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Part 02 決戦前夜

お待たせいたしました! 久々の更新ですっ!

 目を覚ましてから、ベルはいつも通りの生活を送っていた。ゆうべの件をリズに伝えようとしたが、葉子曰く彼女はベルが起きるちょっと前に出かけたらしい。

 まあ、後で話せばいいやと考えたベルは顔を洗い、回復した自分の魔力で炎を提供し、朝食を堪能した。

「べるちゃん、けがの具合は大丈夫なんですの?」

「ああ、もう大丈夫だ」

 数日前の一件により、ベルに対する警戒が大分薄らいできた冴はやっと普通に話ができるようになっていた。

「ふふっ、すっかりベルちゃんと冴ちゃん、仲良くなったみたいね。微笑ましいわ」

 二人のやりとりを見ていた葉子が微笑む。その視線の先でベルと冴は和やかに話を続ける。

「それで冴。今日はどうするんだ?」

「はい、今日も魚沼様の元でお仕事を手伝わさせていただきますわ。早くお仕事を覚えて魚沼様のお力になりたいんですの」

 楽しそうに語る冴。彼女は魚沼の事を大変気に入っているらしく、ちょくちょく彼の元へ出かけていき、仕事の手伝いをしているそうだ。彼女が持っている経営手腕はそこでも遺憾なく発揮され、非常に助かっているとは魚沼の弁である。

「そうか。案外お前にはそういった才能があるのかもしれないな。まあ、やるだけやってみるといい」

「はい、べるちゃん。頑張りますわ」

 気合い十分といった様子で頷く冴に、ベルも軽く頷き返す。そして雪姫の方へ向き直り、口を開いた。

「雪姫、今日は空いているか?」

 すると雪姫は嬉しそうに答えた。

「はい、ベル姉様。大丈夫ですよ」

「よし。ならば、今日はベルに付き合ってくれないか? じっとしていると体が鈍ってしまう。今日はぶらぶらしたい気分なのだ」

「わかりました、ベル姉様。でも、病み上がりなんですから無理はなさらないでくださいね? もし何かあればすぐ私に言ってください」

「わかったよ、雪姫。その時はよろしく頼む」




 それから二人は町へ繰り出した。

 散歩、商店街での買い物、昼食、公園や喫茶店でのお喋り。

 心の底から楽しそうに過ごす二人の様子は端から見ると本当の姉妹のようであった。

 夕方になって前田家に戻った二人は夕食をとり、風呂に入った後、離れでお茶を飲みながらお喋りに花を咲かせていた。

 ふとベルが時計を見ると、時刻は午後九時を回っていた。

「……もう、こんな時間か。雪姫、今日は一日中ベルに付き合ってくれて感謝する。疲れていないか?」

「はい、私は大丈夫です。……あの、ベル姉様」

 と、雪姫がベルに声をかけた。ベルを見つめるその瞳は真剣なものだった。その光に一瞬気圧されてしまいながらも、ベルは聞き返した。

「ん? どうした?」

「何か、私に隠していませんか?」

 いきなり図星を突かれ、ベルは一瞬眉をぴくりと動かしたが、努めて平静に聞き返した。

「……何故、そう思う?」

「今日のベル姉様からは、いつもよりも暖かく、優しい色が溢れています。でも、ほんの少しだけ影のある色が見えるんです。何て言えばいいのか、私に心配をかけたくないという気持ちが見えるんです」

 ベルは静かに雪姫の言葉を聞いている。

「ベル姉様、言いたくないのならばそれで構いません。でも私、何だか胸騒ぎがして、不安で仕方がないんです。もしかするとベル姉様がどこか遠くへ行ってしまうんじゃないかって……そう思うと、私は……」

 ネジを突き刺し、まだ包帯の取れないその手の傷が、またも血を見んばかりに拳を固く握り、肩を震わせる雪姫。それを見たベルはしばらく押し黙っていたが、やがてふぅと息をつき、雪姫の手にそっと触れた。そこでようやく、雪姫は安心したかのように手の力を緩めた。

