7話:目が覚めるとそこは・・・・・・・・・・・・・
7話:目が覚めるとそこは・・・・・・・・・・・・・
『知らない天井だ。』
まだふらふらとした意識の中智春は思う。
智春は段々意識がはっきりしてくると、胸のあたりに圧力を感じ、手を伸ばした。
指にサラサラとした感覚を感じ智春はその何かを持ち上げる。
すると、それは最近やっと見慣れてきた水色の髪だった。
智春は胸に乗っているものを悟り、それを撫でるのだった。
「ぅんん、」
セリアは頭を撫でられる感覚に目を覚ます。
寝ぼけているセリアはその心地よい感覚にまどろみながら、違和感に気付く。
『あれ、えっと私はトモハルの面倒を見てて、っとトモハルだ。』
セリアは頭を撫でる智春の手を跳ね除けて、状態を起こした。
すると、智春の真黒な目と目があった。
「おはよう、セリア。」
智春のその声がセリアにはとても懐かしいように感じ、目には涙がたまる。
「な、なにがおはようよ。あ、あなた、三日も目を覚まさなかったのよ。」
セリアが嗚咽交じりにしゃべる。
「俺、そんなに寝てたのか。」
「え、ええ、運よく、ち、致命傷は、避けられたけど、れ、イラの、ち、治癒魔法で、体力をかなり持っていかれた、み、たいで、すぐには、お、きられないって。」
「そうか・・・・・心配かけてごめんな。」
智春は指でセリアの涙をすくう。
セリアは智春の胸にふせ、泣いた。
智春がその嗚咽が止まってからもずっとセリアの頭を撫で続けていると、部屋の外から誰かの足音が聞こえた。
「あ、トモハル兄、目が覚めたんだ!」
リリャーナが部屋の扉を開けて入ってくる。
「ああ、リリャーナか。でもセリアが寝ちまったから、静かに頼む。」
「うん、レイラ姉を呼んでくるからすこし待ってて。」
「ああ、頼んだ。」
リリャーナはそう言うと、部屋を出て行った。
少しして、何人かの足音が部屋へやって来た。
最初に入ってきたのは毛布を持ったレイラだった。
そのあとから、村長やリリャーナ、サリーニャが入ってくる。
「目が覚めてよかったです、トモハルさん。」
そう言いながら、レイラはセリアに毛布を掛ける。
「あの日、シンクがトモハルさんを背負って帰った来てから、昏睡状態だったトモハルさんをセリアさんはずっと看病していたんですよ。」
「そうだったのか、セリアには感謝しないとな。」
「ええ、そうしてあげてください。」
そう言うレイラの表情は少し悔しそうだった。
まあ、智春の看病の事でセリアとレイラにひと悶着あったことはこの際、秘密にしておこう。
「ああ、それと、レイラもありがとうな、治癒魔法をかけてくれたんだろ。」
「いえ、私もトモハルさんには救ってもらいましたから、お返しです。」
そう言うと、レイラは嬉しそうに笑った。
「トモハル殿、こんな大怪我を負わせてしまってすまんのう。」
「いいって、爺さん、俺が好きで首を突っ込んだんだから。」
「いや、それでもルークの馬鹿が突っ走ったせいで怪我をしたそうじゃないか。」
村長は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「気にするなって、俺が回避の時に油断したのが悪いんだ。ルークにも自分を責めないように言っといてくれ。あいつも、村の事で頭がいっぱいだったんだろう。」
「そうか、そう言ってくれると助かる。本当にすまんかった、そして、ありがとう。」
そう言うと村長は部屋を出て行った。
「あの、トモハルお兄さんご気分はいかがですか。」
サリーニャが控えめに尋ねる。
「ああ、大丈夫だ。けど、もう一眠りさせてくれ。少しまだ眠い。」
そう言うと、智春は大きな欠伸をする。
「体力をかなり消費しましたから。次起きたら階段を下りてきてください、ごはんを用意しておきますので。」
「ああ、すまない、ありがとう......」
そう言うと、智春は眠りについた。
「ねえ、トモハル兄は怒ってないって、」
リリャーナは開いたままの扉にそう投げかけた。
「ああ、そうだな、次起きた時にまた呼びに来てくれ。面と向かって謝りたい。」
そう言うと、扉の影に隠れていたルークはそのまま家を出て行った。
数時間後、レイアが家の一階で書き物をしていると、智春が降りてきた。
「もう大丈夫なんですか?」
