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流浪荘の管理人  作者: 中酸実
第四荘 売れっ子作家の秘め事
32/33

第四室 作家さんとティーブレイクを

お待たせして申し訳ございません

「だったら・・・そうですね。外にお茶しに行きませんか?」


 一向に布団から外に出ない黒原さんにこんな提案をする。彼女が外が嫌いなのは百も承知だ・・・だからこそ外に誘ってみた。

 今の時間は5時手前、アフターヌーンティーには丁度ちょうどいい時間。


「え?外?」


 どうやら、余りにも意外過ぎたのか。黒原さんは布団から顔を出してこちらをうかがっている。

 にゅっと布団から頭を姿が可愛らしく滑稽こっけいで少し笑いながらも答える。


「ですから、いったん落ち着くためにカフェに行きませんか?」


 台所はあんな惨状さんじょうだしね。

 こういう時はガツンと気分転換きぶんてんかんと言う名の現実逃避げんじつとうひをするにかぎる。


「ええっと・・・そ・・・それって、デート?」

「そんなものかな」


 まア、確かにそう言った方が聞こえは良いかな。


「デ、デート・・・」


 そう呟く黒原さんは考え込んでいる。ころころと変わる表情から推測するに、外に行きたくない感情や羞恥しゅうちに対して天秤てんびんに掛けているようだ。やはり、男性が少ないこの世界ではデートと言うものがかなり魅力みりょく的に映るのかもしれない。


「行きます!・・・デート」


 どうやら彼女の中で結論が出たみたいだ。


「では、外で待ってますね」


 黒原さん自身、外出するための準備とかもあるだろうし外で待つことにしますか。




 ちょっとした調べ物をしている間に、どうやら黒原さんの準備が終わったみたいで104号室の扉がガチャリと開く。


「・・・待たせてごめんなさい」


 何処か安堵あんどの表情を浮かべる黒原さん。彼女は着替えたみたいで白のTシャツに黒のブラウスを羽織はおり、げ茶色のフレアスカートをいている。そして何より驚いたのが、乱雑らんざつだった腰まで掛かる長い黒髪は綺麗きれいかれていて、かつ首の所で一纏ひとまとめにしている。先ほどのファッションと言い、別人と言っても差し支えない。

 この女子力の高さ・・・休日だと常に上下ジャージの大櫻おおざくらさんを軽く上回っているんじゃないか?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ハックシュン」

「どうしたんやサクラ、風邪かぜでも引いたんか?バカは風邪ひかんって グハッ!」

「ふぅ・・・余計なお世話さ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・どうしたの?」


 首をかしげてこちらをうかがう黒原さん。そのしぐさと余りのイメチェン具合に不覚にもドキッとしてしまった。本人には失礼だけどかなり予想外だ。


「い、いや、なんでもない」

「そう・・・?」


 そう言葉をこぼしたと思ったら、手に持っていた黒いかさを広げる。

 あ、玄関に大量に傘があると思ったらあれ日傘だったんだ・・・やはりと言うか何と言うか、日光がかなり苦手なんだなね。ちょっと悪い事をしてしまったかな。


「・・・行かないの?」

「ああ、ごめん」


 考え事のせいで反応が遅れてしまったけど黒原さんの言葉で我に帰る。


「行こうか」


 そう言って歩き出す、これが黒原さんの気分転換になればいいんだけどな。



 こちらの世界に来て変わったところも多々あれば、変わらない所もある。今、入ろうとしている喫茶店きっさてんはその中の一つ。黒原さんを待っていた、あの時間にきちんと調べておいたので大丈夫なはずだ。

 男女比1:1だった元の世界ではしぶ壮年そうねん男性のマスターがやっていたが、果たしてこの世界ではどうなっているのだろうか?


「さて、黒原さん着いたよ」


 終始しゅうしだんまりしていた黒原さんに声をかける。


「ひゃっ!」


 と、彼女は急に声をかけられたのに驚いたみたいだ。・・・なにか考え事でもしていたのかな?


