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Part 02 勾玉と予言とゴスドレス

 時刻は十一時。

 あれから二人はバスに乗り、バザー会場であるうろな北小学校の体育館に着いた。すでに会場内は多くの客で賑わっていた。

 出かける前にリズのmakaiPhoneに連絡したのだが、電波の届かない所にいるのか、電源が入っていないのか、繋がらなかった。

「ベル姉様、捜し物の本が見つかるといいですね」

 雪姫がベルに声をかける。

「ああ。まずは骨董品、または古本を扱っていそうな所からあたってみよう」

 そう言うとベルは、近くにいた若い男性に声をかけた。

「すまない、一つ尋ねたいんだが、このバザーに骨董品、または古本を扱っている所はあるか?」

 すると男性はしばし考え込んだ後、ある方向を指さして答えた。

「えーと、それならあっちにそれっぽい物を扱っている店があったよ。でも、店番の女の子が相当変わり者だって話だそうだよ」

「そうか。感謝する――雪姫、行ってみよう」

「はい」

 ベルは男性に礼を言うと、雪姫と共に教えられた店へ向かった。




「うーむ……」

 離れた所から店の様子を窺っていたベルが唸る。彼女の視線の先では、客と店番らしい少女が言葉を交わしていた。

 店番をしている少女は金色の髪を三つ編みのようにまとめた美少女だった。しかし、その表情は人形のように無表情だった。

 無表情のせいか、客とはどうやらコミュニケーションが上手くとれていないらしい。しばらくすると客は渋い顔をしてその場を立ち去った。

「べ、ベル姉様、大丈夫でしょうか? あの人、何か変わってるみたいです」

「……雪姫にそう言われるとは相当だな」

 戸惑いを隠せない顔でベルが答える。自覚があるのかないのか、どことなく浮世離れしている雪姫にそう言わせるほど、あの少女は変わり者らしい。

 ベルはしばらく躊躇っていたが、やがて意を決して店へと向かう事を決めた。

「ベル姉様……」

「雪姫、『虎穴に入らずんば虎児を得ず』と言うだろう? こうなったら腹をくくろう」

 こうして、二人は店へ歩いていった。




「……いらっしゃいませ」

 消え入りそうな声で、店番をしている少女が挨拶した。

 少女の前には古いお札や日本刀、壷、日本人形といった、いかにも値打ち物といった品々が並んでいる。

 そのどれもが十円・・という、大手デパートの閉店セールですら裸足で逃げ出すほどの超安値で売られていた。

「……実際安い」

「……安いですね」

 あまりの安さに、ベルと雪姫が呆然としながら呟く。

「な、なあ、ここの品物、本当に全部十円なのか? マジなのか?」

「……マジで十円」

 ベルの疑問に少女は何て事ないかのように返した。

「そ、そうか。では一つ尋ねるが、とても古い、分厚い本はあるか?」

「……(すっ)」

 すると少女は無言で売場の一角を指さした。そこには確かに昔に書かれたらしい文学書や何か奇妙な文字で記された本がいくつも並んでいた。

 ベルはすぐに本の一つ一つを手に取ってぱらぱらとめくる。

 そして、一通り調べ終えたベルは溜息をついた。

「……ダメか。ここにはないようだ。すまない、手間を取らせたな。雪姫、次に行こう」

「はい」

 ベルは少女に礼を言い、雪姫を促した。その時――

「……待って」

 と、二人に少女が声をかけた。

「どうした?」

 呼び止める声を聞いたベルが振り返る。

「……あなたの捜し物は必ず見つかる」

 突然、少女は静かながらも圧倒的な存在感を持った口調でそう断言した。途端にベルの顔つきが真剣なものになる。

「何故、そう言い切れる?」

 少女へ向き直ったベルの問いに、少女はふるふると首を横に振った。

「……わからない。でも、あなたを見ているとそう思う」

「……」

 無表情ながらも真剣さが伺える口調に、ベルは黙って話を聞いている。少女はさらに言葉を紡いでいく。

「……あなたの捜し物は、遠くない未来に必ず見つかる。でも、それを見つけた時――」

 途中で言葉を切り、少女は雪姫に視線を移した。

「あなたは選択を迫られる事になる」

「私……ですか?」

 雪姫が自分を指さしながら尋ねる。少女は頷いた。

「……そう、あなた。あなたの選択が、その子と、あなた自身の未来・・・・・・・・を決める」

「ベル姉様と……私の未来……?」

 雪姫は呆然としながらも、少女の言葉を確かめるように口の中で転がす。

 そんな二人をよそに、少女は品物の中から二つの勾玉をつまみ上げ、ベルに手渡した。

「……何だ、これは」

「……お守り」

 ベルの疑問に少女が答える。

 その勾玉は二つで一組のセットらしく、片方が真紅、もう片方は純白のものだった。二つの形は寸分違わず同じで、合わせてみるとぴったりとくっついた。それを見たベルは紅白の巴紋を想像した。



