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極秘戦隊マスクトナイツ  作者: 筆折作家No.8
第一章 コトノハジメ
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第七話 「そして、戻ってくる」 その③

 放課後の屋上、そこは誰にも邪魔をされない空間だ。教師たちも知らない扉の鍵の開け方と、≪エッグ≫による人払い、これだけでも十分なうえにグラウンドで部活をしている連中のおかげで声も気にならない。あとは、あまりフェンスに近寄らなければバレる心配は


―――ガッシャアアアアン!!


……思い切り落下防止用フェンスにぶつかっている少年がいた。


 その黒髪の少年、つまり深矩しんくは、あさみの攻撃を受け止めきれずに大きく後退、背にしたフェンスまで追いつめられてしまったのである。


「もっと本気で打ち込んできなさい。」

「……ちっくしょ」


 深矩とあさみの二人は、ここ三日ほどずっとこのような特訓を続けている。あさみが深矩に提案した訓練とは、移動の際の身のこなしだけではなく、戦闘もメニューに含まれていた。深矩が戦うための力を欲していたため、実力の差を見せつけてやろうという魂胆ではあるが。


 あさみは竹刀、それも通常のものよりも短い小太刀を使用していた。通常サイズの竹刀を持つ深矩は、圧倒的リーチの差がありながら、あさみに攻撃を当てられずにいる。竹刀はどちらもあさみのもの。高校生には珍しく二刀流の使い手であるあさみが、そのうち一本を持たないというハンデ込みの勝負なのだ。


「どうしたの?もう終わり?」

「あのさ、せめて防具をつけないか?」


 二人はしないだけを手にし、後は制服のままである。上着を羽織っていると暑くて敵わないため、深矩は学ランを脱いでYシャツ姿、それも裾をしまわないラフなスタイルになっている。あさみはセーラー服を脱ぐわけにはいかないので、普段よく羽織っているカーディガンを脱ぎ、リボンを外しただけの格好だ。


「防具付けたら余計に暑いよ。」

「いや、そうなんだけど。」


 初めに竹刀を渡されたとき、深矩は激しく戸惑った。防具なしの状態で打ち込んで来いと言われたからだ。女の子相手に本気でかかって、万が一顔に当ててしまったら。そう考えると恐ろしく、思い切り踏み込めないのだ。


 だが、そんな甘い考えではあさみに竹刀は届かなかった。何度やっても小太刀で防がれ、その体にヒットすることは無い。ようやく本気で打ち込まないと勝てないと理解した深矩ではあるが、精神衛生上気が引けることには変わりがない。


「ボーっとしてるのなら、私から行くよ。」


 予備動作の全くない踏み込み。上段から迫る小太刀に反応し、頭をガードしようとする深矩。しかし次の瞬間には胴を強く叩きつけられて、あさみは深矩の背後で残心。しかも、おそらく当たる瞬間に勢いを止めているのだろう、防具なしでもそこまで痛くない。痛いには痛いのだが、本気であればこの程度では済まないだろうことは素人でもわかる。寸止めというこれまた最大限の余裕をも見せつけられてしまっているのだ。


「素直すぎるね、津野くんは。」


 心の中では、素人なのだから仕方ないと毒づくが、それを口にした瞬間に負けだというのも分かっている。だからいくら悔しくても、深矩はこう叫ぶのだ。


「……まだまだ!!」


 気合を入れて、中段に構えなおす。対するあさみは、少しだけ口元を綻ばせながら、同じく中段に構えた。


(笑った―――。)


「隙あり。」


 深矩があさみの表情に見惚れているうちに、素早く小手打ちを決められてしまう。手を抜いてもらっているとはいえ、神経の集中した腕の末端部分に喰らう一撃はとても痛く、竹刀を落としてしまった。


