第四室 どうやら、管理人になるようです
やっとタイトル回収!
大櫻さんと一緒に携帯を買った翌日、少しは生活感の増した部屋で悩んでいた。
「・・・暇だ」
そう、暇なのだ今は月曜の昼下がり、特にめぼしい番組もあるわけでもなく昼ドラを見ている。
「それにしても、こんなに優遇してもらっていいのかな」
部屋を見回す、今座っているベットにテレビ、冷蔵庫と言ったものがあるが、これが全部支給品と言う事に驚きだ・・・流石にPCはないが。
それに加えて口座を見たのだが、学生時代の仕送りより大分多い金額に腰を抜かしたほどだ。
しかし、何も働いてないのにお金をもらっているのは現代日本人の感覚ではそうとう歯がゆくなる。この世界の男性は慣れているのだろうか。
見ていた番組が終わり番組表を確認する。深夜ドラマの枠で『お前と私の恋』と言う番組の文字が目に映る・・・確か大櫻さんが面白いって言ってたっけ。しかし今は目ぼしい番組がないので、リモコンをベットに放り投げ追従するように自分の身体もベットに倒れ込む。白い天井を見上げ思うことは元居た世界の生活。常に仕事仕事に次ぐ仕事で日常は埋め尽くされていた。自由時間はゲーム等と言った趣味で積りに積もったストレスを蹴り飛ばしていた。今思うとかなり無味乾燥な生活だったなと思う。
けど、いざ仕事がない生活になってみるとどうだろう。結果は暇である、何もすることがない事が無いのは苦痛なのかと思ってしまう。
じゃあ、「暇なら前の世界の趣味であったゲームをすればいいじゃないか?」と言う意見が浮かんだがパスだ。ソシャゲは今まで頑張って来たデータが全部ない事になってるし、家庭用ゲームは前世の日本人的感覚で、働いてもないのに他人の金で買う気が起きない・・・まア、自分のわがままだが。
「大家さんに聞いてみるか・・・」
自分の中では困ったときの聞く候補としては一番、東屋さん、二番、大櫻さん、三番、大家さんであるが、一番と二番は恐らく現在は絶賛仕事中なので聞くのは憚れる。となると残ったのは大家さんである。え?田丸さんはだって?ええと・・・すみません番外で。
とりあえず今現在、大家さんの部屋である101号室の部屋の前にいる、チャイムは今押した。
大家さんが仕事をしていないのは確認済みである、土曜日の夕方にこんなやり取りがあったのだ。
『なにかあったらぁ、何時でも訪ねてくるとええよぉ』
『何時でもって、大家さんいないときあります?』
『基本はぁ何時でもいるよぉ、ただ趣味の時はぁ留守にしとるけどねぇ』
『大家さん、仕事していないのですか?』
『んぅ?あぁ、若い頃にたんまり稼いだからねぇ。心配してもらんでもぉええよぉ』
そんなことを思い返していると玄関の扉が開く。
「はいはい、どちら様かねぇ」
そんな事をいい玄関から顔を出す大家さん。
「203号室の逆水です」
「逆水さんかぇ、どうしたのかぁ?」
こちらの姿を確認すると大家さんは歳を重ねてきた人特有の朗らかな笑みを浮かべる。
「ええ、何か仕事はないかと思いまして相談しに来たのです」
亀の甲より年の功と言いますし。
「あんたはぁ男性でしょうにぃ働くなんてどうしたのぉ?」
そうですよね、男性は生活が支給され社会では男性が犯罪の被害者になるこの世界では、男性が働くのは専ら富を追い求めるか、余程の物好きらしい・・・自分は後者に当てはまるが。
「ええ、何と言いますか。働きもせずに国民の税金を使うのは、どうも自分の中で納得できなくて・・・」
一瞬、大家さんは呆けたがすぐに柔らかな笑顔に戻し言う。
「中々、逆水さんは不思議な価値観を持ってるねぇ」
あれ?今口調が・・・
「それならぁ、いい仕事があるんよぉ」
「え、本当ですか?」
大家さんが紹介するならそれはいい物件なのだろう。
「このアパートのぉ、管理人やなぁ」
「・・・え?」
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土埃だらけの作業着に不快感を示しつつ帰路の終点、うちの下宿先である流浪荘の前に着く。
働き初めて2年、変わらない夕焼けの風景の中に一つ異物ともいえる影が見える。その影は箒を掃いている、どうやら一段落したようで腕で額の汗をぬぐっているようだ。
普段、掃除をしている大家さんならその影より背が低く腰が曲がっているはずだ、その正体を見極めようと近づく。距離が縮まるにつれ影がはっきりとしていくが、その正体に余計に混乱する。
身長は170位、ちょっと寝癖のある黒髪といった『男性』なのだ。そう男性である。男性は働かなくてもいいこの国で箒を掃いているのだ。私は目の前に事態に付いて行けず呆然としてしまう。
ふと、男性は私に気が付いたようで手に箒を持ったまま近づいてくる。
「初めまして、かな?自分はこの度203号室に越してきました逆水と言います」
近づくとはっきりと分かるが、太ってなくかと言って痩せすぎてない程よく筋肉のついている。こんな時代じゃめったにお目にかかれない『カッコいい』男性だ。
寝不足かな?っと疑ってしまう。だってカッコいい男性が掃除をしていて、そしてうちに話しかけているのだ。