挿絵(By みてみん)



 何度か勾玉をつけたり離したりを繰り返しているベルに少女は声をかけた。

「……それが、二人を助けてくれる。お金はいいから、持っていって」

 少女の言葉に目を丸くしながらも、ベルは一対の勾玉を見つめていた。

「……以上です。今日もあなたの望んだ通りの水鏡栗花落みかがみつゆりです」

 水鏡栗花落と名乗った少女は一礼するとそれきり何も言わなくなった。

「……そうか。では、これはありがたくいただいていこう。感謝する」

 ベルと雪姫はどこか釈然としない思いを抱えながら、その場を後にした。




「……不思議な奴だったな」

「……そうですね」

 首を傾げながら、ベルと雪姫は先程の少女の事について語っていた。

(……あの女からは何か霊的なものを感じた。それにしてもこの町は奇妙な住人が多いものだ。しかし……)

 ベルは先程少女に言われた言葉の意味について考えを巡らせていた。

 ベルの脳裏に、少女の言葉が蘇る。


『あなたの捜し物は、遠くない未来に必ず見つかる。でも、それを見つけた時――』


(……雪姫が選択に迫られるとはどういう事だ……? 『降魔の書』と雪姫に何かしらの関連があるとは思えないが……むう、わからない事だらけだ)

 いくら考えても、納得のいく答えは出なかった。ふと雪姫を見ると、彼女も投げかけられた言葉について考えているようだった。その時――

「あ、ユキちゃん!」

 出店の一角から声をかけられた。二人が思考を中断し、声のした方を見ると、そこには家族らしい集団が店を構えていた。

 眼鏡をかけた男性に人当たりの良さそうな女性が店先で手を振っている。

「知り合いか?」

 ベルが尋ねると、雪姫は嬉しそうに頷いた。

「はい、この町の小学校で教師をしていらっしゃる、小林先生です。ベル姉様、先生方の所へ寄らせていただいてもいいですか?」

 雪姫の頼みにベルはすぐ頷いた。

「いいとも。ベルもついていこう」




「果穂先生、拓人先生、こんにちは」

 店まで来ると、雪姫は丁寧に挨拶し、頭を下げた。小林夫妻も挨拶を返す。

 そんな一行を気にしつつ、ベルは夫妻が開いている店を見渡していた。

 子供服や少し派手目の大人向けの服など、様々な服が店先に並んでいる。すぐ側には簡易型の更衣室もあり、試着もできるようだ。

(……しかし、何故ナース服やキャビンアテンダント、ゴスロリ服といった、そのテの服の方が比率が高いのだ?)

 ベルは首を傾げた。そんな彼女をよそに、雪姫の方は果穂と呼ばれた女性と話が弾んでいる。

「昨夜はビックリしたよねー蜘蛛いっぱいだったんだもの。ところで、その子は?」

「ベル姉様です。うちの家にお泊りしてるんです」

 話題に上がったベルがそれを聞きつけ、挨拶する。

「雪姫の所で世話になっている、ベル・イグニスだ。よろしく頼む」

 ベルが自己紹介すると、果穂の目がきらりと光った。

「か! かわいい――ツインテにティアラ! 低めの身長に真っ赤で鮮烈な完璧すぎるこの姿こそ、ゴスロリの頂点、ここに極まってるわっ。しゃしゃしゃ、写真撮っていい!?」

 息を荒らげ、目をぎらつかせる教師の姿にベルはドン引きしつつも返事をした。

「う、うむ。ベルとしては不本意だが、そこまで頼まれたら断るのも悪いしな。特別に許可する」

「ええええええっ! しかもツンデレ系! レベル高すぎるわーっ! 燃えるーっ、萌えるわーっ! よーし、お姉さん張り切っちゃうわよーっ!」

 やたらとハイテンションな果穂の姿にベルはさらにドン引きしつつ、ベルは果穂の指示通りに様々なポーズをとり、モデルを勤めた。果穂は喜々としながら様々な角度――それもかなり際どいローアングルからベルを撮影していった。

 撮影会はたっぷり十分は続き、撮影を終えたベルは店先の椅子に腰を下ろして、差し入れられたジュースをすすっていた。

「……何なのだろう、この疲労感は」

 一人ごちるベルの横で、果穂は雪姫と話し込んでいた。

「ユキちゃん、たまにはこんな服はどう? 振り向かせたい人がいるのは梅原から聞いてるわよ」

「ち、違います」

 果穂の指摘に雪姫は頬を染め、必死に否定する。

「ほら、ベルちゃんに合わせてこれなんかどう? お安くしとくわ」

 と、果穂は白や黒を基調とした布に彩られた、ベルの服に似たゴスロリ服を雪姫に見せる。

 その様子を横目で見ていたベル。見るからに雪姫はそのゴスロリ服に興味津々のようだが、襟が短いのが嫌なようだ。無理もないだろう。首筋にあのような傷があっては着たいと思っていても躊躇ってしまうものだ。

