第三室 作家の秘め事
久しぶりの投稿です・・・主に前話の黒原さん視点のお話です。
「うう・・・うう・・・」
薄暗い部屋の隅っこでモコモコとした奇妙な物体が声を上げている。
「あの・・・元気出して下さい黒原さん、気にしてないですから」
そう、この部屋の主である黒原百合さんだ。
なぜスランプを解消させに来たのに逆に悪化しているのか・・・それは台所の惨状を見て押して知るべしとしか言えない。
「布団にくるまってないで出てきて下さい、全然気にしてないですから」
「うう・・・」
このままではどうあがいても好転しないのは目に見えている。
ここで考え方を変えてみよう、この世界では男女の価値観が逆転している・・・もし黒原さんの出来事を自身の事として考えてみてはどうだろうか?
今までの事を端的に表すと、近所の知り合いの異性が突然家に訪問してきて、ベット下の大量のエロ本を見つける・・・
うん、誰でも2、3日は寝込む自信があるね!
そう考えると確かにこれは・・・主に精神的にキツイ。
果たしてこの状況を打破するためにはどうすればいいのだろうか。
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暗い闇の中・・・私の部屋よりも暗い布団の中で今まで味わったことない羞恥と戦っていた。
そう、少なからずいいなと思っていた男性に見られたのだ・・・私の人前では抑え込んでいた欲望を。
こんなことになったのは何でだろう・・・私はそう思いながら意識を沈めた。
一人暗い部屋で黙々と文章を打つ、けどそれはカタチにはならなくて。
「・・・ダメ」
そうしてまた、書き直す・・・
そんな事をしていると玄関のチャイムがなる。
こんな時間(昼過ぎ)に来るなんて恐らく白崎綾くらい・・・と言うか、彼女しか訪ねてこないのは内緒。
だから油断していた・・・まさか彼が来ることになるなんて。
「・・・逆・・・水・・・さん?」
扉を開けた時、頭の中が意味不明な文字列で埋め尽くされた気分だ。
けど、一番に頭の中で整理された文字は『何故』だった。
203号室に住んでいて同時に101号室の大家さんに代わって管理人もしている人。
男性だっていうのに自主的に掃除等をしている変わった人。
こんな私をちゃんと見て話してくれて、そして会ったら必ず挨拶する・・・そんな人。
そんな人・・・逆水椿樹さんが私の部屋・・・103号室に来るなんてどうしたのだろうか?
「え、え~と、その、小説の方が上手くいってないって聞いて来たんだけど・・・」
あ、ちょっと困惑している顔もイイ、そそられr・・・じゃなった。
でも、男性が心配してくれるのは純粋に嬉しかった。これだけで一筆したためれそうなくらいには。
それに逆水さんの事だから、ちゃんと心配しているのが普段の誠実な態度でわかる。
「し、心配してくれて・・・あり・・・がとう」
・・・ちょっと待って。
何で私がスランプに陥っているのを知っているの?
