第八室 応接室にて
まさか・・・土日に用事が入るとは、嗚呼ストックが減っていく。
西野さんと入れ替わりで対面には東屋さんが座っている。つい先ほどまでいた西野さんはと言うと。
『じゃあ、後はよろしく。私は書類があるのでな。あ、そうそう逆水君はこの国の常識を知らないようなので教えてやってくれ』
と、そう言い残しあせあせと取調室から出て行った。
さて、目の前の事に目を戻す。『この世界?』では初めてとなる男性との対面、同性なので気を使うことなく楽なのは確かだ。恐らく西野さんもそう言った思惑で入れ替わったに違いない・・・多分。
「こんなところで待たせてすみません、応接室が丁度空いたのでそこに行きましょう」
そんなことを思っていると彼が口を開く。ここは反対する理由もないので頷く。
取調室を後にし応接室に向かっている途中、先頭を歩く彼がふと思い出したかのように話す。
「ああ、そういえば。自己紹介がまだでしたね。僕は男性保護防犯課の東屋 和真 巡査部長です。以後お見知りおきを」
そう言えば、101号室の玄関先で名乗った簡素な自己紹介だけだったっけ。そう思いつつ自分も挨拶を返す。
「ご丁寧にありがとうございます、自分は逆水 椿樹です」
「うん、やっぱり僕が今まであって来た男性とは違うね」
「・・・それを言うなら東屋さんもではないですか?」
大人しいと言うか、落ち着いていて丁寧と言う括りで言うのならば彼にだって当てはまる。
「ええ、実はお恥ずかしい話ですが昔は他の人のように自分の事ばっかりでした」
「何か、あったのですか?」
今の受け答えからは全く想像できないが、彼にも荒れていた?時期があったらしい。
「他人のふり見て我がふり直せですかね。この職について否でも様々な男性に触れあってきたもので。それで気が付いたのですよ、如何に自分が身勝手だったかをね」
性格を改心させるとか、どこまでこの世界の男性は酷いのかとはなただ疑問に持ちつつ応接室へと向かう彼についていった。
「ここが応接室です、どうぞお掛けになって下さい」
そう言われて入った部屋は、警察署の応接室にしては少し豪華だと思うが・・・まア、警察署の応接室何て入ったことが無いんですけどね。部屋の中は黒塗りのソファが対面するように二つその間に木の厚板の机が一つ、そして壁には絵が描けていると言うシンプルなのだが。が、そのどれもが一級品と言うのが素人目でもわかる。
恐る恐る入り口側のソファに腰を掛ける。ふわりとした感触が高級品であることを再確認させる。
こちらが座るのを確認した所で東屋さんが口を開く。
「そこまで畏まらなくていいですよ。リラックスしてください」
流石に小市民の自分にはこんな高級品に囲まれていると落ち着かない。
「あ、あまりに高級そうなソファなので落ち着かないですよ」
そう答えると彼は少し目をぱちくりさせた後、笑い始めた。
「やっぱり逆水さんは他の男性とは違いますね」
ほかの男性はそこまで豪胆な性格をしているのかと思っていると。ガチャリと応接室のドアが開き入って来たのは眼鏡をした金髪の女性だった。
「お茶を持ってきましたわ」
「ありがとうな」
お茶を持ってきた彼女の手には確かにお盆の上に湯呑が乗っていた。
「ああ、彼女は男性保護課の東屋 涼花巡査だよ」
「は、はじめまして逆水です」
そう言って彼女を見る、肩まで掛かる黄金色の髪にさらりとしたウェーブが掛かっている。少しきつい目つきだが美人であることは変わらない。と言うか、先ほどから美人しか見てないような気がするが。・・・ん東屋?
「あら、ダーリン『私の妻』と言う単語が抜けてますわよ」
「だから、公私混同は厳禁だって警部が言ってただろう」
ああ、やはり夫婦でしたか・・・ん?と言うことは西野さんは東屋さんが伴侶がいるのに思いを寄せているって事なのか・・・
「東屋さんには奥さんがいるのですね」
「え、ええ涼花ともう一人おります」
・・・え?
