第四室 作家さんとティーブレイクを
お待たせして申し訳ございません
「だったら・・・そうですね。外にお茶しに行きませんか?」
一向に布団から外に出ない黒原さんにこんな提案をする。彼女が外が嫌いなのは百も承知だ・・・だからこそ外に誘ってみた。
今の時間は5時手前、アフターヌーンティーには丁度いい時間。
「え?外?」
どうやら、余りにも意外過ぎたのか。黒原さんは布団から顔を出してこちらを窺っている。
にゅっと布団から頭を姿が可愛らしく滑稽で少し笑いながらも答える。
「ですから、いったん落ち着くためにカフェに行きませんか?」
台所はあんな惨状だしね。
こういう時はガツンと気分転換と言う名の現実逃避をするにかぎる。
「ええっと・・・そ・・・それって、デート?」
「そんなものかな」
まア、確かにそう言った方が聞こえは良いかな。
「デ、デート・・・」
そう呟く黒原さんは考え込んでいる。ころころと変わる表情から推測するに、外に行きたくない感情や羞恥に対して天秤に掛けているようだ。やはり、男性が少ないこの世界ではデートと言うものがかなり魅力的に映るのかもしれない。
「行きます!・・・デート」
どうやら彼女の中で結論が出たみたいだ。
「では、外で待ってますね」
黒原さん自身、外出するための準備とかもあるだろうし外で待つことにしますか。
ちょっとした調べ物をしている間に、どうやら黒原さんの準備が終わったみたいで104号室の扉がガチャリと開く。
「・・・待たせてごめんなさい」
何処か安堵の表情を浮かべる黒原さん。彼女は着替えたみたいで白のTシャツに黒のブラウスを羽織り、焦げ茶色のフレアスカートを履いている。そして何より驚いたのが、乱雑だった腰まで掛かる長い黒髪は綺麗に梳かれていて、かつ首の所で一纏めにしている。先ほどのファッションと言い、別人と言っても差し支えない。
この女子力の高さ・・・休日だと常に上下ジャージの大櫻さんを軽く上回っているんじゃないか?
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「ハックシュン」
「どうしたんやサクラ、風邪でも引いたんか?バカは風邪ひかんって グハッ!」
「ふぅ・・・余計なお世話さ」
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「・・・どうしたの?」
首をかしげてこちらを窺う黒原さん。そのしぐさと余りのイメチェン具合に不覚にもドキッとしてしまった。本人には失礼だけどかなり予想外だ。
「い、いや、なんでもない」
「そう・・・?」
そう言葉を零したと思ったら、手に持っていた黒い傘を広げる。
あ、玄関に大量に傘があると思ったらあれ日傘だったんだ・・・やはりと言うか何と言うか、日光がかなり苦手なんだなね。ちょっと悪い事をしてしまったかな。
「・・・行かないの?」
「ああ、ごめん」
考え事のせいで反応が遅れてしまったけど黒原さんの言葉で我に帰る。
「行こうか」
そう言って歩き出す、これが黒原さんの気分転換になればいいんだけどな。
こちらの世界に来て変わったところも多々あれば、変わらない所もある。今、入ろうとしている喫茶店はその中の一つ。黒原さんを待っていた、あの時間にきちんと調べておいたので大丈夫なはずだ。
男女比1:1だった元の世界では渋い壮年男性のマスターがやっていたが、果たしてこの世界ではどうなっているのだろうか?
「さて、黒原さん着いたよ」
終始だんまりしていた黒原さんに声をかける。
「ひゃっ!」
と、彼女は急に声をかけられたのに驚いたみたいだ。・・・なにか考え事でもしていたのかな?