途端に親友であり私の担当編集の顔が頭をよぎる・・・まさか?否、絶対そうだよね。
「書けなくて困っているなら相談にのるよ?」
「!・・・お願い・・・します」
ここで出てきた魅力的な提案に脊髄反射で答えてしまう・・・悲しいかなこれが女性の性。
ここに親友がいたのならば見事なまでに彼女の好計にハマった私を見て笑い転げそうね・・・
けどこれはまさに渡りに船、彼ならば何かの回答を得られると期待してしまう。
あれ?今、私の部屋って・・・頬に冷や汗がタラリと垂れる。
そう、前回逆水さんが来たときは丁度片付けていたが今は・・・
「・・・!・・・ちょっと・・・待って」
その結論に至るや否や私は弾かれたように自室に舞い戻る、確固たる決意と共に。
「片付けないと!」
腕をまくった私の目の前に映るのは散乱した部屋・・・けど、ここまでなら文句はない。(男性を部屋に入れるなら全然ふさわしくないけど)
けど問題は・・・
「・・・これだよね」
ひょいとピンク色の表紙を一冊の本を取り上げる。たしかこの本はシチュレーションもさることながら書き手のエ・・・じゃなかった。
そこら中に散らばった私の欲望の権化を出来るだけはやく回収しなければならない。一つでも彼の視界に入ったら・・・いや、考えるのはよそう。
隠し場所は・・・ベットの下は流石に安直すぎるし、他の隠し場所は埋まっている。仕方ない台所に隠すしかないのか。
・・・今思えば素直にベットの下に隠しとけば良かったと思うわ。
「ま、待たせて・・・ごめんなさい・・・用事があって」
そんなこんなで全ての成人指定の本を収納する頃には私自身がボロボロだった。
急いだせいで本とかに躓いたせいで大変だったし・・・
「大丈夫ですよ、掃除してたんなら仕方ないですし」
どうやら、許してくれた様だ・・・
何も考えずに扉を閉めてしまったせいで、逆水さんにどんな罵詈雑言を言われるかとビクビクしていたけど心の広い男性で本当に良かった。
世の中、こんな男性ばっかりだといいんだけどね・・・ま、私逆水さんしか本物の男性は分からないけど。
「・・・中へどうぞ・・・立ち話も・・・なんだから」
こんな所では何だからね、部屋の中に招き入れる。
「お邪魔します」
何やかんやあったけど男性を部屋にいれるなんて初めて、男性を間近で見られるチャンス!
けど、まさかこれがあんなことになろうとはね・・・当時の私は浮かれていて思いもよらなかった。
逆水さんがコーヒーのブラックが飲めると言う意外な事実に驚きながらも話していたその後。(ブラックを啜りながら話す男性も渋くていいな)
「それで・・・相談」
そのきっかけは私がふと口を開いた言葉だった。
別にこのまま話が脱線しても別に良かったけど、それだと私が悩んでる事に一向に片が付かない。
「そう、だったね」
逆水さんは手に持っていたカップをテーブルの上に置いてこちらをじっと見据える。
恐らく真剣に話を聞くつもりなのだろうけど。で、でもそ、そんなに見つめられる・・・と。
「書けない理由は・・・私が・・・納得できない・・・自分の文章に・・・全然、響かないの・・・もやもやして」
自分でも何言っているか分からないけど、男性の真剣な視線に直視できず。下を向きながらポツリポツリと話す。
だめ、なんだか自分でも何言っているのか分からないけど恐らく私の本心・・・だと思う。
「なるほどね」
そう言って逆水さんはコーヒーを一口すする。その様子が実に様になっていて、親友のような仕事をする人の雰囲気をまとわせている。
うん、次書く小説のヒーローはバリバリ働くサラリーマンに・・・いやいや、話が脱線してしまう。
「書いては・・・気に入らないから・・・書き直して・・・全く進まない」
話が脱線してしまわないように今の私自身の現状を述べる。
「ふむ」
すると、また彼はコーヒーを一口飲んで考えている。
うん、やっぱり自分の入れたコーヒーをあんなにじっくり飲んでくれているなんて嬉しい。
っと、そんな事を考えていると。
「良かったら、原稿見せてくれるかな?」
そんな事を提案してくる、確かに第三者の視点は参考になるかも・・・しかも男性の。
打算的な事を考えながら素直に頷く。
ただ、小説を書くためのパソコンの中は私の性欲の塊なので逆水さんに見られないように体で画面を隠し素早く操作する。
デスクトップやタスクバーの中には見られてはいけないけないものが少なかったのが幸いだけど。
「どうぞ・・・」
体をずらして席を立ち、見てもらうように促す。
PCの画面には書きかけの小説が映っている。見られてはいけないものは安全を取って全部ゴミ箱に入れたし大丈夫・・・と思いたい。
「見させてもらいますね」
そういって体を椅子に預けPCの画面を見る逆水さん。やっぱり綾に見てもらう時もそうだけど、自身の小説を目の前で見てもらうのってなんだか恥ずかしいし、それが男性ならさらに緊張してしまう。熱心に私が書いた小説を見る姿に、心の奥にジンと熱がこもる様な錯覚を覚える。やばい、この感覚、クセになりそうだわ。
色んな意味でドキドキしながら見守っていると、読み終わったのだろう逆水さんが息を吐いて画面から目を離す。
「小説の方は特に黒原さんの何時もの文章だと思う、むしろ前の文章よりも厚みが出て良いと思うんだ・・け・・・ど」
期待しながら感想を待った私に言われた言葉は綾が言った感想とほとんど同じだった・・・綾の方が専門的な言葉も入っていたけど。
「むー、私が・・・納得してない・・・」
期待が外れたことにムッとしながらも反論した言葉に返答するように出された質問に、私は不意打ちを喰らってしまう。
「う~ん、でも一か月前は悩んでなかったよね。この間に何があったの?」
「え・・・」
この一か月・・・って、確か逆水さんと会って。それから・・・それから?
