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13.お出迎えしました。

 とりあえずお義父様に謝ろう。これは見通しの甘かった私のミスだ。

 ただの話し相手にのみ徹していればこんなことには……。はぁ。


 夕食の後、お義父様にエリファレット様のことを話す時間をいただいている。

 書斎に入り、私は開口一番に謝った。


「この度は大変申し訳ございませんでした」


「え、何を謝ってるの?殿下のことを話しに来たんじゃなかったの?」


 お義父様が不思議そうな顔をしている。……7歳児に責任を取らせるわけにはいかないものな。


「今回のご訪問は……視察とおっしゃっていますが、おそらく私がお茶会で殿下と友人になったために起こった事態だと思います」


「まぁそうだろうね。私は殿下と親しいわけではないし、ランバートとジョシュアは会ったこともない。本当に視察が目的なら、他の好条件の領に行くだろうし、こんな短期間でねじ込んでこないよね。それがどうかしたの?」


「……王位継承権第一位の王子の初めての訪問先ですよ。派閥内で目を付けられる可能性も……」


 女は嫉妬深いというが、男も同じだ。出る杭は打って踏み台にする。

 子供ではないのだから大丈夫だと思うかもしれないが、そんなことはない。

 大人だって変わらない。隠すのが上手くなっているかどうかの違いだ。むしろ陰湿になるくらいだ。

 そんなやつらに目を付けられたら……お義父様がぽかんとした顔でこちらを見ている。


「ふ、ふふ……ははは!暗い顔してると思ったらそんなこと考えてたの?殿下と仲良くしてって頼んだのは私だよ?これくらいのこと、想定の範囲内だよ」


 笑い飛ばされて、今度は私がぽかんとしてしまった。


「イクスベリー家は『中立派』でいられるくらいだから、これくらいどうってことない。私はたぶん君が思っているよりも、もう少し頼りになるよ。……アリア。君は周りに頼って甘えることも覚えたほうがいい。賢くてしっかりしていても君はまだ子供だ。大きくなるまで私が守るから、安心してて」


 そう優しく、最後は茶目っ気たっぷりに笑ってお義父様は言った。


 守る……私を?

 前世の私は皇太子の婚約者。宰相の娘。

 お母様が亡くなってから、ずっとずっと守る側の人間だった。

 頼るより頼られる。それが当たり前だった。

 迷惑を……かけたら……存在する意味がないと思ってた……。


「あり、がとう……ございます」


 胸が詰まって上手く話せない。

 私の様子を見たお義父様が近づいてきて、ぎゅっと抱きしめて頭をなでてくれる。

 温かい……。


 あぁ……この人の娘になれて、本当に良かった。






 次の日は午前中の授業は休みにして、朝から領府に出勤した。

 エリファレット様を案内する役目があるのでその打ち合わせと、配属部署で請け負っていた雑用の引継ぎの為だ。

 明日から3日間殿下がいらっしゃるということで、領府内は非常にバタバタしている。

 全く準備が間に合わないが、来ると言っている以上第一王子用の予定を組まないといけない。

 警備の面もあるだろうにこんな急な日程でよく許可が降りたなと思ったら、元々あった視察の予定にねじ込んで来たらしい。

 なんでも先日の役所の不正のせいで、お義父様に難癖をつけたい輩達が嫌がらせで差し向けてきたんだそうだ。

 不正があったのは事実なので、嫌がらせだとわかっていてもイクスベリー領としては受けざるをえなかった。

 エリファレット様はそこに横入りしたらしく、むしろ殿下が付いてきてくれて助かったくらいらしい。

 流石に殿下の前で嫌がらせは出来ないだろうし、視察も目的も変えられ、元の派遣される予定だった者はほとんど来ないことになったらしい。


 ……友人になるのは早まったとか思ってしまって申し訳なかったな……。

 イクスベリー家に迷惑をかけたかもしれないと思ったら、そちらに気を取られて情報収集が出来ていなかった。

 感情に振り回されて判断するなんて、本当にまだまだ未熟だと痛感する。

 しかしお義父様に頼って甘えていいと言ってもらって、肩の力が抜けたように思う。

 もちろん貴族としての責務が果たせるよう一人前になるべく懸命に努力していくつもりだが、いざという時にフォローをお願いできる相手がいると思うだけで、ずいぶんと気持ちが楽になるものなのだと初めて知った。