(……ふむ)

 ベルはしばらく考え、助け船を出す事に決めた。椅子から立ち上がると、果穂と雪姫の側へ歩いていく。

 ふと、服の側に並べられたチョーカーのケースに目が行った。おそらく、アクセントを出すために置いているのだろう。ベルはちょうどいいとばかりに、雪姫へ声をかけた。

「雪姫、チョーカーがある。この幅の広いのなら大丈夫だろう」

「え?」

 突然声をかけられ、雪姫は驚いた表情をする。そんな彼女をよそに、ベルはチョーカーを吟味し始めた。

「よし、これがいいな」

 そう言ってベルは何もアクセサリーがついていないシンプルなチョーカーを手に取り、納得したように頷くとそれを果穂に見せた。

「これをもらおう。会計を頼む」

「ありがとうございます♪」

 ベルは服とチョーカーの支払いをすませようと財布を出す。すると雪姫が自分の分は自分で払うと言い出したが、ベルはそれを制した。

「何、気にする事はない。ベルからのプレゼントだ。それにな雪姫、賀川も始め、このベルの姿に釘付けになっていたからな。きっと、雪姫が同じような格好をしてもまんざらではないはずだぞ?」

「あ、あう……」

 頬を赤らめる雪姫。その隙にベルは服とチョーカーの支払いをすませ、果穂にこう付け加えた。

「一つ頼みがあるんだが、この勾玉をそれぞれのチョーカーにつけてもらえないか? ただし、雪姫のは白地に紅い勾玉を、ベルのは赤地に白い勾玉をつけてくれ」

 果穂はベルから勾玉を受け取り、しばらくそれを眺めていた。すると果穂は「任せといて、すぐにつけてあげる」と言うと、針と糸を取り出し、手早く勾玉をチョーカーにつけてしまった。

「はい、出来上がり! うん、いいわねこれ。今度はこんなアクセサリーも作ってみようかしら」

 そう言いつつ、ベルにチョーカーを手渡した。

「手間を取らせたな。感謝する」

 ベルはチョーカーを受け取ると、雪姫に向き直った。

「ほら雪姫、お前にはこの紅い勾玉のチョーカーを渡そう」

 そう言ってベルは雪姫に白地に紅い勾玉がついたチョーカーを手渡した。

「あの、ベル姉様、どうして紅なんですか?」

 雪姫の疑問に、ベルは笑って答えた。

「ああ、白の中の紅ってとても映えるだろ? それに、逆もまた然り。紅の中に白があるだけでも目立つものさ。それに……」

「それに?」

 一度言葉を切ったベルに、雪姫が首を傾げる。

「雪姫の『白』にベルの『紅』。ベルの『紅』に雪姫の『白』で、互いの色が互いの側にいる。そうは思えないか?」

 ベルの言葉に、雪姫はハッとした表情になり、そして満面の笑みを浮かべた。

「ベル姉様、ありがとうございます。これ、大切にさせていただきますね!」

「……ああ」

 その笑みに思わずベルの顔も綻ぶ。するとそこに果穂が声をかけた。

「いやー、ベルちゃんいいセンスしてるわねー。で、ユキちゃん、もちろんこれ着て帰るわよね。すぐ着替えるわよね? というわけで拓人さん、店番よろしくねー」

「あのあのあのっ」

「ほら、雪姫。着てみようじゃないか」

「あ、ちょっとベル姉様……ああああ~」

 雪姫は果穂とベルに背中を押され、更衣室へ押し込まれた。




 それからしばらくして。

「――ふむ、実にいい。素晴らしくよく似合っているぞ、雪姫」

 ベルが感嘆の声を上げる。彼女の視線の先では、白と黒のコントラストが見事なゴスロリ服に身を包んだ雪姫がもじもじしていた。



挿絵(By みてみん)



「そ、そうですか?」

 もじもじしながら雪姫が尋ねる。その首には真紅の勾玉がついたチョーカーがあった。そして、ベルもまた白の勾玉がついたチョーカーを身につけていた。

「きゃーっ! ユキちゃん、本当によく似合ってるわよ! ベルちゃんと一緒に並んでると服装や色の対比と相まって、姉妹みたい!」

 果穂は一人ではしゃぎながら次々に二人の写真を撮っていく。そんな彼女をよそに、二人は笑い合っていた。

「姉妹、ですか」

「くふふ、悪くないな。言っておくが、ベルの方が姉だからな?」

「わかってますよ、くふふ」

「む、人の笑い方を真似するするとは生意気だぞ、くふふ」


 それから二人はその恰好のまま、手作りのぬいぐるみや小物などを買いつつ、バザーを楽しむのであった。

桜月りま様 うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より 引き続きユキちゃん、そして素敵なイラストを、

YL様 ”うろな町の教育を考える会” 業務日誌より 小林先生夫妻、

アッキ様 うろな高校駄弁り部より 水鏡栗花落さん、お借りいたしました!

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