表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/50

Part 02 何ができるのか

 秋姫の部屋に戻ったベルは部屋に結界を張った。部屋の中と外、それぞれから音をシャットアウトする一種の防音結界だ。絵を描く雪姫の邪魔にならないようにと、ベルのささやかな気遣いだった。解除する方法は展開した本人であるベルが解除するか、雪姫が部屋のドアをノックする事だけである。

 部屋に入ってからというもの、二人は押し黙ったまま何時間も座り込んでいた。部屋に置かれた時計の時間を刻む音だけが、嫌に響いている。

「……なあ、リズ」

 壁に寄りかかり、片膝を立てて座っていたベルが突然声を上げた。

「……どうしたんスか、先輩?」

 部屋の真ん中で胡座をかいて座っていたリズがゆっくりとベルを見る。

「……ベル達は、あの子のために何ができるのだろうな」

 ぼそっと呟くように、ベルはそれだけ告げた。それを聞いたリズはしばらくきょとんとしていたが、やがてふうと溜息をついた。

「……一体どうしたんスか? 先輩らしくもない」

「らしくない?」

 リズの言葉にベルは顔を上げ、リズを見た。リズは穏やかな笑みを浮かべながら頷いた。

「そうっス。らしくないっス。こういう時、普段の先輩ならすぐに自分のやるべき事を決めて行動を起こす方っスよ? なのに、そういう風に物思いに沈む先輩は珍しいけども、らしくないっス」

「……そうかもな。だが、わからないんだ」

 一旦言葉を切り、ベルは続けた。

「前のベルなら、確かに迷ったときでもすぐ決断して実行に移す事はできた。だが、今のベルはどうすればいいかわからないんだ。呪いによって日に日に弱っていく雪姫を見て、何とかしなければと思うのに、何もできない。何ができるのかわからない。そんな自分が歯がゆくて、悔しいんだ……」

 そこまで言って、ベルは再び俯いた。そして、また長い沈黙が部屋を支配する。

「……く」

 その時、リズが喉を鳴らした。ベルがはっとして視線を向けると、リズは堪えきれないといった様子で背を反らして笑いだした。

「……何がおかしい」

 ベルがリズを睨みつける。だがリズはそれに臆する事なく笑い続け、しばらくして軽く息をついた。

「いや、申し訳ないっス。先輩、そんな事で悩んでたんスか。思わず笑ってしまったっス」

「……そんな事? ベルは真剣に悩んでいるというのに、お前はそんな事だと言うのか!?」

「先輩、聞いて下さいっス」

 語気を荒らげ、今にも飛びかかろうとするベルを手で抑え、リズは穏やかな口調で言葉を紡いだ。

「先輩は自分が何もできない、何ができるのかわからないっておっしゃってますけど、じゃあ私から一つ聞きたいっス。できるできない以前に、先輩は・・・何がしたいんスか(・・・・・・・・)?」

「ベルが、何をしたいか……?」

 問い返すベルに、リズは頷いた。

「私、頭悪いから誰に何ができるのかなんて小難しい事はよくわかんないっス。でも、こういう時に私だったら、自分が何をしたいか・・・・・・・・・を一番に考えて動くっス。その結果がどうなろうと、そんな先の事なんてわかりはしないっス。やらないで後悔するより、やって後悔する。私は、そう思うっスよ?」

 あっけらかんとしたリズの言葉にベルはぽかんとしていたが、しばらくして猫のように喉を鳴らし、やがてそれは笑い声へと変わった。

「……くふっ、くふふ! そうか! そうだよな! 何もできない、何ができるのかわからないと悩むよりも自分にできる事を考え、それを実行する! なんてシンプルで、一番の近道だろうか! くふふふふ!」

「ど、どうしたんスか先輩?」

 驚いた表情のリズに、ベルはすっかり憑き物が落ちたかのような晴れ晴れとした笑顔を向けた。

「リズ、感謝するぞ! ようやくベルの中で答えが出た。それは――」

 一呼吸置き、ベルは言葉を紡いだ。


「ベルは、雪姫を助けてやりたい。今まで辛い目に遭ってきたあの子を、幸せにしてあげたい。それが、ベルのやりたい事だ」


「先輩……!」

 顔いっぱいに喜びを表して飛びついてきたリズを受け止め、頭をポンポンと優しい手つきで撫でてやりながら、ベルははっきりとした意志を真紅の瞳に宿し、改めて宣言した。

「賀川や鷹槍、雪姫の恩師にも、ベルがあの子の剣となり、盾となると誓ったからな。あの子を慕う者達のためにも、ベルは、あの子を助ける。あの子を傷つけたり、利用しようとする敵が来るなら焼き尽くす。そして、あの子にかかっている呪いをいかなる手を使ってでも、解いてみせる……!」

「そうこなくっちゃ! それでこそ、私が尊敬するベリアル先輩っス!」

「くふふ、誉めたって何も出ないぞ?」

 ベルの頭を撫でつつ、ベルは考えを巡らせていた。

(もしもの時はあいつルーシーを呼ぶか……しかし、あまり時間は残されていないと考えるべきだな。あまりあてにはできないかもしれないが、明日にでも連絡するだけしてみるか。そして、統哉達には申し訳ないが、しばらくうろなに残ると連絡しよう)

 ベルがそう決意した時、彼女は気付いた。

「……そうだ、今は何時だ?」

 ベルが部屋の時計を見ると、零時を回っていた。

「こんな時間か。日付が変わってしまったな。リズ、そろそろ雪姫の様子を見に行こう。疲れているようなら休ませてやらないといけない」

「はい!」

 リズは満面の笑顔で頷いた。そしてベルは結界を解除し、ドアを開けた。

「雪姫、調子はどうだ……雪姫?」

 そこでベルが見たのは、ぽつんと残された描きかけのキャンバスだけだった。

桜月りま様 うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より タカさん、葉子さん、ユキちゃん、名前だけですが秋姫さん、

YL様 ”うろな町の教育を考える会” 業務日誌より 名前は出ておりませんが清水先生、梅原先生をお借りいたしました!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