第八室 新たな住人 後編
テストに追われている中酸実です。ここの所モチベーションが上がらず投稿が遅れてしまい本当にすみません。夏休みに入れば投稿ペースが速くなると思います。
どうして、こうなったんだ・・・
流石に平日の昼間なのでファミレスにはそこまで人はいないが、それでも周りの視線がヒシヒシと感じる。あの後、手続きや確認が済んだところに昼食のお誘いがあったのだ。
目の前には流浪荘に新しく引っ越してきた親子・・・正確には越してきたのは娘の方なのだが。
「管理人の逆水さんですね、この度は娘が世話になります」
そう言って、愛想よく母親が軽く会釈する。改めて見たところ若くとても経産婦には見えない。
愛想のいい母親とは反対に娘の方は顔を合わせようとせず、こちらを信用していない様だ。
「先ほど紹介した通り流浪荘で管理をしています203号室の逆水椿樹です。娘さんの事は任せてください」
社交辞令とはいえ、こんな事を元の世界で言ったら事案だよな。
と言うか、娘さんどう見ても中学生か高校生ぐらいだ、よく一人暮らしをさせようと思ったな・・・
「礼儀正しい人で安心したわ。私は桑葉美静。で、この子は私の娘の・・・」
「友実です」
やはり警戒されているのか、娘さん・・・友実ちゃんはそっぽを向いたまま最低限の挨拶をする。
考えてみれば、この世界では働くのが珍しい男性が管理人をしているのだ、警戒しないはずがない。
兎にも角にも、凝り固まった友実ちゃんとの空気をほぐす為にとりとめのない話題を振ってみよう・・・
「友実ちゃんだね、よろしく。何か困ったことががあったら遠慮なく言ってきてね」
ぷぷいっ
返事の代わりにそっぽを向かれてしまう・・・なんかちょっと泣きたい。
「すみません、娘が不愛想で」
申し訳ないと思ったのか母親が謝る。
ま、まあ、信頼なんて一朝一夕で築けるものじゃないし。こ、この位は想定の範疇だよ・・・やっぱり明確な拒否反応を示されると傷つくな。
「仕方がないですよ、初対面で行き成り愛想良くするのは難しいです」
「ええ、それはそうですけど・・・」
今は警戒されていても、段々と信頼してもらったらいい話なのだ。
「そう言えば、先の話から思うにこの子が一人暮らしするのですか?」
堂々巡りになりそうなので、話題を変えるために気になっていたことを言ってみる。
まさか、女の子の一人暮らしとか・・・いつ犯罪に巻き込まれてもおかしくは無いはずなのだが。
「ええ、この春から高校入学の為に上京してきました」
都会で一人暮らしか・・・大丈夫か?
「娘さん一人では心配ではないですか?」
「確かに心配ではありますが、私も仕事があるもので・・・」
仕事か・・・やっぱり子供を養うのは大変なんだな。
「若い娘さんが都会で一人暮らし・・・犯罪に巻き込まれそうで心配ですね」
中学生の女の子・・・いやこの春から高校生か、が一人暮らしとかとても心配になってくる。
ふと、返事がないので顔を向けてみると、母親と娘さんが頭に?マークを浮かべながらこちらを見ていた・・・仕草が一緒なのはやっぱり親子なんだな。
「えっと、何か失言でもしましたか・・・」
返事がないので何か失礼な事でも言ったのだろうか?
そんな事を思っていると母親が口を開いた。
「いえ、娘の一人暮らしよりも男性であるあなたの一人暮らしの方がよほど犯罪に巻き込まれやすいと・・・思いまして」
うん、すっかり忘れていた・・・この世界じゃ男性は被害者側の方が多かったな。
元の世界の価値観だから、女性が襲われると思っていたけど、女性が襲うんだよねこの世界だったら。
「すみません、失念していました。確かに自分と比べると娘さんの方が安全ですね」
そう言いながら娘さんの方を見ると、どうやら必死に腹を抑えている様だった。
「友実ちゃん、どうし・・・」
どうしたかと思い口を開けようとした瞬間、その疑問は一発で解決する。
キュルルル~~・・・
とても可愛らしいおなかの音が響く。
うん、そうだよ食べ盛りだもんね・・・もう昼すぎているしおなかがすくのは当たり前だよね。
友実ちゃんには悪いがちょっとほっこりしてしまった。
「じゃ、じゃあ、何か頼もうか。自分もお腹が空いてきたし」
慌ててフォローするが時すでに遅し、友実ちゃんは机に突っ伏してしまっている。
耳が真っ赤なのを見ると、どうやら顔の方はゆでだこのようになっているはずだ。
多感なお年頃なだけにとても申し訳ない気持ちになる・・・
娘のフォローは母親に任せるとして、特にやることがないのでメニューに目を落とす・・・まだ信用されていない自分がフォローすると逆効果になるからな!
