葬儀屋
6月2日。
高校入学から約2ヶ月が経過し、クラスや学年で馬の合う人間が固まりグループやヒエラルキーが出来てくる時期である。
じゃあお前はどんなグループに属してるのか、と聞かれると返す言葉もない。
そう。紛うことなきボッチである。
いや、正確には話す相手はいる。授業中、席が隣の奴とペアワークさせられたりするけど、ちゃんと会話してるし。うん。
中学が同じだったりとそこそこ知っている人間もいるため、学校では会話するものの、学校が終わった途端に1人になる。といったレベルのボッチである。
周りには部活、バイト、何かと忙しそうだがどこか楽しそうな人間が多い。高校生活を心底楽しんでいるようだ。周りからすれば俺は寂しい人間なのだろうが、何よりも俺自身がこの生活を気に入っている以上どうしようもない。
「朝日出くん、図書室の新書の件なんだけど」
「あっ、すいません」
少し考えごとに集中しすぎていた。
目の前には古典教諭、兼図書室管理者の山中先生がいた。
「プリントにも書いてあるけれど、新書が入るのが1ヶ月後よ。まずは追加新書のアンケートを各クラスで実施するから、アンケートの回収と結果の集計が最初の仕事ね」
「はぁ」
なぜ図書室で一年の俺だけがこんな話を受けているかと言えば、至極単純。最初の図書委員会があった日に風邪で学校を休んでいたからだ。・・・・・別に勝手に余ってた図書委員にされていたなんてことは断じてないんだからねっ。
「学校祭が7月の下旬にあるから、それまでには新書を棚に差して新書追加のポップも用意するわ」
「ポップまで・・・・。まるで書店か何かですね」
山中先生は大学卒業後すぐに赴任して3年目、幼い顔立ちと授業のわかりさすさに定評がある中々可愛らしい独身である。
「毎年学校祭で図書室の開放するなんて私だって面倒よ・・・・。あっ、今年はポップのデザインも一年生の仕事だからよろしくね~」
「それ先生が楽したいだけじゃ・・・」
「おっと朝日出君古典の点数減点かしら」
訂正、とんでもなく独裁的な独身だった。
「それで、ポップの完成はいつまでに?」
「具体的な期日はまだ他の委員にも伝えてはいないのだけれど、まぁ正直なところ学校祭前日までにできていればそれでいいのよね」
独裁的な上に言うことがアバウトな独身だった。
「とりあえず、今回の委員会で話した内容はそのくらいよ、これがそのアンケートね」
アンケート用紙は簡単に書けるようなものだった。枚数は40枚、俺のクラスの人数分と予備が3枚あるようだ。
「アンケートの期日は次回の委員会までですね」
次回というと2週間後だ。
「ええ」
「では、失礼します」
図書室を後にして時計を見ると4時45分。帰り支度を整え昇降口へ行くとクラスメイトでかろうじて話すことがある友人、真田がいた。
「涼、聞いたか?葬儀屋の話」
「葬儀屋?」
「なんでも校内で、小さな事件が頻繁に起こっているらしいんだ」
「校内で事件?盗みくらいしかできることなんかないだろう」
「真っ先に盗みって発想が出てくるとか、相変わらず捻くれてるねぇ、涼は」
「真田には言われたくない、それで事件ってのはなんなんだ?」
外靴を履きながらなんとなしに聞いてみる。
「盗みももちろんあるよ、やっていることはいたずらみたいなものなんだ。書類が盗まれたとか、部活で使う道具が隠されていた、とかね」
そう話す真田はどこかニヤニヤしている。相変わらずこの手の話には目がないらしい。
「人が死んでもいないのになぜ葬儀屋という言葉が出てくる?」
葬儀屋、というとイメージはもちろん通夜や葬儀だろう。
「犯行声明が残されているらしいよ。『あなたの謎は守られました。 葬儀屋』ってね」
聞けば聞くだけ葬儀屋の要素は見受けられない。
「僕の聞いた話では、犯人は別にいる事件にわざと手を加えて完全犯罪にしてしまうらしいよ。そしてその犯人の元に、さっきの犯行声明が送られるらしい」
「葬儀屋が何かをしでかしてるわけではないのか」
「あぁ、あくまでも葬儀屋は第三者として事件を助長するだけみたいだ」
「変わった連中もいるもんだ」
外は雨が降っていた。傘をさして帰路につく。
「涼も近いうちに見ることになるかもしれないよ」
「そうか、せいぜい楽しみにしてるよ」
それから一週間、本当に俺は葬儀屋事件を目の当たりにすることになった。
俺のクラスの図書アンケートが何者かに盗まれたのだ。
いや、正確には盗まれたが後日見つかった。
帰ってきたのならいいと思うだろう、ただひとつ問題なのは。
葬儀屋の犯行声明と共に見つかったことだった。