「……まったく、お前には敵わないな。わかったよ、雪姫。全てを話そう」




「さて――」

 ベルは軽く息を整え、切り出した。

「実は、ベルの捜し物……本の持ち主が見つかったのだ。ベルは今日の深夜、その持ち主の所に行って交渉し、本を譲ってもらわなければならない」

「そんな夜遅くに、ですか?」

「ああ、今夜しかないんだ。今夜が最初で最後のチャンスなんだ」

 ベルは決然とした意志を秘めた瞳を雪姫に向ける。

「タカおじ様や葉子さんには……」

「伝えていない。彼らに余計な心配はかけたくないからな」

 しばしの沈黙。雪姫はベルの瞳を静かに見つめていたが、やがて口を開いた。

「……ベル姉様、その、どう言えばいいのかわからないんですが、とてつもなく嫌な予感がするのです」

「嫌な予感?」

「はい。何だか、ベル姉様がこのまま帰ってこない気がして……ベル姉様、帰ってきてくれますよね……?」

 不安に揺れる雪姫の瞳を見つめ、ベルはしばし押し黙っていたが、やがて口を開き、言葉を紡いだ。

「……大丈夫だ。ベルは必ず帰ってくる。ベルが今までに約束を破った事があったか?」

「いいえ、ベル姉様は約束を破った事はありません」

「そうだろう? だから今夜も必ず帰る。堕天使ベリアルの名において誓おう。ベリアルは、必ずお前の元に帰ると」

 力強い口調でベルは雪姫の手をそっと握った。

「ベル姉様……はい。どうか必ず、帰ってきてください……!」

 ベルの手を強く握り返してきた雪姫に対してベルが頷いたその時、彼女は何かの気配を察知し、入り口の方を見た。

 すると、離れの戸がコンコンとノックされた。

『先輩ー!』

「リズ?」

 後輩が放つ軽快な声にベルが首を傾げながら戸を開けると、そこにはリズが立っていた。

「こんばんはっス、先輩、雪姫ちゃん! よかった、間に合ったみたいっスね!」

「リズ、どうしてここに?」

 ベルが尋ねると、リズは笑って答えた。

「先輩、これから例のブツを譲ってもらいに行くんスよね? 私()もご一緒するっスよ!」

「リズ、どうしてお前がその事を知っている? それに、『私達』とは……ん?」

 ベルがリズとは別の気配に気付いて振り返ると、雪姫が「無白花ちゃん! 斬無斗君!」と驚きの声を上げた。

 そこには離れの部屋の屋根からブランとぶら下がってこちらを覗いていた少年と少女――無白花と斬無斗がいた。

 二人は屋根からふわりと下りると、雪姫の側へと駆け寄った。

「よくなったんだな、雪姫」

 そう言って無白花は雪姫を優しく抱き締めた。

「対神用の呪いだったから、どうにもできず済まなかった」

 沈痛な面持ちで謝る無白花に雪姫は首を傾げる。

「対神用? よくわからないけれど、良いんです、無白花ちゃん。斬無斗君、来てくれてありがとう」

 雪姫の言葉に照れているのか、斬無斗は無言でそっぽを向いている。が、その頬は赤くなっていたのを一同は見逃さなかった。

 その時、ベルとリズが雪姫の元へ歩み寄った。

「では、今日は二人と出かけてくる。今夜は遠くまで行くから……帰れないかもしれないが、心配するな」

「え?」

 その台詞に驚いている雪姫に、リズが明るい声で手を振る。

「じゃあ、行ってくるっスよ!」

「雪姫、行ってくる」

 まるで買い物に行くかのような気軽さでベルとリズ、猫夜叉の二人は手を振りながら夜の町へと出かけていった。

 ベル達が去った後には、どこか思い詰めたような表情をした雪姫が残された。




「三人共、一体何故ベルが今夜出かけるとわかった?」

 先頭に立ち、夜の闇に紛れてうろなの町を疾走するベルが疑問を呈すると、すぐ横を走るリズが答えた。

「私もゆうべ、夢に水羽様が出てきて、捜し物の本が森にあるっていう話を教えてもらったんス! それで、私も先輩に手を貸してあげてほしいって言われたんス! だって私は先輩と、そして雪姫ちゃんの友達っスもん!」

 リズの言葉に猫夜叉達も頷く。

「私達の夢にも、雪姫……いや、水羽が現れてあなたの力になってあげてほしいと頼まれたんだ。目が覚めて斬無斗と話していると、そこへリズがやってきたんだ」

 無白花の言葉に斬無斗が頷く。

「リズから詳しい話は聞いたよ。君達は雪姫を、僕達の親友を助けてくれた。だから今度は、僕達が君達を助ける番だ!」

「リズ、無白花、斬無斗……」

 ベルは三人の思いに心が熱くなるのを感じた。そして、強い口調で言葉を紡いだ。

「ありがとう、三人共。皆の思い、心から受け取った。では、今夜はベルに付き合ってもらうぞ。目的地はうろな北の森――」

 一呼吸おき、ベルは続けた。

「その奥地にある、滝だ。さあ、行くぞ!」


 ベルの言葉に三人は一斉に頷き、スピードを上げて目的地へ駆け出した。

桜月りま様 うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より 雪姫ちゃん、葉子さん、冴ちゃん、名前だけですがタカさん、魚沼さん、水羽さん、

銀月 妃羅様 うろな町 思議ノ石碑より 無白花ちゃん、斬無斗君、お借りいたしました!

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