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流浪荘の管理人  作者: 中酸実
第四荘 売れっ子作家の秘め事
30/33

第二室 管理人のお宅訪問

久しぶりすぎて、化石と化している作品に感想やブクマありがとうございます。

これを糧に頑張って書いていきたいと思います。

「これじゃだめ・・・」


 暗い部屋の中、黙々(もくもく)とパソコンに向かって凝視(ぎょうし)している女性がいた。

 カタカタと部屋に響くキーボードを音は、はたから見ると薄暗い部屋の雰囲気ふんいきと腰にまでかるほどの黒髪と相まって不気味に見えてしまう。


「こんな文章だと・・・心がときめかない」


 まぁ、第三者の評価など彼女にとっては余り気にしない事なのだが。


「・・・はぁ」


 一口、コーヒーをすすった後、ため息をらすと椅子の背もたれに体重を移し天井をあおぐ。

 はらりと重力に流れた長い前髪からは色の白い端正たんせいな顔がのぞいているがその表情はどこかすぐれない。


「何で書けないんだろう・・・」


 編集に提出するための健全な純愛物の小説の続きを書いてはいるが何故か書けない。

 彼女自身のその問いに対しての答えを持っているが、あえて口に出してみる。

 そうすることで、筆が進まない現状を変えられるかもしれないと、あわい期待を込めたのだ。


「ダメ・・・どうにもかけない」


 胸がときめく時もあった、恋に恋する時もあった。

 だが、彼女が望んでいた感情に今は上手く付き合いきれて無いようだ。

 彼女のもう一つの感情をおさんで書く文章にはどこか心がこもってないような気がした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 時は昼下がり、午前中は突然の訪問に少し面食らったがあれからは何事もなくアパートの手入れや掃除を終わらせた。

 さて、今現在はと言うと・・・


「やっぱ、緊張するな」


 白崎しろさきさんの交渉役こうしょうやくとして104号室の扉の前に立っているのだ。

 きちんとした目的があるとはいえ、一度しかあってない女性の部屋にアポなしで訪問するのは勇気がいる。

 それに目的と言っても104号室の黒原くろはらさんをやる気を出すって何をすればいいんだか。

 そもそも、一回しか会った事ないのにドアを開けてくれるのだろうか?


 そんな考えが堂々どうどうめぐりしつつ、意を決して104号室のインターホンを押す。

 ピンポーンと自室と同じチャイムの音が鳴ると部屋の中から足音が聞こえて・・・


 ガヂャリ


「何?・・・まだ原稿げんこうはできt・・・逆・・・水・・・さん?」


 ドアチェーンの向こうにはとっさの事態に対応できていない黒原さんがキョトンとした表情でこちらを見ている。

 そんな表情と首をかしげる仕草が可愛らしい顔と相まって、思わず言葉がしどろもどろになってしまう。


「え、え~と、その、小説の方が上手くいってないって聞いて来たんだけど・・・」


 素直に原稿が出来ないって聞いたから様子を見に来たと言えるはずもなく。(言ったら白崎さんの二の舞だ)

 あらかじめ考えていた訪問の言い訳を話す。思いもよらぬ不意打ちで少し言葉が乱れてしまったが。


「し、心配してくれて・・・あり・・・がとう」


 彼女自身思い当たるふしがあるのか、何処どこかか表情は暗い。

 やはり書けなくて苦しんでいるのかな?


「書けなくて困っているなら相談にのるよ?」

「!・・・お願い・・・します」


 ガバッと言う擬音ぎおんが聞こえそうなほどの速さで黒原さんは顔をあげると、その表情は前より少しだけ明るくなっている。

 これで彼女の力になれるかな?・・・相談の内容次第だけど。


「・・・!・・・ちょっと・・・待って」


 一瞬思案しあんした後、何かにはじかれたように黒原さんはそう言葉を残しパタンと扉を閉める。


「え?」


 (ちな)みに扉のチェーンロックはかかったままだった。



 部屋の中から物を動かす音と共に、誰かがこける音やちょっとした悲鳴が断続的だんぞくてきに聞こえてハラハラしながら待つこと約10分。

 ガチャッと扉が開く。


「ま、待たせて・・・ごめんなさい・・・用事があって」


 さっきよりもほんの少しだけやつれた黒原さんが出てくる。

 どうやら扉のチェーンロックを外すだけではなく色々と軽く掃除をやったみたいだ、頭についたほこりがそれを物語っている。

 

「大丈夫ですよ、掃除してたんなら仕方ないですし」


 掃除と言う言葉にビクッと反応する黒原さん、どうやら図星ずぼしの様だ。


「・・・中へどうぞ・・・立ち話も・・・なんだから」

「お邪魔じゃまします」


 前回来た時同様、部屋の中は薄暗くすみには本のタワーがあるのは相変わらずだった。

 それどころか、本が廊下ろうかにまで侵食しんしょくしている。

 ・・・これほんとに片づけたのかな?


