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流浪荘の管理人  作者: 中酸実
第三荘 隣人の事情
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第四室 会社員の食事レポート

皆様、お久しぶりでございます。ポケモンに休日を潰された中酸身です。

さて、今回はお料理回だと言ったな・・・あれは嘘だ。

追記;料理を変更しました。

 震える手元を抑えながら私は立っている。

 と言うのも、目の前のプレートには逆水(さかみず)と言う名前が入っている。


「え、えっと。部屋番号が203・・・あってるよね」


 チャイムを押す前に念入りに確認する、部屋番号を間違っていたら大惨事になりかねない。

 念入りに、そう念入りに・・・


 ガチャ


「あれ?もう来てのですか?」


 急に扉を開けて逆水さんが出てくるので・・・


「ヒャァァアァ」


 自分でも形容できない悲鳴が私の口から洩れてしまう。


「え、えっと、遅かったので呼びに行こうかと思いましたので」


 そ、そんなに時間かかってた?

 私は腕時計を見ると確かに指定してた時間から20分以上過ぎている。

 どれだけ悩んでいたのだ私は・・・


「ご、ごめんなさい」


 一先ず、謝っておく。理由が理由なだけに申し訳ない気持ちになる。


「自分としてはまた倒れなくてホッとしています。さ、入って下さい」


 そう言いながら部屋に入っていく逆水さん。

 私の身から出たサビなので、この軽口はちょっと心に来てしまうな・・・


「ハハハ・・・」


 苦笑いをこぼしながら続いて部屋に入る。

 玄関は靴が綺麗に整られていて、げた箱の上の花瓶がアクセントになっている。


「この時点で私の部屋よりも片付いている・・・」


 整然とした玄関にショックを受けつつ奥へと進む。


「へぇ、やっぱり質素なんですね」


 逆水さんの丁寧な物腰に似合った部屋だ、物が必要最低限しかなくサッパリしている。


「やっぱりってなんですか・・・テーブルの前に座って下さいもうすぐできますから」


 そう言い残し逆水さんは奥の台所に消える。

 初めて入る男性の部屋に緊張しつつテーブルの前に正座で座ってしまう。


「ほぇ~」


 上記の事があり、流石に落ち着かなくてキョロキョロしてしまうのは仕方ないだろう。

 そんな感じで座りながら辺りを見回していると部屋にいい匂いが充満してくる。

 何だろうこの香り、野菜・・・?


「まともな食事取るのいつぶりだろう・・・」


 男性が作ってくれる食事だ、期待しないわけがない。

 まだ見ぬ料理に期待を膨らませながら待つこと数分。


「はい、豚肉とキャベツの塩麹(しおこうじ)蒸しお待ちどうさま」


 フライパンを丸ごと持ってきた逆水さんが現れ・・・うん、エプロンがとても似合っている。


「ちょっと待ってくださいね」


 どこからか鍋敷きを取り出しテーブルの上に置きさらにその上にフライパンを置く。

 カチャリとフライパンの取っ手を外し台所に消えていく。

 未だに蓋に閉ざされているフライパンに思わず想像を膨らませてしまう。料理名を逆水さんは言ったけど果たしてどんなものだろう?

 年甲斐(としがい)もなくワクワクしてしまう・・・


「お待たせしました、ではいただきましょうか」


 戻ってきた逆水さんのお盆の上には、茶碗と味噌汁と小皿が乗っけられている。

 なるほど、和風料理・・・

 手早く配膳(はいぜん)をしてフライパンに手を掛ける。


「じゃあ、開けますね」

「おおっ!」


 蓋を開けると今まで秘められていた匂いが濁流(だくりゅう)となって鼻孔(びこう)をくすぐる。

 野菜の香りに肉が焼ける香りと・・・これは。


「ちょっと前に流行りました塩麹と言う調味料を使った、とてもシンプルな蒸し料理です」


 湯気から姿を現したのはキャベツを含む野菜の上に乗った豚肉と・・・上に乗っている米粒みたいな物体、これが塩麹?