レイアの心配そうな表情に智春は苦笑しながら頷く。
「ああ、でも悪いが何か食わせてくれないか。腹がぺこぺこで。」
「うふふ、分かりました。すぐ用意しますね。」
レイアは嬉しそうに頷いて奥の部屋に入って行った。
セリアは指輪の中に戻って寝ているらしく近くに存在は感じるが気配はない。
智春は一人、手持無沙汰に部屋を見回した。
棚には薬草が詰め込まれた籠や瓶、薬草を煎じる道具などが置いてあった。
その棚のほかには六人用のテーブルとその奥に今までレイアが座っていた机があり、一言で言うと簡素な仕事部屋みたいなところだった。
智春がそんな感想を浮かべているとレイアが戻って来た。
「薬草を煮込んだ体にいいスープです。」
レイアの手に持った木の器からは湯気と共にいい匂いが漂ってくる。
ぐぅぅぅぅぅぅ
その匂いにつられてか智春のお腹が鳴った。
「ふふ、熱いので気を付けてください。」
「ああ、ありがとう。」
微笑むレイアから器を受け取ると智春は席についてスープをはふはふしながら咀嚼する。
そんな智春をレイアは反対側の席に着き、微笑みながら眺めていた。
バンッ
「レイア姉、トモハル兄起きた?って、トモハル兄起きたんだ。」
そう言うと、リリャーナはスープを飲む智春の背中に飛びついた。
「リリャーナか、って、あつー‼」
「あっつーい!!!」
リリャーナが飛びついたせいだスプーンで掬っていたスープが跳ね、智春の頬とリリャーナの腕にかかり、二人は悶絶する。
「はあはあ、リーナちゃん置いて行くなんてひどいです。はあはあ、って、はわわわ二人ともどうしたんですか?」
「スープを飲むトモハルさんにリリャーナが飛びついたんです。サリーニャ、氷を作って下さい。」
レイアの氷のような表情にサリーニャは慌てて頷く。
「はわわわ、そんなことが。分かりました。冷酷なる氷壁に全ては阻まれん、『アイスウォール』」
そう言って、突きだしたサリーニャの手に二つの正方形の氷の塊がのった。
レイラは机の上の箱からから二枚の布を取り出すと手早く氷塊を巻き、もがく智春とリリャーナの患部に当てた。
「ありがとう。レイラ、サリーニャ。」
「ふう、死ぬかと思った。ありがと、レイラ姉、サーニャ。ひいっ」
そう言ったリリャーナはレイラの目を見て動きが止まった。
「ふーん、リリャーナ言うことはそれだけ?」
氷のような表情のままレイラは首を傾げる。
「ひっ、ごめんなさい、もうしませんから。」
「あらあら、リリャーナ、謝る相手が違うんじゃない?」
「うっ、トモハル兄ごめんなさい。」
恐怖にひきつったまま、リリャーナは智春に頭を下げる。
「あ、ああ、たいしたことはないから、別に気にしてないよ。」
智春はひきつった笑みをうかべる。
「あら、トモハルさんはそう言ってくれたけど、リリャーナ、貴女これで何回目かしら?もうしませんっていつも言うけど。直ってないわよねえ。」
「ご、ごめんなさいーーーー」
恐怖の末、リリャーナがとった行動は逃走だった。
脱兎のごとく逃げ出したリリャーナを一瞥して、レイラは智春に頭を下げた。
「ごめんなさい、トモハルさん。リリャーナのせいで無駄な怪我を負わせてしまって。」
「い、いや、大丈夫だからそんなに気にしなくていいよ。」
そう言って、智春はレイラは怒らせない方がいいと内心で汗をかいた。
「はい、リリャーナにはあとからきっちり叱っておきます。それで、サリーニャはどうしたんですか。まだ、勉強の時間には早いですよね。」
レイラはサリーニャの方に向き直る。
サリーニャとリリャーナは毎日夕方にレイラの家で薬師になる勉強をしているのだ。
「はい、そうなのです。レイラ姉さん、すぐ来てください。自警隊の人が訓練で怪我をしっちゃたのです。」
「怪我ですか。酷いですか?」
「はい。私とリーナちゃんで見たところ骨折だったのでレイラ姉さんを呼びに来たのでした。」
「わかりました。すぐ行きましょう。トモハルさんはそのままでかまいませんよ。」
「いや、俺も行こう。」
智春はさっきの騒動で冷めてしまったスープを一気飲みして立ち上った。
「分かりました。では、行きましょう。」
レイラは机の下からショートバッグを取り出して家を出た。
レイラの後をついて歩いているとサリーニャが話しかけてきた。
