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流浪荘の管理人  作者: 中酸実
第一荘 あべこべ世界の管理人
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第四室 隣の住人

急いでいるので前書きも後書きもありません、すみません。

「はぁ、今週も疲れた」


 今日もいつもと変わらない一日が終わる。本日は金曜日、明日から二日間休みがあると思うと重かった家路への足取りが軽くなる。そうだ、久々に飲もう。そう決意し途中のコンビニに寄る予定を立てる。



 当初の予定通りちょっと寄り道をして近場のコンビニに寄る。店に入る時に珍しいスーツ姿の男性とすれ違う、ふとその姿を見ると太ってなくまた痩せてなく。こんなご時世、よくここまで無事だったと思うほどのカッコいい男性だった。

 何故、このような事を言うかと言うと。この国と言うか、世界全体にも言える事なのだが。男性が少なく女性が多い、そしてこの国では男性には例外なく給与金がある。これはこの国に限ったことではなく、先進国ならば何処も取っている措置だ。下手に数の少ない男性を社会に出して襲われたら目も当てられないからだ。そう、はっきり言ってこの国の男性は働かなくてよいのだ。そのせいか先進国の男性は太っているか極端に痩せている人が多い。

 勿論、それ以外の男性はいる。だがその男性も護衛も無しでこんな所をうろちょろしない。さっきの男性だって顔や容姿が見ずらいこの時間帯で無ければとっくに襲われているだろう。


 っと、そんなことを思いつつ晩酌の用意をする。疲れているのか関係ないことも考えてしまった。

 キ○ンのビールに辛口あたりめと買い物を続ける、ふと店員の方に顔を向けると彼女はトリップしている最中だった。私が入店するまでにいったい何があったのだろうか、それを知る由は店員に直接聞くしかないが・・・ともかく、私がレジに到達するまでに現実に戻ってきてほしいと切に願うだけだ。


 ・・・そんな私の願いは空しく、私がレジにカゴを置いても店員の意識は上の空のようだ。本当に何があったのだろうか?


「あの~レジお願いしま~す」


 ・・・へんじがないただのしかばねのようだ。


「あの、レジお願いします!」


 ・・・へんじがないただのしかばねのようだ。・・・イラッ


「いい加減にさ、現実に戻ってこい!」

「はっ!!!」


 三回目でやっと店員の意識がこっちに戻ってくる。むしろ、こんだけ至近距離で呼びかけてやっと気付くのは流石に店員失格だと思うのだが。


「え、えっと、いらっしゃいませ!こちらの商品ですね」

「・・・はい」


 先ほどの失態を笑顔で誤魔化そうとする店員、流石に疲れているのでこの事について言及するつもりはさらさらないが、慣れた手つきでレジを打つ店員に愚痴の一つが漏れてしまう。


「惚気るのはいいけど客を置いてトリップするのはどうかと思うな。確かにこんな国じゃ滅多に見ないいい男性だけどさ」


 すると彼女はレジの作業の手をピタッと止め、グイッと身を乗り出し反論してくる。


「容姿?それだけじゃないのですよ!彼、とっても優しかったのです!初めての男性に緊張のあまりミスした時も、罵りや暴力もするわけでもなく。私を≪笑顔で≫励ましてくれたんですよ!もう、あの笑顔と言えば最高なのd・・・」


 さっきと打って変わってマシンガントークで喋る彼女。だが、疲れていても流石に彼女の供述は信じられない。

 この国では女性に対して寛容な男性は希少部類に入る、そして先ほどの男性のように容姿が整っているとなれば、もはや絶滅種である。

 理由は二つある。一つは男性が少なく女性が多い、もちろんの事ながら男性に生まれると言うことは、勝ち組に生まれると同義である。生まれたその瞬間から周りの人にちやほやされまるで王様のように育っていく。それもそのはず、自分の子孫を残せる相手が少ないのだから。

 そして二つ目、男性の母親に当たる人物は大切な息子に女性は怖いと教える。そして、女性は怖いと言う社会の風潮が男性の女性嫌いを加速させる。

 その他にも理由は様々あるが、やはり他の事も考慮に含めたとしても男性の性格のねじ曲がりと女性嫌いは避けられない問題なのである。

 ズキリと背中の傷がうずく、この話は無謀だ、やめにしよう。


 なおも如何にさっきの男性が素晴らしかったかを演説する彼女に簡素な否定の言葉を述べる。


「はいはい、妄想乙妄想乙(笑)」

「妄想じゃないです!現実の事なんです!」


 そんなやりとりがありながらも買い物を無事に終える。



 何時もの見慣れたアパートを視界に収めると疲れがドッと押し寄せてくる。

次第に重くなる足を引きずりながら急な階段を上る。ふと顔を上げるとスーツ姿の男性が203号室に入っていくところだった。どこかで見かけた容姿だなと思っていると、あのコンビニ店員の妄想話に出てきたあの男性だったことを思い出す。

 そう、コンビニ出る時にすれ違ったあの男性だ。

 ここ3年以上このアパートに住んでいるが昨日まで隣の203号室はずっと空室だった。となるとさっきのスーツ姿の男性は新しい住人なのか。疑問に思いつつも、明日は休日なので明日にでも大家さんに聞こうと思いつつ自室である202号室に入る。

 すっかり見慣れた我が部屋を改めて一望すると酷いの言葉しか出ない惨状であった。

 独身女性の汚部屋と言ったら早いだろう。床にはビール缶や積み本が散乱しており、台所にはいつ洗ったか分からない食器が散乱している。同僚からは「そんなんだから男が出来ないんだよ」と言われるが、実際問題、現実の男と付き合うのは『過去の事』があってからは無理だと実感した。

 やはり過去の事を思い出すのは良くないな。さて、気を取り直して今日もパーティー(晩酌)しますか。





 翌日、目覚ましが鳴るよりも早く起きてスマホの目覚まし機能をいじくる・・・が寝ぼけ眼で分からなかったが本日は休日だ。まさか、平日の起床時間に起きるとは社畜も板についてきたことに悲観しつつ着替える。

 朝早くに起きたので少し時間をつぶすためにテレビをつけて朝のニュースを見る。どうやらこの国の男性人口が全体の10%を下回った事に関するニュースの様だ。そうこうしているうちに時計の針が9時を指す。この時間帯なら大家さんもゴルフには行っていないはずだ。

 大家さんに聞くのは昨日の珍しい男性の件、杞憂であってほしいがもしもの男性に事があっては大変である。それほどまでに男性は国の財産なのだ。


 急な階段を下り、大家さんの住んでいる101号室の前に行く。スマホを見ると時刻は9時この時間帯ならば大家さんは起きているはずだ。チャイムを鳴らし少し待つ。するとインターホン越しから声が聞こえる。


『はいよぉ、どちらさんですかぁ?』

「203号室の大櫻です」

『ちょっとまっといてねぇ』


 その声が聞こえて数秒後、扉を開けて現れたのは白髪の60歳近いおばあちゃんだった。年老いても元気なそのお姿は尊敬に値する。名前は・・・下の名前が高菜だったかな。


「家賃かえぇ、早いねぇ」

「いや、今日はその事ではなくてですね」

「じゃあ何用かねぇ」


 203号室の住人の件を言ってみる。


「あの、203号室の住人の事なんですけど?」

「ほえ?203号室には住人はおらんよぉ?」

「えっ!?」


 どうやら私の杞憂は現実になってしまったようだ・・・

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