仏の顔もなんとやら
「なんじゃい、なんじゃい。転移魔法陣なぞどこにでもあるじゃろうて。
そんなもんより儂のエレベーターの方がすごいんじゃ…」
小声でそう零したランドンさんをオリビアさんがキッと睨む。
するとヒッと怯えた声を出し、不貞腐れたようにそっぽを向いたランドンさんはさらに小さな声で
「ちっ。うるさいばばぁじゃのう…。」
そう口にすると…
ぞわり、部屋の空気がガラッと変わった。
ニッコリと笑っているオリビアさんからぞわぞわとどす黒いオーラが漏れ出し…ているような気がした。
「ランドン様ぁ?後でお時間よろしいですね?」
オリビアさんの口がにっこり弧を描く。
だが目が…目が笑っていない…。
これはガチおこだ…。
「ヒェッ…」
ランドンさんが息を飲むのが聞こえる。
なぜか俺もつられて縮こまってしまった。
「まぁまぁ、オリビアさんや。
その辺でお終いにしましょう。」
恐怖の空間に爺の穏やかな声が響いた。
「エレベーターは儂らも楽しませてもらいましたしな。
それに、怒っていては折角美しいお顔がもったいないですなぁ。」
爺はそう言うとパッと手から花束を出してオリビアさんに差し出す。
「これはお近づきの印に。」
パチリとウインクを添える事も忘れない。
花束はオリビアさんの髪の白色に合わせたシックで大人な雰囲気のものだ。
家の外ではドロップは使えないので、この花束はアイテムボックスから出したものだろうけど…
渡す相手の雰囲気に合わせた花束を用意出来る爺にびっくりを通り越して呆れる。
若い時からイケイケだったって婆が言ってたっけな…
オリビアさんは頬を少し染めながら恥ずかしそうに花束を受け取った。
張り詰めていた空気和らぐのを感じる。
「ささっ、ランドンさんにはこちらを。
我らの世界の酒でしてな。
お口に合えばいいのですがなー。」
なんて言いながら二人を伴って部屋の奥へと進んで行く。
爺は移動しながらちらりとこちらを見ると、
またパチリ、ウィンクをした。
(よっ!流石は元凄腕商社マン!)
あっという間に場をおさめてしまった。
心の中で盛大な拍手を送る。
こうして無事にミヌレの(酒)宴が始められた。
「ガハハハハハ!
ジンさんは面白いのぅー。
80余年生きているがこんな人間には会った事ないぞ!」
ランドンさんと爺は早速意気投合したようだ。
二人で空の酒瓶の山をどんどん高く積み上げていく。
ランドンさんは酔いもあってか、
宴の準備でオリビアさんの姿が見えないのをいいことに
「やれ、仕事が遅いだの!
やれ、このもっさり髭が暑苦しいから切れだの!
この髭はドワーフの男の強さの象徴なんだぞ!」
などと、あれやこれやオリビアさんの愚痴を言い出す。
「それにしてもさっきのオリビアは見ものだったなぁー。
ジンさんに花束を渡されてまるで少女のような反応だったではないか。
儂の倍程も生きているばばぁのくせにのぅ…ぷぷぷっ…」
ぷくくくっと思い出し笑いをするランドンさん。
その後ろには絶対零度の笑みを貼り付けたオリビアさんが佇んでいた。
「ランドン様。外の準備が届いました。
民達の期待も高まっておりますので一言開始の挨拶をお願い致します。」
ランドンさんの赤ら顔がサッと青くなる。
それはもう面白い程に…。
ギギギッという効果音がつきそうな動作で振り返る。
「その"ばばぁ"の手を煩わせないでくださいね。
さ、早く行きますよ。」
オリビアさんはランドンさんにニッコリと笑いかけ、
そして俺たちにゆっくりと宴を楽しんでくださいと声をかけるとランドンさんの首根っこを掴んでズルズルと引きずって行ってしまった。
重たい扉がしまった瞬間、ギィヤァァァァァと野太い悲鳴がこだました。
男性陣が恐々とする中、
「えっえっ…?
ランドンさんは80いくつで、その倍ってことは、
オリビアさんって160歳ぐらいってこと!?」
「リカお姉ちゃんと同じくらいにしか見えないのに…」
母と妹が真剣な顔でなにやら会話している。
「「その美の秘訣を知りたい…」」
女性にとって美は永遠の課題なんだそうです。