「座って・・・」


 その言葉にしたがうように前回来た時に座ったテーブルの前に座る。


「コーヒー・・・大丈夫?」


 確認するように聞く黒原さん。

 コーヒーならブラックでもいける・・・と言うか、会社員時代の時にエナジードリンクと並んで飲んだ飲み物だしな。


「ああ、大丈夫だよ」

「良かった・・・」


 そう言うやいなや彼女は台所に消えていった。



 部屋にコーヒーのこおばしい匂いが充満してきた頃。


「お待たせ・・・」


 そう言って帰ってきた黒原さんの手にはおぼんがあり、その上にはちょっとオシャレなカップが二つっていた。

 それにしてもインスタントにしては時間が掛かった様な・・・


「ドリップが一人分しか・・・できてなかった・・・待たせて・・・ごめん」


 え?意外と本格的!?

 確かにテーブルの上に置かれたコーヒーをよくよくいでみると、インスタントとは違う芳醇ほうじゅんな香りが鼻孔びこうをくすぐる。


「コーヒーメーカー持っているのですか?」

「うん・・・この豆はエチオピア産・・・私のお気に入り」


 意外と豆にもこだわっていた!

 ん?こっちのカップには砂糖とコーヒーフレッシュがあるけど黒原さんのカップにはそんなものがなく、ブラックのまま飲んでいる。

 視線に気づいてないのかカップを鼻先に近づけて、少し微笑みながら。


「やっぱり・・・コーヒーは・・・ストレートでブラックに・・・限る」


 と、言葉を漏らす。

 黒原さんはコーヒー好き、覚えておこう何か役に立つかもしれない。

 一つ黒原さんについて知れたところで自分もコーヒーに口をつける。


「あ、すごく美味しい」


 単純な言葉がつい出てしまう、コーヒーついてあまり詳しくは知らないけど、インスタントや無造作むぞうさに飲む缶コーヒーとは全く別物と言っても過言じゃない。

 予想以上の美味しさに思わず、後味やフルーティな香りを楽しんでいると・・・


「楽しんで・・・貰えて・・・良かった」


 黒原さんが微笑ましそうに見ているのに気づく。


「正直言って、黒原さんにこんな趣味があるとは思わなかったです」


 恥ずかしさをまぎらわせるために話題を転換てんかんする。


「コーヒーを飲むと・・・頭がえて・・・いい文章が書ける」

「ああ、納得」


 かくゆう自分もエナジードリンクを飲んだりして気合を入れていた事があった。それと同じようなものだろう。

 それに、趣味と実益じつえきねてるし何だか黒原さんの雰囲気ふんいきにもマッチしている。


「でも・・・意外」

「何が?」

「男性なのに・・・ブラック飲めるの・・・」


 ここでも価値観の違いが如実にょじつに表れるのか・・・


「まあね」


 何でもないように応える、この世界の男性はブラックが苦手の様だ。全く、働く男の・・・残業のおともだと言うのに。

 あ、そっか・・・そもそもこの世界の男性ってそもそも働かないし。働いたとしても残業はさせて貰えないだろうな。


「それで・・・相談」

「そうだったね」


 ちょっとコーヒーに話が脱線してしまったが、黒原さんの所を訪れたのはスランプを解決するためだ。

 コトッとカップを置いて耳を傾ける。


「書けない理由は・・・私が・・・納得できない・・・自分の文章に・・・全然、響かないの」

「なるほどね」


 コーヒーを一口飲んで整理する。

 つまりは思ったように自分の文章が書けずに困っていると、そう言う事かな?


「書いては・・・気に入らないから・・・書き直して・・・全く進まない」

「ふむ」


 結構、職人気質なのかな?