「・・・もう着いたんだ」


 そんなつぶやきが聞こえた気がしたが、扉を引く音でかき消されてしまった。


 カランカラン


 喫茶店でよくある来客を知らせる心地よいベルが店内に響く。元居た世界とほとんど同じ、こじんまりした店内に木製の家具と適度に配置された緑が落ち着いた雰囲気ふんいきかもし出す。

コーヒーのこおばしい香りが鼻孔びこうをくすぐり、提供ていきょうされる物に期待が高まる。


「いらっしゃいませ」


 カウンターしから声をかけるのは、恐らくこの喫茶店のマスターであろう壮年の女性。女性にしては高い身長、だけどその身長だからこそしっかりとイートインコートがとてもよく似合う。

白髪しらがじりの黒髪をポニーテールのように一か所にまとめていて、顔立ちと合わせてカッコいい女性と言う第一印象だ。


 そのマスターがこちらに視線を向けると、少し驚いた表情をしながらすぐに表情を立て直し席へと案内する。


「男性が来店なさるとは珍しい事もあるのですね。二人様ですか、どうぞテーブル席へ」


 案内されるままに俺と黒原さんは、窓際の席に座る。

 こう言った本格的な喫茶店に入るのは初めてなのか、黒原さんはきょろきょろと辺りを興味深そうに見ている。

 

 すると、まだ頼んではいないのにマスターが二つのコーヒーを持ってきて。自分たちのテーブルにコトンと置く。


「当店のオリジナルコーヒーです。南方の産地の豆をブレンドした物で自慢じまん一杯いっぱいですよ」


 注文したかな?とたずねるためにマスターの方を見ると。


「サービスですお客様。ほかの人には内緒ですよ」


 シーっという風に人差し指をくちびるに持っていき。ほんの少し口端こうたんを上げ、悪戯いたずらのように微笑んでからカウンターに戻る。その一連の仕草と言い、男性が来店したときに動じなかった事と言い、まさにデキる女性を体現したかのようだ。この世界では大家さんとはまた違った意味で年のこうを感じた瞬間しゅんかんであった。


「じゃあ、コーヒーでも頂こうか黒原さ・・・ん?」


 肝心かんじんの彼女に視線を戻すと、一心不乱いっしんふらんに書き物をしているみたいだ。

 どうやら、必死にメモ帳に書きなぐっているみたいで一通り書き終えた後。満足したように顔を上げる。が・・


「あ・・・ごめん・・・なさい」


 こちらを無視して熱心にメモしていた事に対して申し訳なさそうに顔をせる。


「別に気にしてないよ。それよりも、何をメモしていたの?」

「ああうう・・・さっきの・・・マスターなんだけど」


 我を忘れてメモしていたのを見られていたのは恥ずかしかったのか、顔を赤くしながらメモしていた内容を答えた。


「ああいう、カッコいい女性って珍しい?」

「あなたみたいな・・・男性を見て・・・動じないのはすごい」


 確かに男性を見ても、今までにあった女性は結構驚いていたものな。


「それはそうだね」


 同意を一つ返し、コーヒーを一口啜る。郷愁きょうしゅうを呼び起こす香りと共に、ひどなつかしい味がのどの奥を通り抜けた。

 コーヒーカップを見返し一人ごちる。


『ああ、ここのコーヒーは変わらないな』


 そう思いながら、向かい合わせの黒原さんに視線を戻すと。


「あ・・・おいしい」


 本心かられたであろうホッとしたような声音に、思わず微笑が出てくる。どうやら、ここのオリジナルブレンドは彼女の口にあった様だ。


「さて、流石に何か頼まないとマスターに申し訳ないな」

「・・・うん」


 俺は季節のケーキイチゴのタルトを黒原さんは特製チョコレートケーキをオーダーする。運ばれてきたお茶菓子ちゃがし舌包したづつみを打ちながら、おだやかな午後のティータイムは過ぎていく。

この失踪中の一年間の事は1月5日の活動報告に書いています。失踪理由も同時に書いておりますので気が向いたら見てください。

新作短編を投稿しました気が向いたら読んでみて下さいm(__)m

➡男女比が狂った世界で郷愁きょうしゅうつづ

 https://ncode.syosetu.com/n9026ff/


人物紹介がないと思っていたのか?


墨田 かおる (すみだ かおる)


年齢・49歳

職業・喫茶店のマスター

趣味・お菓子作り(主にケーキ類)

好物・ビスケット、マフィン

家族・娘

誕生日・4月13日(喫茶店の日)


純喫茶『一服軒』のマスター兼経営者、コーヒーには目が無く又ケーキ作りが趣味なため、正に今の職業は天職と言った所。放蕩中の一人娘がいるみたいで今は海外を旅しているそうな。宝塚の美人が綺麗に歳を重ねていった容姿で、年齢に以上に落ち着いた印象受ける壮年の女性。


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