「では、私は邪魔しちゃ悪いですからお先に失礼しますわ」
まさかの事で呆然している間、涼花さんが用事を済ませたような足取りで退室する。
「もう一人?」
「逆水さん、どうやら本当にこの国、いやこの世界の事を知らないようですね。今までどうやって生きて来たのですか?」
知らないどころか、この世界に来たばっかなんですけどね・・・
「まあ、この国と言いますか、ほとんどの国でそうなのですが一夫多妻制が奨励されています。特にこの国では少子高齢化が激しく、それに伴って男性は30歳までに最低一人と結婚。35歳までにさらに二人以上と結婚しなければならないと言う義務があります」
なんと、この国の男性は魔法使いになれないと言う事ですか。
「この世界の男性、厳しすぎませんか?」
「まあ、もちろんそれの対価はありますよ。この国の男性は働かなくてもいいんです、一定額の支給金が出されます」
・・・え?
本日二度目の耳を疑う発言が飛ぶ。『働かなくてもいい?』って、自宅警備員まっしぐらじゃないですか。通りでこの世界の男性の性格が歪むわけだ、男性に生まれた時点で勝ち組だもんな。
と、ここで疑問が一つ浮かぶ。
「じゃあ、なんで東屋さんは働いているのですか?」
そう、支給金が出るのならばわざわざ警察署で働く必要ないはず。
「ええ、親が社会勉強だと言いまして20歳の時に放り込まれました・・・ですが今はこの職場が気に入っています」
男性が大切されているこの世界でよく親が社会に出したな・・・
「話の分かる男性だったからつい雑談が過ぎましたかね。さて、本題とまいりましょうか」
本題と言う言葉に身が引き締まる。
「逆水さんはどうして・・・え~と、『流浪荘』の203号室にいたのですか?」
彼は手元の資料見ながらこちらに問いかけてくる。
と言うか、流浪荘と言う名前だったのか。元居た世界では別の名前だったが。名前が違うが形は全く一緒、これが俗に言うパラレルワールドと言うものなのか。
流石にどうしてと聞かれてもそこが自室だと答えるしかない。
「その住所の203号室が自室だったから、ではいけませんか?」
「・・・何か証拠はありますか?」
証拠と言われたら国民保険証と運転免許証しかない。とりあえずその二つを財布から取り出し見せる。
「公的な身分証明書と言えばこの位しかありません」
「これは・・・国民保険証ですね。女性用ですが」
そう言いながら彼は国民保険証を手に取りまじまじと見つめ。そして「失礼します」と言い携帯端末を操作する。
操作し終えて運転免許証の方も確認する、少しの間があったあと彼は口を開いた。
「保険証の方も運転免許証の方も確かにあそこの住所でした。本当でしたらもう少し込み入った調べをするのですが。男性は国の財産です、恐らくこれ以上突っ込まれるようなことはないでしょう」
想像以上にすんなりと言ったので少し拍子抜けする。
「最低限の家具や日用品は男防の方で支給させていただきます。ですが支給金の方は貴方がどこにも属していない事の裏がとれてからでいいですか?」
「大丈夫です」
当たり前だ、そんなに簡単に支給金を出していたら犯罪の温床になる。
そして彼は最後にこんなことを言った。
「よろしければ、こちらの方でセキュリティの高い物件を紹介しますがいかがなさいますか?」
最近、投稿時間が安定しませんね。ホントは予約投稿等を使いたいのですが・・・
さて、気を取り直してキャラ紹介へと移りましょうか。
東屋 涼花 アズマヤ スズカ
年齢・26歳
職業・男性保護防犯課 巡査
趣味・夫の観察、読書
好物・夫の作るお菓子
家族・母 夫 第一夫人
誕生日・2月19日
座右の銘・良妻賢母
東屋和真の妻、普段は金髪眼鏡っ子だが夫和真の事になるとデレデレのようだ。
夫の職場での気苦労の大半は涼花のせいである。