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流浪荘の管理人  作者: 中酸実
第二荘 流浪荘の住民
13/33

第二室 実感する別世界 後編

後半、少し甘めのテイストになりました。因みに作者はコーヒーは微糖派です。

 街に繰り出してみて思ったが、やはり元居た世界とは別の世界なんだなと実感する。

 日曜の昼だと言うのに男性がほとんどいないのである。偶に見かけた男性も嫌々ながら女性に引っ張られているようだった。「男性が自主的に外の出ないのは何か理由があるのかな」と思っていたがその訳を大通りに出て痛感する。そう、こちら(主に自分)を見る視線が飢えた野獣を彷彿とさせるような目つきなのだ。まだ人通りが少ない所ではそこまでヒシヒシとは感じなかったのだが、人が多くなると視線がハッキリと感じるのである。確かにこの視線にさらされては物怖じしてしまうな。


「大丈夫?」


 その声に思考の海から引き戻される。声の方を向くと大櫻(おおざくら)さんが心配そうにこちらを見ていた。どうやら、身の危険を感じて自分の思考へ現実逃避をしていたようだ。

 彼女を心配させないためにサムズアップをしながら答える。


「ええ、大丈夫です。こんな視線なんて会社のプレゼンテーションと比べたら屁でもありません」


 ・・・実際は恐怖を感じているが。


「?? まあ、大丈夫そうなら良かったさ。さっさと用事を終わらせよう、ここにいたらいつ襲われるか分からないからさ」


 襲われるって怖い事を言うな、そんなに金品を持っている様には見えないけど・・・



 晒される視線にSAN値がごっそり削られながら目的地に到着したようだ。


「さて着いたさ」

「え、ええ、やっとですね・・・」


 目の前にはDocamoと言うどっかで見たことのある看板が目を引く店に大櫻さんは入っていく。

 それに遅れないように自分も慌てて店内にはいる。


「・・・い、いらっしゃいませ」


 こちらの姿を確認するなり一瞬どもった店員さんだが、何とか持ち直したようだ。

 本当に男性が直接店に来るなんて珍しいようだ。

 そんなことを思っていると大櫻さんが店員さんに要件を話す。


「連れの男性のスマホを買いたいのだが」

「分かりました、所で連れの男性は恋人ですかそれとも夫婦ですか?」


 なんてことを聞いているんだ店員さんよ。


「い、いや、逆水さんとはそ、そんな関係では」


 恋人かと急に聞かれて焦りながら答える大櫻さん。


「・・・そうですか、失礼しました」


 そう言った店員さんのこちらを見る目つきが変わったのは気のせいだろうか?