「あの、トモハルお兄さん。ごめんなさいでした。リーナちゃんも悪気があったわけでは無かったのです。」
「ああ、怒ってないから心配しなくても大丈夫だよ。」
智春は心配そうなサリーニャの様子に苦笑する。
「そうですか。でもよかったのです。セリアお姉さんだけじゃなくてリーナちゃんもレイラ姉さんももう起きないんじゃないかってすっごく心配していたのです。」
「そうか、心配かけてごめんな。」
そう言って智春はサリーニャの頭を撫でた。
サリーニャが気持ちよさそうに目を細めるのを見て智春は苦笑する。
「サリーニャもリリャーナも15だよな。」
「はい、そうですがどうかしましたか。」
「いや、なんでも......」
智春は心の中で『歳の割には子供っぽいな。』と微笑ましく思っているとサリーニャは頬を膨らませた。
「今、トモハルお兄さんすっごく失礼な事考えているのです。私でも怒っちゃうのです。」
そう言って上目づかいでにらんでくる。
「気のせいだよたぶん。」
智春は目をそらして頬をかいた。
「むう、二人だけ楽しそうですね。」
前を歩くレイラが不機嫌そうに振り向く。
「レイラ姉さん、やきもちさんです。」
「ち、違います。そ、そろそろ着くのをトモハルさんに教えようとしただけで・・・」
レイラは慌てて前を向いて歩調を速めた。
訓練場は原っぱに丸太がいくつか立っていたり、柵や砂場があったりとアスレチックのようになっていた。
骨折をした隊員は木陰に休んでおりその他は訓練を続けていたが、ルークが智春たちに気付いて訓練を止めた。
「各自30分の休憩。そのあとは、各自の武器の種類別で訓練を始めてくれ。」
「「「はい」」」
自警隊はかなり連携が取れているようだった。
「レイラ、サリーニャ、すまないお願いする。リリャーナは?」
「リーナちゃんはちょっとお痛たをしっちゃたのでした。なので、兄さんは気にしないでください。」
「ああ、そうか。」
ルークは智春に向き直って決意を込めたように見つめた。
「すまない。トモハル殿。少し時間をもらっていいか。少し話がしたい。」
「ああ、別にいいが。」
智春は困惑気味に頷いた。
「では、少し場所を変えよう。」
そう言うとルークは歩き始めた。
智春はそのあとを追った。
少し行くとルークは急に振り返り、頭を下げた。
「今回の事は本当にすまなかった。俺は自分のくだらない感情のために村の恩人である君を殺すところだった。」
「気にするな。と言っても無理な話かもしれない。でも、結果こうして俺は生きているんだ。こうして謝ってもらったんだしこの話はここで終わりにしよう。俺はあまり長く過去の事を引きずるのは好きじゃない。」
智春は顔を上げたルークの目を見ながら話した。
「そう言ってもらえると助かる。本当にすまなかった。そして、俺たちを、俺たちの村を救ってくれてありがとう。」
ルークはもう一度頭を下げてから、少し表情を変えた。
「それとすまないがトモハル殿、もう一つ話がある。」
「ああ、それはいいがトモハル殿はやめてくれ、同い年なんだから智春で頼む。」
「ああ、分かった。トモハル、俺がこんな事を頼める立場じゃないと分かっている。でも、頼む。レイラが、あいつがこれから何かトモハルに大事なことを頼むと思う。トモハルにとっては頷きがたいかもしれない。でも、頼む。それを許可してやってくれないか。」
ルークの勢いに智春はおされる。
「そう言われても内容がわかんないんじゃ頷けないが・・・分かった。できるだけ前向きに検討しよう。」
「ああ、そうしてくれると助かる。」
ルークは安心した顔をして息を吐いた。
「ああ、それと俺からも頼みがある。」
「なんだ?なんでも全力を尽くそう。」
「俺も訓練に参加していいか?あと、シンクに槍術を教えたいんだが許可をもらえないか?」
「なんだ、そんな事か。それの事ならこっちからお願いしたいぐらいだ。」
そう言って、ルークは笑った。
「明日は朝の9時から12時まで訓練だ。トモハルは好きな時間に来てくれ。」
「ああ、分かった。ルークよろしくな。」
「ああ、こちらこそ。」
そういって二人は握手を交わしたのだった。
お久しぶりです。
予定が早く終わったので今日からまた投稿を開始します。
4月に入るまでは少し早いペースでの投稿で行こうと考えています。
これからの智春君たちの活躍をご期待下さい。