 気に入った物が出来上がるまで、何度も何度も書き直しているから全然進まないと・・・

 何かアドバイスが出来るのだろうか・・・

 そう考えつつまた一口のどにいれる。


「良かったら、原稿見せてくれるかな?」


 話を聞くだけやらちが明かない気がしたので原稿を見せてもらう事にする。

 もしかしたらこの原稿に突破口とっぱこうがあるかもしれない・・・


「うん・・・」


 そう答えると黒原さんは立ち上がりパソコンラックへ向かい、こちらから見えないようにしながら素早く操作する。

 まア、自分のパソコンの画面ってあんまり他人に見られたくはないよね。

 待っている間にコーヒーを楽しむ、本当にいい香りだ。


「どうぞ・・・」


 黒原さんが体をずらし、手を添えてパソコン画面に視線を向けるように誘導する。


「見させてもらいますね」


 ソフトウェアで有名な文章作成ソフトで小説はかかれていてた、黒原さんのイメージ的に手書きかと思ってしまったが、意外にも執筆しっぴつにはパソコンを使っているようだ。

 小説の方は彼女の手腕しゅわんはそのままに、それよりも登場人物の心情の変化や感情の描き方は格段かくだんに良くなっている。

 むしろこれのどこが良くないのかこっちが聞きたいくらいだ。

 手にしたコーヒーを一口・・・あ・・・もうない。


「小説の方は特に黒原さんの何時いつもの文章だと思う、むしろ前の文章よりも厚みが出て良いと思うんだ・・け・・・ど」


 素直な感想を口に出すが、ほっぺをふくらました黒原さんに口をつぐんでしまう。


「むー、私が・・・納得してない・・・」


 あ、うん、ごめん。

 やはり素人が迂闊うかつに意見すべきじゃなかったね。

 あと残っているのは・・・こんな事になった原因かなぁ。


「う~ん、でも一か月前は悩んでなかったよね。この間に何があったの?」

「え・・・」


 すると、黒原さんは何か迷ったかのようにこちらに目を合わさずにうつむいて視線を左右に動かす。

 少しほおしゅがさしている、何か言えないような事があるのだろうか?


「あ・・・その・・・あの・・・「ずかしんだったら言わなくてい・・・」・・・あっ!」


 何かに気付いたような声を上げる彼女にどうしたのかと思っていると。

 挙動不審きょどうふしんだった視線は俺の手にある空になったコーヒーカップをとらえていて。


「コーヒー入れてくる・・・おかわりいるよね・・・」

「えっ」


 少々強引にカップを取った黒原さんは、テーブルの上にあった彼女が使っていたカップと共におぼんに載せて、素早く台所に消えてった。

 自分のカップを手に取ってから台所に消えるまでアッと言う間の出来事で口もはさすきもない。




「何があったんだろう・・・」


 彼女が焦るように入っていった台所を見ながらつぶやく。何かあるのは黒原さんの反応を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんだが、気になるのは『何があったか』なのだが。

 そのまま手持無沙汰てもちぶさたなのも居心地いごこちが悪いので、ディスプレイに写ったままの小説の続きを読もうかと体をひねったその時・・・


「キャッ!」


 と言った悲鳴とともにバサバサバサと言った紙や本が落ちるような音が聞こえる。


「黒原さん!?」


 心配になり急いで台所に入ると。


「黒原さん大丈夫ですか!」


 本にもれた黒原さんを発見する。と言っても、流石に全身埋まるほど本は無かったようで本の海に上半身を出している。

 ただ、どうやら顔の位置を見るに腰を抜かしたようだ。

 ちょっと不謹慎だけど可愛いって思ってしまったのは本人には言わないでおこう。

 と、そう思ったのは一瞬ですぐに彼女に駆け寄り容体を聞く。


「怪我とかない?」

「う・・・うん・・・大丈夫」


 突然の事で頭が追いついていないようで少し生半可な返事だ。

 見た所、怪我も無いようだしほっと一安心する、ただ彼女が頭を打っていないかとかがちょっと心配だ。


「パッと見、大丈夫そうでよかったです」


 安心したせいで、そこらへんに乱雑している本に目がはいる。


「あれ?これって・・・」


 黒原さんを取り巻いている本の一冊に手を伸ばす。

 その本はピンク色の表紙に男女が裸で絡み合う絵が描かれていて、ってこれは・・・


「!・・・ダメ!!」


 次の瞬間、黒原さんがものすごい力で本をうばい取り、胸にかかえる。その顔はもの凄く赤く今にも火をきそうだ。

 でも、その行為は意味がないと思う・・・


「いや、うん、その、性欲は生理現象だし・・・仕方ないと思うよ」

「イヤァァァァァ!!!」


 昼下がりの流浪荘るろうそうにさ〇子顔負けの悲痛な絶叫が響き渡る。

 台所に来た直後は黒原さんが心配で全然気づかなかったけど、彼女が埋もれている本の山の正体は


 ・・・ぞくに言う成人向け書籍(エロ本)と呼ばれるたぐいのものであった。


久しぶりに自身の小説を読み返して一言

「うわ、全然進んでない・・・」

プロットを見返してもまだまだ序盤なんですよ・・・

頑張って執筆スピードを上げなければ。

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