「あの、どうかされましたか?」
不安そうな男性の声にハッとなる。
「ちょ、ちょっと待ってな」
男性に背を向けしゃがみ込み、現実かどうかを判断するために思いっきり頬をつねる・・・痛い、どうやらこれは現実の様だ。
「え、えっと・・・」
置いてきぼりにされた男性の戸惑う声がする。これが現実なら心配かけまいと立ち上がり男性と向き合う。
「いや、すまへんかったな。うちは本剛 月花咲、見ての通りこの流浪荘の102号室の住人や。よろしゅうな!」
持ち前のポジティブ精神で自己紹介をする、ちょっと長かったかな・・・
「やはりそうでしたか、よろしくお願いします本剛さん」
世の中の男性は結構傲慢で見下したりするが、男性・・・逆水さんがうちの名前を呼ぶその表情に浮かぶのは親愛の情だ。その顔にちょっとドキッとしたが、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「そう言えばな、何で箒もって掃除をしとるん?男性やろ?」
その言葉を聞いて、逆水さんは少し苦笑浮かべながら頬を掻く。
「ええっと、大家さんに紹介されて自分はこのアパートの管理人をすることにしたんです」
管理人をすることは分かった、がだからと言って男性である逆水さんが働くのはどうも不思議だった。
「それは殊勝な心がけやな、でも何で男性である逆水さんが働かなあかんねん?お金には困ってないやろ」
うちの疑問を聞くと逆水さんは困ったような顔で悩んだ後、こう弁解した。
「う~んとですね、何もしていないの住ませて貰うのが何だかもどかしくて、こうして管理人をさせて貰っているのです」
『管理人をさせて貰っている』ですか、世の男性たちなら『してあげている』と言うでしょうから、やはり逆水さんはこの国の男性とは一味も二味も違う・・・外国の人なのだろうか?
「そうなんや、この国で分からんことがあったら何時でもうちに聞いてや。多少なりとも力になるで」
そう言って胸を叩く、おそらく逆水さんにとってこの国は不慣れだと思うからうちがちゃんと教えないと!
「ええ、頼りにさせていただきます。それはそうと本剛さんは作業着を着ているみたいですが何か職業をされているのですか?」
逆水さんは不思議そうに聞いてくる。
「ん?うちは土木作業員やで、こう見えても力強いんやで」
自慢するように力こぶを作る。が、逆水さんはうちの職業におどろいたようで。
「えっ?女性が土木作業員ですか?」
何を当たり前のことを言っているのだろう。
「何がおかしい?この国では当たり前やで」
「え、ええ、この世界ではそうでしたね」
何やら小声で言ったみたいやけどどうやら納得したみたいだ。
「それを言うなら、管理人をしとる逆水さんがよっぽど不思議やわ」
「ははは・・・あの、そろそろ、暗くなっているので」
そう言われてみて辺りを見ると日が落ちて暗くなっている。そうやな、夜に男性を外に出すなんていつ犯罪に巻き込まれてもおかしくはないからな。
「そうやな、逆水さんと話して楽しかったはまた喋ろうな」
二人とも流浪荘の住人だ、また話す機会なんていくらでもあるだろう。
「ええ、自分も楽しかったです。それでは失礼いたします」
そう言って去っていく逆水さんの背中を見てうちも自室に戻る。
・・・自然と口元がにやけてしまうのは致し方ないと自分に言い聞かせながら。
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掃除用具を片付けながら、先ほど会った女性を思い出す。
名前は本剛さん、どうやら昨日見かけた女性の様で活発そうな笑顔に、これまた元気を感じさせる燈色のショートカットが似合う美人さんだ・・・何で美人ばっかりなのだろう本気で疑問に思ってきた。
そんな事を考えながら掃除用具の扉を閉める。
しかしこの世界は男性が少なく女性が多いとはいえ、女性が土木作業員をしているのは物珍しい感じがしたな。しかも彼女の力こぶは鍛えているそのものだ、かと言ってムッキムキではないのが本当に不思議なのだが。
そんな事を思っているとどうやら自室の前に着いたようだ。
明日からは朝一で起きて掃除をするかな。そう呟きながら大家さんが言った言葉を思い出す。
『管理人やて深ぉ考えんでもえぇ、ただ、朝早く起きて掃除をしながらぁ、住民にぃ挨拶をすればええんやでぇ。あ、勿論この流浪荘ぉのぉ管理もしっかりしてなぁ』
さて、明日から頑張ろう。
一話内の視点変更を工夫してみましたが、いかがだったでしょうか?
何時もの事ですが感想や意見などあればどしどし下さい、作者が喜びます。後、批評とかここ直したらいいよ~とかありましたら指摘してください。
さてさて、キャラ紹介といきましょうか!
102号室 本剛 月花咲 (ホンゴウ ツカサ)
年齢・19歳
職業・土木作業員
趣味・食べること、寝ること
好物・肉等の腹が膨れるもの
家族・母、妹3
誕生日・8月14日
土木作業員の元気なお姉さん・・・に見えるが19歳、本人も気にしてる。
辛い仕事をこなせるのも偏に妹のため、一人で頑張っている母のため。