「ばーか。」


 いつも通りの半目で、しかしどこかうれしそうなニュアンスを口調に含みながら、あさみはつぶやいた。



 少しばかり休憩をはさむことにした二人は、屋上への扉がある壁面に腰かけると、ペットボトルの茶を一気に飲み干した。深矩はまだ飲み足りず、自販機で追加分を買いに行こうと、財布の中身を確認する。残金120円。これだと小さいサイズの飲み物しか買えない。


「飲む?」


 深矩の様子に気づいたあさみは、自分の飲みかけのペットボトルを差し出した。ありがたく受け取る深矩。だがふと気づいたことがあった。


「いいのか?間接キスとかになるけど。」


 あさみは気にしないのかと、気になったのだ。


「別に。私はそういうの気にしないタイプだから。」


 これまでの言動から深矩もなんとなく気づいてはいた。逆にここで急に恥ずかしがるようならキャラ崩壊もいいところだ。ただ、そういうギャップが無いのも可愛げがない。残念ながらあさみはまさにその可愛げがないタイプなのだった。


 本人の許しを得たと解釈した深矩は、二口ほど茶を飲み、ペットボトルを返そうとした。するとあさみは超ドライな対応を見せつけてくれる。


「……あげる。私が口をつけたものを津野くんが口にするのはいいけど、逆は嫌。」


 だ、そうです。


 以前の深矩ならばショックを受けてしまっただろう。今はそれよりなによりとにかく疲れていたので余計なリアクションはしないことに決めていた。全部もらっていいなら、と遠慮なく全部飲み干す。軽く息をつくと、空いたペットボトルをリュックの外ポケットに乱雑にねじ込む。あとで捨てるつもりだ。


「津野くんはさ。」


 不意にあさみが話しかけてくる。


「なに?」

「どうして頑張ろうとするの?自分の力で物事を解決しようとするの?たまには他人任せにしてもいいと思うのだけど。」

「なんでだろうな。今までいろんな場面で孤独感とか疎外感を味わってきたから、物事のどこかに自分がいないことが、これ以上耐えられない、のかな。」


 自分で答えておきながら、なかなか確証の得られるような答えではなかった。冷静に自己分析してみたつもりだがしっくりこない。


「あさみは?変身できないって知った後も≪騎士ナイツ≫でいる理由って何かあるのか?」


 変身できないというフレーズに、一瞬ピクリと反応したように見える。実際は風に吹かれたあさみの触角のようなくせ毛が、ぴょこりと立ち上がっただけのこと。表情そのものはほとんど変えずにあさみは返答する。


「私、昔からヒーローになりたかった。」

「それがあさみの夢?」

「夢というか、野望というか。私ジオファイターズの空知そらち 太陽たいようくんが好きだったの。とっても強くて、みんなに頼られるような存在で。」

「太陽って、確かジオレッド?」


 あさみは首をわずかに下げ、肯定。


「ジオレッドって、最後皆を裏切らなかったっけ。」

「裏切ってないよ、そう思わせてただけ。」


 するとあさみは得意げにジオファイターズの解説を始めた。


 ジオレッドは敵の能力の高さに驚いて、それを打ち破るために密かに覚悟を決めたこと。皆を裏切ったふりをして、実際に皆を追い詰めて、敵が油断したところを背後から攻撃したこと。それがきっかけとなり街を守ることができたものの、敵の最後の抵抗を受け、皆を守るために命を散らしたこと。


 いつになく饒舌なあさみの姿。とても楽しそうに話すあさみはきっと誰が見ても素敵だと映っただろう。憧れの存在について語す姿は恋する乙女のようだった。


「みんなを守って、死んだのか。」

「さては津野くん、にわかね。だからこそジオファイターズは伝説のヒーロー番組になったんじゃない。」

「――子供のころの記憶があいまいなんだよ。俺は。」

「子供の頃の記憶なんて誰だって曖昧だよ。印象深いエピソードだけを覚えていくように人間はできてるのだと思う。」

「そういうもんか。」


 印象深いエピソード、体験、経験。そういったものが深矩には少ないのだろうか。確かに引っ越し続きでは記憶も薄くなってしまうのかもしれない。子供の頃の自分など、とうに霞がかって見えなくなっている。


