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Part 01 バザーへ行こう

 八月二十五日。リズは朝早くの内にテントを畳み、無山へ向かうと前田家の人々に告げて出発した。葉子はテントで寝れなくなる事を残念がっていたが、また戻ってくるとリズが伝えると少女のように顔を綻ばせていた。

 リズを見送ったベルは雪姫、鷹槍、葉子の三人と朝食をとっていた。そこでベルは雪姫に、今日は捜し物のためにバザーへ行くが、よかったら雪姫も気晴らしにバザーへ行かないかと声をかけた。

「バザー……ですか?」

「ああ。雪姫の気分転換にならないかと思ってな」

 首を傾げる雪姫にベルはご飯をぱくつきながら答えた。

「そうね。たまには気分転換も必要よ、ユキさん」

「だな。ここ最近、ユキは元気がないみたいだから外の空気を吸ったり、バザーで店を出してる知り合いと話でもしてきたらいいんじゃないか?」

 と、葉子と鷹槍もバザーに行く事を勧めた。雪姫はしばらく考え込んでいたが、やがてこくんと頷いた。

「……わかりました。ベル姉様、よろしくお願いします」

 そう言って礼をする雪姫に、ベルは微笑んだ。

「決まりだな。それじゃあ十時辺りに出かけようか。交通手段はバスがいいだろう」

「はい!」

 雪姫は嬉しそうに頷いた。




 それから二人は朝食後、外出の準備を整え、バザー会場へ向かう事にした。

 ただ、バザーへ出かける直前、ベルは部屋で海外に出発する準備をしている賀川の事が気がかりだった。

「賀川さん、部屋から出てきませんね」

 雪姫も部屋から姿を見せない賀川の事を案じている。

「まあ、あいつも忙しいんだろう。今はそっとしておいてやれ」

「はい」

 雪姫は穏やかに答えた。

(……ん? 雪姫の奴、妙に落ち着いているな……? まさか……)

 その時、ベルは賀川が今日夕方に海外へ向かう事を、雪姫に言っていないのではないかと考えた。

 一泊二日ならともかく、二週間も町を離れる日とわかっているにしては、彼女が落ち着きすぎていたからだ。場所が海外と知っているという感じでも無論なかった。

 賀川が場所だけではなく、日付も時間も告げなかったのはうっかりなのか、それともわざとなのか、よくは解らないが。

 いずれにしてもそんな大事な事を想い人に伝えていかないのはあんまりすぎる。いっその事、部屋に乗り込んで物理的な説教をしてやろうかという考えが頭に浮かんだ。しかし――

(…………まあ、いいか)

 ベルは思い止まり、ふうと溜息をついた。そして頭の中で計略を練り始めた。

(むしろ逆に考えるんだ。この状況を利用し、あえて彼女に何も言わず、賀川が出発するギリギリの時間に連れ帰り、見送らせる事でお互いの心を繋ぎ、絆を深める。うん、実にドラマティックでかつ、ロマンティックではないか。くふふふふ……我ながらいい考えだ)

「くふふふふ……」

「べ、ベル姉様? どうしたんですか? いきなり笑いだして」

 そこでベルは自分の笑みが声に出ていた事を知った。だが即座に取り繕う。

「……ああ、すまない。ちょっと思い出し笑いをしていただけだよ。さあ、行こうか」

「はい!」

 ベルが呼びかけると、雪姫は笑ってついてきた。こうして二人はバザーに出発した。


 だがこの時、ベルは知らなかった。

 今日という日が、とても長い一日になる事を。そして、雪姫の命運を大きく左右する事を。

桜月りま様 うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より ユキちゃん、タカさん、葉子さん、賀川さん、お借りいたしました!

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