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再掲 新能と元能 ヴァルシーユ目線

作者: ころね

ある晴れた日のことだった。

軍に帰らず突然姿を消したクアラを、最後に見た日は。

真っ青で雲一つない空に、カラスが飛んでいたような、そんな気がする。私は…いつものように、世界で1番愛おしい彼を、笑顔で送り出した。確か、街の様子を見に行って…知り合いに挨拶をしてくると、言っていた気がした。その日は魔法軍が攻めてきたが、少人数での戦いで小規模だったので、怪我人は出なかった。その日の夜、遅くまでクアラの帰りを待っていたが、何日経っても戻っては来てくれなかった。軍のみんなが探しに行ってきてくれたけど…誰も、クアラの姿を見ることは無かった。勿論私だって、空を飛べる慣れないブーツで、街を見に行った。

子供たちはいつものように、表に出てかけっこしている。大人たちが危ないから中に入りなさいと、子供たちに言う声が聞こえる…私には、無かった日常。最近は魔法軍が攻めてくることも少ない。子供たちは久しぶりに外に出ることができて、本当に楽しそうだ。

…もうこのまま平和なままで、戦争なんか皆に忘れられてしまえばいいのに…

クアラがいつか言った、戦争が終わったら結婚しよう…なんて言葉を思い出していた。嬉しくて涙が溢れたけど、そんな日は…きっと来ない。クアラだって…戻ってきてくれない。もうあの日から1週間が経っていた。いつでも帰ってきて、抱きしめることができるように、クアラからもらったお揃いの香水をつけてたけど…今日ももう、日が暮れ始めている。今日も戻ってきてくれなかった。夕日のせいでオレンジ色に輝き、残りが少なくなった香水の小さなボトルを握りしめて、機械軍の本拠地に戻った。

その日はいつもよりも、寝る気にはなれなかった。この1週間、いつもより広く感じられるベッドに横にはなっていたが、クアラが戻ってこない不安から眠れていない。

夜があける少し前…空が明るくなってきたころまで、私はずっとクアラのことを考えて眠れずにいた。部屋の扉を小さく叩く音が聞こえたので、立ち上がってドアをあけた。

ドアの前には、意外にも、月影が立っていた。月影は私とは目を合わせず、小さな紙切れを渡す。その紙は大半が黒く焦げて、私がその紙を手に取った瞬間、焼けた端がポロポロと足元を目がけ舞っていく。

…その手紙には小さく、愛し…と、書いてある。その先は…焼けてよく見えない。

そうだ。

1ヶ月位前…機械軍は魔法軍と戦い、たくさんの兵士を失った。その中でも、同じ班の兵士が1人、亡くなった。彼の名前は……サンダといった。彼はクアラとは学生時代からの付き合いで、2人は親友だった。サンダの死には不可解な点が多く、表面上では魔法軍との戦いにより戦死、とされ、それ以上サンダの死因について調べられる事は無かったが、クアラにはそれがどうしても許せなかった。夜な夜な悔しそうに泣いていた彼を、私は知っていた。クアラは、自分自身でサンダの死因を突き止めると言った。実際に何か調べているのは見たことがなかったが、私の見ていないところでたくさん調べていたんだろう。

月影が固く閉ざしていた口を開く。

クアラは街の外れの、1ヶ月前に魔法軍と交戦した場所で見つかったらしい。酷い火傷を負っていて、一刻も早く治療をしなければならなかったが、クアラはたった一言、あそこに帰りたくない、と言ったらしい。火傷の状態は酷く、クアラの呼吸も絶え絶えだったそうだ。そしてクアラは、私にはこんな姿を見せたくないし、サンダが死んだここで自分も死にたい、と言った。どうして火傷を負ったのかまでは聞けなかったらしい。虚ろな目と悔しそうな声の月影は続ける。これから先、俺がいなくても…戦争が終われば、平和に暮らしていける。どうか早く…こんな戦争を終わらせて、ヴァルシーユには平凡に幸せに暮らしてほしいと…クアラが私に伝えてほしいと月影にこの言葉を託した直後、クアラは目を閉じて返事をしなかったと言った。

涙さえ出もしなかった。怒りのような感情さえ湧いてくるようだった。あなたがいない世界で、私はどうやって生きていけばいいの…平凡に幸せになんて、生きてはいけない…黒く焼けた紙を、ぎゅっと握った。

月影がくれた紙は、誰かが自分を見つけた時のために書いたものだと言うが、何かがひっかかった。その日の朝のうちに頭領にも報告をしに行ったが、頭領も何かがおかしい…と呟いた。…気づいた時にはもう、私たち機械軍は罠にはめられていたのだ。

もう遅すぎた。

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