しかし、『海鮮!うにカニ合戦』と言い『スイートメガ盛りちくわパフェ』と言い、この店のメニューは奇抜なものが多いな。誰が頼むんだろうこんなの・・・
「メニューは決まりましたか?」
そんな事を思っていると、前から声がかかる。おそらく、友実ちゃんのフォローはうまくいったのだろう。
当の本人はそっぽ向いているが、まだ頬に赤みがあるのを見るとまだ完全には立ち直ってはいない様だ。
「はい、自分はこの『冷製冷ややっこパスタ』にしようかと思います」
怖いもの見たさと言うか、まだましな名前のメニューだ・・・頭痛が痛くなりそうな名前だが。
「あら、管理人さんって結構、変わり種をたのむんですね」
・・・まさかの一番普通そうだったのが一番のゲテモノだったパターンだったとは!
「私はこの『海鮮!うにカニ合戦』にしようかしら、友実は何にする?」
友実ちゃんはメニューをちらっと見ると直ぐにそっぽを向き、メニューを指さす。
「これ」
「わかったわ、『スイートメガ盛りちくわパフェ』ね。あ、店員さん!」
・・・これがフラグ回収と言うやつか。
何だろうなこれ・・・目の前に置かれた物体を見つつ少し思案する。
和風パスタだ、和風パスタなんだけどその上に鎮座するモノが問題なのだ・・・
「まさか・・・名前通りとは恐れ入った」
冷ややっこが乗っかっているのだ・・・しかも薬味付きで。
どうしたらこんな発想が出来るんだろうなぁと思いつつ顔を上げると、親子も食事中だった。
母親の方は普通においしそうな海鮮丼だが、必死で頬張っている娘の方はドデカいパフェにちくわがぶっ刺さっている何とも奇抜なパフェだ。・・・何だろう今にもめうめう言いだしそうなのは気のせいだろうか。
何とか『冷製冷ややっこパスタ』を食べきる。味は・・・うん、醤油≠和風だと言う事をむざむざと感じさせられたよ。
ふと、親子の方を見ると、どうやらまだ食事中の様だ。
母親は茶髪なのだが娘と同じなところを見るに、どうやら地毛なのだろう。その肩まで掛かる茶髪をストレートにおろしていて、服装はクリーム色のトップスにベージュ色ロングスカートで落ち着いた雰囲気を出している。
一方、娘の方は癖のある茶髪をポニーテールで締めている、服装は薄いピンク色のシャツにジーパンと活発そうな印象を受ける。
「どうかしましたか?」
見ていたことを感づかれていたようだ。
「いえ、親子なんだなと思っただけです」
「?」
・・・食べる仕草まで一緒なんてやっぱり親子なんだよな。
「では、娘をお願いします」
そう言って、母親が頭を下げる。
あの、衝撃的なメニューのファミレスから流浪荘に戻ってきて今に至ると言うわけだ。
「ええ、任せてください」
安心してもらえるために力強く答える。
娘を都会で一人暮らしさせるのだ、不安な母親の心境は推して知るべしと言ったところだろう。
「友実、今度来るのは入学式の時だからね。何か有ったら管理人さんに頼るんだよ」
その言葉に責任と言う文字を実感する。
「さっきも言ったけど、よろしくね友実ちゃん」
「うん、よろしく」
未だにそっぽを向いていて信用はされていないみたいだけど、少しは・・・前進した様だ。
友実ちゃんが、自室に戻るのを見てこちらも自室に戻ろうとすると後ろから声がかかる。
「管理人さん、少しいいですか?」
どうやら母親・・・美静さんの方は自分に用事がある様だ。
「どうされたのですか?」
美静さんは少し悩んだようだが、意を決したように言葉を紡ぐ。
「今日見ただけじゃ考えられられないですが。あの子は明るい子でした、それが中学三年生の時にあんな風にふさぎ込むようになったのです。理由まで解決してくださいとは言いませんが、せめてあの子が悩んでいるときがあったらきちんと聞いてあげて下さい」
言葉を紡ぐの美静さんの顔は子を案じる母親の顔そのものだった。
「はい」
簡潔だけど、その言葉に込めた思いは美静さんの思いに負けないと思っている。
返事を聞いた美静さんは安堵した表情で車に乗り込んでいった。
「責任重大だな」
小さくつぶやいた独り言は誰にも拾われずに消えていった。
重ね重ね申し上げます遅れてしまい本当にすみません。
これで二章は終わりです、恐らく2.3話間に番外編を挟んで3章に入りたいと思います。
・・・八月までに3章行きたいなぁ(希望)
さてさてキャラ紹介です!
201号室 桑葉 友実 (クワバ トモミ)
年齢・15歳
職業・高校生
趣味・音楽を聴くこと、ファッション
好物・お菓子、スナック菓子、蜜柑
家族・母
誕生日・10月19日
ちょっと影のある高校生、田舎から上京してきたばかりで色々苦労している。
実家は山岳地帯の海岸線沿い(和歌山的な)。それ以外はいたって普通の高校生。
桑葉 美清 クワバ ミスズ
年齢・42歳
職業・事務員
趣味・編み物
好物・佃煮
家族・娘、母
誕生日・3月21日
友実の母。一児の母とは思えない程若作r・・・ゲフンゲフン
編み物や洋服の自作が得意でしばしば娘を着せ替え人形にしていたが、娘が一人暮らしを始めたので少々欲求不満の様だ。
 




