第十一室 会社員の土曜日
これでこの章は完結です。やけに長いプロローグでしたね・・・
「何か今日は色々あったな・・・」
相変わらずの我が汚部屋にうんざりしつつ、ベットに身を投げ出す。専ら思い返すのは朝に話した男性の事だ。目をつむると朝の出来事が脳裏に鮮明と移る。
チャイムを押し少し待つ、右斜め後ろには大家さんがいる。
ガチャリと203号室の扉が開き、中からは20代位の黒髪の男性が出てくる。今起きたのだろうあちこち寝癖がはねており、目は半眼だ。
「・・・ど、どちら様でしょうか?」
男性は驚いたような表情でこちらを見る。
寝癖だらけのボサボサの黒髪とは対象にスッキリとした顎骨、こちらを見つめる瞳には薄い茶色が混じっている。服装は昨日と同じスーツ姿、着の身着のままで寝たのだろうあちこちにしわが寄っている。体形は太すぎず痩せすぎず程よく筋肉がついているようだ。
結局、何が言いたいかと言うとこんな『かっこいい』男性は、昨日までこのアパートで見たことがないと言う事だ。
この国では男性は働くなくても良いので、体形を維持できる男性は一握りしかいない。そしてその掌の中にいる男性も顔を売る趣味が大多数だ。
・・・それに個人的に整った顔の男性は自然と拒否反応が出てしまう。いけない、自然に振るわねば。
203号室の男性とのファーストコンタクトから現在。今は101号室・・・大家さんの部屋で事情を聞いている。
さて、203号室の玄関先の問答から彼の言い分はこうだ。
『今まで住んでいたこの部屋に帰ると、家具はおろか何もかも無くなっていたのです』
だそうだ。到底信じられないが、男性と接するときはある程度話を合わせた方が良いので表面上は信じることにする。
「あなたの話を纏めるとさ、自室に帰ると部屋には家具はおろか何もかもなかった・・・と」
「そう言うことになりますね」
こう言うのは確認が大事だ、彼が嘘をついているのならば猶更だ。
しかし、この男性はどうしてこんなに落ち着いているのだ?普通の男性ならばこの時点で喚き散らすはずだが。
それに丁寧に対応をしている、今の心境は怪しさと驚きが半々だ。
「所でそちらの方ではどういう風な状況になっているのですか?」
丁寧な言葉や姿勢を崩さずにこちらに問いかける。怪しさと言うよりもこんな男性がいるのかと言う不安さが心にしみる。
「こちらでは203号室には3年間、誰も住んで無い事になっているのさ」
とりあえずこちらの現状をしっかりと告げる。
すると男性は、
「え!?」
っと、まさに驚きと動揺を隠せないような表情で声を漏らす。
本当に「今知りました」と言うような表情だ。
「だから、203号室には誰も住んでないんさ」
念を押すようにもう一度告げる。だからあの部屋には『誰』も住んでなかったんだって。
「え?だって、自分、三年間住んでましたよ!」
目の前の男性は本当に取り乱したように捲し立てる。しつこい・・・
・・・っと思ったら急に男性は黙りこんで思案する。態度の急変に驚く、男性がこんなに早く切り替えができるなんて・・・
そして何か妙案を思いついたのか男性は持ってきた鞄から財布を取り出す。
「どうしたのさ?財布なんか探り出してさ」
「これを見てください」
そう言って彼が財布から取り出して見せたのは国民保険証だった・・・ただ違うのは女性用の国民保険証だった。
「えっ?まさか女性だったのか?」と思い彼を見るとどっからどう見ても男性だ。顎には女性にはない髭が少し生えている。
「これ、女性用の国民保険証さ。どうしてこんな物をあなたが?」
そう問うと。
「え!?何時からこの国は保険証が男女別になったのですか!」
まるで初めて知ったと言うような驚いた表情でこちらに問い返してくる。
何かがおかしい、そう思いながら説明する。
「だから、この世界で希少である男性を保護するための法律さ。そんなことも覚えてないの!?」
私が生まれる前からこの国に存在する法律だ。男性に最も関係ある法律なので流石に無知すぎるだろうと思っていると。
「聞いたことが・・・って、男が希少なんですか!?」
