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Part 07 うろなへ来たる旅人

 草木も眠る丑三つ時のうろな。その西部郊外に一つの動く影があった。

 所々にある街灯に照らされて浮かび上がるそのシルエットは細いものだったが、背中に背負ったバックパックはかなり大きなもので、彼女が旅慣れたバックパッカーである事が察せられた。


「……ぐおお……お、お腹減ったっス……」


 不意に、影が呟く。その声色は少女のものだった。

「ARIKAっていう海の家で晩ご飯にしようとして、財布落っことした事にその時に気付くとか、私ってとんだ間抜けっス……焼おにぎり、焼きそば、たこ焼き、美味しそうな匂いのするスープ……わうぅ……食べたかったっスよ~……」

 海の家の厨房から放たれていた食欲をそそる料理の香りを思い出したのか、少女の口元から一筋の涎がつーっと流れ落ちた。


 ぐうぅぅうう~……。


 そして、少女の腹の虫が凄まじい声を上げた。

「……ああ、思い出したら急激にお腹が空いてきたっス……うぅ、今の時間にやっているお店なんてないだろうし、っていうかお金ないし……この辺人家もほとんどないし、コンビニもないみたいだし……本当にツイてないっスよ~……」

 一息に、かつ早口で言い切った後、少女はついにその場に倒れ込んでしまった。仰向けに倒れ、バックパックの堅い部分が背中に食い込み、少女は短くくぐもった悲鳴を上げた。

「……痛ってぇっス……ああ、でも、なんて綺麗な星空っスかね~……」

 首だけを空に向け、満点の星空を眺めながら少女は呟いた。

 星が瞬く夜空を見ていると、まるで魂が吸い込まれそうになる錯覚を受ける。

「……パトラッシュ、私はもう疲れたっスよ……何だかとても眠いっス……もう、ゴールしてもいいっスよね……?」

 居もしない犬の名前や何やら死亡フラグめいたセリフを呟き、そっと目を閉じる少女。そして、その錯覚は現実のものになろうと――


「――って、ダメダメダメダメ!」


 少女はバネ仕掛けの人形のように上半身の力で跳ね起きると、両手で自分の頬をパンパンと叩いて気合いを入れ直した。

「……あー、危ない所だったっス。もう少しで天からお迎えが来てパトるところだったっス……」

 そして少女は立ち上がり、ずれていたバックパックの位置を直すと、よしと一声呟いた。

「……今は、とにかく歩けるだけ歩くっス……ちょっと遠いっスけど、向こうに住宅が結構見えるっスね……あそこまでたどり着けば、どこかの家で食べ物を分けてもらえるかもしれないっスね……犬も歩けば食い物に当たるって昔の人も言ってたっス。よし、頑張るっスよ、私! わふっ!」

 少女は気を入れ直し、夜のうろなをふらふらと歩いていった。

小藍様 キラキラを探して〜うろな町散歩〜より 名前だけですが海の家ARIKAをお借りいたしました!

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