それからだ、書けなくなったのはってことは・・・考えられるのは・・・まさか?
「恥ずかしんだったら言わなくてい・・・」
私は浮かびかけた結論をかぶりを振って否定する。ふと、目についたのは逆水さんの持っていたカップ。
「あっ!・・・コーヒー入れてくる・・・おかわりいるよね・・・」
「えっ」
これ幸いと私は逆水さんの返答を待たずに逆水さんカップを取ると、私のカップをもって台所に逃げるように駆けこんだのだった。
高鳴る胸に手を置く、この感情は・・・まさかね。
ブンブンと煩悩を消すように頭を左右に振ってもしかしたらと言う可能性を消す。
何時ものように慣れた手つきでコーヒーメーカーを準備するが・・・
「って、あれ?」
あと少しと言った所でコーヒー豆が足りなくなる。
ストックはあるにはあるのだけれど・・・
「ここなんだよね・・・」
シンクの上の方を見上げて思わずため息が漏れてしまう、そこは私の見られたくないものを一通り隠した場所だった。
気合を入れてシンク上の収納の扉を開ける・・・が。
バサバサバサッ
「キャッ!」
目の前に迫ってきたのは本の洪水だった。
体を揺さぶられる感覚で一気に現実に帰る。あれ?私何していたんだっけ?
目に飛び込んできたのは逆水さんの心配そうな顔だった。
「怪我とかない?」
「う・・・うん・・・大丈夫」
そ、そうだ、逆水さんにコーヒーを出そうとして・・・あれ?私を埋めているこの本の数々は・・・
「パッと見、大丈夫そうでよかったです」
「あれ?これって・・・」
逆水さんがそう言いながら、男女が裸で絡み合う絵が描かれた本を持ち上げて
!?そうだ!
「!・・・ダメ!!」
そう思ったときには反射的に体が動いていた、思わずその本を胸に抱えてしまう。
だけどその行為は無意味だった。
「いや、うん、性欲は生理現象だし・・・仕方ないと思うよ」
「イヤァァァァァ!!!」
逆水さんには分かってしまった、そのことで私の顔が火照ってくるのが否が応でも理解してしまった。
意識が現在へと戻っていく、そう、今私は恥ずかしくて申し訳なくてそんな感情でいっぱいだ。
今喋っていた女性が色欲魔だと知ったら、流石の逆水さんでもドン引きするだろう。
けど彼は意に介さずにこんな私を気遣ってくれる・・・私はどうしたらいいのだろう。
そんな事を考えながら布団の中の暗闇に身を埋めていると、逆水さんから意外な言葉が出てくる。
「だったら・・・そうですね。外にお茶しに行きませんか?」
「え?」
以外過ぎる提案に思わず、布団から顔を出してしまったのだった。
てなわけで、意外とムッツリな黒原さんでした。因みに同室にいたのに逆水さんを襲わなかったのは彼女がこちらの世界で言う所謂、ヘタレだからです。
ルビを振る作業で26日になりかけで投稿してしまうダメな感じの作者でございます。
次話は1、2日後までに頑張って投稿したいと思います。
 




