表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流浪荘の管理人  作者: 中酸実
第四荘 売れっ子作家の秘め事
33/33

第五室 作家さんと幸せの言葉

黒原さんsideなので今回は短いです。

 頭がボーっとしていてまるで熱にかされているみたいな、夢見心地ゆめみごこちなような。おかしいよね、まだ春なのに夏のような暑さを感じるの。


「さて、黒原くろはらさん着いたよ」


 唐突とうとつな彼の声に現実へと引き戻される。まるで心ここにあらずだったつい私は驚いてしまった。視線とかさを上にあげれば黒いかみの青年がこちらに静かな顔を向けている。その瞳には侮蔑の色は無く、ただただ柔らかいブラウンの瞳が私の姿を映す。

まるで夢の中を見るような道すがらの果てに、目の前には『一服軒いっぷくけんまれた看板かんばんけられた喫茶店きっさてんがあった。

永遠えいえんに続かのように思われた道だったけど、あっさり着いてしまったことに思わずつぶやきが、ため息のようにこぼれてしまう。


 カランコロン


 私の呟きが聞こえたかそうでないかは分からないけど、彼はまるで何時いつも通っている店のようにそのドアを手にかけ開く。店からかすかに漏れ出してくるのは、みついたコーヒーのかおりと木漏こもれ日の様なアコーティックギターの音色ねいろ。そして、私たちを出迎でむかえるのは・・・


「いらっしゃいませ」


 イートインコートと白髪交じりの黒髪がよく似合う、男性にも物怖ものおじせず仕事をこなすしぶ壮年そうねんの女性だった。



ーーーーーーーーーー



 目の前の男性・・・逆水さかみずさんはコーヒーをすすりながら、イチゴのタルトをフォークで切り分けて食べる。ただそれだけなのにとてもさまになるのは男性だからだろうか?私は心のメモに彼の仕草を書き記し、自分もチョコレートケーキを頬張ほおばる。しっかりとした、けれどくどくないカカオの苦みが良いアクセントになっていて、ついついコーヒーに手を伸ばしてしまう。何でもない午後のティータイムに私は幸福に満ちる。何故なぜだろうか?男性と・・・いや、逆水さんとだから?

 けれどこの疑問よりも先に、この幸せを感じるたびに、私は思う。彼は無理してないだろうか、こんなみにくい欲望だらけの私と一緒にいてつらくはないのか?と。彼の優しいひとみを見るとこの疑問もうすれるが、そう思わずにはいられない。

 私の汚い場所こころを見て、彼は無理をしてい・・・


 コトリ


 ティーカップを置いた逆水さんは不安にれる私の瞳をとらえる。しかし、私は・・・罪悪感ざいあくかんで目をそらした。


「俺は、黒原さんと一緒にお茶をするのはとても楽しいですよ」


 心の中をのぞかれた気分になり、彼に視線を合わせる。その瞳にはあざむきや嘲笑ちょうしょうの色は無く、ただ純粋じゅんすいに私の目を映す。無理している様子は無く、自然な微笑が私の目に映る。


「私・・・は・・・」

「そりゃ、人間誰しも欲望を持って当たり前ですよ」

「当たり・・・まえ?」

「俺だって人並みに欲はあります。人様ひとさま迷惑めいわくをかけないんだったらその欲はき出しても良いと思うんです」


 けど、私はあなたに不快な思いをさせた・・・


「だって・・・私・・・あなたに迷惑を・・・」

「俺はそうは思ってませんよ」

「え・・・」

むしろ、黒原さんの意外な一面が見れたと思っています」


 言葉を口に出し、笑顔を向ける逆水さん。その言葉は本心からだと出た言葉だと理解したと同時に顔が熱くなる。けれど、次の彼の言葉で驚かされる。



「そして、分かりました・・・黒原さんがスランプの訳が」

「えっ・・・」

「確かに表現は豊かですし、読んでいてとても面白い。ですが、からこもっています」

「殻・・・」


 その言葉にピンと来ない私は彼の次の言葉を待つ。



「綺麗な物語や表現で、自分に対して取りつくろっている。だから黒原さんは自分で納得なっとくいかなかったのではないですか?」

「それ・・・は・・・」

「もっと、自分を出してもいいんです。自分の書きたいことやりたいことをもっと表に出しましょう」



 そうかもしれない。私は、読者の反応、編集部の反応、そして何より私自身の印象を気にして殻をかぶっていたのかもしれない。だから納得いかなかったんだ、だから私の中の本心がさけんでいたんだ。もっと自分自身を曝け出していい、逆水さんの言葉に私の背中は優しくけれど力強く押された気がした。でも、その前に、少し不安がある。それは・・・


「私の・・・書きたい事を書いた小説を・・・読んで・・・くれますか?」


 目の前の読者(逆水さん)がきちんと読んでくれるだろうか・・・?

 けれど、この人だから帰ってくる言葉はきっと決まっていると思う。


「ああ、楽しみにしているよ」


 ああ、やっぱりね。でもね、例え予想していたとしても、この言葉だけで、たとえ逆水さんでなくても読者のこの言葉だけで。



 私は小説を書いていて一番、幸せなんだ。今さら・・・そんな事に気が付いたんだ。

短すぎたので、前回の話と合体させようかと思いましたが大事な場面ですので、短いですが投稿しました。その分、次回更新は早くなると思います。

次回、第四荘のエピローグ。そして倉庫(閑話)を挟みまして第五荘に移りたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 我、更新待つ
[一言] おもろいで、更新まっとるで~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