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極秘戦隊マスクトナイツ  作者: 筆折作家No.8
第一章 コトノハジメ
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第三話 「GORE-ゴア-」 その②

 建物の屋根伝いに、超スピードで駆け抜けていく集団があった。青いアーマーを身にまとう少年と、緑のアーマーの男性。≪仮面の騎士≫あるいは、≪Maskedマスクト Knightナイト≫――人は、彼らをこう呼ぶ。都市伝説じみていながら、ある種の真実味を持って語られる存在だ。


 緑アーマー=トールはその腕にセーラー服の少女、八百神やおがみ あさみを抱えていた。鎧こそ身に着けていないものの、彼女は≪仮面の騎士≫のメンバーで、自身の髪の色にちなみ“レッド”を自称している。


 トールが疾風の如きスピードで走っているため、仮面を身に着けていないあさみはなかなか目を開けられないでいる。時折薄目を開けては、目的地である杜陸もりおか高校へのナビゲーションをしているのだった。


「あの、向こうに見えてる小さなドームが高校のプラネタリウム施設になってる。目印として最適だと思う。あれを目指して。」

「了解です、レッド。」

「おい、手前に川が流れてるんだけど!?」

「飛び超えて、ブルー。」

「まじかよ!」


 ブルーと呼ばれた少年は、素早さだけならばトールを上回る。まして今はあさみを抱えたトールよりも身軽であった。あさみのナビゲーションが必要だったためトールの速度に合わせていたが、目標地点が見えてきた今ならば先行しても構わないだろう、とブルーは考えた。脚部にブーストをかけ、一気に加速する。


 高校まで1キロほど手前の地点、幅150メートルほどの川が流れている。堤防に囲まれた河川敷を含めると300メートルほどか。堤防を駆け降りる勢いに乗って、川岸スレスレで跳躍する。だが、それでも飛距離が足りず、残り20~30メートル程の地点で着水しそうになってしまった。


「――ッチ!」


 ブルーは腰アーマーにセットされていた棒状の機械を取り出すと、それを大きく振りかぶった。

途端、棒の先端から光の粒子のような、あるいは液体のようなものが流出。光は即座に止まり、先ほどまで何もなかったところにとても長いメイスのような武器が出現していた。


 落下の勢いに任せ、メイスを振り下ろす。すると、それがバネになって川の対岸へと到達することができた。


「ナイスアクションでしたよ、ブルー!」

「は?」


 割と遠くない場所からトールの声がした。ブルーが恐る恐る右を向くと、そこには迂回し、橋を渡るトールたちの姿が。


「……ふっざけんなあああ!!」


 あさみが「ないす」と親指を立てていた。


「てめぇ橋があるなら最初に言え!!」

「気づかないブルーが悪いと思いますよ。」

「うっさい、グリーンは黙ってろ!」

「それに、そっちが最短ルートなのは間違いない。先に行って。」

「わかってるよ!」


 ブルーは再び勢いをつけて跳躍。その場から姿を消した。


 一方のあさみはトールに抱きかかえられたままで通信デバイスを用意し、空中にスクリーンを投影させる。


「内藤」

『なんでしょう?』


 デバイスから男性の声。どうやら≪仮面の騎士≫のオペレーターのようである。


「“人払い”はもうやってるんだよね。」

『ええ。緊急だったので、強力なやつを使っときましたヨ』

「強力なやつって?」


 二人の通信に、トールが割り込む。


『普段は“なんとなくこの場にいたくない”と感じさせる程度の、脳波に似た電波信号を叩き付けているのです。今回はちょっと危険なのですが“この場所は危険だ”と強く認識するように波長を変えたものですネ』

「危険ということは、副作用があるのですね?」

『さすがはグリーン君。この思考誘導電波にあてられた人間は、強制的にその場を退避しようと行動をとるはずですが、それはある種のパニック状態です。暴走スタンピード、と呼ばれる恐慌状態に陥っている可能性が高いですネ』

「じゃあ、避難の誘導に人を割く必要がある。私たちはそちらの役目に回ろう」

「人前に≪仮面の騎士≫が姿を現してもいいのですか?」

「この際だから仕方がない。」


 通信を一時切断し、再び目をつむるあさみ。トールはあさみを抱きかかえてひた走る。その速度は風を超え、すれ違う人々にはそれが何であったのかを認識させる隙すら与えない。しかしできるだけ人目や衝突事故を避けるために屋根伝いに跳ねる。目的地までの最短ルート、つまりできうる限り直線に近い軌道をとるためでもあるからだ。