「・・・もう着いたんだ」
そんな呟きが聞こえた気がしたが、扉を引く音でかき消されてしまった。
カランカラン
喫茶店でよくある来客を知らせる心地よいベルが店内に響く。元居た世界とほとんど同じ、こじんまりした店内に木製の家具と適度に配置された緑が落ち着いた雰囲気を醸し出す。
コーヒーの香ばしい香りが鼻孔をくすぐり、提供される物に期待が高まる。
「いらっしゃいませ」
カウンター越しから声をかけるのは、恐らくこの喫茶店のマスターであろう壮年の女性。女性にしては高い身長、だけどその身長だからこそしっかりとイートインコートがとてもよく似合う。
白髪交じりの黒髪をポニーテールのように一か所に纏めていて、顔立ちと合わせてカッコいい女性と言う第一印象だ。
そのマスターがこちらに視線を向けると、少し驚いた表情をしながらすぐに表情を立て直し席へと案内する。
「男性が来店なさるとは珍しい事もあるのですね。二人様ですか、どうぞテーブル席へ」
案内されるままに俺と黒原さんは、窓際の席に座る。
こう言った本格的な喫茶店に入るのは初めてなのか、黒原さんはきょろきょろと辺りを興味深そうに見ている。
すると、まだ頼んではいないのにマスターが二つのコーヒーを持ってきて。自分たちのテーブルにコトンと置く。
「当店のオリジナルコーヒーです。南方の産地の豆をブレンドした物で自慢の一杯ですよ」
注文したかな?と尋ねるためにマスターの方を見ると。
「サービスですお客様。ほかの人には内緒ですよ」
シーっという風に人差し指を唇に持っていき。ほんの少し口端を上げ、悪戯のように微笑んでからカウンターに戻る。その一連の仕草と言い、男性が来店したときに動じなかった事と言い、まさにデキる女性を体現したかのようだ。この世界では大家さんとはまた違った意味で年の功を感じた瞬間であった。
「じゃあ、コーヒーでも頂こうか黒原さ・・・ん?」
肝心の彼女に視線を戻すと、一心不乱に書き物をしているみたいだ。
どうやら、必死にメモ帳に書き殴っているみたいで一通り書き終えた後。満足したように顔を上げる。が・・
「あ・・・ごめん・・・なさい」
こちらを無視して熱心にメモしていた事に対して申し訳なさそうに顔を伏せる。
「別に気にしてないよ。それよりも、何をメモしていたの?」
「ああうう・・・さっきの・・・マスターなんだけど」
我を忘れてメモしていたのを見られていたのは恥ずかしかったのか、顔を赤くしながらメモしていた内容を答えた。
「ああいう、カッコいい女性って珍しい?」
「あなたみたいな・・・男性を見て・・・動じないのは凄い」
確かに男性を見ても、今までにあった女性は結構驚いていたものな。
「それはそうだね」
同意を一つ返し、コーヒーを一口啜る。郷愁を呼び起こす香りと共に、酷く懐かしい味が喉の奥を通り抜けた。
コーヒーカップを見返し一人ごちる。
『ああ、ここのコーヒーは変わらないな』
そう思いながら、向かい合わせの黒原さんに視線を戻すと。
「あ・・・おいしい」
本心から洩れたであろうホッとしたような声音に、思わず微笑が出てくる。どうやら、ここのオリジナルブレンドは彼女の口にあった様だ。
「さて、流石に何か頼まないとマスターに申し訳ないな」
「・・・うん」
俺は季節のケーキを黒原さんは特製チョコレートケーキをオーダーする。運ばれてきたお茶菓子に舌包みを打ちながら、穏やかな午後のティータイムは過ぎていく。
この失踪中の一年間の事は1月5日の活動報告に書いています。失踪理由も同時に書いておりますので気が向いたら見てください。
新作短編を投稿しました気が向いたら読んでみて下さいm(__)m
➡男女比が狂った世界で郷愁を綴る
https://ncode.syosetu.com/n9026ff/
人物紹介がないと思っていたのか?
墨田 かおる (すみだ かおる)
年齢・49歳
職業・喫茶店のマスター
趣味・お菓子作り(主にケーキ類)
好物・ビスケット、マフィン
家族・娘
誕生日・4月13日(喫茶店の日)
純喫茶『一服軒』のマスター兼経営者、コーヒーには目が無く又ケーキ作りが趣味なため、正に今の職業は天職と言った所。放蕩中の一人娘がいるみたいで今は海外を旅しているそうな。宝塚の美人が綺麗に歳を重ねていった容姿で、年齢に以上に落ち着いた印象受ける壮年の女性。