 そんな深矩だから、今この瞬間がとても鮮やかに見える。この半月間の記憶だけが輝いて感じられる。ひょっとすると、だからこそ今必死になってもがいているのかもしれない、と深矩は考える。大切にしたいものだから、大切に残しておきたい記憶だから一生懸命になれるのだ。


「いつか、俺たちもヒーローになれるかな。」

「なれるよ、きっと。」


 空を見上げながら、あさみが呟く。冬の冷たい風が暖かな日差しを巻き込んで吹き抜けた。少しのぬくもりとたくさんの涼しさを含み、運動で火照った二人の体を優しくクールダウンさせていく。長いあさみの前髪が巻き上げられて、表情がはっきりとうかがえるようになった。幸せそうなに目を細め、柔らかな唇も緩やかなカーブを描いている。


 それは深矩が度々目にしてきたあさみの表情の中で、一番の笑顔だった。


「……少なくとも私だけはね。」

「馬鹿。台無しだよ。」

「ふふ、津野くんもなれるといいね、ヒーロー。」



 さて、と言いながら立ち上がるあさみ。立てかけてあった竹刀を2本とも手に取ると、大太刀を上段に、小太刀を中段に構える。じりじりと歩を進めタイミングを計ると、「てぁあああッ!!」と大気に向かって打ち込んだ。仮想敵と勝負をしている。よくよく観察すれば、どのような敵を想定しているのかが見える気さえしてくる。


「テァアアアアッ!!」


 徐々に声に力が増し、空気がビリビリと震える。とてつもない気迫だ。


 あさみは小太刀を少しずつ上下させながら、相手の出方をうかがうようにしている。大太刀は上段のままであったが、不意に構えが変化し、左右ともども中段となる。大太刀を降ろした、それだけなのに隙が全く見当たらなくなってしまう。


「津野くん。この状態の私に、素手で触れることができたら今日はおしまいにしよう。私は一切攻撃しないから、5分以内に触れられたら合格ね。竹刀を掴むのはありだけど、刃にあたる部分を持った瞬間手は斬られたものとして扱うから気を付けて。」

「ああ、やってやるよ。」


 こうして、短い休憩時間を終えて特訓がリスタートするのだった。




 ◇ ◇ ◇




 夕暮れ、まばらな雲、朱に染まる街。冬独特の乾いた風は山を越える際に雲を置き去りにしており、ここ数日の天気は安定していた。空一面の鮮やかな赤色にほんのり紫が混じり、素晴らしい色彩をつくりだしている。夕焼けは晴れ。明日の天気もよさそうだ。


 屋上での特訓を終えた深矩とあさみは、二人そろって下校する。いい汗を流し、またあさみとも少し打ち解けたようなので、深矩の気分はすこぶる良かった。あさみの方も今までの無表情とは少し違って柔らかな表情。二人は仲良さげだ。クラスメイトが見たら、あらぬ噂がより一層広まりそうではある。


 深矩は三日前、つまり≪騎士ナイツ≫の緊急ミーティングのあった日、奥菜に一度打診してみたことがある。登下校時に、奥菜も一緒に歩いてくれないか、と。二人でいるよりも三人でいた方が噂になりにくいと考えたのだ。


「ごめん深矩。それムリっ!生徒会の仕事が忙しいから帰りの時間が合わないと思う。」


 その時はあっさり断られた。どうも生徒会の仕事というのは想像以上に大変なようだ。


 会長というからには特別な権限があるのかと思いきや、先生方との交流が増える程度で、実質先生たちの雑務のお手伝い役となっているらしい。まして生徒会副会長――明日菜に思いを寄せていた男だ――は襲撃事件以降行方が分からなくなっている。人手不足で余計タスクに追われる羽目になっているそうだ。


