……うぅ……う…………」
あぁ……死後の世界はやはり……厳しいところのようだ―――。
暗いのはここまでの予定です。
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※追記です。「両親は酒屋を営んで『いた』ので」→「両親は酒屋を営んで『いる』ので」に修正致しました。
ご指摘ありがとうございました!
※さらに追記です。設定が合ってない記述に気付いたので修正します。
「貴族の魔法は魔物退治にも対応できる規模であるのが普通だが」→「貴族の魔法は自分と同じかそれ以上の大きさの炎や水を操るなど大規模なものであるの普通だが」に修正しました。
これはひどい。本当にすみません……。