「こちらが番号です、そこのソファにお掛けください」


 そう言って手を指した店内の真ん中には多数のソファがあった。

 こちらの世界に来ても携帯ショップの配置は変わらないようだ。


 ソファに腰掛けながら大櫻さんと雑談をしながら待つと、番号を伝えるアナウンスがながれる。


「あ、よばれたさ」


 どうやら自分たちの番号だったようだ。

 しかし、待ってる間にやけに人が入って来たな・・・どうやら運が良かったようだ。


 指定されたカウンターに行くと先ほど番号を渡した店員さんがいた。


「お待たせしました、新規のお客様ですね」


 対面の店員さんはニコッと微笑んだ。対象に大櫻さんはちょっと不機嫌そうだ。


「ではお客様、機種の選択をしましょうか」


 そう言い店員さんは立ち上がり、様々な機種が展示されている所に案内する。

 実のところを言うと待ち時間の間にどの機種にするのかはもう決めてた。


「この機種でお願いします」


 そう言って、手に取ったのは黒の無骨な機種だ。スマホをよく落とすのでこの位のがちょうどいい。


「わかりました」


 それからの手続きはスムーズに終わった・・・所々店員さんの身の上話を聞かされたりはしたが。



 最後に料金を払い、手続きを全て終える。


「手続きありがとうございました、対応は小若(こわか)が受けたわりました。あ、これ連絡先です」

「え、ええ、ありがとうございます」


 業務的な事務連絡からの流れるような連絡先の受け渡しに、思わず紙を受け取りそうになると。大櫻さんが横から紙をつかむ。


「流石にそれはサービスが過ぎる気がするさ」

「いえ、アフターサービスをしっかりしなくてはいけないですからね」


 店員の小若さんと大櫻さんの間にバチバチと火花が舞った・・・ように見えた。


「それにしては露骨すぎな手渡しさ」

「いえいえ、真心を込めての対応ですから」


 両者の紙を握る手が強くなる。


「さて、そろそろ離してほしいですね。この連絡先は彼に渡しているのですが」

「それなら、私が後で渡しておくさ」


 場の緊張感がピークになりそうになったその時、ビリッと連絡先の紙が破れる。紙の方が先に音を上げたみたいだ。


「あ」


 一瞬の出来事で店員さんと俺があっけにとられていると、


「ほらっ、行くさ」

「えっ、大櫻さん?」


 大櫻さんがパパッと荷物を纏め俺の手を引き店内を出る。


「あ、待ってください!」


 店を出ると同時に後ろで店員さんの声が聞こえる。が、それに聞く耳を持たずに大櫻さんは駆けだす。





 しばらくされるがままに移動していると、手を引く大櫻さんの足が止まる。辺りを見るとどうやら大通りに出る前に通った小道の様だ。


「ふぅ、ここまで来れば安心・・・さ」


 すみません、ここに来るまで道行く女性の視線がめっちゃ恥ずかしかったです・・・でも女性の手って柔らかいんだな。

 そんな事を思っていると大櫻さんが下を向いて固まっていた。どうしたのかなと思い視線を辿ると、彼女の視線は未だにつないでいる手に注がれていた。


「え、え~と、大櫻さ・・・」

「は、はい、す、すみませんんん!」


 そう叫びながら、あたふたと手を乱暴に振りほどく。


「その、あのさ、ごめん。手を勝手に繋いじゃってさ」


 さっきの店員との問答からは想像できないくらいしおらしくなる。後ろに手を組み顔を斜め下に向けている、申し訳ないのか表情は心なしか暗い。

 二人の間に何とも言えない空気が流れる・・・さ、流石に何か言わなきゃだめだな。


「大櫻さんの手、柔らかくて気持ちよかったな」


 ・・・ばっかぁぁぁ!!!

 幾ら気まずい雰囲気で緊張しているからと言ってそんな言葉はないだろ!機会があったら三秒前の自分を殴りに行きたい!

 と、とりあえず、て、訂正をしなければ!


「さ、さっきのは・・・そう、言葉のあやってやつだよ!だからさ・・・」


 必死でさっきの言葉を取り繕っているが・・・彼女は上の空の様でブツブツと何かを喋ってる。


「・・・私の手ってそんなに良かったのかな。で、でもお世辞って言うセンもあるし」

「え、えっと、大櫻さん・・・?」

「は、はい!!!」


 どうやら気が付いたようだ。


「え、えっと、そろそろ帰りませんか?」


 出来れば昼食に誘いたかったけど、この空気だと流石に誘い辛い。ましてや彼女いない歴=年齢の自分にはハードルが高すぎる。


「そ、そうね、帰ろうさ」


 その返事を聞き帰路へと赴く。



 道中、ずっと気まずい雰囲気のまま流浪荘に着く。何とも言えない空気に心臓が押し潰れそうだった。


「今日は、ありがとうございました。おかげで助かりました」


 一先ず、感謝をしよう。大櫻さんがいなかったら、あの肉食獣のような視線の嵐に耐えられなかっただろう。


「いやいや、こちらこそ一緒にいてくれてありがとうさ」


 そう彼女は返事をする。やっと声を出したのもあるが、少し空気が和らいだ気がする。


「じゃあ、お先に失礼します」


 だからと言って気まずい空気にいつまでも居られる図太い神経はしていない。

 早々に部屋に駆けこむように帰ろうとすると。


「あ!ま、待って!」

「え!?」


 後ろから呼び止められる大声が聞こえ、立ち止まり振り返る。

 大声を出した人物はこちらが振り返るのを確認した後、一瞬迷ったような顔をしたが意を決したように続きの言葉を紡ぐ。


「ねぇ、連絡先交換しない?」


 この世界で初めての連絡先登録は東屋さんではなく彼女の様だ・・・

さて、この章の前書き部分は終わりましたね。次は大櫻さんの視点パートを挟んでやっと主人公が管理人?になるようです。

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