予想外の答えが返ってくる、まさか疑問に疑問で返されるとは思わなかった。それに男性の人数が女性より圧倒的に少ないと言うことを知らないなんて。まるで辺境の山奥から移り住んできたような感じだ。
「男性が希少ってどれくらい希少なのですか?」
本当に知らないようだ・・・まさかこれは「辺境の山奥から来た説」が濃厚になって来たな。
「え?何でそんな事・・・たしかニュースで男性人口が全体の10%を切ったって言ってたさ」
少し呆れながら返す。
「男女比1:10って、流石に信じられないのですが・・・」
「じゃあ、どのくらいだって言うのさ?」
信じられないと言う彼の言葉に彼がどう考えているのかを問う。
「1:1ではないのですか」
そんなバカな話があるか。
「そんなのだったら、この国の問題はあらかた片付いているさ」
どうやら目の前の男性は私の思い描く男性像に当てはまらない男性の様だ。こんだけの問答しているのに彼の丁寧な姿勢は変わらない。
「頭がこんがらがってきました」
頭がこんがらがって来たのはこちらの方だ。
「私もさ、あんたの保険証見せてもらったら、住所がここと一致していたさ。もうなにがなんだか」
「どうしましょうか・・・」
それはこちらが言いたい。
うんうんと悩んでいると、ふと大家さんが呟く。
「警察に行ったらどうかねぇ?」
名案だ、男防に頼むのが一番の得策だ。餅は餅屋っていうし。
「そうですね、『男防』に頼むのが一番かしれないさね」
「え!警察!?」
流石に女性でもいきなり警察と言われても動揺すると思う。とりあえず説明をしなければ。
大家さんは席を外した、どうやら男防に相談するのだろう。
「『男防』と言うのは男性保護防犯課の略で、名の通り主に男性の保護や防犯に努める警察の部署なのさ」
「は、はぁ」
どうやら実感がわかないようだ。一先ず説明を続けよう、それにこの男性は会話してても不快な感じはない。
男防に関する説明や雑談をしていたら、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。どうやら男防の方が来たようだ。
大家さんの代わりに席を立ち玄関の扉を開ける。すると玄関先では黒髪の『男性』が立っていた。
うわさでは聞いていた『男防の王子さま』が出てくるとは思わなかった。一先ず同性なら安心だろうと思い、203号室の男性と入れ替わる。彼らは二三問答した後、警察署に行くことにしたようだ。
すると、203号室の男性はくるりとこちらを向きこう言った。
「色々とありがとうございました」
そう言いお辞儀したのだ。そう、男性がお辞儀をしたのだ。こんなご時世、男性がお辞儀をする何んて・・・
「い、いえ。大したことはしていないさ」
あまりの事に片言しか言葉が出ない。私のその言葉を聞くと彼は少しにこりとして去っていった。
いつまでそうしていたのだろう。それほどの衝撃なのだ・・・
ふと、背後から声が聞こえる。
「あの男性はぁこんなご時世じゃぁ、滅多に見ない『良い男性』だねぇ」
その声に振り向くと大家さんがいた。そして彼女はさらに言葉をつなげる。
「あなたも、男性に対して斜に構えなく、もっと信じたらどうかえ?」
このご老人はいつか気付いていたのだろうか?私が男性不信であることを。
「歳の功さねぇ」
どうやら顔に出ていたようだ。少し恥ずかしい、自室に戻ろう。
「失礼します」
「また、来なさぇ」
そう言って101号室を後にする。
「また・・・話せるかな」
外に出てそんな呟きが漏れる。どうやら『彼』は今まであってきた男性とは違うようだ・・・
閑話を挟むと言っていましたが、話を構築しているとどうも閑話ではなく。次章の頭に持ってきた方が良いと感じたのでそうします。
あと、少し休ませてもらいまして次章の投稿は3日後とさせていただきます。
最初の方にも言いましたが感想や意見などあればどしどし下さい、作者が喜びます、そしてモチベが急上昇します。後、批評とかここ直したらいいよ~とかありましたら指摘してください。次回の作品に役立てます。
 