 と、言うわけで今日も二人。結局いつも二人なのだ。


「今日、この後は病院?」


 あさみが深矩に尋ねる。


「ああ。母さんの具合も心配だからな。」

「せめて意識を取り戻してくれればいいんだけどね。」


 あさみの言葉の裏には、単なる心配だけでなく、≪騎士ナイツ≫として何が起きたのか知っておきたいという意図がある。今深矩の母親に起きている現象は、場合によっては今後自分たちに降りかかるかもしれないのだ。


 単純な親切心だけで動いているわけでない事は深矩にも伝わっているのだが、それでもあさみはいろいろなことを手伝ってくれる。看護師さんたちと一緒に体を拭くのを手伝うことすらある。深矩にとっては感謝してもしきれない。本当に至れり尽くせりだ。


「いつもありがとうな、あさみ。」

Noノー problemsプロブレムズ、問題ない。人々を助けるのがヒーローだから。」


 しれっと言ってのけるが、あさみにとってはこれもヒーロー活動の一環らしい。


「奥菜先輩が学校に奉仕しているように、私は社会に奉仕するの。」

「やっぱりあさみは凄いな。」


 精神的にも達観していて、尋常ではない戦闘能力と身体能力を持つあさみ。これで変身ができたら文句なし、正真正銘のヒーローが誕生するだろう。しかし現状では体質が合わず、変身不可能。現実とは残酷なものだ。


「そうでもないよ。」


 あさみは囁くように、誰に聞かせるでもなく呟いた。少し、寂しそうだった。


 二人は歩みを進め、リニアのローカル線の駅までやってくる。いつもならここで中央開発特区方面のリニアに乗るのだが、あいにく発車した直後のようで、次の車両が来るまでにはかなり時間があった。


「タイミングが悪かったな。」

「そうだね。座って待っていようか。」

「そ―――」


 『そうしよう』と言いかけて、深矩は言葉を飲み込んだ。


 足を止める深矩。急に立ち止まったのを見て、あさみが不審がる。


「どうしたの、津野くん。」

「あ、ああ……。」


 言葉に詰まってしまい、どうすればよいのかわからない。頭の中の思考がごちゃごちゃと絡まって、結論に至らない。焦点の合わない目で小刻みに震えながら、ただうろたえる様子の深矩にいい加減しびれを切らしたのか、あさみは肩を叩いてもう一度呼びかけた。


「ちょっと津野くん?」


 深矩はあさみの方に焦点を合わせる。寒い季節だというのに、深矩の体は汗で濡れていた。


「なあ、頭の中で声が聞こえたことはある?」

「はい?」

「時々さ、聞こえるんだ。頭の中に、俺自身の声で“ああしろ”“こうしろ”って。」

「そんな経験したこと無い。疲れてるんじゃない?」

「そうじゃないんだ。疲れによる幻聴とかじゃなくて、こう、予感めいた何かなんだよ。」


 深矩がこの声を聴いたのはこれまでに二度。一回目は学校の襲撃事件のとき、二回目はリニア裏通りの戦闘の最中。その時の深矩は自分の心の葛藤が生み出した幻聴だと思っていたのだが、今回は違う。直観のような感覚だった。


「それで?何か聞こえたの?」

「ああ。……『歩いて行け』って。」

「なにそれ。」


 一瞬だがはっきりと聞こえた三度目の心の声。この声が聞こえたときいつも何か起こる。深矩はそのことをあさみに訴えかけ、徒歩での移動の了解を取り付けた。深矩の事情など知らないあさみにとっては面倒なお願いだったろう。渋々ながらも承諾してくれるのがあさみらしい。


 入ってきた改札を再び出て、路線沿いに歩くことにした。普通車両の運行間隔は広い。ひと駅分歩いてから乗ることも可能だろう。一見無駄な行為だが、散歩だと思えばよい。


 ただし深矩の心中は穏やかではなかった。声の正体もわからぬまま、焦燥感だけが頭の中を支配する。あるいは本当に幻聴なのかもしれない。特訓疲れが形として現れただけなのかもしれない。