 本当に素敵な方だ。私も将来はお義父様のようになりたいと思う。


 もしかしてエリファレット様も、お義父様が目当てなんじゃないかと、ふと思った。

 私のことは本当に()()()で、信頼できる味方を増やしに来たのかもしれない。

 ……もしそうなら私は完全に自意識過剰だな。

 本当のところはまだわからない。ただ確実なのは今回、優秀すぎて孤立させられた第一王子が動くということだけ。

 そのためにもしこれから貴族界が激しく変化していくとしても時流をよく見て、今回のように感情的に判断しないようにしよう。そして領民を守っていく。

 そこが一番大事で、心に留めておけばいい。

 後は……そうだな。そこから外れないよう気をつけながら、失礼なことを考えたお詫びに、微力ながら友人殿の力にならせてもらおうかな。



「そういえば友人というものは初めてですね」


 殿下の案内の打ち合わせ中に、同年代の友人とはどのように遊ぶのかと聞かれ、そうつぶやいた。

 お義父様がぎょっとしたような顔をしてこちらを見た。側近のオークスさんや他の大人たちも同じような顔をしている。


「え、今まで一人もいなかったの?」


「はい、言われてみればいませんでした」


 前世を合わせてみても、知り合いや仕事仲間は大勢いたが、プライベートを共に過ごすような友人はいなかった気がする。

 ……同年代には何故か距離を置かれていたので。こちらとしても、なんかこう、フワフワ?してて話が合わなかったんだから仕方がない。

 生まれ変わった後もほとんど家の仕事を手伝っていたし、魔法が使えて中身が16歳の私はやっぱり周りの子達から浮いていた気がする。

 言われてみれば、だけれども。


「そっかぁ……じゃあ殿下とお友達になれて良かったね!仲良くするといいよ」


 お義父様と大人たちがうんうん頷きながら生温かい目線を投げ掛けてくる。いや、言われてみればいなかったってだけで、別に気にしてませんし……。


「あ、はい。ありがとうございます。でもまぁ相手のあることなので、そこまで親しくなるか……」


「今回の視察でもっと仲良くなれるかもだよ。頑張れ!」


 本当に、気にしてないんで。応援とか恥ずかしいのでやめて欲しい……。

 なんとも言えない気持ちになったが、お義父様が嬉しそうなので何も言わないでおいた。






 次の日、エリファレット様が到着されるギリギリまで準備をし、夕刻に出迎えることになった。

 5台の豪奢な馬車がイクスベリー家の前で止まった。

 その中の1つの馬車から相変わらず少女のようなエリファレット様と1人の少年、そして2人の青年が出てきた。


「ようこそいらっしゃいました。エリファレット殿下」


 イクスベリー家全員で出迎える。エリファレット様は王城で会った時よりも軽装で、穏やかに笑った。


「こんにちは、イクスベリー卿、そしてイクスベリー家の皆。急に来てしまったから調整が大変だったでしょう?」


「いえ、殿下のご意向でございますので、何のことはございません」


「ありがとう。あと家に招いてくれたこともありがとう。アリア、4日ぶりかな?3日間……というか、もう2日と少しの間かな?よろしくね」


「はい、よろしくお願い致します。エリファレット様」


 そして身分の高すぎる、初めての友人と過ごす時間が始まった。






殿下をいらんヤツ扱いした罪悪感から、やっと向き合う気になりました。

めんどくさい子ですが、お義父様のお願いでも、やっぱり心の底ではできるだけ王家に近寄りたくなかったんです。

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