 トールは思う。まだ、足りないと。ここまでの速さを持ってして、なお遅いと感じるのだ。この移動に使う1秒2秒で、どれだけの被害者が出るのだろうと想像すると、ぞっとする。敵がこんなにも人口の集まる場所に出現するなど、初めての事態でもあり、そのことが余計にトールを焦らせるのだ。


「グリーン。」

「なんですか?」

「……やれるだけのことをやろう。」

「ふふ、わかっていますよ。」


 あさみの一言で少し落ち着きを取り戻したトールは、無事に杜陸もりおか高校の部活棟の屋上へと着地するのだった。

腕の中のあさみを降ろし、状況を確認する。


「この辺りは、避難が終わっているようですね。」


 部活棟周辺は人の気配を感じない。パニックになりながらも全員逃げることができたようだ。だが、ところどころに血の跡が見える。それも尋常ではないくらいの大量出血の跡が。


「……校門の方まで続いてる」

「そのようですね。壁面と、中庭に血だまり、あとは点々と……ですか。」


 部活棟から見渡せる範囲で見受けられる異常はそこまでであったが、角を曲がった学校の正面付近がどうなっているのかは想像に難くない。


「しかし……不思議と死体が・・・ありません・・・・・ね。」

「ひょっとすると≪デオキメラ≫が食べちゃったのかも。――内藤、」


 さりげなく恐ろしいことをつぶやきながら、あさみがオペレーターを呼び出す。待機状態にしてあったデバイスから、声だけが聞こえる。


『なんでしょうカ?』

「状況はどうなってるの。」

『現在、奥――じゃなくてピンク君とブルー君が交戦中。一度は学校外に出た≪デオキメラ≫を、うまくグラウンドに誘導したようですネ。』

「運動場?」


 部活棟からは中庭の先、ネットを挟んで運動場がかろうじて見通せる。あさみとトールの二人が確認すると、確かにグラウンド上で戦うシルエットが時折見える。


「生徒たちは?」

『うまく思考誘導できているなら全員外にいるはずですヨ。暴走スタンピード状態なので、あるいは混乱して建物から出られずに身動きの取れない人もいるかもしれませんネ。』

「了解した、そちらにまわってみる。」


 通信の接続を再び切った。


「グリーンは校舎内をお願い。私は外の人たちの様子を見てくる。」

「承知しましたよレッド。」


 トールはそう言うと部活棟の屋根――二階程度の高さ――から反対側に見えている別棟へと窓ガラスを突き破りながら跳び移った。他方、あさみは屋根から窓枠に設置された落下防止用の柵を経由して地面に降り立つ。血の跡が続く正門側へと走り出す。


 中庭や壁面の血痕と比較して、通路の血痕はごく少量であった。きっと敵は中庭で生徒を襲った後、この通路を通って正門側へと移動したのだ。おそらく血をしたたらせながら。


(この先は――。)


 本校舎の端、通路の曲がり角までやってきたあさみは、その先に広がっているであろう光景を想像してか、速度を緩め、立ち止まった。できることならば、被害は少ないに越したことはない。その一方で通信で得た“一度は学校の外に出た”という情報は、敵が逃げる生徒、もしくは教師を追っていったということを暗に示唆している。この先では何もなかった、と考えるほうが不自然だろう。


 覚悟を決めて再び歩み始めたあさみ。


 しかし彼女の前に、予想だにしない出来事が起こる。校舎の角、そこからふらりと一人の少年が現れたのだ。その少年はあさみの姿を認めると、目を丸くして一歩後ずさりをした。


 あさみも再び足を止めて、


「どうしてあなたがここにいるの……!」


と、口について出た台詞。それは純粋な疑問の言葉だった。


 強力な思考誘導波を使い、“人払い”は済ませたはず。生徒がこの近辺に残っているとすれば、負傷して動けないか、パニックのあまり出口を見失ってさまよっているかのどちらしかありえない。


 だが目の前の黒髪の少年は、恐慌状態に陥っているようには見えなかった。ただ生気を失い、それでも自我は残したまま歩いてきたように見えたのだ。


黒髪・・――。まさか、竜都出身じゃないから、効きが弱かったってこと……」


 いや、そんなはずはないとあさみは自身の頭に浮かんだ考えを否定する。思考誘導波の効果は、体質に関係なく作用するはずなのだから。


「あなたは一体……」


 ただただうろたえる。生きている生徒がいたことよりも、驚きと疑念のほうが上回っている。本来ならば、彼も含めて避難をうながさなければいけない立場なのだが、考えが吹っ飛んでしまっていた。


八百神やおがみ……あさみ。」


 あさみの前に現れた黒髪の少年、津野 深矩は覇気はきのない口ぶりで少女の名を呼んだのだった。


「通してくれ、明日菜あすなさんのところに行かないと。」



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