「待って、津野くん―――いや、ブラック・・・・。」


 今度はあさみが立ち止まる。手で深矩を制止し、キョロキョロとあたりを見回している。その焦り具合は先ほどの深矩の比ではない。


「嘘でしょ……殺気!近くで何か起きてる!」


 言われてから深矩も気配を探るが、そもそも殺気を敏感に感知できる能力は彼にはない。目の前で怪物と相対した時にわずかに感じる程度だ。それとも先ほどの声というのが殺気を敏感に察知した結果なのだろうか。


「きゃあああああああああああああああああああああ!!!」


 悲鳴。悲鳴の起きた方向を見る。幼稚園。嫌な予感がする。まさか。


「行くよブラック!!」


 あさみが走り出した。街灯を足掛かりにして、三角跳びで幼稚園の塀の上へ飛び乗る。目の前の遊具へジャンプしてから先は、深矩の視界からは消えてしまった。


 深矩にそんな芸当はできないため、幼稚園の入口へと迂回する。そこからは逃げ惑う園児たちや先生たちの姿があった。


「何があったんですか!?」

「怪物が……怪物が!!」


 先生の一人に声をかけると、彼女は目に涙を浮かべながら答えた。恐ろしいのだろう、膝ががくがくと震えているが、その手はしっかりと園児たちの手を握り、彼らを避難させようとしていた。大した職業意識である。


 逃げる先生たちを見送ると、なるべく彼女たちにも見られないように幼稚園の中へと侵入する。一見すると何の変哲もない幼稚園だが、空気は違う。敷地内に入るとビリビリとした不穏な空気を感じる。明らかに、何かがいる。


 このタイミングになってようやくPMSのコール音がした。内藤からの伝達である。


「内藤さん?」

『杜陸区にて、紅玉コアの反応がありました。今から地図データを送りますネ。」

「―――おせぇよ!!」


 こんなにもタイムラグがあったのだ。怪物が現れてから、≪騎士ナイツ≫に連絡が行くまで。いくら隠密行動をしていても都市伝説のように噂が流れてしまうのは、この時間に被害者や目撃者が現れるからなのだ。


 続いてずしん、と何かにのしかかられたような重圧感。物理的に何かが深矩の背に覆い被さった訳ではない。衛星軌道上から照射される思考誘導波の影響だ。それとわかっていない人間は、危機感だけが増幅されてその場から自然と離れていくだろう。


 だが。


「子供たちが……残っている!?」


 深矩は知らなかったが、この時内藤が使用したのは杜陸高校でも使われた緊急用の思考誘導波だった。対象エリア内の人間は暴走スタンピード状態となり、恐慌状態に陥ってしまう。その性質上、精神力の弱い子供などは、どうしてよいか判断ができなくなって、身動きをとれなくなることもあるのだ。


「避難させないと!!」


 走り出す深矩の前に、屋上から飛来する大きな影が立ちはだかった。巨大な昆虫、それもハチに似たシルエット。ブンブンと羽音をたてながら、深矩の目の前を旋回飛行していた。


「ブラック!!」


 続いて屋上から、飼育小屋の屋根伝いにあさみが降りてくる。すでにその両手にはツインソードが装備されていた。


「子供たちの避難!急いで!!」

「レッドはどうする気だ!?」

「―――みんなが来るまで、持ちこたえてみせる。」


 双剣を中段に構え、怪物と対峙する。攻防一体の上段の構えとは違い、双剣の中段とは防御に重きを置いたものだ。左右の剣であらゆる角度からの攻撃を止めるためのスタイル。反撃もできなくはないが、それは人間が相手だからの話だ。怪物相手には防戦一方になるのは必至、それもいつまでもつだろうか。屋上で深矩相手に完全防御して見せたのとは話が違う。


「来なさい、バケモノ。」



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