 確かにテレビで見たことが・・・


「塩麹は(こうじ)と言う、この味噌汁の味噌や日本酒の元を塩と水で一週間つけこんだ発酵食品です・・・どうぞ」


 そう言いながら小皿に取り分けてこちらに差し出す。百聞は一食に如かず、か。

 小皿に取り分けられたキャベツと豚肉を一緒に頬張る。


「!」


 美味しい・・・

 野菜の甘みと豚肉のうま味が凝縮された美味しさだ。

 だけど本当にそれだけじゃない!何かが、そう何かが豚肉のうま味をより一層引き立てている。


「塩麹の効果です。塩麹にはお肉に含まれるたんぱく質を分解してうま味に変化させる効果があります」


 ただの流行ものだと思っていたけど、恐るべし塩麹・・・

 と、無性に口が米を求めてしまう。


「私たちの国は米文化です、そして塩麹もまた米を原料としている。合わないはずがありません」


 白米と一緒に食べるとまた違ったハーモニーがあり、口の中が多幸感に包まれる。

 豚肉やキャベツだけではない、ほかの野菜も本当に塩麹にマッチしていて箸が止まらない。

 気が付くと何杯もお代わりをしていて、箸が止まったのはフライパンの中に一切の具材が無くなったときだった。


「足りませんでしたか?」


 逆水さんが心配そうに尋ねてくる。

 実際、結構お腹がいっぱいだ。美味しいものを食べるとすぐにお腹がいっぱいになってしまうな。


「いやもう腹いっぱい」

「それならよかったです、因みにニンジンのビタミンAとキャベツのビタミンCは免疫力を高め、豚肉は疲労回復に、そして主役の塩麹はストレスを軽減してくれます。正に余すとこ無く健康にいい料理なのです」


 そこまで栄養バランスを考えてこのメニューを考えてくれていたのか・・・

 と、ガチャガチャと食器を片付けしはじめる逆水さんが横目に入る。


「洗い物は私がするよ!」


 流石にこんなにおいしい食事の用意もしてもらったのに洗い物までさせてしまうのは忍びない。

 急いで立ち上がるが・・・


「あっ!」


 緊張と料理の美味しさのあまり忘れていたが私は正座だったので・・・足が痺れていた。

 立った瞬間、バランスを崩してしまう。


「危ない!」


 転倒すると思い思わず目をつむったがその肝心の衝撃が来ない。

 目を開けると。


「だ、大丈夫ですか」


 心配そうにこちらをのぞき込む逆水さん・・・ん、のぞき込む?

 改めて状況を確認するとどうやら逆水さんが倒れる前に支えてくれた様だ。

 こうして『男性』に抱きしめられる・・・と・・・あれ?


「い、イヤッ」


 自分でもビックリするぐらいの力で逆水さんを引きはがす。

 ダメ、十年前の事なのになんで今更湧き出てくるの?

 頭から離れない『あの情景(じょうけい)』に心が芯から冷える。

 確かに、前は頼りない隣人だった・・・けど今の私にとっての逆水さんは『意識している男性』で・・・


大櫻(おおざくら)さん・・・?」


 逆水さんの声が遠くに聞こえる、このままじゃ私は・・・


「ご、ごめんなさい!」

「あっ」


 酷くなる動悸(どうき)を抑えて急いで自分の部屋に逃げるように帰る。



 バタンッ


「何で今頃になって思い出すのさ・・・」


 帰ってきて真っ先に布団にくるまった私は自分でもはっきりと分かるくらいの涙声で愚痴(ぐち)ってしまう。


「逆水さんにありがとうも言ってないに急に自室に帰るなんて・・・ダメな女さ」


 動悸は収まりつつあるが忌むべき思い出が心に焼き付いて離れない。


「もう、忘れたはずなのに・・・」


 その言葉を最後に私の意識は闇へと落ちて行った。

大櫻さんの食レポ回だと思った?残念だったなトリック(シリアス)だよ。

てなわけで、シリアスがこんにちはしてきて、この章もラストに差し掛かってきました。私情で一週間かけたのは流石に申し訳なかったです・・・次回は本当にお料理回です!

Σ( ̄□ ̄;!シリアス)<出番は!?


さて、少し裏話なのですが実はこの話を作るためにずっとカツ丼生活でした。カツ丼を作っては食べ作っては食べしてたのでもう暫くはカツすら見たくもありません・・・あっ次回はカツ丼の料理法について書かなきゃいけなかったんだorz

追記;まさかのその努力も水の泡に\(^o^)/オワタ

   まぁ、作者自身が失念していたので身から出た錆ですね・・・

   今回変更した料理は私自身の、いわば得意料理です。

   ミルフィーユ鍋に続いて冬のお料理ランキングに入り込むほど作り込んでますね。

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